「相続すべき実家」と「手放すべき実家」はこう見分ける…不動産のプロが教える"負動産"チェックポイント
プレジデントオンライン / 2024年12月31日 9時15分
■自分は住んでいない実家、どうする?
年末年始、たくさんのお土産を抱えて実家に帰省する人も多いことだろう。久しぶりに会う親や親戚、地元の友人、知人。年末年始は、常日頃は交流のない人たちと旧交を温めあう良い機会だといえよう。
年末年始に久しぶりに接するのは、人だけではない。親の家がある。以前は自分が住んでいた懐かしいはずの実家であるが、中高年ともなるとこの家で育った年数よりも、家を出てから生活している都会の家、あるいは自分の持ち家で暮らした年数のほうが長くなっている人も多いはずだ。
実家にはすでに自分の部屋はなく、なんとなくよそよそしい雰囲気ですらある。そして、親の急激な老い方に愕然とし、家も老朽化が目立ち始めていることにあらためて気づかされるものだ。
■子どもたちで「押し付け合い」が発生
親が老いた先に相続は起こる。相続の発生件数は年間でどのくらいあるのだろうか。答えは簡単だ。年間の死亡者数と相続件数は同じだからだ。2022年の年間死亡者数は全国で159万人。相続と言えば税金のことばかりが話題になりがちだが、発生した相続のうち相続税を支払うことになった比率は2022年で9.6%だ。
近年は、相続税を計算する際の基礎控除額の引き下げや路線価格の上昇による不動産相続評価額の上昇などを背景に税負担を余儀なくされる人は増えているが、相続は税金の問題だけの話ではない。
たとえ税金の負担がなくとも相続人である子は、被相続人である親の残した財産を相続するかどうか、何の財産を相続人の誰が受け取るのかを決定しなければならない。遺産分割協議だ。相続が“争続”になるのがこの遺産分割だ。
かつては相続が発生すると、親の家を誰が相続するかで大揉めになった。家は一家にとって一番高価な財産だったからだ。ところが現代では「親の家は相続したくない」と相続人間で押し付けあう姿が相続争いの舞台にしばしば主役として登場するという。
では年始に当たっていささか不謹慎であるかもしれないが、相続してよい実家、避けたほうがよい実家の判断材料をこっそりお教えしよう。実家に戻る際の参考にしてほしい。
■立地自治体のポイントは「人口40万人以上」
1.地方の実家、都市部の実家
地方と言っても、地方都市、地方の郊外などいろいろだ。基本的には地方四市と言われる札幌、仙台、広島、福岡といったその地方を代表する都市にある実家は、東京や名古屋、大阪といった大都市圏にある家とほぼ同じレベルで考えてよい。
つまり、各都市の都心部にあるような実家であれば、相続したとしてもそれほど苦労がない。現代はコンパクト化現象といって、地方の中でも中心都市に人が集まる傾向がある。自身に実家を利用するあてがなくても、賃貸する、あるいは売却するといった選択肢が残るので安心だ。鉄道や主要幹線道路のアクセスが良いところならば相続して困ることは少ないはずだ。
主要都市といっても、県庁所在地のすべてが大丈夫なわけではない。人口減少、高齢化が激しい都市では、相続した実家をいざという時に売却できないリスクを負う。おおむねの目安としては人口が40万人以上の都市で、家が中心市街地に存在するところであればある程度の流動性も確保できる。例でいえば富山市や大分市あたりが限界だろう。
最近は観光ブームであることから民泊などに転用が可能なエリアであれば、有効活用が可能なこともある。また大企業の工場などが立地するエリアであれば、賃貸住宅、アパートに転用することもできるので相続して活用する方法がありそうだ。
■「本当の田舎」なら相続は避けたほうがいい
いっぽう、これらに該当しないエリアにある実家は自分が使う予定のある場合を除いては、相続することは避けたほうがよい。
親がおひとりさまになる、あるいは病院や老健施設に入所するなどのタイミングでできれば早めに処分しないと、時間の経過はますます手放す可能性を狭めてしまうことになる。よくある話であるが、「ダメ元」でお隣さんに声掛けすることは、意外と成功するケースが多いので覚えておくとよいだろう。
実家が農業などを生業にしている場合には田畑や山林などが相続対象になる。農業を継ぐのなら別だが、長く都会暮らしをしてきた相続人には農作業は辛い。農業を承継してくれる人を早めに見つけて実家ごと売却したい。
ただし売却に当たっては地元の農業委員会での認可手続きなどがある。事前によく勉強しておくことだ。山林になると相続が繰り返されて共有者が多く、場所すらわからないケースがある。少なくとも共有者が誰であるかは確認しておきたい。
実家への思い入れは別として、実家に流動性(売却可能性)や賃貸可能性があるかどうかは親が生きているうちに目星をつけておく必要がある。現代はネットで不動産情報はかなり正確に入手できるので、少なくとも親の家が売却、賃貸の可能性があるかどうかは頭に入れておきたい。
■郊外マンションは“負動産”になりやすい
2.戸建て、マンション
