1日1時間以上、スマホを触る人は要注意…脳科学者が警鐘「スマホが大人から奪っている大事な能力」
プレジデントオンライン / 2024年12月21日 7時15分
※本稿は、川島隆太『脳を鍛える! 人生は65歳からが面白い』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■スマホ依存の子どもは脳に異変が…
なんといってもやめたいのは、安易にスマートフォンに頼る習慣です。
この20年ほどの間に、私たちを取り巻く環境は大きく変わりました。スマホ、パソコン、タブレットなどの電子機器が急速に発達して、今や日々の生活に不可欠となっている人が多いことでしょう。しかしこれらの長時間利用は、脳に大きなダメージを与えます。そのことは単なる印象ではなく、科学的な実験で見えてきた事実です。
私たちが行った調査(※)では、スマホやタブレットなどのマルチメディア端末に触れている時間が多い子どもは、大脳の約3分の1の領域と、大脳白質(神経線維)の多くの領域で発達が停滞していることがわかりました。
※Takeuchiら Human Brain Mapping 2018
また、前頭前野の活動が低下し、情動の抑制が利かなくなり、キレやすくなることがわかっています。本来子どもは家族や友人と語らい、遊びや運動で身体を動かすことで心身が刺激され、脳も発達していくのです。ところがこうした機会が電子端末を始終触っていることで失われ、脳の発達にも影響していると考えられます。
■集中力が広告収益の犠牲になる
では、脳が成長した後の成人ならいいのでしょうか。デジタル機器に依存した生活は、成人であっても脳に悪影響を及ぼします。
第1の弊害は、集中力の欠如です。スマホで何かを検索したり、コンテンツを視聴したりすると、関連動画やほかのコンテンツが表示されることがありますね。こちらの意思とは関係なく、短い間隔で絶え間なく異なる情報が与えられます。ひとつの情報を見ることに集中しようとしても、別の情報が割り込んできて集中できません。
このように、さまざまな情報が割り込んできて、注意がいろいろなものに(勝手に)向いてしまい、ひとつのことに集中できないことを心理学では「スイッチング」と言いますが、デジタルで提供されるコンテンツは、数多くの動画を見てもらうことで収益が上がる仕組みになっています。
そのため、わざと集中力が途切れ、ほかの番組に興味が向くようにつくられているのです。しかし、この「スイッチング」を繰り返していると、脳は電子機器に触れていない時間も集中力が弱まり、注意力散漫になります。
■スマホの検索結果を忘れてしまう理由
第2の問題は、記憶力の低下です。脳の前頭前野は「ちょっと難しい」「ちょっと面倒」というときに活性化します。例えば何かわからないことがあったときに、辞書で調べると前頭前野が働きますが、スマホで調べ物をしても、ちっとも活性化しません。
これは、すぐに答えがわかる、覚えられなくてもまたすぐ調べられるということで、脳が怠けてしまい、覚えたり、理解したりするのをやめてしまうのです。この「スマホで調べたけれど、忘れちゃった」という状態は、皆さんも経験があるのではないでしょうか。
この脳活動が上がらない状態は、調べ物だけでなく、SNSツールでのメッセージのやり取りでも起こります。
■予測変換機能が言語能力を奪っている
スマホやパソコンの、文字の予測変換機能も脳のためにはよくありません。言語能力を衰えさせてしまいます。
私は以前、手書きで手紙を書く場合と、パソコンや携帯電話で文字を打つ場合の脳活動を比較する実験を行いました。すると、手書きの場合は前頭前野が活性化しましたが、キーボードや携帯電話で文字を入力しても前頭前野はほぼ反応しませんでした。
文字を手書きで書くときには漢字をイメージする、イメージしたものを書いて再現する、という2段階の脳の使い方をするのに対し、キーボード入力ではこうした過程が不要になります。さらに予測変換機能を使えば、その語句を思い出したり、理解したりしていなくても文章が書けてしまうのです。
前頭前野が働かなければ言語能力は高まりませんし、新たに触れた言葉を覚え、語彙を獲得することもないのです。
語句の調べ物だけでなく、スマホの地図のナビゲーションシステムも同様です。自分のいる位置をイメージしながら把握する、目的の場所を調べてそこに至る道を探す、といった脳の活動が不要になるのですから、こうしたことを繰り返しているうちに当然脳の力が衰えます。
■「対面」と「オンライン」何が違う?
