パワハラする人の脳は危険な状態にある…行動科学の研究者が「そんな相手は理性のないワニだと思え」という理由
プレジデントオンライン / 2025年1月9日 17時15分
※本稿は、レーナ・スコーグホルム著、御舩由美子訳『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■テイスティングの段階では「ヒト脳」だったが…
(前編からつづく)
では、ディナーパーティに戻ろう。最初の場面は、ワインの分析だ。
分析能力は、脳の最も新しい層にある。この層は、私たちをホモサピエンス、つまり人間たらしめている場所だ。ここは新皮質(大脳皮質)と前頭前皮質(前頭葉)からなっている。覚えやすいように、また説明しやすくするため、この新しい領域を「ヒト脳」と呼ぼう。
テイスティングのあとでピェテルがワインを何杯か飲むと、彼は自分の感情をどんどん解放しはじめた。自分の気持ちを頭のなかで選別することなく、あらいざらい表に出した。このコミュニケーション・モードは、脳の2つ目の層である辺縁系、つまり「ほ乳類脳」にある。
「ほ乳類脳」は感情と、それを行動に移すシステム、つまり情動のシステムをつかさどっている。ピェテルは自分の発言を深く考えず、自分の行動がどういう結果になるかも想像しなかった。また、その状況ではどんな言葉が適切か、といった配慮もなかった。これは、一時的にヒト脳が働かなくなり、感情が制御されないまま外にあふれ出た状態だ。
覚えやすいように、ほ乳類脳のことは「サル脳」と呼ぼう。
■「大脳皮質と前頭葉」「辺縁系」「脳幹」に分類される
ここで念のため書かせてほしい。人間の生命システムに名前をつけたからといって、これらの部位を決して軽んじているわけではない。それどころか、まったく逆だ。
私が本書で述べることは、人間の脳のあらゆる部位を尊重すべきだ、という考えが出発点だ。脳は、私たちの祖先を何百万年ものあいだ救いつづけてきた。私たちは、その脳を心から敬わなければいけない。脳の働きを理解して、大切に扱わなければいけない。
脳に関わる有益な知識を日常生活で存分に活かすには、覚えやすい呼び名をつけたほうがいい、というだけだ。
最後の場面はピェテルが眠っているところで、これは「逃走」のふるまいだ。このあと、ピェテルは友人を怒鳴りつけるが、これは「闘争」のふるまいだ。少し前の、友好的な態度が嘘のように消えている。
これは、サル脳がアルコールの霧に包まれて、機能が停止したためだ。このとき、ヒト脳とサル脳はどちらも一時的に機能をストップしている。まだ機能しているのは3つ目の層、脳幹だ。ここは「爬虫類脳」、または「ワニ脳」と呼ばれている。
■「ワニ脳」は生存するのに欠かせない機能
人間が無意識のうちに呼吸したり、心臓が動いたり、内臓が機能したりするのは、このワニ脳のおかげだ。生存するための基本的な機能は、ここにある。この部位は、無条件で機能しつづける必要がある。
このワニ脳が脅かされたり、過剰なストレスにさらされたりすると、私たちは「逃走」や「闘争」のモードに入る。
私たちは、ワニ脳を守るための行動をとる。仮にヒト脳とサル脳がうまく機能しなかったとしても、私たちは生きられる。でも、ワニ脳なしでは生きていけない。
ワニ脳は胎児のとき最初に発達し、一生を終えるときは最後に機能を停止する。
脳の3つの層はストレスに対しても、酒を飲み過ぎたときと同じ反応をする。ストレスが大きいと、ヒト脳はストレスの霧に包まれる。そうなると、冴えた頭で筋道立てて考えることができなくなる。また、ひどく感情的になったり、取り乱したりする。つまり、サル脳で状況を処理しはじめるのだ。
ストレスや緊張がさらに増すと、サル脳は任務を放棄してしまい、ワニ脳が私たちを支配する。そうなると自分の行動やそのときの状況は、脳の最下層にある最も原始的な領域で処理しなければならない。
■ストレスに晒されると、脳はあっさり機能停止する
研究では、ストレスに長期間さらされると脳が損傷することがわかっている。精神科医のロナルド・デュマンの知見によれば、脳の容量が徐々に減り、やがては認知機能や情動の働きにダメージがおよぶ可能性があるという。認知機能とは、知識や思考、記憶、言語、意識をつかさどる働きのことだ。この認知機能のほとんどは、ヒト脳にある。
脳は人体の指令センターで、そこに3つの部門があると考えてみよう。つまりワニ部、サル部、ヒト部だ。たとえば、私たちがワニ脳に支配されているときは、3つの部門の1つだけが機能していることになる。この場合、ほかの2つの部門は一時的に機能を停止している。
ストレスや疲労がたまっているときに、頭がうまく働かないと感じたことはないだろうか?
ある論文によれば、人体が大きなストレスにさらされると、たとえば何時間も休まずに働きつづけると、脳はあっさり機能を停止してしまうらしい。この現象を観察した研究者の1人が、トルビヨン・アケルステッドだ。
スマホの電池残量が少なくなると、画面にこんなメッセージが現れる。省エネモードに切り替えますか? この場合、あなたは「はい」か「いいえ」で答えるだろう。でも、この省エネモードが脳にもあるのを知っているだろうか?
■疲れているときあるある「言葉が出てこない」
本来使えるエネルギーよりもたくさんのエネルギーを使っていると、脳の省エネモードがオンになる。脳には、あなたの全要求に応えられるだけのエネルギーがないため、プログラムを強制的にシャットダウンしなければならない。最初にシャットダウンされるプログラムは、ヒト脳だ。その結果、論理的に考える力が働かなくなる。
そしてサルの出番となり、私たちはサル語しか使えなくなる。
ストレスを研究しているアレクサンデル・ペルスキーによると、ストレスにさらされている脳では、さまざまな領域同士の結合が弱まるため、論理的に考えることができなくなるという。実際に、この感覚を体験している人はたくさんいるはずだ。
スウェーデンの医療情報を提供するウェブサイト「ヴォードガイデン」に、こんな投稿があった。「私はひどく疲れているときに、脳のスイッチがオフになったように感じることがあります。何か考えごとをしていても、思考がぷつっと途切れたみたいで、最後まで考えることができません。見えているものを解釈するのも難しくなります。言いたいことを文章にするのもひと苦労で、言葉に詰まらないではっきり発音するのが大変です」
■話が通じない相手は「ワニ脳」かもしれない
この省エネモードは、自動的にスイッチが入る。スマホは、電池残量が少なくなると画面にメッセージが表示されるので、省エネモードにするか自分で決められる。ところが、脳が省エネモードになるとき、選択の余地はない。強制的にオンになるだけだ。
そして、ストレスが収まらないと、次の省エネモードがオンになり、サル脳もまた霧に包まれる。すると今度はワニの出番だ。ワニ脳のモードになると、私たちはワニ語しか話せなくなる。そのときの状況を処理するのに、ワニ脳しか使えなくなってしまう。脳の高次な領域にアクセスできなくなるのだ。
ヒト、サル、ワニすべての言語が使えるのは、ヒト脳にアクセスしているときだけだ。この場合、脳全体を使って、そのときの状況を処理できる。でもストレスを抱えているときは、使える言語が制限されてしまう。
職場にいるときは、ヒト脳の機能に頼り、3つすべての言語を使う必要がある。そのためには、ヒト脳にとどまれるよう、できるかぎり自分をケアすることが大切だ。
自分をいたわれば、3つの言語すべてにアクセスできる。目の前にいる顧客や同僚のモードが何であれ、つまり相手がヒト脳でも、サル脳でも、ワニ脳でも、臨機応変に対処できる。
----------
----------
(レーナ・スコーグホルム)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
初対面たった数秒で人を判断するのが妥当な理由 人間が太古の時代から培ってきた本能がそこに
東洋経済オンライン / 2025年1月9日 14時0分
-
普段温厚な人が、酔ったら突然キレだす理由…「酒で性格が豹変するタイプ」の脳で起きている危険な症状
プレジデントオンライン / 2025年1月8日 17時15分
-
自閉症の新たな治療標的として未成熟な脈絡叢を同定~メトホルミンによる自閉症モデルマウスの治療に成功
Digital PR Platform / 2025年1月8日 14時5分
-
和田秀樹「ウォーキングよりもずっと効果的」…シュッとした中高年は知っている「ヨボヨボ老後」を防ぐ方法【2024下半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2025年1月6日 7時15分
-
「睡眠不足」は記憶力、精神面、認知症リスクに影響を与える【科学が証明!ストレス解消法】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月27日 9時26分
ランキング
-
1ザ・ノンフィクション「57歳クズ芸人の婚活」をサポートした私…心から失望した“決定的な出来事”
日刊SPA! / 2025年1月9日 8時54分
-
2カルディで販売「ドライアプリコット」に使用不認可の添加物…… 企業が謝罪「心よりお詫び」 1万袋自主回収
ねとらぼ / 2025年1月8日 7時30分
-
3〈生存率15%から生還〉山﨑努が「食道がんステージ4」体験を初めて明かした《87歳で抗がん剤治療に踏み切れた理由》
文春オンライン / 2025年1月9日 8時30分
-
4ゆうちょ銀行で2025年から新設される「回収事務手数料」って何?
オールアバウト / 2025年1月7日 19時30分
-
52025年てんびん座の運勢・天秤座の占い
HALMEK up / 2025年1月5日 15時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください