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イーロン・マスクは"史上最悪の相棒"である…トランプ次期大統領の「偉大なアメリカ」がたどる残酷な未来

プレジデントオンライン / 2024年12月25日 7時15分

2024年11月16日、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催されたUFC309で試合を観戦するドナルド・トランプ次期米大統領(左)とテスラ&スペースXのイーロン・マスクCEO - 写真=AFP/時事通信フォト

ロサンゼルス在住若手ジャーナリストで陰謀論の専門家でもあるマイク・ロスチャイルド氏のインタビュー第2弾――。同氏は、『陰謀論はなぜ生まれるのか Qアノンとソーシャルメディア』(烏谷昌幸・昇亜美子/訳、慶應義塾大学出版会)の著者でもある。米大統領選直前に配信した前編に続き、後編では、人が陰謀論という罠にはまる背景や、トランプ氏の支持者が多い地方のコミュニティーで陰謀論が広まりやすい理由、イーロン・マスク氏のツイッター買収と陰謀論の関係といった問題に加え、大統領選後の追加取材を盛り込み、リポートする。

(前編から続く)

■マスク氏の資金力とXを利用して、トランプ氏は勝利した

――どのような陰謀論がトランプ氏の追い風になったと思いますか。陰謀論は、ハリス氏よりトランプ氏に有利に働いたといわれます。

特定の陰謀論がトランプ氏を勝利に導いたかどうかはわからない。とはいえ、彼が「不法移民やインフレ、進歩主義的な政治を解決できるのは自分だけだ」と訴えるべく、アメリカ人の被害妄想と恐怖心を利用したのは確かだ。トランプ氏は実に多くの陰謀論を広めてきた。どの陰謀論が彼の勝利を後押ししたのか特定するのは難しい。

マイク・ロスチャイルド氏
筆者提供
インタビューに応じるマイク・ロスチャイルド氏 - 筆者提供

――イーロン・マスク氏は、世界有数のSNSである「X」の経営者として、大統領選にどのような影響を及ぼしたと思いますか。同氏は、第2次トランプ政権のキーパーソンとみられています。

マスク氏が資金力とXの影響力を駆使し、トランプ勝利に影響を与えたことには疑いの余地がない。とはいえ、具体的にどれだけ多くの人々(の投票行動)に影響を及ぼしたのか、また実のところ、新政権でどのような役割を果たすのかを現時点で正確につかむのは難しい。トランプ氏とマスク氏のエゴの大きさを考えると、「共同大統領」というマスク氏の役割をめぐり、2人が衝突したとしても不思議ではない。

■Twitter→Xで、陰謀論がよりはびこるようになった

――米ツイッターは2022年10月、親トランプ氏のイーロン・マスク氏に買収され、「X」になりました。

ツイッターは買収で様変わりした。「認証バッジ」の有料化で、アカウントの「認証」を買えるようになったため、認証システムは実質的に崩壊したようなものだ。陰謀論やヘイト、過激な投稿を拡散しやすくなり、投稿の節度も、ほぼ完全に失われた。多くのコンテンツモデレーターがお払い箱になったと報じられている。使い勝手が非常に悪くなった。マスク氏自身も、ある種の陰謀論者であることを考えると、問題解決には役立たない。

――『陰謀論はなぜ生まれるのか』によると、陰謀論を信奉する人々の多くは「普通の仕事や愛する家族」を持っており、絶えず暴力的な思考にふけっているわけではないそうですね(第6章)。ごく「普通の人」という印象を受けます。

マイク・ロスチャイルド著、烏谷昌幸・昇亜美子訳『陰謀論はなぜ生まれるのか Qアノンとソーシャルメディア』(慶應義塾大学出版会)
マイク・ロスチャイルド著、烏谷昌幸・昇亜美子訳『陰謀論はなぜ生まれるのか Qアノンとソーシャルメディア』(慶應義塾大学出版会)

