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なぜスターバックスの「急激な拡大」は失敗に終わったのか…成長を一直線に目指した企業の末路

プレジデントオンライン / 2024年12月26日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EyeOfPaul

企業や事業の規模拡大を急速に推し進める際には何に気をつけるべきか。コラボレーティブ・ファンド社パートナーのモーガン・ハウセル氏は「スターバックスは、次々と店舗をオープンさせて、成長目標を達成しようと必死になるあまり、合理的な分析がおろそかになった。規模の拡大を推し進めれば、収益は増大するかもしれないが、失望する顧客が急速に増える」という――。

※本稿は、モーガン・ハウセル(著)、伊藤みさと(訳)『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

■身の丈に合った規模とスピードを超えないこと

「9人の女性を妊娠させても、一カ月で赤ん坊は生まれない」と、かつてウォーレン・バフェットは冗談を言ったことがある。

これは冗談だが、驚くことに、人間はしばしば処理が追いつかないほどプロセスを速めようとする。

人は価値あるもの、特に儲かる投資や特別なスキルなどを見つけると、「素晴らしい。だが、それをもっと早く手に入れることはできないのか?」と訊いてしまいがちだ。もっと強硬に推し進められないか、規模を倍にできないか、もっと搾り取れないか、と。

ごもっともな質問なので、訊いてしまうのも無理はない。

人は長らく、価値あるものを無理に推し進めたり、手っ取り早くなんとかしようとしたり、多くを求めすぎたりしてきた。

しかし、たいていのものには身の丈に合った規模とスピードがあり、それを超えて無理をすると逆効果になる。

■スターバックスの蹉跌――「無謀な拡大」の末路

投資とは、要約するとこういうことになる。株は長い目で見れば大金を払ってくれるが、早い支払いを求めると罰金が科される。

図表1のチャートは、株式の保有期間に基づき、アメリカ株式市場がプラスのリターンを生み出してきた頻度を示している。

【図表1】アメリカ株式における「プラスのリターン」を得られた「保有期間」の割合
『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』(三笠書房)

このチャートから一つ読み取れるのは、投資には「最適な」期間があるということだ。それはおそらく、十年かそれ以上のようだ。そのくらいの期間になると、市場はあなたの辛抱にほぼ確実に報いてくれる。投資期間が短くなればなるほど、あなたは運に頼ることになり、破滅を招く。

歴史上の投資の失敗を見ていくと、そのうちの実に90パーセントが、この「最適な」投資期間を投資家たちが縮めようとした結果であるのがわかる。

企業でも同じことが起こる。

スターバックスは、創業23年目の1994年の時点で、425もの店舗を展開していた。1999年には、625店舗を新規オープン。2007年には、年間2500店舗を次々とオープンさせた。つまり、4時間ごとに新しいコーヒーショップが誕生していたことになる。

やがてスターバックスは、成長目標を達成しようと必死になるあまり、合理的な分析がおろそかになっていった。いつしか飽和状態に陥り、好況下にもかかわらず、既存店の売上高伸び率は半減した。スターバックスの失態は、物笑いの種となった。

スターバックス創業者のハワード・シュルツは、2007年に執行役員に向けてこんなことを書いている。

「1000に満たない店舗を1万3000店舗まで拡大するために、一連の決断をしなければならなかった。今思えば、それがスターバックスが積み上げてきた経験をふいにする結果につながってしまった」

2008年、スターバックスは600店舗を閉め、1万2000人の従業員を解雇した。株価は73パーセント下落。この数字は2008年の水準からしてもひどいものだった。

■急速に顧客を拡大させた企業は、急にお金を持った子どもと同じ

シュルツは、2011年の自著『スターバックス再生物語 つながりを育む経営』(月沢李歌子訳、徳間書店)の中でこう述べている。

「今や誰もがよく知ってのとおり、成長とは経営戦略ではない。具体的な戦術である。規律なき成長が経営戦略となったとき、我々は道を見失った」

スターバックスには、スターバックスに見合った最適な規模があった。それは、どんなビジネスにもある。

それを超えて規模の拡大を推し進めれば、収益は増大するかもしれないが、失望する顧客が急速に増えることに気づくだろう。

このことをとてもよく理解していたタイヤ王のハーベイ・ファイアストーンは、1926年に次のように書いている。

一度に顧客を獲得しようとしても損をするだけだ。第一に、そもそも獲得できないから、かなりの資金が無駄になる。第二に、たとえ獲得できたとしても、供給が追いつかない。

第三に、たとえ獲得できたとしても、すぐに離れていってしまう。急速に顧客を拡大させた企業は、急にお金を持った子どもと同じような行動をする。

■顧客は事業が「最適な」規模であることを望んでいる

企業合併もしばしば同じ罠に陥る。買収はたいてい、顧客が望んでいる以上の急速な成長を経営陣が望んだときに行なわれる。だが、顧客は事業が「最適な」規模であることを望んでいる場合がほとんどであり、それを超えた無謀な拡大はあらゆる失望につながる。

