どんな"勝ち組"でも威張れるのは65歳まで…和田秀樹が高齢者専門の病院で見た「孤独な老後を送る人」の特徴【2024下半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2025年1月5日 7時15分
2024年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお届けします。老後部門の第4位は――。
▼第1位 「ゴミ屋敷になる家」は風呂場でわかる…老後のひとり暮らしが破綻する人に共通する「ゴミ屋敷化のサイン」
▼第2位 尿パックの管が外れてグショ濡れ、枕元に便の塊…壁を茶色に汚した老義母を巡り長男嫁が夫に吐き捨てた台詞
▼第3位 「白い歯に血が固まった茶色がびっしり」ひどい痛みを耐え抜いた50代夫…逝く前の"死前喘鳴"聞いた妻の胸の内
▼第4位 どんな"勝ち組"でも威張れるのは65歳まで…和田秀樹が高齢者専門の病院で見た「孤独な老後を送る人」の特徴
▼第5位 なぜ「がんは幸せな病気」と言われるのか…末期がんの森永卓郎さんが「そのとおり」と実感するワケ
※本稿は、中尾ミエ、和田秀樹『60代から女は好き勝手くらいがちょうどいい』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■「若い頃に勝ち組だった人」は幸せなのか
【和田秀樹(精神科医)】どの年代のときに勝ち組だったかで、その人の生き方もかなり変わりますよね。
20代はすごい勝ち組だったのに年を取るほどに落ち目になる人と、若い頃はそうでもなかったけれども年を取るほどに人気が出る大器晩成型みたいな人もいる。どっちがいいかというと、やっぱり私は後者じゃないかなと思いますね。
私も27歳くらいの頃に出した受験に関する本がベストセラーになったのですが、その後はあまり冴えなくて、結局、60代に入ってから『80歳の壁』という本がものすごく売れて、仕事が急に増えました。こういう人生のパターンのほうが、きっと生き残りやすいのではないかなと思います。
だから若い人たちも今すぐ売れたいとか、早く出世したいとか、あくせくするよりも、年を取ってから成功したほうが、その後の人生も長いから得だよと言ってあげたいですね。
【中尾ミエ(歌手、俳優)】でも、若い頃の特権というものもありますでしょう。今さえよければいいと思うのが若さでもあります。「そのときはそのとき」というように、年を取ったときのことなんかまず考えません。私も人生の後半について、切実に考えるようになったのは、60代になってからでした。
【和田】私自身、先ほど申し上げたような人生観に変わったのは、浴風会(よくふうかい)病院という高齢者専門の病院が杉並区にあって、そこで働いた経験があったからです。もともとは、関東大震災の際に家族を亡くし、介護など身の回りの世話をする人がいなくなってしまったお年寄りのための救護院として、皇后陛下(貞明(ていめい)皇后)の御下賜金をもとに作られた、日本初の公的な養老院が始まりでした。
■「ただ偉いだけの人」は孤独になっていく
【和田】稲田龍吉という旧東京帝国大学の教授が、そういう施設を作るならば、高齢者向けの医学・医療を日本にも確立しようと附属の診療所を設置しました。
当時の日本人の平均寿命は44歳くらいとされていますし、長生きできる人もそんなに多くはありませんでした。にもかかわらず、世界的に見ても老年医学がほとんどなかった時代に、あえてそうした施設を作ろうとした、稲田先生という人物の慧眼(けいがん)には、本当に驚きます。
その浴風会病院に、私も足掛け9年ほどいたのですが、お年寄りについて、さまざまなことを学ばせてもらいました。
わりと社会的に地位があった人が入院してくるのですが、そういう偉い人でも部下にまったく慕われていない人もいれば、反対にとても慕われている人もいる。認知症でうまくコミュニケーションがとれなくても、見舞客が途絶えない人もいますし、私でも名前を聞いたことがあるようなかつて傑物だった人なのに、誰も会いに来ない、本当に孤独な人もいました。
若い頃に上にばかり媚びて、下を大事にしてこなかった人は、人生の最期を気の毒なかたちで送ることになる。反対に下の人を可愛がってきた人というのはさまざまな人に慕われたまま人生の最期を迎える。そういう有様を見たときに、今の出世よりも、年を取ってからのことを考えて生きなければと思いましたね。
■肩書が通用するのは65歳まで
【中尾】それもある程度の年齢にならないとわからないことですね。
【和田】運が良かったのは、私はその病院に28歳から勤めたので、かなり早くからそういう悟りのようなものを人よりも早く感じ取ることができた。東大医学部のようなところは、みんな、偉い医者になろうとして教授とか肩書きを欲しがる人間が多かった。肩書きなんかにこだわりだすと、せこい競争が生まれるんですよね。たとえ教授になっても、それが通用するのはせいぜい65歳までだなと浴風会病院にいたときに思えたから、それは私の人生にとっては大きな転機になりましたし、今でもよかったと思います。
【中尾】普通はある程度の年齢になって、人生経験のなかで、つまずきがあったりしないとなかなか気がつけないですよね。
【和田】逆に順風満帆な人生で、65歳まで出世し続けて、社長になったり大臣になったりするような人のほうが、そういう人間関係のあり方をわからないかもしれない。でも、中尾さんはキャリア的にはあまりつまずいたことがないんじゃないですか。
