仕事と家事育児で運動不足の46歳・漫画家が卓球サークルの敏腕80代に元気づけられてできた新たな目標
プレジデントオンライン / 2025年1月6日 8時15分
■老若男女が集う地域の卓球サークル
運動不足解消のため、地域の卓球サークルに入ってみました。
10代~80代までの老若男女50人くらいが在籍しているサークルで、経験順に分けられたグループで練習します。
最初は週1回通うのがおっくうで、体育館に着いてもUターンして帰りたくなっていましたが、みんなが和気あいあいとしているので、だんだん楽しくなってきました。
私のグループは、だいたいこの6名です。
▼ 50代後半くらいの男性
▼ すごく明るい女性(60代くらい)(Bさん)
▼ 真面目そうな女子大生
▼ 真面目そうな男子高校生
▼ 46歳の私
▼ むちゃくちゃ元気なおばあちゃん(Aさん)
■明るく話しかけまくり動いて球を打ちまくるAさん
元気なおばあちゃんAさんは、人一倍走り回ってボールを拾ってくれます。動きが素早すぎて先に取られてしまう。10代〜60代の私たちは自分のペースで足元にきた球を拾うくらいですが、おばあちゃんAさんは卓球台の周りを100周くらいする勢いで走り回っています。玉拾いにかける思いがぜんぜん違う。
それにおばあちゃんAさんは誰にでも明るく話しかけます。すごく誉めてくれます。スマッシュ練習で私が上手く打てるとすぐ横で「ウマイッ!」「スゴイッ!」「惜しいッ!」「なんでッ!」とかずっと言ってくれるので、おかしくなって笑ってしまいます。
Aさんは通常の人間が1時間で行える行動の10倍くらいの量のおしゃべりをこなし、動いて球を打つ、を猛スピードでこなします。
いつでも次の予定が詰まっていて、練習終わりの体操を始める頃には、出口から出ていくAさんの後ろ姿が。たぶん若い時から超人なんだと思う。80代らしいけど、普通の人間の200年分くらいを生きてる。
■コミュ力を進化させている
コミュニケーション能力の高い女の人ってちゃんと加齢ごとにどんどんそれを進化させていきますね。このおばあちゃんはそれの真骨頂。あめを配ってくれる日もあります。「私は好きな味なんだけど、お口に合うかどうか」と素敵な言葉を添えて。
受け取ったあめを早速いただきながら、私もいつかあんなふうにあめを渡せる人になれるのかしら……と思いをはせました。
ほかの高齢者の方たちもみんな元気です。
46歳の私。同世代で集まると「昔のように食べられない」「目がショボショボする」「急にガタがきた」という話になりがちです。この先あと何十年もありそうなのにどうなっちゃうんだろう、と真っ暗で何も見えないぬかるんだ道を歩かされてるような軽い絶望感が、40代後半の者には常に漂っています。
更年期も重なってメンタルも低調。「生きててもなんか良いことあるのかね笑」「子どもがいるから死ねない、だから生きてるだけ、って思っちゃう時あるんだよね」「あるあるー」という会話もたまにします。実際、私はかなり気持ちが塞ぎ込んでいました。
だから60代、70代、80代で元気に動き回っておしゃべりしまくってる人たちを見るだけで「えー! なんだよ、大丈夫じゃん‼」と希望が湧いてくるのです。
40代がものすごく若々しく思えてくる。
体が大きくなって社会的経験を積んでいく成長期を経て、折り返し地点でこれからは「低下していく」事に慣れなければいけない40代後半という年齢。今までとのギャップにいちいちビックリして悲しくなってしまう。
だけどそんな感情も含めて悪いことじゃなくて自然なことなんだなーと、元気な年上の人たちを見ると思えてくるのです。同じ「元気な高齢者」を見ても20代だったら絶対にそんな気持ちにはならなかった。
■“年齢自虐”をどうかわしたらいいのか
さらに卓球サークルでは、若い頃には気づかなかった「つなぎの自虐」を知りました。
このグループで、元気おばあちゃんAさんと明るい60代女性Bさんがとにかくコミュニケーション能力が高い。誰に対しても「うまくなってるよ~!」とたくさん話しかけてくれます。
そしてAさんBさんは、何かとすぐ「私たちが平均年齢上げてるから~」と言います。「私たちはこのメンバーの中でも多く年をとっている」ということをわざわざ口に出すのです。
最初に聞いた時、ドキッ! としました。大学生や高校生がいる手前、40代の私は「どっち」に入るべきか⁈ と。
学生さんから見たら同じ種類だと思うけど、60代・80代に対して「私もでぇす」と言うのは変な気がする。言ってみようかと思ったけど、やっぱり今の私にはまだ早い気がしました。
ここは「若い人」のフリをさせていただこう、と5秒くらいの間に判断して、困った顔でニコニコする、という表情で私のこの複雑な思いを表現することにしました。
■20代の頃にはわからなかった
しかしこの、年上の女性による「あたしたちっておばさんだから~」という唐突で本筋(卓球)とは関係ない自虐の叫び、実はものすごい“つなぎ”になってるんだということが今になってわかるようになりました。
20代の頃はこの、年上の女性たちによる“自己卑下としての年齢自虐”を非常にウザく感じていました。年齢なんてみんな平等に与えられたものを、多くとっているから「若い人より下」みたいに宣言することになんの意味があるのか、と。
しかしこの「年齢自虐」は、初対面の人も混ざった老若男女の同士でなにかする際に場の緊張をほぐすには最も手っ取り早くお手軽なトーク術なんだ……そう気付きました。
何も言わずにただ卓球の練習をするのでもいいんだけど、堅い時間が流れます。例えると、つなぎの入ってないポロポロと崩れやすいハンバーグです。
