大成功した人を羨む人は全然わかっていない…イーロン・マスク級の「天才」に共通する恐ろしき特徴
プレジデントオンライン / 2024年12月25日 15時15分
※本稿は、モーガン・ハウセル(著)、伊藤みさと(訳)『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■ユニークな考え方は丸ごと受け入れるしかない
人間には、次のような傾向が備わっている。あなたが好むようなユニークな方法で世の中について考える人は、ほぼ間違いなく、あなたが好まないようなユニークな方法でも世の中について考えている。
この点はとても見過ごされやすく、誰を尊敬すべきか、大きな成功をおさめた人たちに何を期待すべきかについて、私たちの判断を鈍らせる原因となっている。
重要なのは、ユニークな考え方は丸ごと受け入れるしかないということだ。なぜなら、彼らが人々から称賛されている部分と、軽蔑されている部分とを切り離すことはできないからだ。
ここで少し、誰からも必要とされながら、誰からも愛想を尽かされた戦闘機パイロットの話をしよう。
■天才・奇才に「一般常識」は通じない
ジョン・ボイドは、おそらく史上最高の戦闘機パイロットだった。
ボイドは誰よりも大きな改革をこの分野にもたらした。彼が書いた『航空攻撃研究』は、戦闘機の機動作戦のマニュアルだが、技術者が航空機を製造するときと同じくらい数学が多用されている。
彼の視点はシンプルながら説得力があった。たとえば、空中戦で優位に立つには、飛行機がどれだけ速く高く飛べるかではなく、どれだけ素早く進路を変えて上昇を開始できるかのほうが重要であるという。
このボイドの発見は、パイロットたちの考え方だけでなく、航空機の製造方法までも変えることになった。ボイドは、いわば空飛ぶ学者だった。二十代のときに書かれたこのマニュアルは戦闘機パイロットの公式戦術手引きとなり、いまだに使用されている。
ボイドは、軍事史上最も影響力のある思想家の一人として知られている。しかし、「ニューヨーク・タイムズ」紙は、かつて彼を「事実上、存在を抹殺された人間……空軍においても」と表現した。
というのも、ボイドは頭脳明晰であると同時に、狂気じみていたからだ。
彼は無礼だった。言動が突飛で、反抗的で、短気だった。同僚が驚いてしまうほど上官に向かって怒鳴り散らすこともあれば、一度は暖房のきかない格納庫に火をつけたとして軍法会議にかけられたこともあった。会議中には、よく手のたこを噛みちぎってテーブルの上に吐き捨てていた。
空軍はボイドの洞察力を高く評価し、必要とした。しかし、ボイドという人間には我慢ならなかった。
ボイドの決定的な特徴は、航空機の操縦について、ほかのパイロットとはまったく違う考え方をしていたことだ。彼はまるで、脳の通常とは異なる部分を使って、ほかの人とは違うゲームをしているかのようだった。
それゆえに、当然ながら、彼に一般常識など通じなかった。そのため、上官はある業績報告書で、ボイドの貢献を絶賛しながらも昇進には否定的見解を示した。
ある新聞の批評にはこう書かれている。
「この卓越した若い将校は、独創的な思考の持ち主である」
だが、そのあとにこう続く。
「彼は気性が激しく短気で、厳しく監督されるとうまく対応できない。自分の計画に口を出されることにまったく我慢がならない」
ボイドが戦闘機の機動作戦についての革新的なマニュアルを書いている最中に、二人の大佐が彼の昇進を却下した。
最終的に、ボイドは昇進した。優秀すぎて、昇進させないわけにはいかなかったのだ。
だが、その後も、彼は多くの人を苛立たせ、誰もが彼の扱いに手を焼いた。よい点、悪い点、不愉快な点、ときに法に反する点もあったが、あらゆる点で彼はユニークだった。
■「成功している人」は恐ろしいほど極端
経済学者のジョン・メイナード・ケインズは、オークションでアイザック・ニュートンの論文の原本を大量に購入した。
その多くはケンブリッジ大学に何世紀ものあいだしまい込まれていたため、人目に触れたことがなかった。
ニュートンといえば、おそらく史上最も知的な人物だろう。しかし、ケインズが驚いたことに、ニュートンの論文の多くが錬金術や魔術、不老不死の薬を探す試みに捧げられていた。
ケインズは次のように書いている。
少なくとも十万ワードという膨大な量に目を通したはずだ。それらが、まったくもって魔術的で、まったくもって科学的価値に欠けていることはどうにも否定できないし、またニュートンが何年も魔術の研究に没頭していたことを認めないわけにはいかない。
ニュートンは魔術に夢中になっていたにもかかわらず天才だったのか? それとも、信じられないようなものに関心を持っていたからこそ、あれほど成功できたのか?
