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福袋とは大人になるための通過儀礼である…年始早々デパートの行列に並んで1万円を使った私が得た真理

プレジデントオンライン / 2025年1月2日 8時15分

西武池袋本店の「令和初売り祭」で売り出された福袋=2019年5月1日、東京都豊島区 - 写真=共同通信社

年明けの初売りを行う百貨店や量販店では、福袋を求める客で行列ができる。いったいどんな人たちが並んでいるのか。1994年7月に刊行された同名書籍を新装復刊した、ナンシー関『信仰の現場』(星海社新書)より紹介する――。(第3回)

■福袋は「何が入っているかわからない」からいい

註:記事の内容は、執筆当時のものですので、現在の情報と異なる場合があります。

テーマは「福袋」である。正月の初売りに庶民を熱狂させた、あの「福袋」だ。

2年ほど前から、正月のたびに「福袋騒動」を(買いはしないが)チェックしていた私は「東急百貨店・渋谷本店」に狙いを定めた。

初売りのデパートでは、店内あちこちでいろんな福袋が客を待ちかまえている。各階・各売り場(場合によっては各ブランド)が、それぞれに福袋を用意するからである。この細分化は、ある程度中身の統一性を読むことができるということであり、グッチもどきの親父用ベルトからクマさんの顔のついたスリッパまで同じ袋に入っている危険性のある「総合的福袋」より安全といえる。

しかし、それでは「福袋」のダイナミズムが台無しである。「何が入っているかわからない」からこそ「もしかしたら、すんごいものが……」という幻想も持てるわけである。そこで「東急本店」なのだ。

東急では、各売り場・各ショップの福袋とは別に、「東急の」福袋を毎年売り出している。ま、「超総合福袋」と言っていい。何が入っているか全くわからない。しかし、抜群の射幸性の高さであるとの「伝説」があるのである。

東急の福袋には「目録」が混入されている。その目録には「袋には入り切れないもの」が記入されているのだ。これこそまさに庶民が夢に描く「もしかしたら、すごくいいもの」に他ならない。真偽のほどは確かではないが、「33インチのテレビ」「車」「ダイニングセット(テーブルと椅子)」などが当った(いずれも1万円の福袋)という伝説もある。人の心の中にある「福袋」という概念を、最もよく体現しているのが「東急の福袋」である、というわけである。

■行列に並ぶ人たちの正体

さて、前置きが長くなったが本題に入るとする。東急デパートの初売りは1月3日。開店は朝10時である。かの福袋のために毎年徹夜組も出るらしく、当日開店直前店外にまで伸びた長蛇の列状態はよくニュースで取り上げられたりする。

東急百貨店本店と文化施設Bunkamura
東急百貨店本店と文化施設Bunkamura(写真=ITA-ATU/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

暮れのうちに問い合わせてみると、福袋は8Fレストラン街内特設会場にて1万円200個、5000円1000個限定で売り出されるそうだ。整理券を出すが、列から離れてはいけない、とのこと。考えた末、ま、別に買うために行くんじゃないし、ということで開店1時間前の朝9時に到着してみることにした。

当日、予定通り到着。「ただ今、列の最後尾はこちらでございます」というプラカードを持った店員がいる。そして、店員の立つ出入口に、ぽつぽつと人が入っていっている。まだ店の外まで人は溢れてはいないが、「福袋」に夢を託す人たちは間違いなくあそこにいる。私も何故か小走りになりながら行列の人となるべく、列へ向った。

非常階段らしいところに行列はできていた。最後尾は1階と2階の間の踊り場にあり、3列縦隊の太い列はどこまで上へ伸びているのか、もちろん先頭など気配すら見えない。とりあえず列のうしろについて周囲の話に聞き耳を立てる。

■1万円の福袋を買ってみた

行列の人たちは、家族連れや親子連れ、中年女性同士の2、3人のグループが多いようだ。年寄り1人というのもちらほら。

私の前には、母親(40代)・娘(中学生)・母親の友人という3人組がいて、私のすぐあとに列に加わった40代主婦(単独)と「福袋」話に花を咲かせはじめた。単独主婦は福袋マニアらしく、なかなかの事情通であった。「この列は6階から並んでいるらしい」というレアな情報から、昨年の東急の福袋の話、前日(1月2日)の西武デパート初売りでの西武の福袋の話など耳より情報満載である。そして、そんな事情通に言わせても、「やっぱり福袋は東急」、らしい。

