「日本のお正月」を日本人以上に楽しんでいる…観光客でも留学生でもない「日本語が話せない中国人たち」の正体
プレジデントオンライン / 2025年1月4日 11時15分
■「留学」でも「就職」目的でもない中国人
近年、日本で急速に中国人が増えているのをご存じだろうか。出入国在留管理庁の統計によると、2010年の在日中国人は約68万7000人だったが、23年には約82万2000人にまで増加した。在住者の資格は「永住」や「留学」ビザ、その他、会社員が取得するビザの保有者が全体の約7割を占めている。
だが、昨今、増えているのは「留学」でも「就職」でもない人々だ。彼らは「経営・管理」などのビザを取得して来日しているが、彼らの場合、従来の在日中国人とは大きく異なり、日本語がほとんどできない。日本に対する「興味」「憧れ」「愛着」などはなく、ただ「中国から脱出したい」という理由で、日本にやってきたからだ。
しかし、彼らと話してみると、意外にも「日本語が話せなくて困った」という話はあまり聞かない。また、「日本語が話せないから日本移住を躊躇した」こともないようだ。かつてなら、まず中国の学校で日本語を学んだり、来日後に日本語学校で日本語を学んだりしてから日本社会に入っていくという人が多かったが、現在では、そうした「手順」を踏まないで、いきなり日本移住する。
■翻訳アプリとSNSがあれば困らない
しかも、その後も、日本で生活するのに、日本語を学ぼうというモチベーションは低い。「日本語が話せない」ことは移住のハードルにはならないようなのだが、その理由は何なのか。
まず、日本は漢字を使用する、中国以外では唯一の国で、漢字を見ればだいたいの意味を理解することができるという点が大きい。町を歩いていても、看板や標識も漢字が多いのでたいていのことは推測できる。それはもちろんずっと以前からだったが、最近では、誰かと会話しなければならない場面でも、スマホに翻訳アプリを入れておけばいいし、タクシーに乗って行き先を説明することも可能だ。漢字だけで筆談もできる。この点は欧米人にはできないので、中国人ならではの利点だ。
次に、在日中国人の手助けがあることが非常に大きい。近年の移住者を除いたとしても、在日中国人は70万人以上おり、彼らが日本での経験を活かし、案内役となってくれる。それを可能にしてくれるのが中国のSNSだ。
以前も、在日中国人の友人がいればその人を頼っていたことは同じだったが、SNSの時代になって以降、見ず知らずの同胞(中国人)とのやりとりも可能になった。それが「日本語が話せなくても」まったく困らないことを後押ししている。
■「巨大な中国経済圏」が広がっている
来日後、不動産の賃貸や購入も中国系不動産会社の中国人社員が担当してくれるし、身の回りのことも、中国系不動産会社や中国人の行政書士などに相談すれば、それに詳しい在日中国人を紹介してくれる。中国のSNS、ウィーチャットで問いかければ、知りたいことの大半は1時間以内に解決できるといっていい。
「経営・管理」ビザで来日すると日本で事業を行う必要があるが、それについても、在日中国人の友人や、コンサルタント、知り合いなどのツテで準備を進めることができる。飲食店などを開業したとしても、中国人のアルバイトや運転手を雇えばいい。いまの日本には、富裕層、中間層、労働層と、あらゆる階層の中国人が住んでいるからだ。
以前の記事〈なぜ「日本語が話せない」在日中国人が急増しているのか…国内にじわじわ広がる「巨大中国経済圏」の実態〉でも紹介したが、すでに日本に定住している在日中国人同士も、彼らだけでビジネスのネットワークを築いている。
たとえば、中国人の顧客(家主)からマンションのリフォームを依頼された中国人の建築リフォーム会社は、中国人が経営する建築資材会社から資材を購入してリフォームを行い、中国人顧客に納品する、といったように、日本に住んでいながら、日本人を一切介さずに仕事を完結している。
■運転から病院の手配、宿やレストランまで…
インバウンドでも、中国人旅行客から依頼を受けた在日中国人が空港まで迎えに行き、観光案内、病院での検診、通訳などもすべて行い、中国人経営の民泊に泊まり、知り合いの中国人のガチ中華料理店で食事をする、という形態だ。
近年来日した人々も、このように、日本にすでに出来上がっている中国経済圏の中に入り込めばいいだけで、それは同じ言葉が通じる中国人同士なので簡単だ。中国経済の悪化から、中国では儲けが薄くなっているため、資金を日本に移し、日本で、日本語が堪能な在日中国人と組んで、新たなビジネスを始める人も多い。
中には「経営・管理」ビザではなく、ホワイトカラーが取得する「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得して、日本で就職しようとする人もいるが、彼らは日本企業ではなく、日本の中国系企業に就職するため、日本語が話せなくても全然問題はないのだ。日本には、中国人社長の上場企業も少なくとも30~40社はあるし、中小企業を含めれば無数にある。
■日本人と一緒にあくせく就活する必要もなし
余談だが、2~3年前に取材した20代の中国人男性は、都内の私立大学を卒業後、池袋にある中国系チェーン店に入社。いきなり幹部となり、店舗の運営などを任されていた。私はその店舗でその男性と知り合ったが、日本語は少ししかできなかった。
