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「橋本環奈さんの無駄遣い」では済まされない…NHK朝ドラ「おむすび」が"浅ドラ"と呼ばれる本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年12月26日 8時15分

画像=プレスリリースより

NHKの朝ドラ「おむすび」は放送から約3カ月が経った。もう折り返し地点だが、評判が振るわず話題にもなっていない。“朝ドラ好き”で、コラムニストの矢部万紀子さんは「話の展開の遅さや緩さが目立つ。モヤモヤを感じてしまう場面がいくつもある」という――。

■名作と比較すると、「遅さ」「緩さ」が目立つ

「おむすび」を12月20日まで見終えてこれを書いている。新年からはいよいよ折り返し、話も佳境にというタイミングで思うのは、「おむすび」の運のなさだ。

スタート直後にも、「おむすび」の不運を書かせていただいた(『主演の橋本環奈さんは何も悪くない…NHK朝ドラ「おむすび」が絶不調なのは、すべて「虎に翼」のせいである』2024年10月16日)。すべてが「今」だった「虎に翼」の後に見ると、「おむすび」は平成なのに「今」でない。凡庸な朝ドラの後なら、こうは感じなかったのでは、と。だが、不運はそれだけに止まらない。別な不運が襲いかかってきた。再放送、という不運だ。

朝ドラは「優良コンテンツ」だからだろう、熱心に再放送される。「おむすび」の場合、初回放送の1週間前に「カーネーション」(2011年度後期)が始まり、11月に入って「カムカムエヴリバディ」(2021年度後期)が始まった。細かい説明は飛ばすが、朝はBSで「カーネーション」→「おむすび」、昼は地上波で「カムカムエヴリバディ」→「おむすび」と続けて放送される。

どちらも、朝ドラ史に残る名作だ。放送されていれば見たくなり、見れば比較する。結果、「おむすび」の展開の遅さ、緩さが目立ちまくる。ヒロインを演じる橋本環奈さんは福岡のアイドル時代から、強運の持ち主のように見える。それなのに、なぜ? と思うほどだ。

■「戦争」を描いた名作に、「今」は勝てない

例えば橋本さん演じる米田結は、「カムカム」が始まったころから最近まで、ずっと専門学校に通っていた。その間に、「カムカム」のヒロイン安子(上白石萌音)は、身分違いの恋を成就させ娘を出産、夫は戦死、密かに姉に思いを寄せる義弟の勧めで理不尽な婚家を逃れ、実家で見知った和菓子作りで娘と2人の生計を立たせ……と、話が進んでいる。

対する結、専門学校で何があったかというと、

班分け
→結に「あんた、なめとん?」と言ってくるメンバー登場
→でも仲良くなりました、

とか。

班分け
→脱サラした40代男性がメンバーに
→結、不倫場面を目撃?
→実はバツイチ、再婚予定の女性とのデートでした、

とか、そんなことが描かれる。ね、緩いでしょ?

身も蓋もなく書くならば、戦争に今の時代は勝てないということだろう。「カーネーション」もこの時期、ヒロイン・糸子(尾野真千子)の戦中が描かれ、見るたび泣けた。

もちろん「おむすび」の製作陣は承知の上で、現代に焦点をあてたはずだ。ドラマの骨格を「平成とギャルと震災」に定めた発想の第一歩は、2025年1月の「阪神淡路大震災30年」というタイミングだろう。主な舞台を神戸とし、ヒロインは平成元年(1989)生まれの「遅れてきたギャル」とした。大人も子供も互いの空気を読みまくる「忖度文化」の始まりが平成だった。そういう問題意識からだと想像する。

■「主人公の好きなこと」が見えない

そこで強調されるのが「ギャルの掟」だ。中でも「掟その2 他人の目は気にしない。自分が好きなことは貫け」がドラマのコンセプトだとわかる。つまりヒロインはギャルの格好で己を貫く新手の「凛とした女性」。災害が多発した平成から令和を、ヒロインを通して振り返る。たぶん「おむすび」の企画書には、そんなことが書いてあったと思う。

その意気やよし。が、始まってみたら、大問題が。結が貫くはずの「自分が好きなこと」が見えないのだ。説明はあった。栄養士の専門学校に行きたいと両親に話す時、「自分がやったことで誰かが喜んでくれたら、すごい幸せな気持ちになるんやって気づいた。一生懸命やっとう人たちを支える。そういう仕事が自分に向いとると思う」と。

だけどこれ、「自己分析」ではあるけれど「好き」の表明ではない。向いているから栄養士になるだけではマーケティング的というか、夢がないというか……。ダメな平成な感じがするじゃないかー。

もちろん「好きなこと」を見つけるのは、容易ではない。これから模索していくんだなと思って見ていると、栄養学校初日の自己紹介がこうだった。「彼氏が野球をやっていて、プロを目指しているので、彼のことを支えるために栄養を学びにきました」。えー、支える相手が狭くなってるよー。うーん、つまり結の「好きなこと」って、彼氏?

