普段温厚な人が、酔ったら突然キレだす理由…「酒で性格が豹変するタイプ」の脳で起きている危険な症状
プレジデントオンライン / 2025年1月8日 17時15分
※本稿は、レーナ・スコーグホルム著、御舩由美子訳『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■なぜ人はアルコールで豹変してしまうのか
パーティで、こんな光景を目にしたことはないだろうか? 最初は穏やかで礼儀正しかった人が、ずけずけとものを言うようになり、しまいには部屋の隅に座りこんだり、眠りこけたりしてしまう。
この光景は、脳の基本的な構造を説明するのにうってつけだ。というのも、私たちがアルコールを摂取したときや、ストレスの害が脳や身体に広がるときに何が起きるかがわかるからだ。アルコールもストレスも、同じように脳の働きに影響をおよぼす。
ストレス(またはアルコール)の影響を知り、その人が、そのときの状況を脳のどこで処理しているかがわかれば、適切に対応できる。
では、さっそく本題に入ろう。
そのパーティでは、出席者の1人が酒を飲みすぎて、すっかり羽目を外してしまった。これはとても興味深いハプニングだ。その人が、その状況を脳のどこで処理しているか(脳のどの領域が働いているか)、じつによくわかる。
■ワインを前に「分析」「うんちく」を語る
その日ディナーパーティがあることは数週間前からわかっていたのだが、あいにく家を出るのが遅れてしまった。私は、いくらか気詰まりを感じながら、パーティ会場に足を踏み入れる。そこは1800年代後期に建てられた豪華なアパートメントハウスの一室で、木工細工の装飾がふんだんにほどこされ、床はハードウッド、高い天井にはシャンデリアがぶら下がっていた。
部屋には、私を含めて6人いた。私たちは、いくらかぎこちないながらも、なごやかにおしゃべりした。みんなはじめて見る顔だ。やがて、私たちは美しく飾られたディナーテーブルの席につく。テーブルの上で揺れるキャンドルの炎が、独特の雰囲気をかもしだしていた。
会場に着いたときにはカクテルがふるまわれ、今度は上等のワインがグラスに注がれた。メニューとの相性をもとに厳選されたワインだ。私たちは、さっそくスウェーデン式で乾杯して、その赤ワインを褒めた。
ワイン通が2人ほどいて、すぐにうんちくを傾けはじめる。このワインの産地は? ブドウの品種は? 年代は? 香りは? 色の深みは? そのワインのあらゆる特徴について、こと細かに意見が交わされた。
続いて、テイスティングがうやうやしく行われた。ある人は、ほのかなオークの香りを感じとった。フルーティな風味とアニスの実の香りを感じた人もいた。分析はさらに続いた。このワインはフルボディだけれど、きりっとした酸味もある。甘味とバランスがすばらしい。まさに極上のワインだ、云々。
ようやくテイスティングが終わった。さあ、ワインを楽しもう。
■「きみはぁ、ぼくのぉ、しんゆうだ!」
数時間が過ぎる頃には、みんなすっかりくつろいでいた。思いつくままに話し、ときに会話に割り込みながら互いにおしゃべりを楽しんだ。そのなかで1人、かなりリラックスしている人がいた。もっと率直にいえば、リラックスしすぎて、まわりから浮いていた。この男性をピェテルと呼ぼう。
ピェテルは、隣の男性に寄り添うようにテーブルに身を乗りだした。そして、その男性が親友で、彼のことが大好きなんだ、と繰り返した。声も身ぶりも大きかった。ピェテルが腕をばたつかせたり振りまわしたりするので、あやうくグラスが床に落ちそうになった。
彼はグラスをぶら下げるように持つと、がなり立てた。「きみはぁ、ぼくのぉ、しんゆうだ! ぼくはぁ、きみのぉ何もかもが、だぁいすきだ。これからもぉ、土曜の夜はぁ、みぃんなで集まろう。ここにいるみんなにかんぱーい!」
さらに数時間が過ぎ、私たちは互いにすっかり打ち解けていた。仕事のことは忘れて、楽しさに浸りきっていた。おしゃべりし、笑い、乾杯した。ワインをお代わりして、心地よい酔いに身を任せた。
■「何するんだ、馬鹿野郎!」
ところで、さっきまで浮かれ騒いでいたピェテルはどうしただろう? いま、彼はテーブルに突っ伏している。どうやら眠っているようだ。椅子に座ったまま、小さくいびきをかいている。
しばらくすると、ピェテルの隣の男性が立ち上がった。ピェテルが自分の親友だと言った人物だ。その男性はキッチンに何かを取りにいき、戻ってくる途中でうっかりピェテルにぶつかった。するとピェテルは跳ね起きて、怒声をあげた。「何するんだ、馬鹿野郎! どこに目ん玉つけてる⁉」
本来のピェテルはどんな人物で、普段はどんなふるまいなのだろうか?