元ウォール街のトレーダーで、確率論の教授、著述家であるナシーム・タレブは、自身のことを国レベルでは自由主義者、州レベルでは共和党員、地元レベルでは民主党員、家族レベルでは社会主義者だと述べている。

集団の規模が四人、百人、十万人、一億人と拡大すれば、人々のリスクや責任の負い方もまったく異なってくるというのだ。

企業文化も同じだ。十人規模の企業ではうまく機能する経営スタイルも、千人規模になれば企業を倒産させることがある。これは、数年という短期間で急成長を遂げる企業が身をもって学ぶ教訓だ。

ウーバーの前CEOのトラビス・カラニックがよい例だ。ウーバーが短期間で急成長できたのは、紛れもなくカラニックのおかげだった。

しかし、企業が成熟するにつれ、必要とされたのは彼ではなかった。失策だったとは思わない。ただ、拡大に向かないものもあるという事実をよく表わしているにすぎない。

自然界には似たような例が山ほどある。そのほとんどが、よいアイデアもあまりに焦って推し進めると、すぐに最悪のアイデアになってしまうことを示している。

■「急いては事を仕損じる」は科学的に証明されている

ほとんどの苗木は、最初の数十年を母樹の樹冠の陰に隠れて過ごす。太陽光をあまり受けられないため、ゆっくりと成長する。成長が遅いと、密度が高く硬い木になる。

しかし、広々とした野原に苗木を一本だけ植えると面白いことが起こる。大きな木によって日差しを遮られることなくたっぷり浴びられるので、苗木はみるみるうちに育つ。

新しい木の芽
写真=iStock.com/Ivan Bajic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ivan Bajic

成長が速いと、密度が低く軟らかい木になる。そのような木は菌類や病気の温床となる。「成長の早い木は腐るのも早いため、老木になる前に枯れてしまう」と、森林管理官のペーター・ヴォールレーベンは書いている。急いては事を仕損じる、だ。

動物の成長についても考えてみよう。

同じ種類の稚魚を二グループ用意する。一方のグループを通常より冷たい水に、もう一方のグループを通常より温かい水に入れる。どちらの場合も、ある特定の温度になると興味深い現象が起こる。冷水に住む魚は通常より成長が遅くなり、一方、温水に住む魚は通常より成長が早くなる。

両方のグループを通常の温度の水に戻すと、最終的には普通サイズの成魚に落ち着く。

しかし、そのあと、驚くべきことが起こる。

稚魚のときに成長スピードがゆっくりだった魚は、平均よりも30パーセント長生きする。しかし、稚魚のときに人為的に成長スピードを速められた魚は、平均よりも寿命が15パーセント縮まるのだ。

これは、グラスゴー大学の生物学者チームがかつて発見したことである。

■成長をあまりに加速させると、細胞組織を損傷させる

原因は特に複雑なことではない。成長をあまりに加速させると、細胞組織を損傷させてしまいかねないのだ。

また同チームによると、そうした成長の加速は、「本来、損傷した生体分子の維持や修復に使われるべき能力を流用することによってのみ可能となる」という。

反対に、成長を遅らせると、「維持や修復に使われる能力の割り当てを増やすことができる」という。

「急いで製造された機械が、慎重に念入りに組み立てられた機械よりも早く故障するのは充分に予想できることだろう。我々の研究は、これが体にも当てはまることを示している」と、共著者の一人のニール・メトカーフは述べている。

成長するのはよいことだ。小さいままだと結局は食べられてしまうのだから。

しかし、無理やり成長させたり、成長を加速させたり、人為的に成長させたりするのは、逆効果になりやすい。

■価値は「忍耐」と「希少性」から生まれる

ロバート・グリーンはこう書いている。

モーガン・ハウセル(著)、伊藤みさと(訳)『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』(三笠書房)
モーガン・ハウセル(著)、伊藤みさと(訳)『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』(三笠書房)

「創造性を妨害する最大の邪魔者は、あなたの焦りである。つまり、過程を急ぎ、手っ取り早く形にして世間の評価を得たいという、人間なら誰しもが持つ欲求である」

このトピックで重要なのは、恋愛、キャリアから投資まで、素晴らしい価値があるもののほとんどは、忍耐と希少性という二つから得られるということだ。価値あるものにまで育てるための忍耐と、その忍耐の結果、作られた希少性だ。

にもかかわらず、人々が素晴らしいものを追い求めるときに実際によく使っている戦術は何か? 手っ取り早く形にしよう、もっと拡大させようと躍起になることだ。

そこが常に問題だったし、これからも問題でありつづけるだろう。

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モーガン・ハウセル コラボレーティブ・ファンド社 パートナー
ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフール」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。優れたビジネス・金融ジャーナリズムを表彰するジェラルド・ローブ賞のファイナリストにも2度選出されている。妻、2人の子どもとシアトルに在住。著書に、全世界累計600万部のベストセラー『サイコロジー・オブ・マネー』(ダイヤモンド社)がある。

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(コラボレーティブ・ファンド社 パートナー モーガン・ハウセル)

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