徘徊・行方不明時の捜索には顔写真よりもこれが役に立つ…認知症の親がどこかへ消えてしまうのを防ぐ方法
プレジデントオンライン / 2024年12月29日 10時15分
※本稿は、上大岡トメ『マンガで解決 親の認知症とお金が不安です』(主婦の友社・監修:杉山孝博、黒田尚子)の一部を再編集したものです。
■認知症の人の気持ちを想像できれば対処方法が見つかり介護もラクに
認知症介護がつらくなるのは、認知症の人の行動が「理解できない」からではないかと思います。病気の特性のために不可解な言動をしますし、こちらがどんなに丁寧に説明してもわかってもらえません。しかもひどいもの忘れだけでなく、お金や物に対する異常なまでの執着や、出かけたら戻ってこない「徘徊」(道迷い)、介護者への暴言、たび重なる失禁など、認知症からくる症状はさまざまで、しかも個人差があります。どうすればいいかの正解はありません。
一つだけいえるのは「その行動には理由がある」ということです。脳の疾患からくるものもあれば、周囲の人の言動が影響しているものもあります。理由に合わせて対応することで「介護が驚くほどラクになった」という声はよく耳にします。
たとえば、夜中になると目を覚まし、家族をわざわざ起こす認知症の人がいます。夜に起こされる家族は大変なストレスですが、これは認知症による見当識障害で、自分は今どこにいるのかわからなくなったせいだと思われます。あなただって、深夜に真っ暗闇の中で目を覚ましたとき、まったく見知らぬ部屋だったらどうでしょう。こわくて家族を起こしてしまうのではないでしょうか。その恐怖が理解できれば、部屋に明かりをつけておく、目に見える場所に家具を配置する、ラジオを小さな音で流すなど、いろいろな対応策が考えられるのです。
でもそれは認知症に限ったことではないでしょう。私たちはこれまでに何度も「理解できない」「どうして○○なの?」と、人間関係にとまどってきた経験があるはずです。そしてそのつど相手の立場や状況、気持ちを思いやりながら乗り越えてきました。認知症の人との関係だってそれは同じなのです。そして親の気持ちに思いを寄せたとき「お母さん(お父さん)は何も変わらないんだ」と実感することも多いはずです。
・人間関係は相手の気持ちを察し、思いやることから始まる。
・「理由」がわかるようになれば介護もぐんとラクになる。
・理解できないときには「認知症だからしかたがない」と割り切る。
■アンケートより 「認知症の親の介護つらかった場面は」
父が行方不明に
父は神奈川県在住だが、東京都内に出たときに行方不明になった。捜索願を出したが翌日になっても見つからず、半分絶望的な気持ちになっていたら、夜9時に父が玄関に何も言わずに座っていた。都内で行き先がわからなくなり、目的地を求めてずっと歩き回っていたらしい。「心配しているとは思ったんだけど、番号がわからなくて電話できなかったんだ」と子どものように言う父を見て涙が出た。[さえさん/56歳]
羞恥心がなくなる
認知症になった母は、食べ物とお金への執着が強くなってしまった。おなかがすくとゴマ塩や調味料をなめたり、ケーキを手づかみで食べたり。ペットのエサを「人間は食べちゃだめなの?」と真顔で尋ねてきたときは、本当につらかった。明細書や通帳を何時間でも見続ける姿は異様で、悲しい。[らのさん/56歳]
母の嫉妬・妄想がキツい
亡くなった母は、70歳のころから嫉妬や妄想が強くなり、財布の中を何度も確かめ、暴言を吐き、昼夜逆転の症状が出てきて、アルツハイマー型認知症と診断された。いちばんつらかったのは、弟のお嫁さんの母と、自分の夫(私の父)の関係についての嫉妬・妄想を聞かされることだった。身内はもちろん友人にも相談できなかった。[モンブランさん/58歳]
兄妹のトラブルに発展
認知症の義母の介護にあたって、よく話し合わずに義妹をキーパーソンにしてしまった。大事なことを他人まかせにする義母は、義妹夫婦に都合のいい遺言書を作ってしまった。義妹は兄(私の夫)に新しい遺言書を作らせないために成年後見人として家裁に申請。結局、弁護士が保佐人となったが、義母の財産は義妹がすべて預かっている。[人生いろいろさん/61歳]
被害妄想が強くなる
趣味の陶芸教室で「自分の作品を盗られた」と言い始め、アルツハイマー型認知症と診断された母。その後もお金に強い執着を示し、母の通帳や株式などの管理はさせてもらえない。その一方で、本人は大きな家具やお墓にお金を使いたがる。これまで自分のことはあと回しで家族のために生きてきた母。本当は自分を大切にしてほしかったんだろうし、もっと自分のためにお金を使いたかったんだろう。[M・Iさん/58歳]
大好きだった祖母の変化
