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SNSで広がる「発達障害民」「グレーゾーン」「HSP」は全て間違い…専門家が指摘する発達障害の正しい理解

プレジデントオンライン / 2024年12月23日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jatuporn Tansirimas

「発達障害」について、きちんと理解できている人はどのくらいいるのだろうか。立命館大学の川﨑聡大教授は「SNSで『発達障害』に関する発信が増え、多くの誤解を生んでいる。ざっくりと特定の傾向を語るのは、『日本人とは』を『アジア人とは』くらいの規模感で話をしているのと同じである」という――。

※本稿は、川﨑聡大『発達障害の子どもに伝わることば』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■「発達障害ブーム」の光と影

昨今、発達障害というワードを耳にする、また目にする機会が増えたと思いますが、それぞれの使う人の意図や背景、その人の育った時代によって同じ「発達障害」というワードであっても指すものはまちまちであることに注意が必要です。

さらに、ことばのイメージはその人の経験から切り離すことが困難で、その人の語る(その人の視点の)「発達障害」がほかの人の「発達障害」に合致する保証はありません。つまり発達障害を代表するように見える「大きい声」であっても、たとえそれが当事者の意見であっても、それが「すべての発達障害を代表している」という保証はないのです。「群盲象を評す」状態になりやすいわけです。

同じ発達障害であっても、その人の環境や歴史、遺伝的素因も異なるのでひとりとして同じ人はいません。つまりすべての発達障害に共通する「ライフハック」や「ハウツー」なんてものは存在しません。

現在、「発達障害ブームの光と影」とでも言うべき状況です。前提条件の理解が形成されていない中で、個々人のさまざまな「思惑」が付加された無責任な発信が大きな影の部分だと言っていいでしょう。SDGsやニューロダイバーシティ、インクルーシブ社会といった社会の耳目を集める「キラキラワード」を織り交ぜて恣意的な発信を繰り返すと、大きな誤解を生む危険が生じます。

■そもそも「発達障害」とは

発達障害……。そもそも「障害」って何でしょうか。障害がある状態とは?

何か「病気」や「疾患」と呼ばれる状態を持っていることでしょうか。ざっくり言うとこの意見は「障害の医学モデル」という視点に立ったものとなります。医学的観点からの診断をもって障害とする意見です。

では反対に、「障害がない状態」とは、どのような状態でしょうか。このような質問を講演などで私がすると、多くの方から「その日その日の生活が特に何の支障もなく過ごすことができている状態ですか?」と返ってきます。この回答は「障害の社会モデル」という視点に立ったものとなります。この視点から考えると、障害は、個人の病気や疾患ではなく社会が生み出しているというわけです。

どちらのモデルが正しいのでしょうか。あくまで視点の違いであり、どちらか一方が「正解である」「間違っている」といったものではありません。前者は個人の要因、後者はその人が生活する社会を念頭においているわけです。

昨今では「生活に支障が出て、生きづらさを感じている状態」に注目して、その人を取り巻く環境と、特性の双方から工夫し生きづらさを解消していこう、という考えが主流となっています。これを専門的には、医学社会統合モデルといいます。

■知的障害と発達障害の違い

とはいえいまでも、その人が持つ障害特性をもって障害とするか、社会生活を送るうえで一定の不具合が生じる(実感した)社会的障壁をもって障害とするか、話す人によって考え方はまちまちです。このあたりにも、発達障害ということばのややこしさ、同じ「発達障害」ということばを使っているのに起こるボタンの掛け違いがあります。

発達障害とよく混同されることばに、知的障害(知的発達症)があります。ASDやADHDなどの発達障害と、知的障害は、実は大本をたどっていくと同じグループに入ります。ただ、基本的に見ているベクトルが違っていると思ってください。

知的障害は標準化された知能検査によって算出された「知能指数(IQ)」が低下し、それがもとで日常生活に何らかの支障をきたしている状態に対して診断されるものです。

知能指数に影響する要因は多岐にわたりますが、原因を特定して診断するものではありません。発達障害特性が知能検査で測定されるようなスキルの獲得を阻害することもあり得ます。つまり知的障害とそれ以外の発達障害は併存することも充分あり得るわけです。

