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あの戦争、あの紛争はバイデン時代に始まった…橋下徹「なぜ西側リーダーは"トランプ大統領"でなければならないか」

プレジデントオンライン / 2025年1月6日 16時55分

1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最近の著作に『政権変容論』(講談社)、『情報強者のイロハ』(徳間書店)などがある。 - 撮影=的野弘路

元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「有事のリーダー」です──。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2025年1月17日号)の掲載記事を再編集したものです。

■Question

今の世界情勢が求めるリーダーの資質とは

アメリカの次期大統領にドナルド・トランプ前大統領が返り咲きます。「アメリカにおける民主主義の終焉」を嘆く声も多い中、橋下さんは世界情勢を鑑み、トランプ氏の再登板をむしろポジティブに評価していますね。有事のリーダーに必要な条件とは?

■Answer

正論の前にウクライナ市民の命や生活を守れ

時代や環境によってリーダーに求められる資質は変わります。平時に理想的なリーダーと、有事にふさわしいリーダーは違うのです。今の世界は「乱世」とまでは言えなくても、少なくとも「平時」ではないでしょう。ためしに周辺諸国のリーダーを並べてみると、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩総書記と、いずれも一筋縄ではいかないツワモノぞろい。この顔ぶれを見てすぐにわかるのは、先進国の学校秀才タイプのリーダーでは到底太刀打ちができない、ということです。この時代にアメリカ国民が再び政権をトランプ氏に託したのは、自然だし賢明な選択だったと思います。

ニューヨーク・タイムズスクエアでの大統領選挙トランプ対ハリスのライブオッズ
写真=iStock.com/Gabriele Maltinti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Gabriele Maltinti

だって、西側諸国のリーダーの中で金正恩氏と一対一の会談を行い、一緒にアイスを食べるなんていうことができるのはトランプ氏くらい(笑)。プーチン大統領でさえ、トランプ氏が相手ならウクライナ問題で交渉のテーブルに着くでしょう。味方からもライバルからも読めない男、しかしディール(取引)はできる相手。それがトランプ氏です。あまたいる世界の強権リーダーたちも今後のトランプ対策に戦々恐々としているのではないでしょうか。

第1次トランプ政権時代(2017〜21年)を思い出してみてください。世界のどの地域でも大規模紛争は起きていませんよね。逆にトランプ氏の退陣後、民主党のバイデン政権下で頻発しています。21年にアフガニスタンからの米軍撤退で失態を演じて以降、ロシアによるウクライナ侵攻(22年〜)や、イスラエルと武装組織ハマスの戦い(23年〜)といった悲惨な紛争が起きてしまいました。

ところがリベラル派の知識人はもちろん、保守派のイケイケ政治家も言論人も、日本に住んでいるアメリカ出身のコメンテーターたちも、そうした現実を直視しようとしません。トランプ氏の勝利を「民主主義の終焉」、ひどい場合は「正気が狂気に負けた」と発言したりする。これは日本に限らず先進国に共通した現象です。

アメリカ国民に対して随分と失礼な話ですよ。25年からアメリカは大統領のほか連邦議会の上院・下院で共和党が多数派を占める「トリプルレッド」状態になります。これはアメリカ国民が真剣に考え投票した末の結論です。4年間の民主党政権に「否」の判断を下したわけで、それを「狂気」呼ばわりすることは、それこそ民主主義の否定・終焉です。

■大事なのは理念ではなく一般国民の生命や生活だ

では、なぜ先進国の知識人や既成政治家はトランプ氏を忌み嫌うのか。それは彼がいわゆる「西欧先進諸国的なお上品さ」からは逸脱しているからです。しかし、いまの国際社会の状況はどうでしょうか。

法による秩序、公正な選挙、個人の自由な発言、人権が守られる社会――。もちろん僕もそうした社会で生きていきたいと願いますが、現実の世界を見渡せば、国際社会の中でそんな理想の社会を実現している民主主義国家は少数派です。そして国連総会を見ればわかる通り、国際社会とは政治体制がどうであるかにかかわらず各国が対等な立場で向き合う場です。たとえば民主主義国が非民主主義国に対して、「民主化されていないから相手にしない」ということはできないのです。