じっと並んでいるしかないわけだが、その主婦のおかげでさほど退屈せずにすんだ。いつのまにか列は伸び、最後尾はもう建物の外へ出ている。取材のためのテレビ局のクルーが2組ほど行列わきの階段を何度か行き来していた。

9時半をまわったところで、整理券配布係が姿を現す。「5000円か1万円、お一人様どちらか一つ」とのこと。6階からの列ときいた時はあきらめかけた購入であるが、買えるんだったらひとつ買ってみようと1万円(の方が射幸性が高いらしいので)の整理券をもらう。

まわりの様子では5000円・3に対して1万円・1ぐらいの売れゆきと見た。しかし限定200個の1万円袋がよく残ってたなと思ってもらった整理券を見ると、どうゆうわけか「466番」のナンバリングが。どうゆうことだ。これはいまだに謎である。

■ようやく特設売り場が見えてきた

9時45分ごろ、列が大きく前へ進み出した。6階で止められていた先頭が、売り場の8Fまで進んだらしい。一歩ずつ階段を昇る。まるで兵隊アリになったような気持ちだ。あ、結局こうやって階段で8Fまで行くんだ、ということにここで初めて気がついた。

非常階段を進む列は、6Fから店内へ入り寝具売り場を横断して、通常の店内階段で8Fへ上るのだ。列の進みは、私が6Fほぼ中央の「Jリーグ毛布売り場」にさしかかったところで再び止まり、福袋販売が開始される10時まで待つことになる。

「デパート夏物語(高嶋兄とかが出てたすっぽこなドラマ)」で見たのと同じように、10時5分前ぐらいには、「売り場についてお客様を迎えましょう」とか店内放送が入り、いよいよ開店である。

パラパラという感じではあるが、エスカレーターで客が昇ってきはじめる。しかし、6Fは寝具売り場なので、通過するだけ。初売りに店あくの待って、わき目もふらず布団見に来る客なんて、そりゃいないわ。

開店前とさほど変わりない状況ではあるが、列はじわじわと進んでいる。30分ほどかかって、残り2フロア分の階段を上り、ようやく特設売り場が見えてきた。

■店舗の片隅で行われる「チェック合戦」

紅白のハッピ姿の男性社員が列を誘導し、その先の売り場には、同じハッピの福袋ギャル(女性社員)がずらりと並んで待ちかまえている。整理券+代金と引きかえに、やっと念願のブツを手に入れた先人たちが、きびすを返して戻ってくる。その顔は、安堵感や目的達成の喜びに溢れているかと思いきや、そうではない。何故か真剣だ。それに足早。

足早に特設売り場を離れた人たちは、どこかしら片スミに行って中身のチェックだ。何人か集まって「チェック合戦」状態のところもある。私もようやく1万円の福袋を手にし、さきほどの母娘+おばさん+主婦がくりひろげるチェック合戦の輪に加わってみた。

そこでは1万円3個、5000円2個の中身が調べられていたが、ほぼ同じ品揃えであった。目録も同じ値段には同じものが入っていた。ちなみに私の福袋の中身を公開しよう。

■揺れ動く心もよう

( )内は推定の定価である。

○婦人物タートルセーター(5000円)
○婦人物ジャカードセーター(4000円)
○ダンヒルハンカチセット(2000円)
○座ぶとん(1200円)
○目録〈サンジェルマンのクッキー詰め合わせ〉(2000円)
○目録〈スツール〉(推定不能)以上6点(1万4200円+α)。

さて、こんなもんである。せいぜい甘く見積もっても2万円。2倍だから文句は言えないが、文句たらたら。しかし、これこそ「福袋」の奥義ではないか。

ナンシー関『信仰の現場』(星海社新書)
ナンシー関『信仰の現場』(星海社新書)

「もしかしたら大もうけかも」→「やっぱり損した」→「ちっきしょう」→「でも自業自得ね」→「ま、正月だからいっかあ」。この揺れ動く心もようが、人をまたひとつ大人にするのである。

風の噂では、大当りはあったらしい。たぶん徹夜も辞さず前の方に並んでいた人に当ったはずだ(客に福袋を選ぶ権利はなく、順番に手渡されるのを受け取らなければいけない)。

しかし、正月の東急本店はすごいな。店内いたるところ福袋だらけ。アクセサリー売り場だけでも、各ブランドごとに出してるから10種以上の福袋がある。全館合わせたら百種類ぐらいあると思う。

というわけで、私はまた福袋を買わない人生に戻る。来年から。

(消しゴム版画家・コラムニスト ナンシー関)

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