大谷翔平選手の凄さは「才能、体力、努力」だけではない…医師が感心した「自分ルール」の知られざる健康効果
プレジデントオンライン / 2025年1月12日 9時15分
※本稿は、小林弘幸『心と体が乱れたときは「おてんとうさま」を仰ぎなさい』(草思社)の一部を再編集したものです。
■大谷選手が学んだ「ゴミ拾いは運拾い」という教え
もはや大谷翔平選手を知らない人は誰もいません。みなさんは、大谷選手がメジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスにいた頃に「グラウンドに落ちたゴミを拾う行動」が話題になったのを覚えていらっしゃるでしょうか。
誰もが見逃してしまいそうな小さなゴミを目ざとく見つけては、スッと腰をかがめて拾い、当たり前のように自分のポケットに入れる――。さりげなさがとてもカッコよかったですよね。こうした彼の行動はメディアで繰り返し報道され、アメリカの人々からも感嘆符つきで称賛されていました。
それにしても、大谷選手はいったいどうしてゴミ拾いという行動をするのでしょうか。マスコミから投げかけられたこの質問に対し、大谷選手は「僕は人が捨てた運を拾っているだけです」と答えています。
どうやら、グラウンドのゴミ拾いのルーツは、大谷選手の母校・花巻東高校時代にあるようです。同校では、「ゴミ拾いは運拾い」という教えが伝統のようになっていて、野球部でもグラウンドの小石やゴミを拾ったりダッグアウトをきれいに掃除したりするのがごく当たり前の習慣になっていたといいます。
■「日々のちょっとしたこと」をおろそかにしない
また、花巻東高校では生徒の夢を実現させる「目標達成シート」を書かせる独自の指導をしています。テレビの報道やネットの記事でご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、この「目標達成シート」はマンダラチャートとも呼ばれるもので、枡目シートの中央に一番大きな目標を書き込んで、その周りの枡目に大目標を達成するために必要な小目標や行動目標を書き入れていくシステム。
ちなみに高校1年時の大谷翔平選手は、枡目シートの中央に「ドラフト1位8球団指名」と大目標を書き込んでいます。そして、その大目標を実現させるために必要なこととして、野球のスキルアップ項目とともに「運」という項目を加え、「運」をよくするために行うべき行動目標として「ゴミ拾い」「部屋の掃除」「あいさつ」「道具を大切に扱う」といった言葉を書き並べています。
おそらく、大谷選手は、この頃からこうした「日々のちょっとしたこと」をおろそかにしない習慣がついていたのでしょう。だから、グラウンドに落ちた小さなゴミを拾うのは、彼にとって当然のこと。ゴミを拾ったり掃除や片づけをしたりすることで自分の運がよくなるのであれば、ルーティンとしてやらない手はない。もちろんその運によって、その日によいパフォーマンスを発揮できるのなら言うことはありません。ですから、たぶん「ゴミを見つけ出して拾うことができたら、その日はラッキー」というくらいの気持ちがあるのかもしれません。
■自律神経が整っていなければ「よいパフォーマンス」は発揮できない
こういった大谷選手のルーティン行動は、自身の自律神経を整えることにつながっていると、私は考えています。
アスリートの場合、自律神経が乱れているか整っているかの違いがパフォーマンスの出来に直結することが少なくありません。とりわけ一流の選手の場合、ほんのわずかな自律神経の乱れが迷いや緊張を呼んでパフォーマンスを狂わせることにつながるものです。だから、一流のアスリートは、自身のパフォーマンスを常に最高の状態に保つため、日々自律神経をしっかり整えてコンディションキープに力を入れるのです。
大谷選手も睡眠にものすごく気を遣ったり、飲んだり遊んだりもしなかったりと、コンディションづくりのためにストイックな生活を送っていることが知られています。おそらく日々の生活でもコンディションを整えるためにさまざまなルーティンを自分に課しているのでしょう。「グラウンドでゴミを見つけたら必ず拾う」というのも、そうしたルーティン行動のひとつなのかもしれません。
■一流は「ルーティン・ルール」を持っている
私は、大谷選手が驚異的な成績を残して世界的スーパースターになり得たのは、才能、体力、技術、練習や努力だけではなく、1日1日自律神経を整えて心身のコンディションを徹底的にコントロールしてきた点がかなり大きく寄与しているものと見ています。そして、その日々の自律神経のコントロールには、グラウンドのゴミ拾いなどの「小さなルーティン行動」も少なからず役立っているのではないでしょうか。
もっとも、こういったルーティンを自分に課しているのは、別に大谷選手だけではありません。アスリートに限らず、ビジネスで成功している人や仕事などで際立った結果を出している人は、自分の中で「これをやっておけば、自分は大丈夫だ」というルーティン・ルールを持っているものです。そして、そういう人たちは、どうでもいいような小さなことを決しておろそかにしません。一事が万事であり、落ちているゴミを拾うような日々の生活の些細な部分に力を注いでこそ自分がよりよいほうへ行けるということを知っているのです。
ですから、みなさんも毎日の生活の中で「これをやっておけば自分はうまくいく」という小さなルーティンを自分に課してみてはいかがでしょう。日々のちょっとした「よい行い」は、人をよりよく整え、人をよりよいほうへ導いていくものなのです。
■「誰も見ていないところで行うこと」が一番重要
先にも少し触れましたが、「陰徳」とは「人知れず行う功徳」のこと。「陰徳を積む」とは「他人に知られることなく、よい行いを重ねて行う」ことを意味しています。
最近はあまり見かけなくなりましたが、昔は誰も見ていないところで“陰ながら徳を積んでいる人”がけっこういたものです。公園や道端に転がった空のペットボトルや空き缶がいつの間にかちゃんとゴミ箱に捨てられていたり、朝、職場に出勤したらみんなの机がきれいに拭かれていたり、会社のみんなが使う場所にふと気がついたら季節の花が飾られていたり……。それらは、誰かが「人知れずひっそりと徳を積んだ」という証しです。
もちろん、こういった「よい行い」をするのは「誰かに見られちゃいけない」というわけではありません。また、「誰にも見られないように隠れてこっそりやる」ことを勧めているわけでもありません。
ただ、他人や周りの目を意識すると、どうしても「評価されること」を期待してしまいます。「後でほめられるかな」とか「自分の印象や好感度が上がるかな」とかと考えてしまうと、いろいろと雑念が入ってくることでしょう。また、「周りの人たちから『ごますり』だとか『点数稼ぎ』だとかとヘンな受け取られ方をしないかな」といった余計な心配をする人も出てくるかもしれません。そんな心配までしなくちゃならないとなると、なんだか「よいこと」をするのが面倒になってくる人もいるのではないでしょうか。
■「他人軸」ではなく「自分軸」で行動する
一方、誰も見ていないとき、他人や周りの目がないときに「よいこと」を行うのであれば、そういった雑念や心配といったわずらわしい迷いが介入してくる余地がありません。
そういうとき、「よいことをした」「人がよろこぶことをした」と分かっているのは「自分だけ」です。おてんとうさまはその行為を見てくれているでしょうが、他の人は一切関係なく、自分だけが知っている「自己完結した行為」です。
私は、このように「誰にも知られず、自分だけが知っている」というかたちで善行を積んでいくのが、もっとも自律神経を整え、もっとも心身を整える効果を引き出すことができると考えています。もしかしたら、自律神経をハイレベルで整える最高の方法なのかもしれません。
高い効果が得られる理由は、「他人軸」ではなく、「自分軸」で行動をしているからです。後で改めて述べますが、私は「自律神経は自分を律することで整えられる神経」だと考えています。「自分という人間をよりよく律していこう」という意思を持って陰徳を積むような行動をすると、その瞬間、自律神経のレベルが上がり、呼吸が整い、血流がよくなって、心にも体にも余裕が生まれるのです。
ですから、みなさんも陰徳を積むことを心がけてみてはどうでしょう。別に他人に見られたら効果が薄れてしまうわけではありませんが、「なるべく人知れず行う」よう心がけてみてください。
多くの人が気づいていないことですが、自分という人間をよりよい状態にするには、誰も見ていないところで行う行為こそが一番重要なのです。
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順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
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(順天堂大学医学部教授 小林 弘幸)
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