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自由が丘も代官山も上位から陥落…「住みたい街ランキング」から見る現代人の"家探しの最優先事項"

プレジデントオンライン / 2024年12月29日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

「住みたい街」にはどんな共通点があるのか。不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんは「最新のランキングを見ると、かつて人気だった自由が丘や二子玉川、代官山といったいわゆるおしゃれタウンが上位から消え、JR主要幹線の主要駅の人気が高まっている」という――。

※本稿は、牧野知弘『家が買えない 高額化する住まい商品化する暮らし』(ハヤカワ新書)の一部を再編集したものです。

■昭和のサラリーマン社会の名残り

戦後に顕著になったサラリーマンによるマイホーム取得は、都心部にある職場への「通勤」という前提のもとに形成された。多くの会社は朝9時に出社し、夕方5時か6時まで勤務することを雇用条件にしている。

もちろんこれは原則で、実際は9時よりも前の早朝からの勤務を事実上要求している会社も多いし、残業をしないで定時ぴったりに帰宅の途につけるサラリーマンは働き方改革が進んだ現在でも少ないだろう。

特に昭和のサラリーマン社会では、長時間残業はあたりまえ、上司が帰宅するまで部下たちが「お先に失礼します」と挨拶して退勤することを良しとしない環境が長く続いてきた。いまだに定時すぐに帰宅することに対して、気を遣わなくてはならないサラリーマンも少なくないだろう。そこには、日本企業が従業員に求めてきた滅私奉公の精神が見て取れる。

忠実に職務を遂行することを第一に求められるサラリーマン社会の基本から考えれば、住宅選びにおいても、忠誠を誓う会社への通勤がいかにスムースにできるかが優先事項となる。

■「通勤時間ファースト」になるしかない

家から最寄りの駅までどのくらいか、駅で電車に乗って都心までどのくらいかかるか、途中何回乗り換えるか、乗り換えに要する時間はどうか、到着駅から会社のあるオフィスビルまではどのくらいか。これらをすべて合わせた「通勤時間」が最大の関心事となる。

多くの鉄道では、日中の所要時間が朝夕のラッシュ時間帯のそれとは異なる。ラッシュ時は運行本数が多くてスピードが鈍るのと、停車する各駅での乗客の乗降に時間がかかるからだ。通勤するサラリーマンは通勤距離だけでなく、通勤時間帯の運行本数、乗車時間、通勤に要する体力などのチェックポイントを念頭に置きながら住宅地を選ぶことになる。

少しでも早く会社に到達するためには、普通電車よりも急行や特急を選択する。だから、急行停車駅が最寄りの住宅地は人気が出る。鉄道会社も乗客の需要に合わせ、通勤特急などのラッシュ時特別電車を運行する。

■JR京葉線のダイヤ改正に不満が爆発

今でも通勤時間優先の考え方が続いていることが顕著に現れたのが、2024年春にネット上などで物議を醸したJR京葉線のダイヤ改正に関する騒動だ。

コロナ禍を経た勤務体系の変化、各駅停車駅の利便性の向上などを理由として、朝夕ラッシュ時の快速電車を廃止するとJR東日本が発表したのである。この改正によって、朝の通勤が20分以上も延びる利用者が出現することがわかると、地元自治体の首長までもがJRに対してクレームを出す事態に発展した。

地元不動産業者にとってもこれは死活問題だ。通勤時間が延びることは、通勤距離が延びることに等しい。地理的な距離が同じでも、東京都心にあるオフィスに通うことが前提の住宅選びである限り、住宅地としての価値は下がる。地元不動産業者からすると、エリアの人気に大きな影響をおよぼすダイヤ改正はありえない。

■「駅徒歩7分以内」じゃないと価値なし

本来、住宅地としての価値は、都心までの交通利便性だけで決まるものではない。むしろ重要なのは住環境だろう。閑静で落ち着いた街並み、自然環境の良さ、充実した商業店舗、いざというときの医療施設、質の高い教育、災害に強い地盤、犯罪の少ない治安の良さ、住民同士のコミュニティ。多くの要素から考えていくべきものである。

ところが、多くのサラリーマンにとっては、住宅はただ寝に帰るためだけの場所として判断されてきた。昭和から平成初期にかけては、父親だけが通勤する片肺エンジンの家庭が大半であり、一家を支える大黒柱の父親の「通勤」という価値尺度がまずは優先され、それに続いて商業施設などの利便性の充実度が評価されてきた。

これは共働き世帯が増えた現在でも、その傾向は強まりこそすれ、弱まることはない。新築マンションの広告でまず語られるのが、「最寄り駅まで徒歩で何分かかるか」であり、今や「駅徒歩7分以内でないとマンションとしての価値はない」とまで言われている。

