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だから東大生が「外資系コンサル会社」に流れていく…国家公務員の給与増では"官僚離れ"は止められないワケ

プレジデントオンライン / 2024年12月24日 10時15分

国会議事堂(右手前)と霞が関(左)など=2022年10月26日、東京都千代田区(共同通信社ヘリから) - 写真提供=共同通信社

■国家公務員の月給とボーナスの引き上げが決定

国家公務員の月給とボーナス(期末・勤勉手当)の引き上げが決まった。12月17日の参議院本会議で給与法改正案が、賛成多数で可決・成立した。2024年度の月給を平均2.76%(1万1183円)引き上げ、ボーナスを0.1カ月増やして年4.6カ月とする内容で、遡って支給される。今年夏に出された「民間並み」の待遇改善として示された人事院の勧告通りの実施となった。

「物価上昇を上回る賃上げ」を掲げる政府としては、物価が大幅に上昇する中で、政府が率先して公務員給与を引き上げることで、賃上げの呼水としたいという大義名分がある。とはいえ、日本国は巨額の財政赤字を抱える。「民間並み」というのなら、いつまでも赤字を垂れ流している会社がボーナスの月数を増やすというのは間尺に合わない。

中小企業で働く多くの国民にとって、3%近い賃上げはまだまだ実現していない。「隗より始めよ」とは言うものの、これは辛いこと苦しいことを率先してやるべきだという話で、真っ先に国のお役人が良い思いをする話ではないはずだ。

■「役人天国」の復活で公務員人気は元に戻るのか

そんな批判を浴びても、霞が関が待遇改善に取り組みたい理由がある。人事院が今年5月に発表した、2024年度の国家公務員試験で、一般職(大卒程度)の申込者が前年度比7.9%減の2万4240人となり、現行の試験が始まった2012年度以降で最少を更新していた。人事院は公務員の「働き方改革」に旗を振っているが、一向に効果が上がらない。人手不足に直面する民間企業の採用意欲が高まっていることもあり、霞が関は敬遠され続けている。

それに何とか歯止めをかけようとしているわけだが、果たして給与やボーナスを引き上げて「役人天国」を復活させれば、公務員人気は元に戻るのだろうか。さすがにこれだけ財政赤字が続き、国債費を除いた年間の収支であるプライマリー・バランスの黒字化もなかなか実現しない中で、将来にわたって安定的な職業かどうか、確証が得られなくなっている。今は、税収が増えているので、待遇改善する原資は捻り出せるが、金利の上昇などで財政破綻が現実のものになれば、真っ先に公務員の人件費圧縮が課題になる。公務員の場合、スト権がない一方で、解雇されない身分保証があり、リストラが行われるリスクは小さいが、逆にいえば一律に給与カット、ボーナスカットが行われる可能性も燻る。

■霞が関の人事制度に欠陥がある

将来、幹部になっていくキャリア官僚の志願者減をどうするかも人事院の頭を悩ませているが、これこそ、給与・ボーナスを多少上げることではまったく解決しない。キャリア官僚の志願者数も減少が続いてきたが、秋に法律などの専門試験を課さない企画立案力などを問う「教養区分」を導入、その志願者こそ増えている。だが、2024年度は春と秋の年2回の試験の合格者合計は2420人と30人減少した。

東大卒の優秀な学生が霞が関に行かなくなって久しいが、根本的に霞が関の人事制度に欠陥がある。優秀な学生ほど、もはや1つの会社に定年まで居ようとは思わず、キャリアアップして転職していくのが当たり前になっている。東大生がこぞって行きたがる外資系コンサルティング会社などは、若いうちから大きな権限を与えて、日本企業に比べて高い給与を支払うが、一生涯その会社にいようという人はごく一部だ。企業側も中途で辞めて、他社に転職していくことを前提にしている。

握手するビジネスパーソン
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■外資コンサルのような「仕事を任されている満足感」を得られない

