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「ついにナイキ王国落城へ」箱根駅伝の厚底戦争で新首位候補の"2社"が完全包囲…投下するエゲつない新ギア

プレジデントオンライン / 2025年1月1日 9時15分

アシックス「METASPEED SKY PARIS」 - 画像=プレスリリースより

2025年の箱根駅伝を制するのはどの大学か。レースの行方とともに、毎年注目されるのが選手が履くシューズだ。ナイキが2017年に厚底を投入後、ずっとシェア率のトップを突っ走ってきたが、最近はライバル社も猛追している。スポーツライターの酒井政人さんがシューズ戦争の最新事情を報告する――。

■箱根駅伝「ナイキ王国」は落城するのか

国民的行事となっている箱根駅伝。近年は箱根ランナーたちが着用するシューズも注目を浴びており、スポーツブランドの“戦い”が過熱している。

ナイキが2017年に反発力のあるカーボンプレートを軽量でエネルギーリターンの高いフォームで挟んだ“厚底シューズ”を投入すると、シューズ革命が起こった。駅伝やマラソンのタイムが大幅短縮したのだ。

箱根駅伝を走る選手のシューズシェア率は2018年大会からナイキがトップを独走。2021年大会では95.7%(210人中201人)に到達して、1社独占のような異常事態となった。

その間、他社もカーボンプレート搭載の厚底モデルを開発。近年はナイキの圧倒的優位が崩れている。

前回の2024年大会(記念大会で230人が出場)はナイキが42.6%(98人)でトップを守るも、アシックスが24.8%(57人)まで上昇。アディダスも18.3%(42人)と肉薄。さらにプーマが8.7%(20人)と大躍進した。他にもミズノ(5人)、オン(3人)、ホカ(2人)、ニューバランス(1人)、アンダーアーマー(1人)、ブルックス(1人)がいて、過去最多となる10ブランドが新春の舞台を駆け抜けた。箱根駅伝のシューズシェア争いは“群雄割拠”の時代に入ったと言っていいだろう。

そして2025年大会。「ついに王者・ナイキが首位から陥落する」。そんな予測も出てきた。では、新王者はどこか。候補はアシックスとアディダスだ。

■V字回復を実現しつつあるアシックス

アシックスは2017年大会でシェアトップだったが、2021年大会でまさかの0人。かつての王者が屈辱的な大惨敗を喫した。崖っぷちに立った同社は2019年11月にトップアスリートが勝てるシューズを開発すべく各部署の精鋭を集めた社長直轄組織「Cプロジェクト」を発足。2021年3月にランナーの走り方に着目した「METASPEED」シリーズを発売した。

ストライド型(歩幅を伸ばすことでスピードを上げる)のランナーに向けた「SKY」と、ピッチ型(ピッチの回転数を上げることでスピードを上げる)に向けた「EDGE」の2種類があり、ともにストライド(歩幅)が伸びやすい仕様になっている。

同モデルを履いた当時33歳だった川内優輝が、25歳の時に出した自己ベスト(2時間8分14秒)を大幅に塗り替える2時間7分27秒をマーク。「METASPEED」が脚光を浴びるようなると、アシックスが反撃を開始した。

箱根駅伝は2022年大会でシェア率を11.4%まで取り戻して、2023年大会で15.2%にアップ。前回大会で24.8%まで引き上げて、ナイキの背中がグンと近づいてきた。

今年3月にはパリ五輪を前に「METASPEED PARIS」シリーズを発売。新採用された「FF TURBO PLUS」というミッドソール素材が従来素材と比較して、約8.0%軽く、反発性は約8.2%、クッション性は約6.0%向上した。その結果、「SKY」は約20g、「EDGE」は約25g軽くなった。また「SKY」はカーボンプレート前足部の幅を拡大、「EDGE」は前足部の厚みを3mm増加させたことで反発性がアップした。

今季の学生駅伝は前年と比べて、10月の出雲駅伝で4.4%、箱根予選会で7.6%、全日本大学駅伝大会で2.7%も着用率がアップ。先日行われた全国高校駅伝でもアシックスの着用者が目立っていた。

■アディダスは8万円スーパーシューズに注目

前回の箱根駅伝は青山学院大が往路をぶっち切ると、復路も独走。優勝の立役者となったのが、花の2区で区間賞を獲得した黒田朝日と、3区で日本人最高記録を叩き出した太田蒼生だ。このふたりは8万2500円(税込)のスーパーシューズ「アディゼロ アディオス Pro EVO 1」で爆走。従来のレース用シューズより40%軽い片足138g(27.0cm)という超軽量モデルが彼らのポテンシャルを引き出した。