そこに年長者の「私が平均年齢上げちゃってるわ~!」が入る事により、その場に漂っていた”目上の人への緊張感”が瞬時にとけます。さらに46歳の女(私)のフォローとしての困り笑顔がその場に投じられ、同じく50代男性による「アハハ……」という返事になっていない笑みも生まれます。学生さんたちは「無」のまま固まっていたりするけど、「年齢自虐」サーブに中年たちが「フォローの笑顔」というレシーブを返すことにより、初対面の人が交ざる上に老若男女すぎてわけわからん関係にラリーが生まれるのです。明らかに場の空気が一気にゆるみ、徐々にみんながリラックスして練習できるようになるのです。
挽肉たち(場の緊張感)に、パン粉(年齢自虐)と卵(中年の笑顔)という「つなぎ」がはいると、空間や関係性、空気がふわふわになる。肉汁ジュッワーになるのです。
■「わかりやすさ」が生きる場面がある
そういった年代が違うさまざまな人が集まる場の雰囲気をよくしようとする時、「年齢」などの極端にシンプルで分かりやすい項目を使うのも効果的なんだなと思いました。
昔、テレビ番組で私の漫画の再現ドラマが流れたことがありました。作成している時期、ディレクターの人から渡された台本を見ると、私が漫画で描いた主旨とは違う点が強調されていたので指摘しました。するとこう返されました。
「テレビはどんな人にでもパッと分かる内容にしないとならない。工事現場で働いてきたおじさんが、ビールと弁当を買って帰って家でテレビをつける。そのおじさんが一瞬で『今この番組で何をやっているか』を把握できないといけないんです」
確かに、漫画や本だと一冊通してじっくり説明することができますが、テレビだと作り方が違う。私が漫画で描いたのは「精神的に自立することで夫と対等な関係になろう」というメンタルトレーニングの内容だったけど、再現ドラマでは「夫に支えられて自立できた私」という夫婦愛ストーリーになっていました。たしかに後者のほうがテレビでは分かりやすいだろうな、と最後は納得したのでした。
年齢自虐も、同じようにその場にいる人たちが「なんの話をしているか」がパッと明確に分かるコミュニケーションと言っていいのではないでしょうか。
今までの私は、このことに気付きませんでした。
■レスポンスは「愛」
そして中年になって思うのは「自分が何かしたときに、相手が返答・反応・リアクションしてくれること」という地味な行動こそ、人々をつなげて日々の活力を湧き上がらせているんだなっていうことです。
当たり前のようにしている挨拶や、お天気についての世間話、軽い会釈。グループメールでどうでもいいことを言ったときに誰かがつけてくれるニコニコマーク。なくても成立はするけど、あると心が通ってハートがあたたかくなる。大げさに言えば、お互いに「私はここにいていいんですね」「あなたももちろんそこにいてくださいね」というメッセージの交換。つまり愛。レスポンスは愛なのです。
■レスポンス能力は勝手に身に付く
細やかなレスポンス。これも10代~20代の私にはしんどかった。周りの友人がレスポンスし合うのが当たり前の人たちで、自分は気持ちが乗ってない時にうまく反応することができなくて、周りのレスポンスの速さについていけなくて居心地が悪いと感じた時期もありました。
中年になると友人達のレスポンス能力はさらに爆上がりしていて、私もいつの間にか追いついていました。みんなで旅行に行った時は誰かが「腰が痛い」と言ったら漢方の話を始める人、横になれと言って背中に乗っかってマッサージを始める人、私もそこに交ざり100円ショップで買って持ってきたグリグリ指圧棒をスーツケースから出して貸してあげていたのです。
若い頃の私に言いたいのは、焦らなくてもレスポンス能力は勝手に身に付く、ということです。
私はまだ60代、80代の人が行う「年齢自虐」には気恥ずかしくて交ざれないけど、口を大きく横にひろげて歯を見せる笑顔もレスポンスの一つであり、その場をほぐす効果があるので、全力で笑顔になっています。
■若い時はこうして年上たちに見守られていた
若い時は、人からレスポンスされてもそれを愛として受け取ることをまだ知らないから「無」ってなって終わってしまうものです。私もずっとそうやって過ごしていました。ぜんぜんOKです。そんなこと知らないもん、若い時って。
私も若い時、こうやって年上たちに見守られ、許されていたんだなあ、ありがたいなあって心から思います。
深く考えずに通い始めた卓球ですが、80代のおじいちゃんやおばあちゃん、一見フラフラに見えるのに、練習試合すると上手くて勝てない時がある。
「私は40代だからさすがにちゃんと練習したら強くなれるんじゃないか⁈」と思って試合に出るためにがんばりたいと思うようになりました。
私も80歳になった時、仕事と家事育児で時間なさすぎて運動不足でドテドテしている40代の人と対戦して「もっと強くなりたい! 卓球続ける!」と思わせられる高齢者になりたいです。
もしかしたら、実際に自分が80歳になったら、この件に関してまた別の予想もしない感情が生まれそうな気もします。でも今は、このハートウォーミングな感覚を楽しもうと思います。
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漫画家
1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。
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(漫画家 田房 永子)
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