祖母は誰にでもやさしくて、怒ることもほとんどなく、私は祖母が大好きだった。でも認知症になってからは「お金がない」「アクセサリーがない」「盗ったのはお前だろう」と目をむいて怒り、私も感情にまかせて反論してしまった。父にグチを言うと、私の話を最後まで聞いたうえで「でも病気だからね」と諭してくれた。父は懐が深い。父が認知症になったとき、同じことができるだろうか。[はなしんごさん/36歳]
■認知症の行方不明者は年間1万8700人余り…行方不明の77%は当日発見
「ある日突然!」への備えが必要です
認知症の行方不明者が10年で2倍と急増しています。2022年の1年間で届け出があった認知症の行方不明者は1万8709人と過去最多でした。ただし、これはあくまで捜索願が出された人ののべ数で、そのうちの96.6%にあたる1万7923人は無事に見つかっており、8割近くが当日中に発見されています。残念ながら、亡くなった状態で発見された人も491人にのぼります。
行方不明の原因とされるのが「徘徊」です。徘徊とは本来、目的もなくふらふら歩くことをいいますが、認知症の人の多くは「買い物に行く」「家に帰る」などの目的をもって行動しています。しかし認知機能が低下しているため、道に迷ったり目的を見失ったりし、人に聞くこともできず、気づけば驚くような場所に移動しているのです。
「家族が監視すべき」は大まちがい
「徘徊」は認知症が進んだら起きると思われがちですが、行方不明者の中には認知症と診断されていない人やごく初期の人も多く、「本人も家族もびっくりした」という声はよく聞きます。ですから「ある日突然、行方不明になるかもしれない」という前提で準備しなくてはいけません。
それは「家から出さない」ということではなく、どこに行っても見つけられる準備をするということです。たとえば「徘徊」があってもなくても、いつも持ち歩くバッグや財布などに緊急連絡先の書いたカードなどを入れておきたいものです。自治体の窓口でヘルプマーク(赤字に白い十字とハート)をもらったり、ヘルプカードを活用したりすると、周囲のサポートも受けやすくなります。
外出時の全身写真を撮っておく
頻繁にひとり歩きをする、道に迷ったことがあるという場合には、各自治体の「SOSネットワーク」に登録しましょう。行方不明になったときに警察だけでなく、役所や介護職、地域の人などさまざまな人が協力して探してくれます。
バッグや杖などにネームタグをつけておけば、保護されたときの連絡がスムーズです。身元情報をQRコードにしたシールや迷子札を作ってくれる自治体もありますし、ネットなどで注文も可能です。手ぶらで出ていく人は靴や服に貼りつけましょう。居場所を確認するためのGPSもいざというとき役立ちます。自治体でレンタルできる場合もあります。
意外に盲点なのは、行方不明になったときに提出する写真の準備です。捜索に役立つのは、顔写真より普段歩いている姿がわかる全身の写真です。出かけるときの親の姿を、季節ごとに撮っておきたいものです。
杉山孝博
川崎幸クリニック院長
社会医療法人財団石心会理事長。1947年、愛知県生まれ。1973年東京大学医学部卒業。患者さんとその家族とともに50年近く地域医療にとり組む。1981年からは公益社団法人 認知症の人と家族の会の活動に参加。認知症グループホームや小規模多機能型居宅介護の制度化や、グループホームなどの質を評価する委員会などの委員や委員長を歴任。『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、『認知症の人の心がわかる本 介護とケアに役立つ実例集』(主婦の友社)など著書、監修書多数。また監修・出演した映画『認知症と向き合う』(東映教育映像)も、わかりやすいと大好評。
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イラストレーター
東京生まれ、横浜(上大岡周辺)育ち。現在は山口県在住。1級建築士、ヨガインストラクターでもある。世の中の難しいことを、わかりやすくマンガとイラストで描くことがなりわい。著書『キッパリ!たった5分間で自分を変える方法』は、130万部超のミリオンセラー。『老いる自分をゆるしてあげる。』『遺伝子が私の才能も病気も決めているの?』(ともに幻冬舎)など著書多数。『マンガで解決 親の介護とお金が不安です』(主婦の友社)も好評大増刷中。
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(イラストレーター 上大岡 トメ)
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