駅までの距離がまずもって重要で、加えてその駅に急行が停車するのか、都心ターミナル駅まで何分でアクセスできるのか、などがマンションを選ぶ際の価値尺度になっている。

■首都圏の平均通勤時間は片道50分程度

たしかに駅まで歩いて行けることの利便性は重要な指標であるが、その指標のみで快適に暮らせるという保証にはならない。駅という物理的な存在を絶対視する価値観は、まさに「通勤距離」という価値尺度が圧倒的に優先される日本社会の構図から生まれている。

ちなみに、総務省「平成28年社会生活基本調査」によれば、通勤時間が長時間におよぶ都道府県別ランキングとして、1位の神奈川県で1時間45分、2位の千葉県で1時間42分、3位の埼玉県で1時間36分、4位の東京都で1時間34分と、上位を首都圏の各都県が独占している。このデータは往復時間なので、片道に換算すれば毎日の生活時間のうち、片道50分程度を通勤に割くのが標準的ということになる。

近年の「都心居住人気」を表す傾向は、様々なデータからも見て取れる。

毎年メディアの注目を集める住宅ランキングに、リクルート社が発表する「SUUMO住みたい街ランキング」がある。

■本当に新宿駅や東京駅近くに住みたいか?

本書執筆時点での最新版である2024年のデータを見てみよう。これは2023年11月13日から23日の11日間で、首都圏(1都3県)に茨城県を含むエリアの20歳から49歳の男女9335名に、住んでみたい街を最寄りの駅名から選んでもらったインターネット調査を基にしている。〈図表1〉

SUUMO「住みたい街ランキング2024」上位20エリア
出所=『家が買えない』

その発表によると、上位10位まではいずれもJR主要幹線の駅にある街が選ばれた。都心居住への憧れを示すこの傾向は近年顕著であるが、新宿(5位)、池袋(7位)、品川(8位)、東京(9位)、渋谷(11位)といった山手線の主要駅名が上位に並ぶにいたっては、違和感を覚える読者も多いだろう。

これらの駅からアクセスできる住宅がないことはないが、たとえば1位になっているJR横浜駅を選ぶ回答者は、横浜のイメージとしてみなとみらい周辺や山下公園、山手町付近など、いろいろな情景を思い浮かべて投票しているように思える。

それに比べて、東京駅に徒歩でアクセスできる住宅などは、単なる憧れどころか、冗談に近いレベルで投票しているのではないかと疑ってさえしてしまう。こうした調査はとかく、人気投票である側面が強いうえに、調査会社の住宅販売政策上の意向が込められたものになりがちだ。

■「住みたい街」上位から消えた街の共通点

それはともかく、このデータを時系列で見ると面白い傾向がわかってくる。2010年における同じ調査で上位にランキングされた街が、2024年の順位ではどうなっているか比べてみよう。

2010年にはベスト10に自由が丘(3位)、二子玉川(5位)、下北沢(9位)がランクインし、代官山(11位)がこれに続いている。ところが、2024年には最高でも自由が丘の27位であり、ベスト20にすら一つも入っていない。〈図表2〉

SUUMO「住みたい街ランキング2010」上位20エリアの順位変化
出所=『家が買えない』
牧野知弘『家が買えない 高額化する住まい商品化する暮らし』(ハヤカワ新書)
牧野知弘『家が買えない 高額化する住まい商品化する暮らし』(ハヤカワ新書)

これらの街はいわゆるおしゃれタウン。今でもそのブランド力は健在ではあるものの、この十数年の間に、ブランド品を追いかけ街を歩く人の姿はずいぶん変貌した。

最近の若い人たちの間では、自由が丘や代官山でお洒落のために少し高い服を買う、といった消費行動そのものが消滅しつつあるのだ。ファストファッションで決して恥ずかしいとも思わないし、普段着はユニクロでかまわない。家具は小洒落たブランド家具でなくても、ニトリで十分。フランフランでこだわりのキッチン雑貨をそろえなくてもよい。

むしろ「ららぽーと」があればよいのに、と多くの若い人たちは思う。豊洲のタワマンに住んで週末はららぽーとでお買い物、こちらのほうが合理的で現代の生活にフィットしているのだ。

■住み心地より交通の利便性が重視されている

そうした目で2024年のランキングをもう一度見ると、会社に通勤するのに一番便利だろうなと思われる「JR主要幹線の主要駅」が人気という、何とも味気のない選択がされているように思えてくる。

こうした調査を見るにつけいつも感じるのが、多くの人たちが選ぶ住みたい街が、単なる通勤の利便性を最優先にして考えられているように見えることだ。自身の人生観、家族観、生活そのものに対する価値観といった要素を、どうもこれらのランキングから感じ取ることができない。

コロナ禍を経て、必ずしも毎日通勤をすることが必要ではない業種・職種が特定化されつつあるなかでも、「通勤ファースト」の価値観は揺るがないどころか、ますます強まっているように思えてくる。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産事業プロデューサー
1959年生まれ。東京大学卒業。ボストン コンサルティンググループ、三井不動産などを経て、2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年オラガ総研株式会社を設立し、代表取締役を務める。全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。主な著書に『空き家問題』『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(いずれも祥伝社新書)、『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)など。

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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)

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