「盗撮ユニクロ店長」は特殊な人間ではない…裁判所で明らかになった「盗撮犯たち」の飽くなき執念
プレジデントオンライン / 2025年1月6日 17時15分
■ユニクロ店長、財務省エリートが盗撮犯に
会社員が、高校教員が、警察官が、自衛官が、盗撮で逮捕されたと日々報道される。
2024年10月には、都内の「ユニクロ」の店舗で女性客を盗撮したとして、男性店長が警視庁に逮捕された。店内の試着室の下からスマホを差し入れ、女子中学生ら計9人の女性客の体や下着を盗撮するなどした疑いが持たれている。
また、12月には東京都立大学の特任准教授でもある財務省の男性職員が、東京・八王子市の京王線南大沢駅のエスカレーターで20代の女性のスカート内をスマホで盗撮した疑いで逮捕された。
総務省によれば、スマートフォン(以下、スマホ)が日本で初めて発売されたのは2008年。その後、爆発的に普及した。スマホには高画質で手軽に撮影できるカメラが内蔵されている。スマホの普及とともに盗撮も激増したようだ。
■スマホの普及とともに検挙件数は右肩上がり
警視庁の統計から「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」の第5条違反「卑わい行為」(痴漢が多い)と、そのうち「盗撮行為」の検挙件数を、2008年から5年毎に拾ってみよう。
各都道府県に同じような条例がある。以下、迷惑条例という。2023年7月13日には、迷惑条例とはまた別に「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」という長い名称の新法が施行された。それぞれカバーする範囲や法定刑が異なるが、そこは省略して話を進める。
盗撮は、スマホだけで行われるわけではない。盗撮に適した秘匿カメラがネットでも販売され、小型化、高機能化が進んでいる。盗撮事件は刑事裁判の法廷へ続々と出てくる。
今回は、刑事裁判で明かされた盗撮のさまざまな手口をご紹介しよう。良く言えば“男の探究心”、有り体に言えば性犯罪者の執念に、多くの女性は驚愕するのではないか。
■スカートの中に「黒い物」が向けられていた
1、背後からスカート内を盗撮
スカート内の盗撮は基本中の基本といえる。たとえばこんなケース――。
被告人は30代後半。大学を卒業後、職を転々。婚姻歴なく単身。受け答えは頭が良さそうだ。ただ、気力というものが感じられない。盗撮の前科が2犯あった。5年前に罰金30万円。2年前に懲役6月、執行猶予3年。その猶予中に、駅の上りエスカレーターで、被害女性(34歳)の後方からスカート内へデジタルカメラを差し入れ、逮捕された。
若い女性検察官が、書証(被告人を有罪とするため用意してきた証拠書類)を読み上げた。甲4号証は被害女性の調書だ。メモしきれなかった部分を「……」でつなぐ。
「エスカレーター……右足のふくらはぎに固い物が……知らない男がスカートの中へ黒い物を向けていた……犯人を追いかけ……撮りましたよね……撮ってないです、やってません……駅員に犯人を引き渡した……SDカード……写真……私のスカートの裏地……とても恥ずかしい思いをした……許せません」
■「ネットの盗撮の動画とか見て興味を持った」
スカートの裏地で逮捕。冤罪? いや、東京都の迷惑防止条例は、何を撮影してもしなくても「(通常は衣服に隠されている下着等を)撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」も処罰の対象としているのだ。
弁護人 「(何度も捕まり)それでもやってしまったのは、なぜですか」
被告人 「正直……よく、自分でも分かりません」
弁護人 「刑務所へ行きたいのですか?」
被告人 「(感情を込めず淡々と)積極的に行きたいわけじゃないですが、べつに、行ってもいいかなぁとは思ってました……社会で生活しているのが、あまり楽しくない、それなら、刑務所もあまり変わらないかなぁ……」
検察官 「盗撮を始めたきっかけは」
被告人 「たぶん、ネットの盗撮の動画とか見て、興味を持ったと思います」