そうだ。誰もが陰謀論者になりうる。人には、「真実でないこと」を信じてしまう傾向があるからだ。コロナ禍で、その傾向が強まった。多くの人々が突然、一日中家にいることを余儀なくされ、失業し、家族や友人とも会えなくなって孤立し、やることもなくなってしまった。人々は怒りに駆られ、なぜこのようなことが起こったのか、責めを負うべきは誰かを考えあぐねていた。

そうした、人生の苦難の真っただ中にいる人々の目には、陰謀論が実に魅力的に映ったはずだ。なぜコロナ禍が起こったのかという一般論にとどまらず、なぜ自分がこうした目に遭っているのかという理由付けまで提供してくれるのだから。経済的な問題や医療債務、個人破産は多くの人々を過激な右翼思想や陰謀論へと駆り立てる。

■陰謀論者になるかならないかに教育レベルは関係ない

人は往々にして「自分が陰謀論者になるはずがない」と思っている。頭がいいからウソの見抜き方を心得ている、と。だが、何かを信じるのに教育レベルは関係ない。その陰謀論が腑に落ちると感じれば、人は信じてしまう。

また、人間の脳は、理解できないものや未知のものに「危険」を感じるような仕組みになっている。餌食にされたり利用されたりしないよう、耳慣れない音や影、暗闇を恐れることは進化上、有益だった。

今でもそうした機能が残っており、人は暗闇の中に「何か」を見いだす。その「何か」が、人間を捕食する動物から、ユダヤ系米国人の大富豪ジョージ・ソロス氏や人身売買の一味に変わっただけだ。人々が恐れを感じる「何か」だ。陰謀論は、危険を察知してパターン化しようとする人間の脳に影響を及ぼす。

■陰謀論者は「自分が不幸な理由」を日々ネット上で探しさまよっている

――誰もが「陰謀論者予備軍」ということですが、陰謀論にはまりやすい人とは?

陰謀論を信じる人々の大半にとって、陰謀論は人生のほんの一部にすぎない。ケネディ大統領暗殺の真犯人をめぐる陰謀論や、北米の森の中に出没するとされる、全身を毛で覆われた未確認生物「ビッグフット」、UFOなどを信じていても、大抵の場合、人生には影響しない。

だが、思いどおりの人生を送っていなかったり、キャリアで挫折したり、自分が良しとしない方向に世界が変わってしまったと感じたりしている場合は別だ。トランプ氏のスローガン「MAGA(アメリカを再び偉大な国に)」に代表される主張の多くは、「自分の子供時代のアメリカを再び取り戻す」ことを意味する。男女の役割が今よりもっと明確で、自由にジョークを口にできた時代のことだ。

ひるがえって、現在は「キャンセルカルチャー(文化)」の時代だ。昔のようなジョークを言おうものなら、ネットなどでたたかれ、「キャンセル」(注)されてしまう。

注:不適切な発言や行動を批判され、地位や立場を失うという社会的制裁を受けること。

そして、そうした社会の進歩や経済格差に憤懣やるかたない思いを抱いている人々は陰謀論を信奉することで、「現実」に対応する。なぜ自分の身にこうしたことが次々と起こったのかを自分なりに咀嚼すべく、陰謀論に「スケープゴート」を見いだす。

キャリアや人間関係といった社会構造を持たず、時間を持て余していれば、(不思議の国のアリスさながらに)「ウサギの穴」に落ち、陰謀論にはまってしまう。日がな一日、ネット掲示板などで「悪の兆し」を追い求めていると、人生に喜びを感じられなくなる。

携帯電話を見て驚く人
写真=iStock.com/skynesher
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skynesher

■「見捨てられた人々のコミュニティー」が陰謀論の温床に

経済的な不満を抱いている白人層が多い地方のコミュニティーでは、陰謀論的な考えが信奉されやすい。置き去りにされた地方の労働者たち。製鉄所や繊維工場が閉鎖され、製造業の仕事が中国やメキシコにアウトソースされてしまった人々。「抑圧された」とでも言うべき町に住んでいる人々。そうした人たちは怒りに駆られ、次のような問いを発する。

「責めるべき相手は誰だ?」「私たちはなぜ見捨てられたのか?」と。自分たちの「アメリカンドリーム」を誰かが奪い去ったと感じているのだ。その張本人は「エリートか? リベラル派か? はたまた、ユダヤ系か?」と。そして、それが陰謀論の温床になっていく。

■陰謀論は銃乱射事件などの凶悪犯罪を引き起こしかねない

――最も危険で有害だと思われる陰謀論は?