日本の大学を卒業しているのにおかしいな、と思ったが、聞いてみると、大学のゼミの教授も中国人、同級生も中国人ばかりで、在学中に知り合ったチェーンの経営者の会社にコネで就職したという話だった。
東京・高田馬場には中国人が経営する大学受験予備校が多数あるが、そこで、日本の大学の合格ノウハウを中国語で教えてくれる講師も、現役の中国人大学生だから、日本語のレベルが低くても、どこかの大学に合格できるのだろう。
以前なら、日本の大学を卒業したら、日本の一流企業に就職し、日本に定住するというのが、留学生のひとつの成功パターンだったが、現在では、日本人大学生と一緒にあくせく就活しなくても、日本の中国系企業に就職すればいいと考える人も増えている。中国に住む親が資金を提供してくれる場合は、「留学」ビザから「経営・管理」ビザへと切り替えて、大学卒業後に独立し、経営者になることも可能だ。
■日本で楽しくお正月を迎えた中国人たち
このように、「日本語が話せない」ことは、日本移住のハードルにならない。それどころか、そもそも日本語を話す必要がないという環境がこの日本国内に整っている。あるいは、日本語を話すシチュエーションがほとんどない、という状況になってきているともいえる。
先日、中国で日本語教師として働く知人が「以前は日本語をしっかり学んで日本の大学院に進学したり、日本の企業に就職したりするという『日本留学組』がいた。日本語を学ぶことは、英語を学ぶことと同様、将来の仕事にプラスになると考えてコツコツ学ぶ人が多かったが、いまは全然違う。日本語を学ぶ、学ばないは日本移住と相関関係がない」と話していたが、その通りとなっている。これもSNSの力、そして、在日中国人の人口の多さから可能となっていることだ。
そのため、日本のお正月(年末年始)や中国の春節(旧正月)時期に中国に帰省しなくても全然寂しくない、といった現象も起きている。「日本のなかの中国」で生活が成り立っているので、お正月のパーティーで食べる中華食材や中華調味料、中国酒もすぐにSNSで調達できるし、春節気分も、日本のガチ中華の店で十分に味わえるからだ。春節前夜に中国で放送される国民的テレビ番組「春節連歓晩会」(略して「春晩」)も、ネットで視聴できるので、中国に住んでいる友だちとも情報を共有できる。
■日本に“中国版県人会”まである
中国に帰省すれば、空港や駅の民族大移動の大混雑にぶつかってしまうし、親戚にお土産を配らなければならないなど面倒なことが多くて疲れるが、日本にいる中国人の友だちと会っていれば気楽で、そうしたことに巻き込まれないで済む。
中国に住む家族や両親も、中国国内ならば、何としても帰省して親に顔を見せろ、とうるさくいうだろうが、日本にいれば「日本の仕事の都合」や「航空券の高さ」などを理由に帰省できない、と言い訳することができる。
日本は中国から適度に離れている「外国」だが、日本にも中国人コミュニティが成り立っているので、お正月の三が日に店が閉まっていても「つまらない。寂しい」といったこともないのだ。それどころか、日本でいう県人会のようなものが存在し、「黒竜江省〇〇市同郷会」や「北京の〇〇大学同窓会」なども、大型連休中に行われたりするので、逆にふだんよりも彼らは忙しいくらいなのだ。
■日本式のマナーを守らない中国人が増える?
だが、ここまで日本に中国人コミュニティが出来上がっていると、日本の社会を知り、日本のルールやマナーを守ろうという意識も希薄になるのではないかという懸念がある。マイノリティーであれば、その影響力も少ないかもしれないが、82万人といえば日本の一都道府県に相当する人口だ。
「赤信号、皆で渡れば怖くない」という言葉もある通り、日本語を理解しない中国人の数が増えることによって、結果として、日本社会でのルールやマナーを守らない中国人が増えていくことも考えられる。
ヨーロッパの小国、オランダでは、永住権を取得したり、長期滞在したりするためには、オランダ語の読み書きやスピーキング、オランダの社会常識について出題される「市民化テスト」というものを受験し、それに合格する必要があるという。
日本も今後、中国人に限らず、海外からの移住者が増えることが予想されるが、日本に住む外国人には、日本語ができなければならないといった決まりや条件はなく、不動産購入も、日本は外国人に制限をかけていない。
いったん、正式な在留資格を得てしまえば、日本語ができなくても日本人と同等の権利や自由が与えられ、日本国籍を取得することも可能だが、それが果たして、日本にとって本当によいことなのだろうか、と考えさせられる。
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フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』『日本のなかの中国』(日経プレミアシリーズ)などがある。
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(フリージャーナリスト 中島 恵)
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