1日16時間働き、15日間で250万稼ぐ…韓国に「出稼ぎ」に行った日本人女性が話した"大金の使い道"
プレジデントオンライン / 2025年1月2日 16時15分
■「海外出稼ぎ」は1カ国15日間がセット
ベッドに敷かれたバスタオルの感触を背中で確かめつつ、横たわるとさらに尋ねた。
「韓国にはいつまでいるの?」
「あと10日かな?」
彼女のような「海外出稼ぎ」は同じ国には15日間滞在というのがひとつのセットだという。観光ビザで入国しているので、それ以上長いと出国の際に疑われることがあるのと、滞在の途中で生理がきて「仕事」ができなくなるからだという。
しかし、その15日間で250万円を稼ぐ、というのが韓国での出稼ぎのパッケージだと彼女は言った。
単純計算で、一日あたり17万円弱――。
■女性の取り分は「250万円の半分くらい」
薄給の記者からするとそれは驚くべき数字だった。気を取り直してさらに聞く。
「250万円はいけそうなの?」
「今のところ順調かな!」
女は屈託ない笑顔を見せた。
「客が払ったカネの半分くらいはもらえるものなの?」
ずいぶんと突っ込んだ質問をしたと自分でも後悔したが、異国で母国語を話す記者に心を許したのか、ナオは意に介さず答えた。
「そう、ちょうど半分くらいや」
■16時間勤務、ほぼ予約で埋まっている
聞けば、正午から朝の4時までの16時間勤務。コースによって異なるが、今日現在、彼女にはほとんど空きがなく、ほぼ予約で埋まっているというのだ。
空いた時間には、このベッドに寝転んで、スマホで動画サイトを見たり、仕事に使ったバスタオルや自分の身の回りのものを洗濯したり、日本にいる女友達と電話をしたりしている。確かに部屋を見渡すと、パソコンやテレビなどひまを潰せるようなものは何ひとつない。壁の時計の針だけがチクタクと時を刻んでいる。目を凝らすと文字盤にはSEIKOとあった。
「韓国のほうが日本よりお金はもらえるの?」
「まぁ、本番は日本と同じくらいやねんけど、こっちのほうがオプションが高くて」
たしかにAV撮影のオプションつきだと、40分で約4万5000円。決して安くはない。日本で撮影のオプションなどつけるともっと高くなるのではないか、という疑問が湧いたが、あえて口にしなかった。
「ねぇ、話ばかりしてないでそろそろ始める?」
ナオは記者の体をさすり始めた。制することはしなかったが質問は続けた。
「ご飯は何を食べているの?」
ナオはベッタリと体を寄せながら答えた。
「下にコンビニあるやん」
「おいしいものは食べないの? せっかくだし観光は?」
「お金稼ぎに来たんだから……」
■「カレシおんねん…」沈黙が訪れる
そして何かを思い出したかのように、記者の体をさする手を止めた。
「まぁ……ほんまは、今日ジョングクの誕生日やってんな。ほんで、ソウルに行こうと思ったけど、怖くていけんかった」
言葉が通じない外国でカラダを売りながら、電車でわずか30分ほどの距離にあるソウルに行くのが怖い……理解に苦しむ話だった。
「お兄さん、勃たないね」
記者の頭の中で新大久保で2世のイから忠告された言葉がこだましていた。
(絶対に本番はするな――)
それまで饒舌に、そして雰囲気を盛り上げようとしていたナオが急に黙り込んだ。沈黙に耐えきれなくなり、記者は顔をナオの口に近づけた。しかし、避けられた、それは頑なだった。
「なんで? ダメ?」
「いや……」
「どうして」
「カレシおんねん……」
■自らの意思で出稼ぎに来たわけではない
見ず知らずの男とはカラダを重ね、自らの裸の動画まで撮らせる。それでも唇は奪われたくない。ナオが守ろうとしているものは何なのか、理解が追いつかないが、なにか確信めいたものがあった。
「ひょっとしてホスト?」
「え、なんでわかったん?」
「ホストが女を海外に送るという話をなにかで読んだから……」
「……」
一瞬にして不穏な空気に覆われた。彼女はこれまで見たことのない悲しそうな表情を浮かべた。
「私は違うよ! 来たかったから来ただけ」
否定はするが、自らの意思で韓国に来たわけでないことは明らかだった。
かりそめの愛をカネで買ったとしても、自分の愛する男から海外で売春することを強いられた。そしてやってきた先が、これも愛を注いだアイドル、ジョングクがいる韓国だった。皮肉な巡り合わせである。
「もういいから……今日は話をしようよ」
重くなった空気を払拭しようと笑うと、ナオにも笑みが戻った。
「ええの? オプションもつけてくれて、たくさん払ってくれたのに」
「俺は稼いでるから大丈夫。42万ウォンなんて大したカネじゃないから」
精一杯の強がりだ。言うまでもなく記者にとっては涙が出るほどの大金だ。この男にはカラダを開かなくて済むと悟ったナオは饒舌になった。
■「ホストの彼氏」との恋愛にはカネがかかる
