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「うちの子、発達障害かも」と思ったらどう叱ればいいのか…その「声かけ」が正しいか確認する効果的な方法

プレジデントオンライン / 2024年12月24日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

発達障害の特性のある子どもを褒めるとき、注意するときはどんな声かけが効果的か。立命館大学の川﨑聡大教授は「褒めても言うことを聞いてくれない。注意してもこちらが嫌がることを好んでする。これらは子どもの意図と大人の意図が掛け違っているからだ」という――。

※本稿は、川﨑聡大『発達障害の子どもに伝わることば』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■怒るときには「○」を伝える

よく発達障害の子どもには「怒ってはいけない」「怒ると叱るは違う」といったことを聞きますが、これは誤解が大きいところです。「子どものすべてを受け入れてやりたいようにさせる」と考えているなら大きな間違いです。「何を言われているのかわからない状況で感情的に怒っても本人にも保護者にも何のメリットもない」が正確です。「ダメ」なことは「ダメ」ですし、「本人にわかるように」伝える必要があります。

ただ、皆さんも考えてみてください。何を言われているのかわからないところで厳しいことばが降ってくると、本当にどうしたらよいかわからず、ストレスだけがたまりますよね?

「×」を伝える際には、できる限り目で見てわかるように「○」を伝えることを心がけましょう。「椅子の上に立つな!」ではなく「椅子に座ります!」であり、いつまで座るのか見てわかるように伝えて、さらにそのあと何があるのかも見せておくと完璧ですね。

■「わからない」状態に気づくのが難しいこともある

特に発達特性のある子どもたちは正直です。「この大人は自分にとってわかる手立てを用意してくれている」とわかると、その大人に対する注目は上がります。罰で子どもをコントロールするのはもってのほかですし、そもそもできません。「自分にわかるように伝えてくれる大人」かどうかを子どもは見極めます。

大人であれば「わからない」ということをことばにして相手に伝えることもできるかもしれませんが(それも相手と状況によりますが)、子どもは「わからない」ということを上手に伝えるスキルを持っていませんし、ときに自分のわからないという状態に気づくのが難しいことを念頭においておきましょう。

大人社会であればこういうボタンの掛け違いとその放置は喧嘩になったり、立場によってはハラスメントにまで進展することもあるかもしれません。要は徹底的に説明することが必要です。

■「〜かも」の視点を持つ

発達障害の特性や知的な発達の遅れがあると、「これで伝わるはず」という伝える側の憶測と誤解が起きることが多く、大人と子どものディスコミュニケーションの原因になります。

片方(この場合は大人)は「相手(子ども)はイメージできているはず!」と思いつつ、片方(この場合は子ども)は充分にイメージできていないまま厳しいことばだけが降ってくる状況です。

この誤解をできる限り避けるために、「目の前の子どもは私が話そうとした内容と同じものに注意を向けている、目の前の子どもは私のことばを私の意図通り理解しているはず」、という幻想からまず離れることが大事です。

もしかすると目の前の子どもは私と違うことを見ている「かも」しれない、もしかすると目の前の子どもは私のことばの意味を取り違える「かも」しれない、という前提に立っておきましょう。

■強い言葉ではなく「伝わる声かけ」を

目の前の状況を確認し、その後の対処法とリンクさせた声かけ、そして強いことばで子どもの行動を制御するのではなく「(一人ひとりの発達段階に応じた)伝わる・わかることばかけに基づく共通理解のうえでのルールの構築」が大事です。

次のようなポイントに留意しましょう。

1 大事な物事ほど、簡単にわかりやすく話す(余計な情報を加えない)。
2 その場の流れ(いわゆる文脈)を逃さない。
3 具体的に(目で見てわかるように)望ましい行動を示す。

例えば「お外に出るときに帽子をかぶってほしい」ことを伝えたいのであれば(繰り返し述べたことではありますが)、お外に出るタイミングを見計らって(2)、「今日はお外がとっても暑いから、お外に出るときは帽子をかぶりましょうね」と言うのではなく、本人が外に注意が向いたタイミングで外を示して次いで帽子を見せて(3)、靴を履く前に「帽子をかぶります」とだけ短く言い(1)、自分もやってみせてから手渡せばよいわけです。