コロナ禍の反ワクチン運動は、ほぼすべてが陰謀論にのっとったものだ。もちろん、製薬会社が誰かの「友人」であることに異論を唱える人はいない。だからといって、ファウチ博士(アメリカで新型コロナウイルス対策の指揮をとった感染症専門医)や米ファイザー、医師らが巨大な陰謀をたくらみ、有毒なワクチンで人々を皆殺しにしようとしているなどという考えは危険だ。

反ワクチン論者は、ファウチ博士が新型コロナウイルスワクチンで何百万人もの人々を「大量虐殺」しようとしていると主張した。それもこれも、すべて陰謀論のなせる業だ。

大統領選関連で危険な陰謀論は、移民をめぐるものだ。ジョージ・ソロス氏など、権力を持ったユダヤ系グループが米国に移民を流入させ、「外国の侵略者」に米南部の国境地帯を制圧させようとしているという。そして、民主党が永遠に政権を取り続けると。そうした陰謀論は、銃乱射事件や恐ろしいレトリックを引き起こしかねない。

■トランプを「ヒーロー」に感じたアメリカ人

――アメリカの主流メディアは、Qアノン信者を世間知らずの白人労働者で中西部の差別主義者だとみなしていたそうですね(書籍第3章)。なぜアメリカの主流メディアは、トランプ氏が2015年に大統領選に出馬するまで地方の白人ブルーカラー層に関心を払わなかったのですか。

主要メディアの大半は、ニューヨークやワシントンDC、ロサンゼルス、サンフランシスコなどに本社がある。そのため、地方で何が起こっているか、わからないのだ。国内の大半の地域では、地方紙が(ネットの台頭で)廃刊に追い込まれている。

地方では、医療用麻薬として使われる鎮痛剤の乱用や過剰摂取による死亡など、鎮痛剤による危機が蔓延していたが、当初、メディアの多くは報道に二の足を踏んだ。扱うには手ごわすぎる問題だと感じたからだ。また、読者や視聴者が気に留めるようなことではないという認識もあった。

その結果、多くの人々が「自分たちの問題を報じてもらえない」「政治家も関心を払ってくれない」と感じていた。そこにトランプ氏が登場し、「私はあなた方の擁護者だ。エリート連中を権力の座から引きずり下ろし、偉大なアメリカを取り戻す!」と訴えた。もちろん、大統領選に向けたアピールにすぎなかったが、地方の有権者の多くは彼の言葉を信じ、1票を投じた。

ちなみに鎮痛剤危機を招いた大きな問題の一つは、製薬会社が、軽い痛みや軽症の手術にも非常に強力な鎮痛剤の処方を推奨したことだ。大手製薬会社が必要のない薬を大量に投与している、といった状況に端を発した陰謀論もあるが、一部は「真実」に基づいている。ファウチ博士に関する陰謀論とは違い、企業が儲けを増やそうとする、「資本主義」ならではの現象だ。

■陰謀論者はメディアを信じない

――なぜ陰謀論者やQアノン信者は主流メディアを信じないのでしょう?