■祖父役、松平健さんの無駄遣い

そんなモヤモヤに関係なく、ドラマは「結って誰かを支えたい人ですよー」と盛り上げていく。例えば専門学校の卒業式後、同じ班の4人(不倫してなかった40代おじさん他)が語り合う場面。1人の女子が結に「あんたが一番心配だ」と言う。もう1人の女子がこう続ける。「そうやん、いっつも人のことばっかし助けようとして」。そこにおじさんがかぶせる。「それは私も同意です。もっと自分を大切にしてください」

え、そうなの? 結って、自分を蔑ろにしてまで、人のことを考えていたの? そういうシーンを見た記憶が一つもない。場面で描かず、台詞で盛り上げる。

これは初回に登場、その後もしばしば語られる「困っている人がいたら助けるのは、米田家の呪い」から始まっている。始まりは結の祖父(松平健)らしいのだが、「助けて当然たい」と言うばかり。その心理が伝わる場面はほぼなく、単純なホークスファンに描かれる。松平健の無駄遣いだと思う。

卒業後、結は栄養士として働き始めた。星河電器という会社の社員食堂だ。そこで出会うのは、「栄養士様にやっていただく仕事なんてあらしまへんで」と言うベテラン調理師(三宅弘城)。まあ、この人ともいずれ仲良くなるに違いない。「おむすび」のお約束だし、兆しも見えている。それはそれとして。

■主人公が困っていると、誰かが助けてくれる

その頃、結の家にやってきたのがIT企業に勤める幼馴染・陽太(菅生新樹)だ。

ある晩、プレゼンを任されたと言ったのは嘘で、今日もコピー取りをしていた、新人にも知識で抜かれ辞めようかと考えている、と語る。自分は何をやっても中途半端なのだと言って、こう締める。「おむすびみたいに、バリ好いとうって思えることもないし」。

陽太の言うおむすび=結で、「結=すごく好きなことをしている」という話なのだ。だが、この時点でも、結の好きなことはわかっていない。結ではっきりしているのは、困っていると誰かが助けてくれるラッキーガールだということだ。

2024年7月12日、東京で開催された「第35回 日本ジュエリーベストドレッサー賞」の表彰式に出席した女優の橋本環奈
写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ
2024年7月12日、東京で開催された「第35回 日本ジュエリーベストドレッサー賞」の表彰式に出席した女優の橋本環奈 - 写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ

説明が遅れたが、結の彼氏は四ツ木(佐野優斗)という。糸島の名門野球部で投手をしていて結と出会った。メガネをかけていたから、通称「ヨン様」。「平成ってこうでしたよね」の小技も、「おむすび」のお約束だ。

ヨン様が所属しているのが、神戸の星河電気。そう、結の就職先だ。

■“母のお膳立て”に脱力

ドラフトで巨人に指名されたヨン様の先輩投手が、常々アスリートに栄養士が必要だと訴えていた。会社は予算がないと却下したが、社員食堂で働く形なら雇ってよいと譲歩する。でも予算的にベテランは雇えない、だから新卒の結に入ってほしい――という話が、先輩投手から回ってくる。

彼は、結がヨン様に作った「社食のメニューの選び方」表がよくできていた、四ツ木が活躍できているのはあなたのおかげだと評価する。だけどその表は半べそをかいて悪戦苦闘する結を見かねて、元陸上選手の班仲間が手伝ってくれたものなのだ。

この就職話、いくらなんでも……と思う視聴者心を先読みし、結も悩む。ちょっとずるいなー、甘えていいのかなー。

そこに登場したのが、「博多ギャル連合」の仲間たち。カラオケボックスで語り合ううち、1人が「てか、甘えてよくね?」と言う。彼氏の会社から声がかかるのは、信用されてる証拠だよ、と。その夜、結の母(麻生久美子)にギャル連合の1人からメールが来る。「呼んでくれて、ありがとん」。友達からの励ましを母がお膳立てしてくれていたのだった。脱力。

■「平成とギャルと震災」の方程式が解けていない

最後に、震災の話をする。神戸編になり、結の周囲の大人たちの「立ち直り方」が描かれた。一つ一つにドラマがあり、心のひだが見えてはくる。が、結の関わりといえば、「立ち直りを結なりに助ける」でしかない。

結と震災はと言うと、繰り返し流れるのが震災当日の映像だ。夜の避難所に結と姉と母が座っている。そこにおむすびをたくさん持った女性が来て、配っていく。それを口にした結が、「おばちゃん、これ冷たい。ねえ、チンして」という。女性は家を出る時は温かかったけれど、街も道路もめちゃくちゃでここまで来るのに時間がかかったと語り、「ほんまにごめんな」と泣くのだ。

これがタイトルになるわけだから、きっとどこかに行き着くのだろう。が、これまでのところ描かれたのは、「こども防災訓練」で「炊き出し隊長」になった結が「温かいわかめおむすび」にこだわる姿だけだった。

平成とギャルと震災。その3次方程式がうまく解けていないのだと思う。平成元年生まれの結は、震災当時5歳か6歳。これがネックになっている気がしてならない。記憶が薄いから、結がビシッと定まらない。

ギャルらしいファッションなのだろう、ごく短いジーンズのショートパンツ(←表現、あってますか?)を履いて、ずっと頑張っている。だけど困っては助けられ、助けられては困り、の繰り返し。結はそんな女の子でいいのさ、可愛いからね。と製作陣が思ってはいないだろうか?

そう疑いつつ、まだこれからだと思うことにする。12月最終週には、肩を壊したヨン様のこれからが描かれるようだ。「彼氏を支えたい」結の正念場。結も「おむすび」も踏ん張りどころだと思う。

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矢部 万紀子(やべ・まきこ)
コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。

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(コラムニスト 矢部 万紀子)

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