「松本人志のいないM-1」はいつまで続くのか…転落した「笑いのカリスマ」が審査員席に戻るための唯一の方法
プレジデントオンライン / 2024年12月21日 9時15分
■松本さんはSNSの使い方が下手だった
まもなく毎年恒例の漫才コンテスト「M-1グランプリ」決勝戦が行われるが、いつもの重鎮審査員の姿がない。ダウンタウンの松本人志さんだ。2023年12月に「文春砲」が放たれた松本さんは、地上波から姿を消してまもなく1年が経過しようとするいまも、復帰には至っていない。
活動再開が遅くなっている要因には、いまなお「真実がどこにあるか」が明確になっていないことが挙げられる。加えて、ネットメディア編集者の筆者からすると、「SNS時代における情報発信」に、松本さんや周囲が順応していなかったことも大きいと考えている。
■「ワイドナショー出まーす」投稿のミス
松本さんの性的スキャンダルが報じられたのは、2023年のM-1決勝戦から2日後の12月26日だった。翌日発売の『週刊文春』での記事を、「文春オンライン」で一部先行配信する形で伝えられた。
所属事務所の吉本興業は、27日に「当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するもの」と否定。松本さんも28日、Xで「いつ辞めても良いと思ってたんやけど… やる気が出てきたなぁ〜」と反応した。
そして年が明けた2024年1月5日、「週刊女性PRIME」が、松本さんとの飲み会に同席していたとされる「スピードワゴン」小沢一敬さんと、そこに参加した女性との「LINEやりとりと見られる画像」を報じた。
これが、女性が小沢さんに感謝する文面であったため、松本さんは自分に有利になると感じたのだろう。Xで「とうとう出たね。。。」とポストして、1月8日には「事実無根なので闘いまーす。それも含めワイドナショー出まーす」、9日には「ワイドナショー出演は休業前のファンの皆さん(いないかもしれんが)へのご挨拶のため。顔見せ程度ですよ」と、自ら弁明の場を持つことを示唆した。
■「年内復帰」は絶望的
しかし、もうすぐ1年が経過する12月中旬でもなお、記者会見も含めて、書面やSNS投稿以外で「松本さんの声」は発されていない。Xも一時は、「ポスト、リポスト普通にしょうと思ってます。当たり前の権利やし」(7月14日)と宣言して、親交のある芸能人らと交流を再開していたが、いつしかフェードアウトしていった。
そして11月8日に出されたのが、松本さんの代理人弁護士による「訴訟に関するお知らせ」だ。松本さん側は、名誉を傷つけられたとして、『週刊文春』発行元の文藝春秋などを相手取り、5億5000万円の賠償などを求める争いを起こしていたが、それを取り下げるとの告知だった。
文面では「強制性の有無を直接に示す物的証拠はないこと等を含めて確認」したと説明。「松本において、かつて女性らが参加する会合に出席しておりました」と認めつつ、「相手方との間において、金銭の授受は一切ありませんし、それ以外の方々との間においても同様」だとした。
当時の一部報道では、「年内に視野を入れた芸能界復帰も見越しての判断では」といった見立ても伝えられていたが、現在のところ、それは実現していない。松本さん自身は3月25日の段階で、「世間に真実が伝わり、一日も早く、お笑いがしたいです」と投稿していたが、見通しは不透明だ。
■「松本人志で笑っていいのか」と視聴者は引っ掛かる
それでは、なぜここまで長期化しているのか。それはひとえに「事実なのか、虚偽なのか」に決着が付いていないことにある。報道直後は「事実無根」としていたが、11月時点では「会合の出席」については認めている。これらの整合性もふくめて、勝つにせよ負けるにせよ、「客観的な事実関係」を明確にする必要があったのではないか。
最高裁まで行けば、かなりの時間を要するかもしれない。ただ、それを経ない限りは、もし今後テレビで松本さんを見ても、視聴者は「本当に笑っていいのだろうか」と、ためらってしまいかねない。法的に否定される、もしくは認定される。コンプライアンスが重視される昨今では、どちらかの結論が出ない限り、メディア側も安易には扱いづらいのだろう。
■「テレビを自由に動かせる」イメージを与えてしまった
ここに、長年ネットメディア編集者をしてきた筆者から、「SNS時代の情報発信」の観点を掛け合わせたい。スキャンダルをめぐる一連のXポストを見る限り、松本さんはSNSにあまり適していないように感じる。お笑いの第一線で活躍して、「瞬発力」を求められてきたからなのか、先走って投稿してしまう傾向が見受けられるのだ。
たとえば「ワイドナショー出まーす」の件では、当初フジテレビは次回放送への出演を認めていたが、最終的に吉本興業と協議のうえ、取りやめとなった。松本さんは「休業前の顔見せ程度」としていたが、それがかえって、視聴者に「芸能界は自分の思うままに動かせる」といった偉ぶったイメージを与えてしまった可能性は高い。もしXでの予告がなければ、松本さんの出演もあり得たのではないか。
「とうとう出たね。。。」についても、本来であれば自身の言葉で説明すべきことを、メディアに代弁させたような読後感を残す。公の場に現れることがないまま、一方的に主張しているような印象となったのが、より「問題が解決していない」と感じさせる要因だ。同じく渦中にある小沢さんが文春報道以来、まったくXを更新していないのと対照的である。
■白黒はっきりつけたうえでテレビ以外で実績を積む
では、ここから復帰するとすれば、どのような形が望ましいのか。年末年始特番での「サプライズ復帰」も不可能ではないが、世間からの風当たりを考えると、現段階で踏み切るテレビ局はほぼないだろう。
先にも言ったように、筆者としては「白黒はっきりつける」ことが、復帰の前提となると考える。ただ、そうではない道を探るとすれば、テレビ以外の場から、ジワジワと実績を積むしかないのではないか。
まず考えられる選択肢は、インターネット上の動画メディアだ。吉本興業の闇営業問題では、元「雨上がり決死隊」の宮迫博之さんがYouTuberに転身して、大きく話題を呼んだ。しかし5年たった今なお、テレビに本格復帰したとは言えない状況だ。そこには「早期復帰するためにテレビよりYouTubeを選んだ」といったネガティブイメージが、多少なりともあるだろう。
■あえて「松本人志」の名を隠して裏方に徹する
そうした懸念を避けるアイデアとして、ひとつ有用と思われるのが、「裏方」としてのYouTube活動だ。松本さんは漫才やコントといった芸人像にとどまらず、『遺書』『松本』などのベストセラーや、「チキンライス」の作詞など、文筆家の一面もある。短文を反射的に投稿できるSNSには向いていないが、チームとして企画づくりに携わる形であれば、その才能を生かせるのではないか。
本名ではなくペンネームを用いて、顔を出さずバレないように、スタッフとして活動する。大御所ではなく一兵卒として、実績を積んだ上で、しかるべきタイミングで「ネタばらし」をする。おそらく、その際にも批判は噴出するだろうが、「松本人志ではなく、その才能が評価されている」となれば、復帰後の受け入れられ方も変わってくるだろう。
とはいえベストは、記者会見のような公の場で、一方通行ではなく報道陣との双方向により、本人の口から「どこまでが事実で、どこまでが虚偽と考えているか」を早期に語ることだ。主張する「虚偽」の内容によっては、文春側がさらなる動きを示すことも考えられるが、それはそれで潔白を示すチャンスとなる。疑惑がくすぶっている現状、「沈黙は金」とは言えない。そこを解消することが、復帰への最短ルートだろう。
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ネットメディア研究家
1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
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(ネットメディア研究家 城戸 譲)
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