中国人が尖閣諸島に押し寄せても防げない…日本固有の領土が3カ国に脅かされている根本原因
プレジデントオンライン / 2025年1月7日 16時15分
※本稿は、髙橋洋一『60歳からの知っておくべき地政学』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■日ロが取り合う北方領土の地政学的意味
日本にとって、他国からの脅威に晒されるリスクが高い要因の一つが領土問題だ。現在、日本には中国との尖閣諸島、韓国との竹島、ロシアとの北方領土という三つの領土問題が存在する。まずはロシアとの間で抱える北方領土問題を解説しよう。
北方領土は択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の島々から構成され、日ロ両国にとって地政学的に重要な意味がある。
第2次世界大戦末期の1945年8月9日、ソ連が当時まだ有効であった日ソ中立条約に違反して対日参戦し、日本がポツダム宣言を受諾した後、同年8月28日から9月5日までの間に北方四島すべてを占領した。
ソ連がすでに崩壊したいまでもロシア政府は北方四島を「ロシアの領土だ」と主張し、日本政府は「日本の領土なので日本に返還されるべき」と主張している。
■世界的な終戦日は「9月2日」
この問題の解決がいまもなお難航している背景には、「終戦の日」に対する欧米やロシアと日本の認識の違いがある。「終戦の日=8月15日」ということに、多くの日本人は疑問を持たないだろう。しかし、世界では必ずしもそうではない。
筆者には苦い経験がある。米国で国際関係論を学んでいた時、「第2次世界大戦がいつ終わったのか」という議論があった。
もちろん、筆者は「8月15日」と答えたが、他国の人々は「9月2日」と主張した。9月2日といえば、東京湾に停泊していた戦艦ミズーリの艦上で日本政府がポツダム宣言に基づく降伏文書に署名した日だ。その場では、筆者の意見に同調する者はいなかった。
さらに衝撃的だったのは、ロシア人が「ソ連が北方四島に侵攻したのは9月2日以前だから問題ない」と正当化したことだ。筆者は「それは日ソ中立条約に違反している」と反論したが、誰も支持してくれなかった。
ソ連は枢軸国(日本、ドイツ、イタリアなど)と敵対した連合国の一員であり、連合国は勝者だ。勝者の論理に反対する者はいない。戦争中のどんな不法行為も、実際に占領した側の主張がまかり通るのが世界の現実だ。
■地下資源も漁業資源も豊富な北方領土
歴史を振り返ると、ロシアが関わってきた戦争は、いずれも南方への進出を目指す野心が根底にあることがわかる。
北極海に面したロシアでは豊かな農業が難しく、冬には港が凍結して使えなくなってしまう。そのため不凍港と肥沃な土地を求め、南方への野心を燃やし続けた。ここでいう南方とは、黒海や中東、朝鮮半島の方向を指す。地図上ではインド洋への進出も考えられるが、実際には世界最高峰のヒマラヤ山脈によって隔てられており進出は容易ではない。
北方領土は石油や天然ガスといった地下資源が豊富で、希少金属も埋蔵されている可能性が指摘されている。さらに世界3大漁場の一つに数えられるほど、タラ、カレイ、カニといった日本ではおなじみの漁業資源が多く獲れ、サケやマスの産卵海域としても重要だ。
■アラスカを売った後悔を引きずっている?
また、ロシアは過去に領土で手痛い経験もしている。1867年、財政難に陥っていたため、米国にアラスカを720万ドルという破格の安値で売却し、のちに後悔した。
当時は米国もアラスカそのものに大きな価値を見いだしていたわけではなかったが、米大陸を掌握するための土地として「購入して損はない」と考えたのだろう。
しかし、購入後にアラスカで金鉱が発見され、その後は石油や天然ガスなどの地下資源も見つかった。さらにその後、冷戦時代に突入すると、アラスカは米国の対ソ戦略で重要な役割を果たした。もしカナダの西端にソ連の領土があったとすれば、ソ連はもっと有利に戦略を立てられた可能性もあった。安価で米国に売却してしまったアラスカの価値は、地政学的に見れば多方面にわたる。ロシアは同じ失敗を恐れているのだろう。
そう考えると、北方領土の返還は当面見通しが立たない状況だが、一方でウクライナ戦争が長引けば、ロシアが疲弊し、ソ連のように体制崩壊する可能性がある。その場合、モスクワから遠く離れた北方領土に対する関心が薄れ、手放すことも考えられる。このタイミングが、日本が北方領土を奪還するチャンスとなるかもしれない。
ただしウクライナ情勢次第では、ロシアが日本にも強い敵意を向けてくる恐れもある。この点についても警戒が必要だ。
■歴史的にも国際法的にも日本の領土だが…
日本と韓国との間にも領土問題がある。それが竹島問題だ。竹島は隠岐島の北西約158キロメートルに位置し、二つの島と多数の岩礁からなる火山島だ。
竹島は歴史的にも国際法的にも日本固有の領土なのははっきりしている。島根県議会では、毎年2月22日を「竹島の日」と定めている。
そもそも竹島問題の発端は、サンフランシスコ平和条約発効直前の1952年1月、韓国がいわゆる「李承晩ライン」を一方的に設定し、そのライン内に竹島を取り込んだことだ。明らかに国際法に反した行為で、日本として認められないと直ちに厳重な抗議をしたが、完全に無視された。
その後、韓国は竹島に警備隊員などを常駐させ、宿舎や監視所、灯台、接岸施設などを構築。それ以降、実効支配というかたちで竹島の不法占拠を続けている。日本政府はこれに抗議を続けているが、実際には竹島へ近づくことはできない。
■不法上陸した韓国議員は入国を禁止すべき
この問題が未解決のため、日韓漁業協定により竹島周辺の海域は暫定的に共同管理されている。しかし、日韓の漁業規制の違いや韓国漁船の規則違反により、日本漁船はほとんど漁を行えていない状況だ。また、日本海西部には石油や天然ガスなどの海底資源が存在するとされているため、竹島はその観点からも重要な領土である。