客観的で、慎重に物事を分析する人? 衝動的で、勝手気ままにふるまう人? すぐに頭に血がのぼる短気な人?
ピェテルが数時間のうちに、まったく違う3つのふるまいを見せたため、どれが本当のピェテルなのかわからなくても不思議はない。
まず、ワインのテイスティングを積極的に行っていた客の1人がピェテルだった。だから、彼に物事を分析する力があるのは確かだ。
ところがリラックスしてくると、自分の気持ちをストレートに表現するようになった。「ぼくはぁ、きみのぉ何もかもが、だぁいすきだ」。彼の感情表現力は、このとおりだ。心にしまってあった思いをすべて、何のためらいもなく外に解き放ったのだ。ちょうどスウェーデンのポップ・シンガー、ペール・ゲッスルが歌っているように。すべての思いが一気にあふれ出す。
■なぜ一夜で3回も態度が変わったのか?
そしてパーティが終わりに近づく頃、ピェテルはテーブルに突っ伏して眠っていた。さっきまで言いたい放題ではしゃいでいた人物が、すっかり酔いつぶれていた。ところが、親友が誤って身体にぶつかったとたんに跳ね起きて、彼を怒鳴りつけた。
一夜のうちに3つの態度をピェテルにとらせたものは、いったい何なのか?
アルコールには、脳の特定の部位の働きをストップさせる力がある。そのため、体内のアルコール濃度が高くなると、その人のふるまいが変わる。脳の一部がアルコールの濃い霧に覆われて、機能が停止してしまうのだ。一時的に脳に軽いダメージがおよんだ状態だ。
酒が入らず自制心があるときには、脳全体が機能している。ところが、酒を何杯か飲むと、分析力や、自分の行動の結果を考える力が働かなくなってしまう。
いっぽう、感情を担当する部位は、飲酒しようがしまいが、きわめて順調に機能する。こんな諺(ことわざ)がある。子どもと酔っ払いは嘘をつかない。
私たちは、ある程度の量のアルコールが体内に入ると、自分の気持ちや考えを、結果もろくに考えないで口にしてしまう。相手がその言葉をどう受け取るかなど、考えない。なぜなら、自分の発言の影響を予測する力が、一時的に働かなくなるからだ。
■ストレスが脳を「霧」で包む
そのまま酒を飲みつづけると、感情をつかさどるシステムも、アルコールの霧に包まれる。そのため感情の機能もストップし、機能しているのは生存と本能の働きだけになる。
そして何か脅威を感じると、本能は「逃走(フライト)」か「闘争(ファイト)」、あるいは「凍結(フリーズ)」をうながす。「凍結」は、動物が危険を避けるために死んだふりをするときの行動だ。
私たちがストレスを感じると、脳のなかでは酒に酔ったときと同じことが起きる。アルコールが徐々に脳を霧に包んでいくように、ストレスも脳の各部位の働きを順に停止させていく。
仕事や私生活において、私たちは常にストレスにさらされている。
学校や職場、家庭で、やるべきことを山ほど抱え、それをかぎられた時間のなかですべてこなさなければならない。そのいっぽうで、自分の心身をケアする必要もある。
また、自分や家族の病気や悩みごとにも取り組まなければならない。失業や、家の問題のストレスもある。
自分が属している社会の情勢が急変することだってある。テクノロジーは瞬く間に進歩し、情報の洪水が私たちに襲いかかる。世界のあらゆる危機を、メディアがひっきりなしに報じる。
こうした要素すべてが、ストレスの原因になる。
ストレスを感じると何が起きるだろうか? また、長いあいだ働きづめの人がストレスにさらされつづけたら、何が起きるだろう?
こんなことは言いたくないが、私たちはみんな、脳に一時的に軽いダメージを負ってしまうのだ。
■脳1つに「3体」生物がいる
脳は、進化という観点でいえば、3つの層で成り立っている。そして、この3つはアルコールとストレスの影響を受けやすい。
例に挙げたディナーパーティでは、3つの層の状態がはっきり表れていた。ピェテルは3つのふるまいと、3つのコミュニケーション・モードを示していた。
私たちがどんな言動をとるかは、そのときに脳のどの層が使われているかで決まる。いってみれば、頭のなかには3つのコミュニケーション部門があるのだ。
心理学者のヤン・サンドグレンは、著書『ピラミッドを広げよう Sprid pyramiderna』(未邦訳)のなかで、この3つのコミュニケーション部門について書いている。これは、ポール・マクリーンが提唱した脳の3つの層と同じだ。つまり、「脳幹(爬虫類脳)」「辺縁系(ほ乳類脳)」「新皮質と前頭前皮質(大脳皮質と前頭葉)」だ。
本書は、このサンドグレンの説にヒントを得て、脳の各層の働きを解説する。脳の仕組みをイメージしやすくなり、日常生活において脳がどのように働いているか、よくわかるはずだ。(つづく)
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(レーナ・スコーグホルム)
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