このポイント3点は、障害の有無にかかわらず気をつけておきたいところです。

■「相手の目を見て褒める」が正しいわけじゃない

「子どもを叱ってはいけない」はよく聞きますが、「子どもを褒めましょう」、これもよく聞きますよね。もちろん褒めることは大事でその点に異論はありません。

ただ「よい褒め方って何?」と聞かれたときに、皆さんならどう答えますか? 「相手の目を見て褒める」「何がよかったのか(そのプロセス)を褒める」……人によっていろいろ違いがありそうですよね。

相手の目を見る、は「相手は自分と同じように視線の持っている意味を理解しているはず!」という前提に立ちますから、自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性がある場合はそのまま当てはめられないかもしれません。

プロセスを褒める、前向きに言語化するというのも、「こちらのことばを正しく理解し意図を読み取れる」ことが前提になるため、発達に遅れのある子どもに対して適切とは言い難くなります。褒める際に(注意する際も)気をつけておきたいのが、こちらの意図していないものに子どもが反応している可能性があることです。

子どもと向かい合って話す母親
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■よい褒め方の判断基準は「後の行動」

例えば、子どもの困った行動に対して「ダメでしょ!」と伝えても、逆に繰り返す、といった事例を考えてみましょう。親としては「(その困った行動を)やめて!」の意図があったとしても、「あ、親が相手をしてくれた!」と、親からの叱責を子どもがご褒美と捉えたら行動は増えてしまいます。

上手な褒め方だったかどうかは、褒めた行動(増えてほしい行動)が褒めた後に確実に増えている(逆にやめてほしい行動の場合はきちんと減っている)かどうか、に尽きます。

ときどき、「この子は注意しても逆に(こちらが)嫌がることを好んでする」「褒めてもまったくこちらの言うことを聞いてくれない」といったことがあります。

前者は別にこちらの感情を逆なでしようとしてやっているわけでも、おちょくろうとしているわけでもありません。子どもの意図と大人の意図が掛け違っているわけです。後者については、おそらく子どもは「褒められた」と感じていないのでしょう。感情論云々ではなく、褒める前後でどの行動が増えたか(あるいは減ったか)で判断しましょう。

不安の強い子どもの中には、少し難しい場面や自信のない場面での自分の行動後に積極的に「褒めて」と要求が出る場合があります。この場合の「褒めて」は「これでいい?」というコミュニケーション行動であり、コミュニケーションの受け手である大人は「より丁寧に正解(子どもがとるべき行動)をわかるように見せておく必要がある」と理解する必要があります。

■「自分と同じように理解できる」という前提は取り除く

「わかるように伝える」ことは決して難しいわけではありません。ただ、それを意識しながらやりとりすることは意外と難しいものです。そのうえで意識しておくべき3つの観点を述べます。

その1、まず「人は自分と同じように理解できているはず」という前提を取り除きましょう。「相手は自分の意図通りにことばを理解してくれない(だからこそ伝わるように意識する)」を子どもとのやりとりの前提としましょう。

その2、コミュニケーション場面の仕分け、です。やりとりに必然性があるもの(自分の生活に直結)、子どもにとって興味関心の高いもの、やりとりで使用されることばや場面の経験があるもの、などはコミュニケーションが安定しやすく、かつ本人の不安も低くなります。

絶対に本人が知っておくべき情報(段階1)、知っておくとメリットがある情報(段階2)、できれば知ってほしい情報(段階3)、と3段階に情報を分けて、絶対に知っておくべき情報は本人のことばの理解の上限から半分程度の力で無理なく処理できるようにこちらが提案する必要があります。

その3として、全力を発揮しなくてもわかるコミュニケーション環境です。大事な情報(先ほどの段階1)ほど本人にとって「わかる」媒体で伝えないといけません。車の運転に例えると、標識の意味は絶対知っておくべき情報(段階1)ですね。

誰もがわかるシンボルでわかりやすく示されていることに意味があるわけです。

■一人ひとりの生活に合った伝え方を

よく「この子は口で言ったらわかるので(口頭で注意します)」といった発言を聞きますが、常に最大限の理解力を発揮させ続けていると本人は疲れてしまいます。段階1であれば半分程度(できればそれ以下)の力でも無理なく処理できる形で情報が示される必要があります。

保育園であれば、好きな活動がいつ終わるのか、次に何があるのか、といった情報は段階1に相当します。

一人ひとりの生活の場面ごとに段階1から段階3まで情報を色分けすることができると思います。それぞれの場面でのやりとりを念頭において、どの段階に相当するのかを事前に考えておくとよいです。

■発達検査の「3歳相当」は「3歳として扱え」ではない

少し乱暴ですが、例えば発達検査により、言語理解に関する項目で「3歳相当」という結果が出たとします。

単に結果に一喜一憂するのではなく、この結果は「この子に確実に(誤解なく)伝える際には3歳の児童が問題なく理解できる方法で伝える」ことを言っていると理解しましょう(これは3歳として扱えというわけではありません)。実年齢が3歳より上の場合、その子に降ってくる声かけは理解のレベルを超えることも想定されるので、「誤解する場合がある」と、やりとりする大人側が備えておくことを示唆するものです。

私はよく保育園や小学校でことばとコミュニケーションに課題を抱える児童のスーパーバイズを担当しますが、その際に子どもの実態について質問すると「(こちらの言っていることは)わかっていると思う」といった回答が返ってくることも少なくありません。

確かに、子どもはわかっているのかもしれません。ただし、持っている力を総動員してようやく理解ができる、という段階と、少しことばを聞くだけで意味を頭の中に思い浮かべることができる、という段階は同じではありません。こちらが伝えるべきもの(伝えないといけない内容)ほど、より少ないコストで理解ができる状況を作っておきましょう。

子どもを褒める両親
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■できないことより、何ができるか

子どものよりよい発達を促すためには、「できないこと」を探すより「何ができるか」を探す視点を大事にしてください。さらに「できる・できない」のゼロイチ思考ではなく、どう援助を与えればできるようになるのか、それができるようになることでその子どもの生活がどう豊かになるのかという視点を持っておきましょう。

例えば「この子どもは3歳になって二語文が話せない。1歳くらいことばが遅れている」といった親の発言を考えてみましょう。これは典型的な発達からの差に注目した「できないこと」の視点ですよね。

その一方で「この子どもは話しことば(単語)と指さしを使って自分の要求を周りの大人に伝えることができる」と表現することもできるかもしれません。こちらは「何ができるか」の視点です。

川﨑聡大『発達障害の子どもに伝わることば』(SB新書)
川﨑聡大『発達障害の子どもに伝わることば』(SB新書)

この視点に立てば「実際に指さしと話しことば(単語)を使って二語文レベルの要求をしているのはどんな場面だろう」とコミュニケーション場面に考えがいき、例えばおもちゃを選ぶ場面での要求の手段を「おかわりちょうだいの場面でも使ってみよう」と、できることを生活の中で拡大してその子自身の生活を豊かにできます。

養育者は誰しも子どものよい発達を願っていると思います。その心配が養育者の視点をついつい「(同じ年代の子どもに比べて)この子はこれができない……」という「できないこと」に向かわせがちですが、子どもは知的発達の遅れがあろうと発達障害の特性があろうと一人ひとりその子の歩みで全員発達していきます。よりよい発達を引き出すためには一人ひとりの発達経過に沿った働きかけが重要です。

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川﨑 聡大(かわさき・あきひろ)
立命館大学教授
博士(医学)。公認心理師、言語聴覚士、臨床発達心理士。岡山大学卒業、兵庫教育大学大学院修士課程修了。療育センターで言語コミュニケーション指導にかかわった後、大学病院で言語・心理臨床に携わり2006年岡山大学大学院医歯学総合研究科で博士課程を修了し、博士(医学)取得。岡山大学病院では発達障害から成人の高次脳機能障害の方の臨床に広く携わる。その後、富山大学、東北大学を経て2023年より現職。専門は言語聴覚障害学全般、神経心理学、ことばの発達に遅れがある子どもの指導。大学教員、研究者でありながら医療や療育の現場出身であることを活かし、発達神経心理や脳科学、特別支援教育を主に広く発信を続ける。

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(立命館大学教授 川﨑 聡大)

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