3つ目の問題点は、コミュニケーションへの影響です。わからないことがあったとき、今までなら「身近な人に聞く」「どこかに出向いて相談する」という具合に、そこには対人コミュニケーションが存在していました。
ところがスマホで調べ物をすると、「実際に人に会って対話する」という機会がなくなってしまいます。脳をいきいきと働かせるには脳トレのような脳の刺激だけでなく、社会に関わる生活習慣も非常に大切です。
人は直接会ってこそ心が通じ合うということが、科学的に立証された実験があります。コロナ禍の2020年、オンラインコミュニケーションが増えてきたときに、私は東北大学の学生たちに協力してもらい、「対面」と「オンライン」のコミュニケーションに違いはないか、緊急実験を実施しました。
同じ学部、同じ性別の5人でひとつのグループをつくってもらい、対面会話とオンライン会話の両方を行いました。話題は盛り上がるものならなんでもよし。この際、他者の気持ちを理解するときに活動する前頭前野の背内側面の活動を測りました。
■他者に共感しているように見えても…
実験の結果、対面で会話したときにはグループのメンバー全員の脳の活動が、同じところで高まったり、下降したりしていました。他者の感情を理解し、共感して5人の脳が明らかに「同期」したのです。
一方、オンラインでは表面的には対面会話のときと同様に、笑い声も上がり、共感を示す言葉が聞かれ、和気藹々(あいあい)としているように見えたにもかかわらず、脳の活動に同期は起こりませんでした。
異なる個人の間で背内側前頭前野の活動が同期するのは、共感状態にあるときだということがほかの研究(※)で明らかになっています。対面では脳は共感状態にあることが示されていましたが、オンラインではまったくその兆候が見られませんでした。
※Nozawaら Neuroimage 2016
■いつの間にか電子機器に使われるように
スマホを中心とした電子機器の浸透は、未知の大きな変化をもたらしました。日常生活では「不便」と感じられていたことの多くがデジタルデバイスのおかげで解消しましたが、果たして本当に、これは「便利」なのでしょうか。
ヒトは脳を使い、脳を活性化することで知識を得て、新たな技術を生み出してきましたが、ここにきて私たちは電子機器に依存するあまり、「電子機器を使う」のではなく、「電子機器に使われる」フェーズに足を踏み入れてしまったのかもしれません。
こうした暮らしを続けていくことで、脳にはどれほどのダメージになるか。それはまだ、人類が経験していないことで、影響の度合いはわかりません。
デジタル機器への依存の弊害は子どもたちに顕著ですが、65歳前後の人たちもまた、パソコンに触れることが多くなった世代で、じつは依存度が高いのです。電子機器のネガティブな性質に無自覚なまま、機器を使いこなしているので注意が必要です。
■スマホ依存かどうかを見分ける基準
調べものをしたり、SNSを確認したり、動画を視聴したり、スマホの使い方はひとつではないので使用時間を決めることが難しいのですが、まずは自分がどれくらい、スマホ漬けになっているかを確認してみましょう。
スマホには「スクリーンタイム機能」といって、使ったアプリやアクセス時間が記録されています。1週間ほどスクリーンタイムをチェックしてみて、平均して1日に1時間以上スマホを使っている場合は、スマホ依存度が高いといえます。脱スマホに向けて、使い方を見直してみてください。
わからないことがあれば、紙の辞書で調べる。人とコミュニケーションをとるときは、スマホのメッセージではなく、電話をかけて話をする。電話をするより、実際に会いに行く。ちょっと不便、ちょっと面倒な方法を選んで脳の老化を食い止めましょう。
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東北大学加齢医学研究所教授
1959年千葉県生まれ。89年東北大学大学院医学研究科修了(医学博士)。脳の機能を調べる「脳機能イメージング研究」の第一人者。ニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修ほか、『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)、『オンライン脳』(アスコム)など著書多数。
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(東北大学加齢医学研究所教授 川島 隆太)
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