陰謀論者はメディアに不信感を抱いている場合が多い。「誰の言うことも信じるな。専門家やメディア、政治家、誰もがウソをついている」と。特に保守派は、主流メディアの多くが非常に左寄りだと感じている。

だが実際には、主流メディアがリベラル派に仕切られているという考えはまったく真実ではない。1990年代初頭に一世を風靡したアメリカのトークラジオなどには、圧倒的に保守派が多い。現在でも、最も人気が高い米ケーブルニュース局はFOXニュースだ。保守系のポッドキャストやライブストリーム、ニュースレターのほうが左派系メディアの多くより、はるかにうまくいっている。

保守系メディアの視聴者や読者は、(リベラル系)主流メディアがウソをついていると頑なに考える一方で、(保守系)主流メディアの多くの情報源を信じる。保守系メディアは検閲されていると考え、いわゆる「主流メディア」とはみなしていないからだ。

■メディアはQアノンの影響を見誤った

――「Qアノンとソーシャルメディアの相性は完璧」であり、「Qとトランプのつながりが一層周知のものとなるにつれ、トランプはQのミームやスローガンを定期的にシェアするようになっていった」と書いていますね(第9章)。テック大手は米連邦議会襲撃事件まで、陰謀論的な投稿に対し、十分な対策を講じませんでした。

そもそもQアノンは、「(トランプ氏の)敵」に対する裁きと処刑に特化したムーブメントとして始まったにもかかわらず、ソーシャルメディア大手の多くは、その成り立ちへの認識を欠き、注意を払わなかった。対策に時間をかける価値などないと考えていたのだ。保守派の投稿を「検閲」していると思われたくない、「左」に傾きすぎていると見られたくないという思惑もあっただろう。

■陰謀論と「資本」「AI」の組み合わせは最悪

――SNSで爆発的に拡散される偽情報と陰謀論がもたらす最大のリスクは?

人々はトランプ氏の発言の多くを信じた。真実ではなく、証拠もない、事実と矛盾することであるにもかかわらず、だ。(SNSで)アッという間に広まるため、ウソを暴くのは至難の業だ。その結果、真実として受け入れられ、既成事実化してしまう。

今後、事態はさらに悪化する。その理由の一つが、人工知能(AI)などのテクノロジーだ。それに加え、トランプ氏と、(イーロン・マスク氏など)寡頭政治を展開する彼の支持者たち、つまり、「(米国版)オリガルヒ」がソーシャルメディアを占拠していることを考えても、状況は悪くなるばかりだ。

■「うちのSNSでは陰謀論は広めさせない」というルール作りが必要

――日本でも、安倍晋三元首相の銃撃事件をめぐり、「真犯人は別にいる」「リベラル派の陰謀」といった真偽不明の情報がソーシャルメディアを駆け巡っています。陰謀論の厳格な規制は可能なのでしょうか。

できないことはない。そのためには、まず、ルールを作り、それを遵守する必要がある。だが、ユーザーが自分の主張を言ってはいけないということではない。要は、ソーシャルメディア企業が投稿の(絶対的)真偽を決めるわけではないということだ。テック大手が仮に規制をしても、投稿の真偽を判断したことにはならない。

規制とは、各テック企業が、「ほかの場所で何を言おうがかまわないが、当社のSNSでは、世の中に害を及ぼすような陰謀論を広めてもらっては困る」という意思表示をすることだ。一部のユーザーが離れていく可能性もあるが、(規制を評価する)新たなユーザーを獲得できるかもしれない。ネットの安全性を少しでも高めることが会社の利益につながる。

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肥田 美佐子(ひだ・みさこ)
ニューヨーク在住ジャーナリスト
東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、単身渡米。米メディア系企業などに勤務後、独立。米経済や大統領選を取材。ジョセフ・E・スティグリッ ツなどのノーベル賞受賞経済学者、ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェル、マイケル・ルイス、元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ジョン・ボルトン、ビリオネアIT起業家のトーマス・M・シーベル、「破壊的イノベーション」のクレイトン・M・クリステンセン、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長など、欧米識者への取材多数。元『ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』コラムニスト。プレジデントオンライン、月刊誌『フォーブスジャパン』、ダイヤモンド・オンライン、東洋経済オンラインなど、経済系媒体を中心に取材・執筆。『ニューズウィーク日本版』オンラインコラムニスト。

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(ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田 美佐子)

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