【中尾】思い返してみると、若い頃から年上の人とよく話をしていたから、私の周囲には、気づかせてくれる人がいたのかもしれません。
■60代以降こそ、失敗を恐れてはいけない
【和田】若くして早くに売れてしまった人は、多くの場合、そのままずっとうまくいき続けるなんて、そうはないんじゃないかな。
【中尾】私たちの時代かもう少し下の世代の人たちは、今が楽しければいいという風潮になってきていました。私はもう少し年を取っていたから、「うまいことはそう続くものではないよ」などと思っていました。やはり上の世代がいろいろと教えてくれたことが大きかったと思います。
【和田】それは大事なことですね。
【中尾】とにかく、60歳になったら守りに入ってはダメだと思います。失敗を恐れないでほしい。そもそも失敗をしなければ学べませんから。失敗がいちばんの勉強だと思います。
【和田】60代以降、年を取っていちばんいいところは時間があることですよね。たとえば、行列のできるラーメン屋に1時間並んで実際に食べてみて不味かったという経験も“失敗”です。でもそういう失敗ができるのが、年寄りのいいところですよね。
現役バリバリの若い頃に1時間を無駄にしたらもったいないと思ってしまうし、若い頃はとかくプライドもあって、失敗したくない気持ちが勝ってしまいがちですから。年を取ってからは損をするのは時間だけですからまったく問題ない。お店選びに食べログの点数だけを当てにするのはやめようとか、学びだけがある。
■重要なのは同じ失敗を繰り返さないこと
【和田】大事なポイントは、失敗をしてはいけないのではなくて、同じ失敗を繰り返さないことなんだと思います。
エジソンが「私は失敗したことがない。1万通りのうまくいかないやり方を見つけただけだ」なんて言ったように、うまくいかないやり方を見つけたんだと考える人は、その失敗を生かすことができる。それが失敗から学べる人です。
1時間並んでラーメンが不味かったら、次また1時間並んだりしないことですよ。そうやって学ぶことで、あれはダメだよと人に教えてあげることもできますしね。だから、逆に言えば、失敗しないと学ばないわけですよね。
【中尾】失敗してもいい、むしろどんどん失敗して、経験を積んだほうがいいと思います。
【和田】年を取ると若い頃よりもはるかに失敗が許されますしね。
【中尾】何を「失敗」と受け取るかにもよります。たとえば、人から着ている服が似合わないと言われても、自分が気に入っているなら、もう好きに着ればいいと思います。「あなたが着てるわけじゃないんだから」と、そこまで本当に開き直ってしまえば、年を取ることはかなり楽です。楽しもうと思えば、いくらでも楽しめるのではないでしょうか。
【和田】迷ったらやるってことですね。
■「60歳を過ぎたら人生終わり」と考えてはいけない
【中尾】声を大にして言いたいのは、60歳を過ぎたからってまだまだ人生終わりじゃないということ。そう思ってしまうことがもったいないくらい、力も時間も余っているでしょうと言いたいですね。「もう自分の人生は終わった」だなんて言うなら、人のために働いてもらいたい。命を無駄に過ごすのはもったいないですね。
【和田】実は年を取っても、やれることはたくさんある。やらないのがもったいないくらいですよ。自主規制ではないけれども、自分で自分を縛っている人が多いですよね。
【中尾】失礼だけれども、そういう人はきっと経験が足りないんだと思います。若い頃にいろんなことを経験していれば、今ならできるということがけっこうあるのではないでしょうか。しかし、そういう経験をしてこなければ、それができない。やれることと言っても、実はやったことがないことがたくさんあるはずです。そこに目を向けないともったいないと思います。
■とにかく「自分でちゃんと経験する」ことが大切
【和田】0から1にすることがとても大事ですよね。何もやったことがない人は何をするにも怖いと思う。でも失敗してもいいからと思って1回でも踏み出してみれば、意外と「失敗しても大したことないな」とか、「成功してけっこううれしいな」とか。人から聞いた話ではなくて、自分でちゃんと経験することが大事ですね。
【中尾】私はそれこそ50過ぎてからいろんな習い事を始めた人間です。それまで経験せずにいたことがたくさんあったから、とりあえず、やったことがないことに次から次へと手を出してみました。若い頃に自分は苦手だと思っていたことにも積極的にチャレンジするようにしました。
【和田】なんでもうまくならなければいけないと思うとできなくなりますから、下手のままで終わってもいいと思って、やればいいと思いますよ。
(初公開日:2024年9月27日)
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歌手、俳優
1946年生まれ。62年のデビュー曲「可愛いベイビー」が大ヒット。以降、コンサート、TVドラマ、バラエティ、舞台、映画など幅広いジャンルで活躍する。著書に『76歳。今日も良日 年をとるほど楽しくなる70代の心得帖』(アスコム)。
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精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(歌手、俳優 中尾 ミエ、精神科医 和田 秀樹)
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