検察官 「相手の人(盗撮される女性)がどう思うか、考えなかったんですか」
被告人 「(暗く淡々と)視野が狭くなってるときは、そこまで考えられない……」
求刑は懲役1年。2週間後、判決が言い渡された。
裁判官 「主文。被告人を懲役8月に処する。未決勾留日数中40日をその刑に算入する」
前刑(懲役6月)の執行猶予は取り消され、併せて服役することになる。盗撮は手軽にできることもあってか、繰り返す者が多い。同種前科9犯、刑務所を出て2週間でまたやった中年男性もいた。
■好きな女性の家の鍵を盗んだ40代男性は…
2、女性宅に侵入して盗撮カメラを仕掛け
こちらの被告人は40代。黒のスーツ姿だが、髪はぼさぼさ。婚姻歴なし。同種前科2犯。1犯は懲役刑の実刑だった。刑務所を出て、コンビニ店員としてまじめに働いた。そこは非常に偉いと私は思う。しかし……。
そのコンビニで、同僚女性(以下A子)を好きになった。休憩室でA子が着替えるのをたまたま見て、性的に興奮。下着を盗もうと決めた。自分が非番の日に、スマホを忘れたとコンビニの休憩室へ。A子のバッグから鍵を盗み、A子のマンションへ。
風呂場の換気扇裏に盗撮カメラを仕掛け、「パンダ柄(がら)のパンツ」を1枚盗んだ。甲4号証、A子の調書によれば、発覚の端緒はこうだった。
「起きてテレビを見ていたら、ブーブーと風呂場から音が……B男(交際男性)が風呂場へ行ってカメラを外し、その後、パンツが1枚なくなっていると……」
■女性のものと思っていた下着は彼氏のもの
その盗撮カメラは、電池が切れかけると親切にも警報音を発するのだった。被告人は、盗んだパンツの臭いをかぎながら自慰行為をしたという。ところがパンツはB男のものと、逮捕されてから知った。どう思ったか裁判官が尋ねた。被告人はきっぱり即答した。
被告人「天罰だと思いました!」
求刑は懲役2年。判決は懲役1年6月。また行くのだ、刑務所へ。
バッグから鍵を盗み、あるいは持ち出して合鍵をつくって戻し、同僚や部下の女性の住居へ侵入する事件はときどきある。鍵を素早くスマホで撮影、写った鍵番号から合鍵をつくり、という事件もあった。被害者は同僚や部下のため、その勤務中の時間帯に楽々侵入できるのだ。
侵入して、盗撮カメラを仕掛ける男もいれば、下着を盗む男もいる。その場で自慰行為をし、下着に射精してタンスへ戻す男も。そんな男たちが世の中にはいることを、女性たちは知っているのだろうか。
■ベランダから盗撮していたのは最高裁事務官
3、マンションの上階から
被告人は30代。長袖ワイシャツ、ノーネクタイ、黒ズボン。目鼻立ちはくっきりして、可愛い感じがある。被告人席に膝をそろえて座った。検察官が起訴状を読み上げた。
検察官「被告人は……午前0時48分頃から午前0時51分頃までの間……マンションに居住する被害者、当時20歳……下着など……撮影するため……ベランダから小型カメラを吊り下げて差し向け……」
被告人は被害者の上階の住人だった。甲3号証は被害女性の調書だ。
「以前から、上から小型カメラが垂れ下がって撮影している感じが……(本件当日)カーテンを閉めにいったらカメラがぶら下がっていたので、スマートフォンで撮影して通報した……犯人が私の部屋の様子を……本当に恥ずかしい……今後また……不安……」
大胆な工夫を思いつき、かつ実行したこの被告人は、なんと最高裁の事務官だった。いったいなぜこんなことをしたのか。
被告人 「最高裁……事務量が多くて、少し参っていて……人間関係……恋愛とか思うように進まなくて……」
裁判官 「じゃ、悩みの解消の一環として?」
被告人 「その事実は否定できません」
裁判官 「最高裁の事務官として……犯罪をやれば、どうなるか……」
被告人 「刑事事件は経験ございません」
裁判官 「しかし実務研修では」
被告人 「はい……知識としては分かっていながら……」
裁判官 「裁判所の職員がやれば……(大変なことになる)……それは歯止めにならなかったんですか」
被告人 「頭では分かっていても、自分は大丈夫だろう、バレないだろう……」
判決は懲役1年6月、執行猶予4年だった。大丈夫だろう、バレないだろう、それは飲酒運転なども含め多くの犯罪者に共通する。
■チームで野外盗撮を狙った男性4人組
4、野外イベントを狙う男たち
法廷中央、証言台のところに被告人が4人、横に並んで立った。全員が黒スーツにネクタイ姿。いわゆるアラフォーで、婚姻歴なし。数年来の知り合い同士だという。いったい何をやったのか。起訴状と検察官の冒頭陳述をまとめるとこうだ。
被告人ら4人は、野外で放尿する女性を見たり撮影したりする性癖を有していた。花見の公園、花火会場などへ出かけ、トイレの列に並んだものの、たまらず野外で放尿する女性を見つけ、盗撮していた。
1人が女性を見つけて追うと、その動きを他の3人が察知して続く、そんなことをくり返していた。本件当日、ついに逮捕された。
■「みんなでいたんで大丈夫だろうと」
公園名が出た。私は帰宅後、ネット検索してみた。バーベキューができる大きな公園で、来園者が1000人を超えることもあるという。犯行日はゴールデンウイークの最中だった。そして、なんとその公園にトイレは1カ所しかなく、よく長蛇の列ができるという。女性の野外放尿の盗撮を性癖とする者らにとって、絶好の公園だったわけだ。
検察官 「見つかったら通報されると、考えなかった理由は?」
被告人 「夢中になってたことと……みんなでいたんで大丈夫だろうと……自分が逮捕されるってこと、想像がついてなかった……」
判決は、3人が懲役1年6月、執行猶予3年。仲間に加わってやや日の浅い1人が懲役1年、執行猶予3年だった。「大丈夫だろう」に加え、被害者の気持ちや苦痛を想像できないことも、多くの犯罪者の特徴といえる。
■高校の女子トイレのあちこちにカメラが
5、清掃員が学校の女子トイレで
被告人は50代。顔を隠すような前髪の奧から、ぎょろりと目を動かして傍聴席を見渡した。犯行時は清掃会社に勤務。ある高校へ派遣され、全フロアのトイレ清掃を任されていた。
その清掃作業中、3階の女子トイレで、個室の汚物入れに小型カメラを隠匿設置した。午後0時28分頃、被害者A(17歳)がその個室で用便しようとしてカメラのレンズに気づき、向きを変えた。その後に被告人が戻り、向きを戻した。午後3時30分頃、被害者Aは友人とともにカメラを見に行き、見つけて学校に申告した。
どうも不可解なものを感じるが、検察官も裁判官もスルーした。被害者側に落ち度的なものがあるとき、できるだけ触れないのが普通といえる。
教員らが調べると、合計9台の小型カメラがあちこちのトイレに隠匿設置されていた。学校内は大騒ぎになり、被告人が所在不明となった。学校の防犯(監視)カメラに、学校から出て行く被告人の姿が録画されていた。この事件は追起訴があった。盗撮の被害者は「A」から「J」まで、つまり10人に上った。
被告人には前科があった。6年前、電車内の痴漢で逮捕され、自宅のパソコンやスマホからトイレの盗撮画像が発見された。清掃員として出入りしていた小学校で女子トイレに小型カメラを隠匿設置し女児を盗撮していたのだ。その件で懲役1年8月の実刑判決を受けた。今回の求刑は懲役3年。判決を私は傍聴できなかった。懲役2年を超えただろう。
■飲食店にある「男女共用トイレ」の危険性
6、お洒落なカフェの男女共用トイレ
犯行場所は、東京都内のあちこちにある、お洒落なカフェだった。被告人(40代、IT系の社員、妻と10代の子2人と同居)は出勤前にそのカフェに寄り、1階の「男女共用便所」(以下、トイレ)に1台、2階のトイレに2台、小型カメラを仕掛けた。
退勤後、カフェへ寄り、カメラを回収。マイクロSDカードから盗撮画像をパソコンに移し、若い女性の動画だけを選別。顔や性器周辺部にモザイクをかけるとか一切なしに、何本かまとめてアダルト動画の販売サイト(サーバーはロシア連邦のモスクワ市)にアップロード。それをくり返した。
約1年間に、シリーズものとして少なくとも約40本の動画をアップロード。約1万5000件の購入があり、売り上げは約17万4000アメリカドル。被告人自身の利益は少なくとも約868万円に上った!
■子供たちは「パパはなんで逮捕されたの?」
なぜ発覚したのか。動画を買った者は、自分で視聴する者だけとは限らない。パクってどこかに転載し、稼ごうとする者もいる。どうもそういうところにアップされた動画を見た「第三者」が、被害女性の1人に知らせた。
女性は「言葉にならないほどの怒りと恥ずかしさ」を感じて警察へ届けた。警察は女性の話と動画解析からカフェを突き止めて張り込み……。
ある朝、逮捕令状を持った警察官が数人、被告人宅へやってきた。逮捕だけで終わらず、家宅捜索が始まった。そのときのことを被告人はこう述べた。
被告人「家宅捜索のとき、子供たちと鉢合わせて、パパはなんで逮捕されたの? ……報道で事実を知ってから、もう会いたくないと……」
保釈後、妻子とは別居した。求刑は懲役3年。判決の日、私はどうしても裁判所へ行けず、親しい傍聴マニア氏に傍聴してもらった。懲役3月、執行猶予4年だったそうだ。
■盗撮犯を恐喝する「盗撮ハンター」も存在する
7、盗撮犯を狙う恐喝犯「盗撮ハンター」
今やスマホは、手にくっついた高性能盗撮アイテムということができる。ミントのタブレットケース型とか自動車のキー型とか、巧妙な偽装カメラも普通に販売されている。盗撮カメラの極小化も進んでいる。
そして、ネットで簡単に盗撮画像が見られ、盗撮魔たちの匿名掲示板もあるという。刺激されてつい、あるいはスリルを求めて「自分も……」となる男たちが後を絶たない。
ゆえに、「盗撮ハンター」なる連中も存在する。盗撮犯を見つけ「あの女は俺の彼女だ。警察へ行くか、この場で示談か、どっちか選べ」などと言い、少なくとも数十万円の現金を脅し取るのである。盗撮犯が大手企業の社員で気が弱そうなら、さらにふっかける。そういう裁判も私は何件か傍聴した。
ある被告人(盗撮ハンター)は、盗撮犯を見つけるのは簡単だと述べた。ハンター自身、盗撮魔であり複数の前科があった。盗撮犯の心理が手に取るように分かるのだという。
女性諸氏よ、コンビニやカフェ、ハンバーガー店などの飲食店の男女共用トイレへ入ったら、まずは盗撮カメラを探してはいかがだろうか。女子トイレも安心とはいえない。
盗撮動画を商売にする者は、盗撮カメラを仕込んだ“お風呂セット”を女性に持たせ、女湯へ送り込むことがある。女性を使って女子トイレに盗撮カメラを仕掛けた事件を、私はまだ傍聴したことがないが、あり得ることだろうと思う。今はそういう時代なのだ。注意されたい。
----------
交通ジャーナリスト
1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。傍聴した裁判は1万1000事件を超えた(2024年6月現在)。
----------
(交通ジャーナリスト 今井 亮一)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「あの日のことは、心をくいで打たれるような拷問でしかない」 部活のノリが「性加害」に、法廷で裁かれた先輩4人
47NEWS / 2024年12月28日 9時0分
-
新法適用で摘発増加も…「氷山の一角」の盗撮被害 スマホ、小型カメラ普及で巧妙化
産経ニュース / 2024年12月27日 8時0分
-
「靖国落書きに不可欠な役割」中国籍の男に懲役8月の実刑判決 東京地裁
産経ニュース / 2024年12月25日 16時34分
-
俳優・高木俊、盗撮犯を現行犯逮捕明かす「警察の役をけっこうやってて…」
ORICON NEWS / 2024年12月17日 12時54分
-
盗撮容疑で財務省職員を逮捕 東京都立大の特任准教授
共同通信 / 2024年12月16日 12時32分
ランキング
-
1マジで危険…。 信号待ちで「バイクのすり抜け」違反じゃない? 「マジで危ない」「クルマの後ろで待て」との声も 何がダメな行為なのか
くるまのニュース / 2025年1月7日 16時40分
-
2「完璧」「みんなが食べたい味」プロも完食の美味しさ...。餃子の王将で頼むべき、最強中華6選とは。
東京バーゲンマニア / 2025年1月7日 17時5分
-
3「想像の100倍寒かった」関東から「盛岡」に移住した30代男性の後悔。「娯楽がパチンコか飲み屋しかないのも辛い」
日刊SPA! / 2025年1月7日 8時51分
-
4「いつまで待たせるんだ!」若い女性店員に文句を言う迷惑客は“まさかの人物”だった…こっそり店長に“会社と名前”を教えた結果
日刊SPA! / 2025年1月7日 15時51分
-
5"優しい気遣いさん"すぐキレる人に対処するコツ 相手に「キレることによるメリット」を与えない
東洋経済オンライン / 2025年1月7日 14時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください