なぜ「20代男性Xユーザーの未婚率」は異常に高いのか…「収入もなければ恋愛経験もない」あまりにつらい特徴
プレジデントオンライン / 2024年12月25日 18時15分
■もはやテレビ以上の影響力をもっている
われわれが毎日のように見るSNS。その影響力は無視できないものになっています。
選挙などにおいても、SNSを上手に活用したかどうかが当落に大きく関係するという傾向も見られ、報道の世界においても、たとえば災害や火災、事件の動画などが先に現場からSNS上でアップされ、それをテレビメディアが後追いで二次利用する場面も多く見られます。マーケティングの世界においても、これらSNSでの拡散は、広告効果に匹敵、あるいは、物によっては凌駕する力も発揮します。
同時に、負の側面もあります。事実であるかどうかは関係なく、フェイクニュースが瞬く間に拡散されたり、ニュースで連日のように取り上げられたりする闇バイト事件なども、元はといえばSNS上での接点から始まっているものもあります。
いずれにせよ、情報社会の現代において、情報のインプットとアウトプット両面において、もはやSNSはなくてはならない存在になっていることは確かです。
■独身が一番多く利用しているSNSは?
2024年7月にこども家庭庁が実施した「若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」では、15~39歳までの未既婚男女の「情報源」について聞いているものがあります。全体としては、テレビが63.7%ともっとも高いのですが、YouTubeが57.4%、SNSでもX(旧ツイッター)が、56.5%、インスタグラムが55.3%とテレビ並みの高さとなっており、一方で、新聞、ラジオ、雑誌などのオールドメディアと言われるものが10%前後にまで落ち込んでいます。
今回、注目したいのは、利用するSNSによって未婚率に差があることです。
前述した調査を基に、25~34歳の結婚適齢期年齢における各SNSの情報源としての未既婚別利用率を、2022年就業構造基本調査の当該年齢有業者の未既婚別人口と掛け合わせて、独自に利用SNS別の未婚率を計算してみました。
それによると、未婚率はそれぞれ男性でX:66.8%、インスタグラム:56.1%、フェイスブック:52.8%。女性では、X:62.1%、インスタグラム:53.5%、フェイスブック:42.%でした。つまり、男女とも未婚率が高いのはX利用者ということになります。全体平均未婚率との差分では、男性が+5ポイント、女性も+6ポイントもX利用者が高くなります。
未婚率が高いということは、恋愛率も同期しているのでしょうか。こども家庭庁の調査公開データだけではクロス集計ができないので、別途、以前私のラボにて実施した調査結果をご紹介します。
■「一度も恋愛したことがない」割合が高い
20~50代の未婚男女を対象に、各SNS(X、インスタグラム、フェイスブック)を「頻繁に利用する」層だけを抽出して、その「恋愛相手がいる」割合と「今まで一度も恋愛したことがない」割合というものを出しました。結果が図表1のグラフです。
男女ともに、「恋愛相手がいる」割合は20~30代においてはX利用者がもっとも低くなります。また、「一度も恋愛したことがない」割合に関しても、X利用者がもっとも高く、20代男性と30代女性では他と比べて突出して高くなっています。何より、20代男性においては、Xとインスタグラムの「恋愛相手がいる」割合の差分が▲16%もあり、特に男性において利用するSNSの違いが恋愛率や未婚率の差として顕著に表れているようです。
■Xとインスタ、ユーザーの特徴を調べてみたら
ただし、早合点してはいけないのは、Xを利用すると恋愛や結婚ができなくなる、という話ではありません。ましてや、Xをやめて、インスタグラムを利用すれば結婚できるようになるなどという因果もありません。そもそも、各SNSにいて、どれかひとつしか利用していないわけではなく、複数併用もあるはずです。
とはいえ、X利用とそれ以外とでこれだけ未婚率と恋愛率に差があることも事実ですので、Xとインスタグラムでその利用者の特性を比較してみたいと思います。
そもそも、Xの場合は文字情報がメインで、話題は個人の趣味もありますが、社会や政治の問題について書かれることも多く、一方、インスタは写真メインで、社会や政治というよりパーソナルな情報の発信という利用特性の違いがあります。前者は後者に比べ、内向的な人が好むツールであるとも言われますが、実際はどうでしょう。
20~30代の未婚男女で、Xとインスタ利用者との差分を個々の項目についてグラフ化したものが図表2です。
■自己肯定感が低く、経済的不満があるX男性
X利用未婚男性で、インスタを上回っている項目は少ない。特に恋愛関係や対人関係において低く、Xには「一人でいることが好き」という人が多いようです。そのあたりは「他者の目は気にしない」ところにも表れていますが、にもかかわらず「人から嫌われたくない」という矛盾性も内包しています。
また、インスタユーザーと比べて「自己肯定感」が低く、「容姿」や「知性」などへの自信がない。何より、仕事の充実度や出世意欲が低く、それと関連して経済的満足度も低いという面が未婚に影響しているかもしれません。
対して、未婚女性は、男性よりも恋愛意欲や仕事意欲が旺盛で、自己肯定感も高く、むしろインスタユーザーを上回る項目のほうが多いという男性とは真逆の傾向です。
X利用男女では、「感情より理屈」「数字やデータを使う」という部分が共通ですが、これはいかにもXユーザーに「あるある」な特徴かもしれません。
■似た者同士で「奢り奢られ論争」が起きるのはなぜ?
また、同じ男女共通なものとして恋愛・結婚周りの項目では「デートは男が払う」に否定的で、「結婚は金より愛」ではなく、「信じられるもの・お金」といった部分ですが、だとすればなぜX上で「奢り奢られ論争」がたびたび出てくるのか不思議です。どっちも割り勘派が多数で結婚にはお金が大事という価値観が一緒なのであれば、本来気が合いそうなものですが、これの答えは男女の「経済的満足度」の違いにあるのでしょう。
X利用の男女の「経済的満足度」は完全に男<女となっており、ここにこそX利用の男女の未婚率が高い理由があります。実際、未婚率が高いのは低年収男性と高年収女性という傾向が事実としてあります。
そもそも「経済的満足度」が高い女性というのは、ベースの経済基準が高く、だからこそ、結婚相手に求める経済的条件もより厳しくなりがちです。自分より稼いでいない男性と結婚する意味を感じないからです。とはいえ、現実にそれを満たす条件の未婚男性は絶対数が少なく、仮にいたとしてもすでに先約がいる状態です。結局、婚活をしたとしても「(ロクな)相手がいない」とX上で愚痴ることになるのでしょう。
■インスタをやってもあげる写真がない…
男性の側からすれば、「経済的満足度」が低い環境下で、交流や恋愛に回すお金もなく、行動をすることもないから、インスタをやったとしてもあげる写真がないという状況があります。
このように、同じX利用者の未婚率が高いといっても、男女では特性の違う者同士が混在していると言えます。
今回は、Xとインスタ利用者の比較だけをしていますが、ざっくり結論づけると、「単独内的思考派のX」と「集団外的行動派のインスタ」の違いであることがわかります。X利用者が恋愛や結婚ができないというよりも、男女ともに「誰かと一緒より一人が好き」という割合が高く、そもそも恋愛や社交にあまり興味を感じないタイプが多いのでしょう。加えて、学生時代に「チームスポーツの部活をしていない」男女ほどX利用者が多く、中高生時代の対人環境がその土台を築いているのかもしれません。
もうひとつ、全体的に、恋愛充実度は仕事の充実度と強く相関しており、これは現代の恋愛や結婚が競争原理にとりこまれているという面も浮き彫りとなりました。本来「勝ち負け」ではなかったはずの恋愛や結婚が、競争の末に勝者だけが得られるものとなっているのです。
■強者男性にとってインスタは「プレゼン」なのか
特に、男性は結婚相手として選ばれるためには当然のように経済力が求められます。婚姻減とはいえ、経済力上位3割の婚姻数は減っていません。激減しているのは残り7割の内の主に中間層だけ。つまり、稼ぐ能力競争に勝った上位層だけが結婚できているのです。加えて、最近の男性は容姿力も家事育児能力も求められます。そう考えると、インスタ上で自分の映えた日常生活や盛れた写真をアップすることは、ある意味「競争に勝つためのプレゼン」なのかもしれません。
しかし、そんな事を続けていてSNS疲れに陥る人がいるように、そんなあれこれ能力を求められ、競争に勝て、アピールをしろと言われてしまうと、撤退したくもなるでしょう。
恋愛や結婚が、受験や就活同様の勝ち抜き合戦の様相を呈しており、そんな過酷な競争世界から一歩引いた独身男性は、自分だけの趣味や自分アピールではない社会や有名人の話題ができるXという避難所に集まると考えることもできます。
もちろん今回の分析だけですべてを結論づける気もないですが、利用しているSNSによって違いがあることは面白い結果です。いずれにせよ、SNSは現代の生活に不可欠なツールとなっており、自己の環境を広くも狭くもしてしまうものであるので、それだけに唯一依存することなく、上手な付き合い方をしていくべきでしょう。
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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