答えを知ることはできないだろう。だが、クレイジーな天才が、ときに本物のクレイジーに見えるのは、ほぼ避けられない。
■イーロン・マスクの常軌を逸した二面性
私が長らく真実だと思ってきたこと、そして、誰もがよく考えれば必ず思い至ることだが、ある一つのことに異常なまでに優れた人は、ほかのことが異常なまでに苦手な場合が多い。
あたかも、脳が許容できる知識と感情の量は限られており、異常なスキルがその人の脳から容量を奪ってしまっているかのように。
イーロン・マスクを例に取ろう。
いったいどこの32歳が、GM(ゼネラル・モーターズ)、フォード、NASAを一挙に敵に回そうと思うだろうか? それは完全に常軌を逸した人間だ。
一般常識など自分には当てはまらないと考える人。自己中心的だからではなく、純粋に、骨の髄までそう信じている人。たとえば、ツイッター【訳注:現在はX】のマナーなど気にしないような人だ。
火星へ移住するために平気で私財をなげうつような人物は、「大口を叩いたせいで炎上するのではないか」と気にしたりしない。
火星の大気中に核爆弾を落としつづけることで火星に人間が住めるようにしようと提案するような人は、「現実離れしたことを言っているかもしれない」と不安になったりしない。
人類はコンピュータのシミュレーションである可能性が99.9999パーセントだと言うような人は、株主に守れもしない約束をして心配したりしない。
仮設テントにテスラ・モデル3の組み立てラインを再構築して数日のうちに、洞窟に閉じ込められたタイの少年サッカーチームを救おうとし、さらにその数日後にミシガン州フリントの水汚染問題の解決を約束するような人は、弁護士の署名を重要な手続きと考えたりはしない。
人々はマスクの「先見の明」のある天才的な側面を愛する一方で、常識にとらわれない独自の考え方で行動する側面は受け入れがたいと思っている。しかし思うに、この二つの側面は切り離せない。この二つは、一人の人間における性格特性の一得一失なのだ。
■その人物を本当に「自分の目標」にしてよいか?
戦闘機パイロットのジョン・ボイドもそうだった。
天才であると同時に、鬼のような社長にもなれたスティーブ・ジョブズもそうだった。
ウォルト・ディズニーもそうだった。彼の野望によって、関わったすべての会社は倒産の危機に追い込まれた。
元国家安全保障問題担当大統領補佐官のマクジョージ・バンディは、月に行くなど常軌を逸した目標だと、かつてジョン・F・ケネディ大統領に言った。ケネディはこう答えた。
「不屈の精神がなければ、四十代で大統領選に出馬などしないよ」
その人物を本当に「自分の目標」にしてよいか?
以上から、信じられないようなことを成し遂げられる人はたいてい、同じくらい強烈に裏目に出る可能性のあるリスクを取っていることを理解する必要がある。
成功した企業や大国のトップに上り詰めるのは、どんな人だろうか?
決断力があり、楽観的で、ノーと言われても引き下がらず、自分の能力にどこまでも自信があるような人だ。
やりすぎたり、無謀なことに手を出したり、どう見ても明らかなリスクを無視したりするのは、どんな人だろうか?
決断力があり、楽観的で、ノーと言われても引き下がらず、自分の能力にどこまでも自信があるような人だ。
■羨ましがるなら、丸ごとその人になるしかない
平均回帰【訳注:平均とかけ離れた事象が起こったあとに、かなりの確率で平均に近い事象が起こること】は、歴史上、何度も繰り返し起こっており、経済、市場、国、企業、キャリアなど、あらゆるものを大きく特徴づけている。
平均回帰が起こるのは、ある人をトップに押し上げる性格特性が、同時にその人を崖っぷちに追い込む確率を高めるからだ。
このことは、国、とりわけ帝国についてもいえる。さらなる土地を手に入れて勢力を拡大しようとする国が、「よし、もう充分だ。今あるものに感謝し、これ以上他国を侵略するのはやめよう」と言えるような人によって統治されていることは、まずないだろう。彼らは行き詰まるまで進みつづける。小説家のシュテファン・ツヴァイクはこう述べている。
「征服者が征服に飽き飽きした例は、歴史を見てもない」
望みのものを手に入れたからといって、撤退する征服者などいないということだ。
このトピックで最も重要なのは、誰を尊敬すべきか、特に、誰のようになりたいか、誰の真似をしたいか、きちんと見きわめられるようになることだと思う。エンジェル投資家であり、自身も起業家であるナヴァル・ラヴィカントはかつて次のように書いた。
ある日、ふと気づいたのだ。他人の人生のほんの一部だけを切り取って、羨ましがることはできないと。この人の体格になりたい、あの人のお金が欲しい、あの人の性格になりたいと言うのは不可能なのだと。丸ごとその人になるしかないのだ。
その人の反応、欲望、家族、幸福度、人生観、セルフイメージなど全部ひっくるめて、本当にその人になりたいか? もし、その人と24時間365日、100パーセント入れ替わってもかまわないと思えないなら、嫉妬しても意味がない。
誰かの人生を望むか、望まないか。どちらを選択しても大きな力になる。目標とする人を探すときは、その人になりたいかどうか、自分でわかっていればいい。
「あらゆる前提を疑わなければならない。さもなくば、当初は正しい主義だったものが、永遠に独りよがりな思い込みになってしまう」とジョン・ボイドは言った。
これこそ、よくも悪くも、常に思い出される哲学だ。
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ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフール」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。優れたビジネス・金融ジャーナリズムを表彰するジェラルド・ローブ賞のファイナリストにも2度選出されている。妻、2人の子どもとシアトルに在住。著書に、全世界累計600万部のベストセラー『サイコロジー・オブ・マネー』(ダイヤモンド社)がある。
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(コラボレーティブ・ファンド社 パートナー モーガン・ハウセル)
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