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老親には"拉致車"にしか見えない…「介護施設に行きたくない」とゴネる親をデイサービスに通わせる方法

プレジデントオンライン / 2024年12月28日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

高齢の親を介護する家族は、さまざまな悩みを抱えている。社会福祉士でNPO法人「となりのかいご」代表の川内潤さんは「親に『介護認定を受けたくない』『施設には絶対に入りたくない』と言われて困っている家族は少なくない。そうした親に対しては、直接的に施設に入ることを勧めるのではなく、別のアプローチが必要だ」という――。(第3回)

※本稿は、川内潤『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

■どうしても病院に行きたがらない親たち

親が病院に行きたがらない。介護認定を受けてくれない。デイサービスに行ってくれない。

「なんとか説得して、連れて行ってくれないでしょうか」と包括の職員やケアマネジャーに頼ってくる家族が多いのですが、私は親に病院や介護サービスを無理強いするのはいかがなものかと思います。

そもそも、「どう説得しようか」と子どもが親に言うことを聞かせようとしている時点でおかしなこと。冷静に考えれば、介護される本人が過ごしたいように過ごすことが、いちばんの支援なはずですよね。それなのに本人の思いはそっちのけで、子どもが、やれ、「今日はここに行け」「明日はこれをしろ」「朝は早く起きろ」などと口うるさく言えば、親が不機嫌になるのも当然です。

たとえば、長年、黙々とろくろを回して生きてきたような芸術家肌の親が、デイサービスで、皆と一緒になって歌を歌いたがるでしょうか。定年まではなんとか会社勤務をやり過ごしたけれど、元来、人づきあいが苦手。定年でやっとそこから解放されたと思っている親が、通所リハビリに行くでしょうか。

こういう方は訪問介護のほうが本人のためかもしれませんよね。ちなみに、私が認知症の方のデイサービスで働いていたときには、こんなケースがありました。認知症の母親が、いくら誘ってもデイサービスに行こうとしないのだ、と。

「私はそんな柄じゃないの」「今から知らない人ばかりのところへは行きたくない」と繰り返すばかり。認知症を患ってからいろいろなことが不安になって、人との関わりをいっさい持とうとしないのだと、娘さんから相談を受けました。

■デイサービスに行きたがらない理由は人それぞれ

でも、よくよく話を聞いてみると、以前は自宅で編み物教室を開いていたと言うんです。ということは、人にものを教えることは好きなわけで、元から人との関わりが嫌いではなかったはず。

それがわかったので、私はデイサービスにお誘いしてみようと思ったのです。そこで一計を案じて、編み物の先生として来てもらおうと考えました。

最初はその方の家に、「編み物を習いたいので、教えてください」と編み物の本と道具を持って訪れました。そうしたら嬉しそうに、その場ですぐ教えてくださったんです。これならお連れできるかもしれない。

そう思ったので、「私と同じように、編み物を教わりたいという人がたくさんいるんですけれど、一緒に来て教えてくれませんか? 車も用意してあるので」とお誘いしたら、すんなりと乗車してくださいました。実際にデイサービスで皆に編み物を教えている姿は、とても楽しそうでした。

高齢者のなかにはいろいろな考え方の人がいて、ひと口に介護サービスに行きたがらないと言っても、理由は人それぞれです。もともと人づき合いが苦手な人もいれば、病気がきっかけで内向的になってしまった人もいます。

私が、本人の生活を考えたら、この方はデイサービスに行かないほうが幸せだろうなと思ったとしても、ご家族は無理やり連れて行ってくれと頼んできます。本人のためと言いながら、本人の意向などそっちのけ。家にいてもらうと仕事ができないから、息抜きしたいからと、家族の都合だけで強制的に行かせようとします。

■施設の生活をイメージできる高齢者はほとんどいない

本来、私たち介護職は、「ご本人にとって、それはいいことなのだろうか」とフラットに考えなければいけないのに、ともすれば「ご家族も大変だし」という日本人的な意識が働いて、ご家族ではなく、ご本人を説得してしまうことがあります。でも、それはやはり違うと思うんです。

かつてデイサービスの車を「拉致(らち)車だ」と言っていた利用者さんがいましたけれど、本人にしてみたら無理に追い出そうとしているのだから、そう見えて当たり前ですよね。それは、デイサービスに限らず、施設に入る場合にも言えることです。

よく、子どもが「お母さん、もう施設に入るしかないよね」と説得しようとしますが、そもそも高齢者の何%の人が、入居したあとの生活を想像できているでしょうか。どうしたら、自分が穏やかでいられるかを考えているでしょうか。きっと入居したらどうなってしまうんだろうと、不安が大きいはずです。

ですから、やはり親が納得しない限りは、子どもが無理強いすることはできないと考えます。ただ、これ以上自宅にいると、本人のためにも家族のためにもよくない。親子の関係が悪化することが明らかになっているのであれば、私も入居を勧めると思います。

車椅子とベッド
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■介護される側の“意外な本音”

以前、認知症に関するワークショップを開いたことがあります。

そのとき、「親が認知症になったら、どういうサポートをしますか」と質問すると、返ってきた答えの多くは、「外出させないようにする」「老人ホームに入ってもらえるよう説得する」「同居を検討する」でした。

ところが、「自分が39歳で認知症になってしまったとしたら、どうケアしてほしいですか」と聞くと、「失敗を指摘しないでほしい」「今まで通り接してほしい」だったんです。これは、介護する側、される側の立場の違いで、思いがすれ違っていることの証しなのではないでしょうか。

親に介護サービスを使ってほしいと思ったとき、施設に入居してほしいと思ったとき、親の意思を無視して、自分の思いや都合を押し付けていないかを、子どもは冷静になって考えてみる必要があります。

■親をその気にさせる“とっておきの方法”

「そろそろ親に介護が必要かもしれないと思ったら、介護認定を受けてもらいましょう」

そんなふうに書かれている介護の本をよく見かけます。介護認定を受けてもらって、要支援1や2などの認定が下りたら、介護サービスを利用することができるのですが、そもそも認定を受けるのを嫌がる親も多くいます。

そういう親をその気にさせるには、どうしたらいいでしょうか。

実は、とっておきの方法があります。それは、家族が説得しないこと。そして、何もしないで、本人が困るまで「待つ」ことです。本人が認定を受けたくないと言うのは、デイサービスもホームヘルパーも、今は必要だと感じていないからです。それなら、本人が必要だと思うまで待ったらいいのではないでしょうか。

本当に困れば本人から言ってくるでしょうから、先回りせず、ゆっくり、のんびり、期待しないで待ちましょう。それまでは、「介護認定を受けると、こんなサービスがあるみたいだよ」と、情報発信に徹していればいいと思います。

こんなケースがよくあります。認知症の傾向が出はじめた1人暮らしの母親から、娘のところに「不安で不安でしょうがない」「話を聞いてほしい」と毎日のように電話がかかってきます。

でも、娘が「そんなに寂しいなら、デイサービスに行ったら?」と言っても、「お金がもったいない」「今からそんな新しいことはしたくない」と、なんだかんだと理由をつけて、なかなか行こうとしません。どういうことかと言うと、お母さんは、ただ自分の不安を伝えたいだけなんです。

車いすに乗るシニア
写真=iStock.com/seven
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/seven

■心配して同居するのは避けたほうがいい

こういうときは、説得して、無理やりデイサービスに連れて行こうとせず、あえて電話に出る回数を減らしてみるのも1つの方法です。

電話に出てもらえないと、母親の寂しさと不安がだんだん募ってくるので、そのタイミングでデイサービスなどに誘うと、うまくいく可能性が高くなると思います。もし、デイサービスという言葉に拒否反応があるようなら、たとえば先ほどの編み物を教えていた方のケースのように、「今、お年寄りの話し相手になってくれるボランティアさんを探しているらしいんだけれど、お母さん、行ってみない?」と誘ってみるのもいいと思います。

そして、「デイサービスに行くのを嫌がっていますけれど、本来、母は寂しがり屋で、とにかく人と話すのが好きなんです。よろしくお願いします」とケアマネジャーに申し送りをしておくことです。

母親が毎日のように電話をかけてくるようになったとき、娘さんがいちばんやってはいけないのは、「これ以上、寂しい思いをさせるわけにはいかない」と、会社に頼んでテレワークに切り替えて、同居してしまうことです。

そうすると、お母さんの不安は娘さんがそばにいることで解消されてしまうので、デイサービスもヘルパーも必要がなくなってしまうのです。

でも、娘さんのほうはと言えば、介護の専門職でもないのに、自分の生活を犠牲にして、毎日のように母親の不安解消につき合っているわけです。これはとても危ない。仕事に集中できずイライラして母親に当たってしまい、そのことでまた自己嫌悪に陥るという、最悪な負のループに陥ってしまうわけです。

■頼まれる前に助けるのは、親のためにならない

認知症を発症すると、時にスーパーに行っては同じものを何度も買ってくるという傾向が出ることがあります。その結果、賞味期限切れの食品が、棚や冷蔵庫にあふれ返ることになります。

川内潤『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)
川内潤『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)

認知症に限らず、整然と暮らすことができなくなるというのも、老いの現実なのです。しかし、こうした場合でも、子どもが先回りして片づけたりせず、困り事になるまで待つといいと思います。

子どもが頻繁に帰って、賞味期限切れの食品を捨てたり、きれいに片づけたりしてしまうと、親が食品であふれ返った冷蔵庫を前に、途方に暮れることもありません。そうするとヘルパーさんも必要がなくなってしまいます。

本人が行きたいとか、助けてくれと言う前に、子どもが無理やりやらせようとするから怒るんです。「困ったら、本人から言い出すんじゃない?」くらいの気持ちで見守ることが、介護サービスを入れやすくする秘訣です。

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川内 潤(かわうち・じゅん)
NPO法人「となりのかいご」代表
社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業後、老人ホーム紹介事業、外資系コンサルティング企業勤務を経て、在宅・施設介護職員に。2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年にNPO法人化し、代表理事に就任。厚生労働省「令和4~6年度中小企業育児・介護休業等推進支援事業」委員なども兼務する。家族介護による介護離職、高齢者虐待をなくし、誰もが自然に家族の介護にかかわれる社会を実現すべく、日々奮闘中。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)、『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)、『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)などがある。

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(NPO法人「となりのかいご」代表 川内 潤)

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