■耳あたりのいい発信が誤解を生む

一方でASDやADHD、限局性学習症(SLD)といった「いわゆる発達障害」は、特徴的な行動特性があり、それがもとで日常生活に支障をきたしている状態に対して診断されるものです。

つまり、後者の場合、知能指数(IQ)は考慮の対象外となります。実際、ASDでの知的障害の合併率は3分の1から2分の1強といった報告がなされています。もちろん、これらはどこまでをASDとするかによって大きく変わります(時代によって知的障害の合併率も大きく変わりました)。

昨今、「発達障害はこういう特徴があるよね」と耳当たりよく発信する例が数多く見受けられますが、知的障害を合併していない限定的な事象を「発達障害のすべて」と過度に単純化したものが圧倒的に多いように思われます。

この手の過度に単純化した耳当たりのよい発信は多くの人に誤解を与えかねませんし、最も危惧されるのが発達障害の特性がある子どもの保護者の方に誤解と不安を与える可能性です。子どもの全体像は発達障害の特性だけでも、知能指数だけでも決まるものではない。この点を肝に銘じておいてください。

■知的障害と発達障害の違い

もう1つ、世間で誤解が多い点についてお話をしておきます。発達障害はASDやADHD、限局性学習症に限ったものではありません。医学診断名だけでも発達性協調運動障害や、発話の障害である「語音症」(いわゆる機能性構音障害)や発話の流暢性の障害である「発達性吃音」も同じグループになります。

ほかにもありますが「発達障害」のグループは極めて幅広いものです。「発達障害とは」とざっくりと特定の傾向を語るのは、「日本人とは」よりもさらに広く「アジアの人とは」くらいの規模感で話をしてしまっているのと同じだと思います。もちろん共通するところもありますが、異なる点も多いですし、環境が変わればその子どもの抱える困難さの見え方もまた変わります。同じ部分と違う部分とを押さえるバランス感覚が大事です。

ソファに座り、窓の外を見ている子ども
写真=iStock.com/dragana991
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dragana991

■SNSで見かける「発達障害民」という言葉の危険性

発達障害にもいろいろ、それなのに……昨今のSNSでは「発達障害民」なることばが出てきます。発達障害と診断された(あるいは自称する)ユーザーが、自虐の意味も含めて「発達障害民はこうだよね」と主語を大きくして語っているようです。「いいね」の数が少なくない投稿も多いようです。この発達障害民ということば、私は正直好きではありません。

川﨑聡大『発達障害の子どもに伝わることば』(SB新書)
川﨑聡大『発達障害の子どもに伝わることば』(SB新書)

発達障害の診断は基本行動特徴に基づきます。どういうことかというと、「視線が合いにくい」「じっとしていられない」といった発達障害の特性によって起こっているとされる(いくつかある)特定の行動が一定期間(およそ6カ月)以上持続している事実があり、その状況を医師が確認して診断に至るわけです。ただ、これらの行動は必ずしも発達障害の特性から起きるわけでもない(それ以外の理由で起きる場合も少なくない)ことに留意する必要があります。

つまり、ある程度共通する行動特徴を抽出することができるだけです。いくつか共通する行動があるからこの人たちは全部同じであると、十把一絡げにして、さらに「それ以外の人」(発達障害特性のない人)も1つにまとめてその対比で語るのは暴論です。

白か黒かの二元論は一見わかりやすいですし、周囲の注目を集めることはできますが、対立構造を生むだけに社会の溝と誤解をより大きくしかねません。

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川﨑 聡大(かわさき・あきひろ)
立命館大学教授
博士(医学)。公認心理師、言語聴覚士、臨床発達心理士。岡山大学卒業、兵庫教育大学大学院修士課程修了。療育センターで言語コミュニケーション指導にかかわった後、大学病院で言語・心理臨床に携わり2006年岡山大学大学院医歯学総合研究科で博士課程を修了し、博士(医学)取得。岡山大学病院では発達障害から成人の高次脳機能障害の方の臨床に広く携わる。その後、富山大学、東北大学を経て2023年より現職。専門は言語聴覚障害学全般、神経心理学、ことばの発達に遅れがある子どもの指導。大学教員、研究者でありながら医療や療育の現場出身であることを活かし、発達神経心理や脳科学、特別支援教育を主に広く発信を続ける。

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(立命館大学教授 川﨑 聡大)

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