連休明けの「会社に行きたくない」は要注意…産業医が指摘「急性のメンタル不調」の放置で起きるリスク
プレジデントオンライン / 2025年1月5日 17時15分
※本稿は、薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■メンタル不調の代表格「適応障害」を甘く見てはいけない
「適応障害」はストレス反応として起こる“急性”のメンタル不調であって、クリニックで診ている患者さんは、皆さん、3カ月ほどで治療を卒業していきます。早い人であれば、1カ月や2カ月で良くなり、元の生活に戻ることができます。
ただし、何の対処もせずにいると、脳そのものが疲弊して他の精神疾患に移っていくこともあるので、軽んじてはいけません。病気ですから、やっぱり治療が必要なのです。その第一歩は、適切なタイミングで「休む」ということです。
適応障害になると、周りから見ても「ちょっとおかしいな」「何かいつもと違うな」と気づくところが出てきます。
元気がなさそう、イライラしてそう、疲れてそうといったことのほか、睡眠が乱れて朝決まった時間に起きられないために遅刻が増えたり、無断欠勤が増えたり、その反面、残業や休日出勤が不釣り合いに増えたり。また、髪型や服装などの見た目に「あれ?」という部分が出てくることもあります。
仕事のなかでは、ミスが目立つようになったり、報告や相談、職場での会話がなくなったり、返事が単調になったり、逆に多弁になったりという変化も、メンタル不調のサインの一つです。
■社員が休むことは「権利」であり、企業にとっては「義務」
私は産業医として管理職の方を対象にメンタルヘルスケアセミナーをさせていただくことがあります。そういうときには「気づいて、聴いて、つなげてほしい」と、いつもお願いしています。
身近な上司の方は、メンタル不調を早期発見する要。部下の様子が「何かいつもと違う」と気づいて、それが業務に影響しているようでしたら、まずは本人からじっくり話を聴いて、人事や産業医につなげていただきたいのです。
適応障害の場合、ストレスから離れることが治療の第一歩であり、休むことが治療になる、と書きました。それでも、休むという選択肢をとることは勇気のいることだと思います。特に数日間の有給休暇ではなく、月単位の休職となるとためらう人は多いでしょう。
でも、働く人にとっては体調を整えるために休むことは「権利」であり、企業にとっては従業員の健康を守るために休ませることは「義務」なのです。
■多くの企業がメンタルの不調でも休めるようルール設定
そもそも休職とは、雇用契約は維持したまま、一定期間、労働の義務を免除してもらうことです。労働基準法などの法律に定められているわけではなく、あくまでもそれぞれの企業が就業規則で定めているものですが、多くの企業では、「体調不良などで働くことができないときには休みましょう」というルールを設けています。
例えば、厚生労働省が公表しているモデル就業規則には、次のような項目があります。
(休職)
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤が「○」カ月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき=「○」年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき=「必要な期間」
(厚生労働省「モデル就業規則令和5年7月版」より)
つまり、体調不良で仕事ができないということは、就業規則上の労働契約をそもそも果たせないわけですから、しっかり休んでまずは体調を整えましょう、ということです。
■労働者の健康は「労働安全衛生法」などで守られる
一方、企業側には、労働者の心身の健康と安全を守るために配慮しなければいけないという「安全配慮義務」が法律で課されています。
労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働安全衛生法 第3条(事業者等の責務)
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
健康問題を抱えている従業員がいれば、会社は安全配慮義務を果たさなければなりません。そのため、そのまま働き続ければさらに健康を害するリスクがある人には、産業医などを通して「一旦休んで、しっかり体調を整えてから戻ったほうがいいのではないですか?」と休職を提案するのです。
この安全配慮義務は、会社の規模は関係ありません。たとえ、従業員50人未満の産業医の選任が必要でない小さな会社でも、安全配慮義務を果たさなければいけないことは同じです。
ですから、どんな会社に勤めている人も、健康上のリスクを抱えているときには休む権利があり、会社は休職を認めて健康を守る義務があるのです。
■メンタル不調でも、ケガや病気なら仕事を休めるのと同じ
「休職とは」ということをおさらいすると、休職には2つのパターン、意味があります。
① 就業規則上の労働契約が果たせない場合は休職する
② 法律上の安全配慮義務を果たすために、企業は必要に応じて従業員を休職させる
体の病気で考えてみると、分かりやすいでしょう。
例えば、東京で会社に勤めている人が北海道を旅行中に足を骨折して、そのまま旅先の病院で入院したとします。足を骨折して入院しているわけですから、当然、出社して仕事をすることはできません。
つまり、①の就業規則上の労働契約は果たせません。また、②の観点からも、骨折した足で会社に来られては転倒のリスクもあって危ないので、今すぐ東京に戻って出社しろ、なんて話にはもちろんなりません。骨折が治るまで休みましよう、となります。
あるいは、血圧が200ぐらいある人が夜勤のある仕事をしていたとします。そこまで血圧が高いと脳卒中や心筋梗塞を起こすリスクが高いので、産業医としては絶対に見過ごせません。
まずは日中の業務に配置転換することを提案しますが、職場によっては難しいこともあるでしょう。その場合、従業員の健康を守り、労働災害を防ぐには「一旦休んでしっかり体調を整えて血圧を下げてからまた働いてください」と、休職を勧めます。
■産業医に「いったん休職しましょう」と言われたら…
このように、体の病気であれば、①や②の理由で休職になることはスッと腑に落ちるのではないでしょうか。ところが、ことメンタルの話になると、なぜか躊躇(ちゅうちょ)してしまう人が多いのです。日本人はなぜか、心の不調や病気に対しては抵抗感がぬぐえず、自分が悪い、自分のせいと思ってしまう人が多いものです。
でも、体の病気でも、心の病気でも考え方は同じです。むしろ、先の骨折の例であれば、最近はリモートワークが広がっているので、骨折していても家で働けるなら働いていいですよ、と逆に休職にはならないかもしれません。
いずれにしても、体調不良のために仕事ができず、そのまま働き続けたら健康が損なわれるリスクがあるのなら、ひとまず休みましょう。その体調不良の原因が何であれ、です。
極端な話、上長のパワハラであろうが、親の介護が大変であろうが、転職したばかりで環境や仕事になじめないでいようが、同じなのです。理由は何であれ、例えば眠れないという事実があって、そのせいで朝起きられない、日中にウトウトしてしまうなど仕事に支障が出ているのなら、就業規則上の労働契約を果たせません。
また、寝不足の状態で出社されれば危ないですし、気分の落ち込みなどがさらにひどくなると最悪のケースにつながる恐れもあります。そうしたことを考えると、会社としても困ります。
ですから、理由は何であれ、これまでと同じように働けない状態があるのなら、休みを取って心と体を整えることが先決です。
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産業医・心療内科医
1988年東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、徳島大学医学部に入学・卒業。認定産業医、認定スポーツ医、健康運動指導士、健康運動実践指導者。大手企業の産業医として日本オラクルのほか、10社以上の産業保健業務に従事。2023年より、ビジネスパーソンのための内科・心療内科「Stay Fit Clinic」を開設し院長を務める。
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(産業医・心療内科医 薮野 淳也 構成=橋口佐紀子)
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