「抜群に軽さが違っていて、履いていても、シューズが気にならないくらいに軽いんです。僕はなかなかすごいペースで入ったんですけど、後半に何回も仕掛けることができた。脚に余力があったのは、シューズのおかげでもあるのかなと思います」と太田は振り返っている。

「アディゼロ アディオス Pro EVO 1」は大量生産が困難なモデルで、前回大会の着用者は3人しかいなかった。徐々に有力選手への提供も進んでおり、着用者が大幅に増えそうだ。今大会でもレースの命運を左右する存在になるかもしれない。

アディダスは最新のレーシングモデル「アディゼロ アディオス プロ 4」を11月27日、世界に先駆けて日本国内限定で先行発売した。箱根駅伝ではこちらが主要モデルになるだろう。また國學院大のエース平林清澄(4年)はさほどソールが厚くない「アディゼロ タクミ セン ナイン」を愛用している。

アディダス「アディゼロ アディオス プロ 4」
画像=プレスリリースより
アディダス「アディゼロ アディオス プロ 4」 - 画像=プレスリリースより

アディダスは2025年の箱根駅伝で「ブランドシェアNo.1」を目標に掲げているが、正月決戦の前哨戦ともいえる11月の全日本大学駅伝(関東15校)のシューズシェア率はナイキの32%に迫る28%だった。

前年(59%)を27ポイントも下落したナイキに対して、アディダスは前年を8ポイントも上回った。またプーマも前年の6%から17%に伸ばしている。

プーマは全日本大学駅伝での着用者が2021年0人、2022年3人、2023年10人、2024年22人と右肩上がり。箱根駅伝でも着用者が倍増するだろう。山口智規(早稲田大3)、斎藤将也(城西大3)、青木瑠郁(國學院大3)、馬場賢人(立教大3)らレースのカギを握る選手が着用予定で、新たなドラマをつくるかもしれない。

プーマ「EKIDEN GLOW PACK」
画像=プレスリリースより
プーマ「EKIDEN GLOW PACK」 - 画像=プレスリリースより

■王者ナイキはどう対抗するのか

最近はアディダス、アシックスらに押され気味のナイキだが、世界の舞台では結果を残している。昨年9月のベルリンマラソンで「アディゼロ アディオス Pro EVO 1」を履いたティギスト・アセファ(エチオピア)が2時間11分53秒の世界記録(当時)を打ち立てて、関係者を驚かせたが、今年10月のシカゴマラソンでその記録を今度は「ナイキ アルファフライ 3」を着用したルース・チェプンゲティチ(ケニア)が2時間9分56秒という驚異的なタイムで塗り替えたのだ。

ナイキが現在販売中の最新レーシングシューズは「アルファフライ 3」と「ヴェイパーフライ 3」というモデルだ。しかし、ナイキは水面下で「ヴェイパーフライ 4」と思われる一般発売前のモデルを一部選手にプッシュしているようで、その影響がどれぐらいあるのか。

ナイキ「アルファフライ 3」
画像=プレスリリースより
ナイキ「アルファフライ 3」 - 画像=プレスリリースより

それから前回の箱根駅伝で3人が着用したオンにも注目したい。全日本大学駅伝は5人の選手がオンのシューズで出走。国内ではまだ未発売の「Cloudboom 4」というモデルを着用した駒澤大・篠原倖太朗(4年)が7区で青学大・太田蒼生(4年)、國學院大・平林清澄(4年)らを抑えて、ハイレベルの区間賞をゲットした。

また全日本大学駅伝では3区でトップを突っ走った青学大・折田壮太(1年)、創価大・吉田凌(4年)という実力者もオンを着用していた。ふたりが使用していたシューズがまた斬新だった。今年7月に発表した最新テクノロジーを搭載した「Cloudboom Strike LS」というモデルになる。

On「Cloudboom Strike LS」
画像=プレスリリースより
On「Cloudboom Strike LS」 - 画像=プレスリリースより

自動化されたロボットアームで素材をスプレー噴射することで、接着剤フリーのつなぎ目のないアッパーを実現。超軽量の立体成型のため、極薄でシームレスなつくりで靴紐なしで着用できる。とにかく足へのフィット感が抜群で、サポート性を発揮。インソールも中敷きもなく、足が直接ハイパーフォームに接するため、エネルギーのロスも少ない。ビジュアル面でも目立つ“近未来シューズ”で快走する選手が出てくると一気に話題になりそうだ。

王座奪還を目指す駒大のキーマンとなる佐藤圭汰(3年)もオンを着用する可能性が高い。前回はシューズシェア率が1.2%(3人)だったブランドが、箱根駅伝2度目の登場で強烈なインパクトを残すかもしれない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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