相続対象の実家が戸建てかマンションかでも判断は異なる。一般的にはマンションは相続しても比較的使い勝手がよい。特に都心部のマンションであれば、賃貸するにも個人だけでなく小規模法人などの賃借ニーズがある。賃料が確保できれば、将来的に年金の足しにもなる。
ただ、大都市圏でも郊外マンションは気を付けたほうがよい。駅至近(5分以内)くらいであればまだしも、築年が古く、特に鉄道ターミナル駅から支線になるようなラインの駅にしかアクセスできないようなマンションになると、流動性がなくなり、ましてや賃貸需要も見込めないものが多いからだ。自分が住まずに放置していると毎月管理費、修繕積立金を徴収されるので、まさに“負動産”をつかむことになる。
マンション内の住民の年齢構成や修繕具合などもチェックし、仲介サイトなどで相場価格を掴んでおくとよいだろう。親が買った時の値段はほぼアテにならない。郊外マンションで築40年くらいの物件になると首都圏であっても車一台分くらいの値段にしかならない、あるいは全く買い手がつかない物件も結構ある。
また住民が高齢者ばかりだと、大規模修繕が滞っているマンションも多い。修繕が施されていない物件は将来スラム化するリスクもある。車一台分の価格であっても、売れるのであれば、欲張らずに早期に処分できればそのほうがよい。
■古い戸建てを即解体、に潜む税金リスク
戸建て住宅はマンションよりも取り扱いが難しくなる。木造であれば、築30年もたてば、中古市場での価値はほぼゼロである。つまり価値として評価されるのは土地だけとなる。
立地はもちろん、地形が整形であるか、道路にどの程度接道しているか、などを含めてよく把握しておくことだ。土地の形状は、売却する際の重要なポイントとなるからだ。土地情報はなかなかネットではつかみにくいが、地場の不動産屋を訪れてヒアリングすると、丁寧に教えてくれることも多い。
なお、建物に価値がないからと言っていきなり解体、撤去して更地にしてしまうことはおすすめしない。固定資産税、都市計画税が住宅用の減免を受けているからだ。更地にしていざ売りに出しても売れなければ、翌年以降は税金が大幅に上がってしまうことになる。
■「リフォームすれば売れる」の落とし穴
3.築年数など
マンションでも戸建てでも建物は経年劣化する。マンションはしっかりした管理組合であれば、長期修繕計画で必要な修繕は施されているはずだが、戸建て住宅になると、親が十分手入れをしているかによって、保存状態がかなり異なる。
相続後に家をきれいにリフォームすれば、貸しやすくなるあるいは売りやすくなると考えがちだが、落とし穴もある。そもそも賃貸需要も売買需要もない家をいくらリフォームしたところで、お金の無駄使いになるリスクがあるからだ。
地方の戸建て住宅でリフォームして売り出した知人がいたが、土地代が安い地方では、リフォーム済みの中古住宅を買うくらいなら、土地を買って自分の好みの新築住宅を建てる人が多く、全く無駄な投資になってしまったと聞く。
■都心マンションは商品価値が長続きする
一方で、都心部にあるマンションならば築年数が50年近くの物件でも、都心居住のニーズは分厚いので、賃貸、売却ともいろいろな選択肢に恵まれている。ということは区分所有者で経済的に困窮している人も少なく、十分に建物管理、維持が施されているケースが多くなる。そうした物件はあえて手を入れなくとも、必要最小限のメンテナンス程度で十分商品価値を発揮できる。
今年は帰省した際に、ちょっと実家の様子を探ってみてはどうだろうか。今は親が元気であっても、相続は誰しもが通る道。早め早めの対応策がいざという時の備えになる。兄弟間でも事前打ち合わせが行える機会はそうそうない。互いの希望を知ることもできる。できれば親を含めての家族会議はいかがだろうか。
正月のようなハレの機会にこそ、将来の話をしてみることをおすすめする。
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不動産事業プロデューサー
1959年生まれ。東京大学卒業。ボストン コンサルティンググループ、三井不動産などを経て、2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年オラガ総研株式会社を設立し、代表取締役を務める。全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。主な著書に『空き家問題』『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(いずれも祥伝社新書)、『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)など。
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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)
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