他国は少しでも日本が隙を見せれば不法侵略し、その直後に有効な反撃を何もできないと実効支配へ移行してしまう。それが国際常識かつ歴史の事実だ。誰も自国を犠牲にしてまでも日本を守ってくれないわけで、日本の領土を守るには日本が行動を起こすしかない。
2024年5月には、韓国野党「祖国革新党」のチョ・グク代表(元法相)が竹島に上陸した。その際に上川陽子外相は「竹島には施政権が及ばないから処罰できない」と答弁したが、本来なら「不法占拠されているから処罰できない」と正確にいわなければならない。同時に、竹島に不法上陸したチョ・グク議員は、日本への入国を禁止するのが国際的なルールだ。
■中国が突然、領有権を主張してきた事情
中国との間にも尖閣諸島の問題を抱えている。尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかだ。現に日本はここを有効に支配している。
1895年の尖閣諸島の日本領への編入から1970年代まで、中国は日本による尖閣諸島への有効な支配に対して一切の異議を唱えてこなかった。しかもこの間、中国共産党の機関紙や中国の地図の中でも、尖閣諸島は日本の領土として扱われてきた。にもかかわらず、中国はいまさら領有権を主張しているのだ。
昔もいまも中国は太平洋へ進出しようとしている。西欧列強による半植民地時代、日清戦争、辛亥革命、第1次世界大戦、第2次世界大戦などを経るうちに、中国の統治者には「内陸から海洋に打って出よう」という大きな意識変革が起こった。かつての英国や現在の米国と同様、海の支配を経て覇権国家になろうとしているのだ。
そうした習近平の野心を実現するためには、南シナ海に続き、東シナ海も支配下に置かなければならない。つまり、次に狙われるのは台湾と日本の海域であり、尖閣諸島がそのターゲットとなる。
■尖閣諸島は日本にとって必要不可欠
もっとも、尖閣諸島については、広大な領土を持つ中国が、あの小さな島々そのものを領土として欲しているわけではない。中国の海洋進出において、尖閣周辺の制海権や制空権が軍事的に必要なのは当然だが、加えて海域に眠る膨大な天然資源も目当てなのだ。尖閣諸島の領有問題が浮上したのも、天然資源の存在が指摘されてからだった。
尖閣諸島の経済的価値は不明確だが、天然資源が乏しい日本にとってこの問題の早急な解決は必要不可欠だ。
とはいえ、中国は国連安保理の常任理事国である。仮に尖閣諸島で何か問題が起こっても、国連は中国の拒否権によって何の力も発揮できないだろう。中国が拒否権を行使すれば、尖閣問題はそこで終わる。
■不法占拠の誘因を与えてはいけない
さらに尖閣諸島は無人島だ。中国の巨大な人口が一気に押し寄せたら、占領を防ぐことは難しい。フィリピンへの対応をみても、中国がこのような暴挙に出る可能性は高い。
こうした動きに対するカギとなるのは、台湾のトップである総統に誰がなるかだ。台湾の自治権を主張する民主進歩党の党首(現在は頼清徳)が総統のうちは、米国、台湾、日本の協力が引き続き機能し、中国も簡単には手を出せないだろう。しかし、対立候補である国民党の党首が総統になるようなことがあれば、状況は不透明になる。
では、日本が領土を守るためになすべきことは何か。日本の対応としては、少しの隙も見せないことで他国に有利な状況を作らせないことが第一に求められている。もし他国から占拠される事態になった場合、その何倍もの反撃をするという姿勢は堅持し、不法占拠の誘因を与えないことが重要だ。
■領土問題でアメリカは頼りにできない
尖閣諸島が日米安保条約の対象になるかどうかは、しばしば議論の対象となる。米政府も公言しているように、尖閣諸島は当然に条約の対象だが、米国が実際に守ってくれるかどうかは別問題だ。日米間には、現行の安保条約の前身である旧安保条約が存在する。これは1951年9月に署名され、1952年4月に発効した条約だ。
その条約には、外国による武力侵攻に対する米軍の支援が規定されていたが、韓国による竹島占領があっても米国の対抗措置はとられなかった。また、ソ連は北方四島のうち色丹島と歯舞群島の引き渡しを拒否したが、米国の対抗措置は同様になかった。
竹島、色丹島や歯舞群島において日本側に施政権がなかったことも影響したが、自国で領土を守らなければ、施政権を行使していない、すなわち権利を放棄しているとみなされる。それが冷酷な国際社会のルールだといえる。
現在の日米安保条約でも「日本国の施政の下にある領域」(第5条)が対象となっている。そのため、まずは日本が自ら守らなければ施政権外と見なされる可能性があるのだ。
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数量政策学者・元内閣官房参与
1955年東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。数量政策学者。嘉悦大学大学院ビジネス創造研究学科教授、株式会社政策工房代表取締役会長。1980年、大蔵省(現財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員を経て、内閣府参事官、内閣参事官等などを歴任。小泉内閣・安倍内閣で経済政策の中心を担い、2008年に退官。主な著書に、第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)などがある。
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(数量政策学者・元内閣官房参与 髙橋 洋一)
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