もちろん内戦などであまりにひどい人権侵害が起きた場合は国際社会が介入するべきですが、「自分たちの政治信条を受け入れろ」と無理強いするなら、最後は戦争で解決するしかなくなります。近年ではアメリカが民主化の名の下にイラク戦争やアフガニスタン戦争を戦いましたが、結局は成功したとはいえない状況で終わりました。

僕も民主主義や自由主義、人権尊重の理念が世界中に行き渡るのはいいことだと思います。でも、そうした理念のために国民生活が破壊されたり、戦争が続き犠牲者が増えたりするのがいいことだとは思えません。大事なのは理念ではなく、あくまでも「人間の実存」だと考えるからです。象徴的なのが、始まってから間もなく3年になるロシアによるウクライナ侵攻です。

ロシアによるウクライナ侵攻は、普通に考えれば国際法に反する侵略行為です。非はロシアにある。だからウクライナのゼレンスキー大統領は、自国の領土を守り抜くと宣言し戦っています。アメリカなど欧米諸国もそれに応えて、大量の武器弾薬を供給し支援を続けています。日本の政治家たちも「ウクライナとともに!」と威勢がいい。

軍服にウクライナの国旗
写真=iStock.com/Olena_Z
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Olena_Z

でも、実際にロシア軍と戦っているのはウクライナ兵であり、ゼレンスキー氏でも彼が頼りとするNATO軍でもないし、ましてや外国の政治家や知識人ではありません。そして欧米からの大規模な支援があろうと、軍事大国のロシアを打ち負かすのは容易なことではありません。「侵略戦争を許すな」といった言葉だけの正義を貫くために、多くのウクライナ兵や一般市民が犠牲になっているのが現実です。

■僕も驚くトランプ氏の批判に耐え抜く凄い力

威勢のいい政治家や言論人は「外国の侵略から領土・領海を守れ!」「国際法秩序を守れ!」と叫びます。それはもちろん正論ですが、では誰のために、何のためにそれらを守るのか。それは抽象的な想像上の国家という概念を守るためではなく、そこに生きる国民を守るためじゃないですか。ウクライナも例外ではありません。ウクライナの一般市民を守ること、その守り方を一番に考えるべきなのです。

ウクライナの一般市民を守るためには、ロシア軍を武力で駆逐するだけでなく、ヨーロッパの安全保障の枠組み=多国間でウクライナを守る方法もありますし、そちらのほうが強力です。そしてこれは唯一政治的な妥結で実現できるものです。

この政治的な妥結こそが、戦争を終わらせるベターな方法です。

僕は決してプーチン大統領のやっていることが正しいと言っているわけではありません。ただ実存を伴わない理想や正義によって国民生活が破壊されたり、国民の命が奪われたりするなら本末転倒ではないかと言っているのです。時には高邁な理想を脇に置き、相手を交渉のテーブルに着かせる譲歩も必要です。

当然、西側諸国の理想家やイケイケ派からは大バッシングを受けるでしょう。でも、その批判に耐え抜く力も含めて「有事のリーダー」なのです。

その点、トランプ氏の「批判に耐え抜く力」は尋常なものではありません。あれだけの罵詈雑言や人格攻撃にさらされたら普通の政治家なら参ってしまいますが、トランプ氏は平気な顔をしていますから(笑)。

ところで、「有事のリーダー」としては、宥和政策をとってナチスドイツの台頭を許したイギリスのチェンバレン首相に対し、徹底的に戦った後任のチャーチル首相を理想のリーダーと称揚する声がありますね。でも、それだって国を取り巻くその時代の条件次第で変わります。

ロンドンのウィンストン・チャーチル像
写真=iStock.com/todamo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/todamo

強硬策をとれるだけの条件が整わないうちは、チェンバレン式に引き延ばしで時間稼ぎをするのが正解です。一方、アメリカの参戦により戦力の充実が見込めるようになったら、チャーチルのように「われわれは絶対に降伏しない」と大演説を打てるのです。

今のウクライナの状況を見れば、強硬策を打てる条件が整っているとは思えません。国民が味わっている今の苦難を考えれば、ゼレンスキー氏はチャーチル的な態度振る舞い一辺倒ではなく、チェンバレン的なものも取り入れるべきではないかと思うのです。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『政権変容論』(講談社)。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美)

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