一方で、霞が関の人事体系は、いまだに昭和の年功序列が中心で、入省3、4年ではまともな仕事を任せてもらえない。給与も安いがそれ以上に責任を持たせてくれる面白い仕事に就けないことをキャリア官僚の若手は嘆く。しかし、いまだに「徒弟制」の名残で、若手は深夜まで労働するため、長時間労働は当たり前だ。実は外資系コンサル会社に行っても長時間労働は当たり前なのだが、仕事を任されている満足感がまったく違う。課長になれば面白い仕事ができる、と言われても、課長になるのが50歳と言われると、人生設計に大きく戸惑うというのが今の優秀な若者だ。

ちなみに、こうした若者を霞が関に引きつけようとした時に、年間2.76%の賃上げ、というのはほとんど意味がないだろう。

巨額の財政赤字を抱える日本国とはいえ、このところの税収は好調だ。2023年度の一般会計に関する決算概要によると、税収は72兆円あまりで、4年連続で過去最高を更新した。法人税収が大きく増えたことから、税収は想定よりも2.5兆円も上振れし、11兆円あまりを2024年度に繰り越した。

企業ならば、いくら当期の利益が増えても、資産よりも借金の方が大きい「債務超過」であれば、まずは借金の返済を考える。そうしなければ存続できないからだ。ところが、国の役人は歳入と歳出しか見ていないので、歳入が増えると、たいがい大盤振る舞いに陥る。

■税収が増えているなら国民に還元すべき

もちろん、財務省は国の借金が1300兆円を超えたと大騒ぎするが、では歳入が増えた分を借金返済に回すかというとそういう議論にはならず、増税が必要だと言い続けている。

国民からすれば、国の借金を増やし続けているキャリアの幹部官僚にこそ、財政悪化の責任を負わせ、ボーナスカットでもしたいところだが、まったくその気はない。

税収がこれだけ増えているのも、物価が上昇しているからで、消費税は同じ物を買っても、価格が上がれば負担する税金額は増える。所得があまり増えない中で、物価上昇と税金増によって国民の可処分所得は大きく減り、生活は困窮の度合いを深めている。

買い物カートが階段を上っている、物価上昇のイメージ画像
写真=iStock.com/AlexSecret
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexSecret

本来ならば、これだけ税収が増えている分の一部を国民に還元すべきで、補助金をばら撒くよりも、消費税などの減税をする方が公平だし、消費を喚起する効果もある。国民民主党が「手取りを増やす」を公約に掲げて躍進した背景にも、可処分所得が減っている国民の切実な声があると見るべきだろう。ようやく103万円の年収の壁は引き上げられることになったが、その過程で、財源はどうするんだといった声が財務省を代弁する自民党議員から繰り返されていた。霞が関の幹部官僚は、国民に減税するよりも、自らの給与増が「当たり前」と思っているのだろうか。

■予算を効率的に使った課長のボーナスを増やせばいい

もちろん、重要な役割を担って働いている国家公務員の給与を引き上げていくことは必要だろう。だが、一方で、この財政赤字をどうしていくべきなのか。

簡単なのは、予算を効率的に使って残した課長にボーナスを積み増すことだろう。あるいは、不要な予算を削り、人を減らした課長をきちんと評価する仕組みにすることだ。今は仕事を新たに作って予算を上積みして取ってくる課長が優秀な課長とされ、不要な仕事をやめて、人を減らすような課長はまったく評価されない。つまり、国家予算をどんどん膨らませていくことが優秀な霞が関官僚の仕事の仕方になっている。当然、予算が膨らめば、権限も増える。

一方、国会の予算審議で、厳しく査定しなければならないはずの国会議員にも、予算を削るインセンティブはない。無駄を省くよう求めるよりも、地元に橋をかけたり、道路を作ることに一生懸命な議員の方が、選挙で強かったりする。つまり、官僚も政治家も、国赤字を減らそうと考える人はいないというのが現実だ。

これを大転換するには、給与やボーナスの仕組み、官僚の評価制度を根本から見直すべきだろう。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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