そしてナオは、韓国に来た経緯を話し始めた。
日本でデリヘル嬢だった彼女は、ホストをしている彼氏に入れあげたあげく、自然と借金が膨らんでいった。あくまでナオの口を借りて説明すると、「自分の恋愛にはカネがかかる。そして自分は恋愛を続けたいから、もっとたくさんデートがしたいからお金が必要になった」という。
それは週5回のデリヘル勤務では賄えないほどの“高額デート”となっていた。デート場所のほとんどがホストクラブだったのだから、必然の流れだったのかもしれない。
「デリヘルに加え、ソープとの掛け持ちの瀬戸際にいたとき、助け舟を出してくれたのも彼氏だった」
とナオは嬉しそうに語るが、やがて、一人の男を紹介されたという。「紹介された」とナオは言ったものの、実際には、LINEを教えられただけの“紹介”だった。その男は海外に女を派遣するスカウトだったのだ。
■スカウトから誘われ、5日で渡韓を決める
LINEの男は、挨拶もなくぶしつけにメッセージを送ってきた。
「2週間で250(万円)が目安ですけど。どうですか?」
愛する男から紹介されたスカウトの言葉にナオは断る理由が見つからなかった。結局、スカウトとは実際に会うこともなく、韓国に渡ることを決めたという。
本番をする仕事とは聞いていたが、どんな形態なのか、単価がいくらなのか、そのうち自分の取り分がいくらなのかもスカウトに聞くこともしなかったという。
「べつに聞いても、どうしようもないし。こっちに来てからひと通りシステムは説明されたけど、頑張れば2週間で250万円って。それだけで十分かなって」
驚かされたのは、ナオがスカウトを紹介されたのは10日前のことだった。最初に入国5日目と聞いていたので、スカウトの斡旋からたった5日で韓国渡航を決めたことになる。スカウトの仕事の手際のよさと、ナオの妄信的な「愛」は今どきと言っていいのだろうか。
■「日本と全然、変わらんよ」
デリヘルで働いていたため、性風俗への抵抗はそこまでなかったのかもしれない。とはいえ、ここまで来て後悔はないのか、素直な感想を尋ねてみた。
「後悔? なんで」
「例えば韓国の男が日本の男と違ったりして怖いとか、嫌だとか?」
「日本と全然、変わらんよ」
「仕事してて迷惑だった客とかはいなかった?」
「うん、まだおらん。むしろ日本よりもマナーがいい人多いかも。お兄さんみたいな優しい人も多いし」
「客は若い男が多い?」
「若い人が多い。というかおじさんは断ってる」
「断る?」
「お兄さんも最初、身分証送ったでしょ? それが私にも送られてきてイヤだったら断ってもいいの」
客が窺い知らぬところで個人情報がダダ漏れなのはいい気はしないが、ある意味、働く女性に優しい風俗ということなのか。それとも身バレを徹底的に避けるためなのか。
「残りの10日間、休みはないの?」
「稼ぎにきとるわけやし」
■ホストの情報は何ひとつ教えてくれなかった
その時、ナオのスマホのアラームが鳴り出した。部屋に入ってからすでに35分がたっていた。
「やってないけど、シャワー浴びる?」
手短に体を洗い、風呂場から出ると、ナオが自分で洗濯しているというタオルを持って待っていてくれた。体を拭いて、服を着る。よく見ると最初に記者が脱ぎ捨てた服はきれいに畳まれていた。
「250万円稼いだら、何に使うの?」
「ホスト(笑)」
それはホストの彼氏なのか、別のホストなのか、あえて聞くのをやめた。
ナオは、根はいい子なのだろう。こんな子にカラダを売らせるために海外にやる男とはどんな輩なのだろうか。素性を知りたくて店やホストの名前を聞いてみたが、何ひとつ教えてもらうことができなかった。
■鶏小屋のようなビルで働く日本人女性
そろそろここを出なければならない。玄関で靴を履いていると、背後からナオが思いがけないことを言った。
「ほんまはあかんけど、LINE交換できる? 韓国で困ったことあったらいろいろ聞きたいし……」
カネを受け取りながらも、仕事を全うしなかった後ろめたさから出た言葉かわからないが、躊躇はなかった。
QRコードを読み取り、連絡先を交換。玄関で向かい合う。最後にナオの顔をもう一度見た。思ったより幼かった。手を振ると、扉が静かに閉まり、ガチャンという音が廊下に響いた。
来たときよりも廊下の臭いは気にならなかった。記者はエレベーターに乗ると下る階数表示を見ながらある思いがよぎった。
間違いなく、ここ韓国で体を売っている日本人女性がいる。それも複数……。
この鶏小屋のようなビルのどこかにはナオの他にも日本人女性がいて、毎日客を取っている。こんな場所はソウルの、いや韓国のその他の場所にもあるに違いない。
(週刊SPA!編集部 国際犯罪取材班)
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