鳥貴族バイト店員の「一言」に超感動した…中国の外食チェーン社長80人が大挙して日本の居酒屋を視察したワケ
プレジデントオンライン / 2025年1月8日 18時15分
■日本で成功した「ガチ中華店」でレクチャー
11月上旬、中国の飲食チェーンのCEOたち約80人の日本視察ツアー一行が、東京秋葉原にある中華料理店「香福味坊」を訪問した。
香福味坊は、中国黒龍江省チチハル出身の粱宝璋(りょうほうき)氏がオーナーを務め、都内を中心に12店舗を展開する味坊集団の人気店のひとつだ。粱氏の出身地である中国東北地方の本場の料理、いわゆる「ガチ中華」を提供している。
梁氏は外食メディア14社が加盟する外食産業記者会が、その年の飲食業界に貢献した人物を選考する2022年度の「外食アワード」を中国出身のオーナーとして初めて受賞している。まさに日本のガチ中華界を代表するオーナーである(参考記事:「ガチ中華「味坊集団」のオーナーは、日本の外食をどう変えたのか」、中村正人、Forbes JAPAN 2023.02.15)。
その日提供されたのは、中国東北地方の常食材である羊肉や、粱氏が自ら営む農園でとれた野菜を使った、地方の伝統的かつ家庭的な味を再現したオリジナルな創作料理の数々だった。今日の中国でもほとんど食べることのできない内容で、中国から来たCEOたちにとっても新鮮な味わいだったようだ。
粱氏はその日、味坊集団に関する約1時間のプレゼンを行った。その内容は、彼が来日した1995年から今日に至る来歴に始まり、2000年1月に1号店となる「神田味坊」開店以降の歩みと個性的なグループ各店の特徴、提供する料理とサービス、出店先のエリア特性や客層などについて分析したものだった。
■海外で一から身を起こし…
実は、筆者も簡単なプレゼンを依頼されていた。都内に急増するガチ中華を発掘し、珍しいご当地料理を楽しむSNSコミュニティ「東京ディープチャイナ研究会」の代表を務めていることもあり、中国語圏出身オーナーによる飲食店の内情に精通していたからだ。
プレゼンのテーマは「日本人の目から見た味坊の魅力」というもので、同集団がいかに日本人客の取り込みに成功したかを解説した。(参考記事:「『ガチ中華』を代表する味坊・梁さんが愛されキャラとなった秘密」、中村正人、Forbes JAPAN 2023.02.23)
これまで5日6泊のスケジュールで、ワタミや鳥貴族などの日本の有名飲食チェーンを視察してきたCEOたちに、粱氏のプレゼンは大いに好評だったようだ。同胞のひとりとして海外で一から身を起こし、多くの日本人に愛される飲食グループを率いるに至った粱氏は、CEOたちにとっても尊敬に値する存在に見えたのだろう。
プレゼンの後、粱氏は筆者にこう話した。「彼らは中国で飲食店を大規模展開している若きオーナーたちで、自分より成功者といえる。そんな彼らが、自分の話を喜んで聞いてくれたことはうれしかった」
■数百店規模のチェーンを率いる30代~40代の経営者
今回の視察ツアーは、船井(上海)商務信息咨詢有限公司が企画主催した「船井会員企業 2024董事長日本游学(船井会員企業 2024年CEO日本スタディツアー)」というものだ。
参加者の多くは新興ローカル飲食チェーンの代表で、7割が30代から40代だという。飲食業界に限った話ではないが、中国企業の経営陣は日本企業のそれに比べ圧倒的に若い。その中心となるのは、「80后世代(1980年代生まれ)」や「90后世代(90年代生まれ)」と呼ばれる、中国の中でも起業家精神に富んだ世代の人々だ。
北京や上海、深圳などの経済先進地域だけでなく、大連、西安、蘭州、フフホト、昆明、海口などの地方都市に本社を置く企業が多いことも特徴だ。業種も中国地方料理に限らず、タイ料理や西洋料理、ファストフードなど業態もさまざまで、出店数も数百店規模の各地のトップ企業といえる。
■「困難の克服」と「運用のアップグレード」
このツアーを企画したのは、船井総研グループの中国飲食コンサル事業の責任者である、船井(上海)商務信息諮詢有限公司の郎禄媛(ラン・ルーユアン)董事だ。彼女はこれまで同総研が培ってきたネットワークや知見をふまえ、2016年に中国飲食チェーン経営者向けの研究会プラットフォームを立ち上げた。今回のようなツアーは、毎年実施しているという。
彼女は参加者にこう呼びかけている。「私たちは今回のツアーで日本から何を学ぶべきか。中国の飲食チェーンの進化と発展の重要な移行期である2024年は、『困難の克服』と『運用のアップグレード』がキーワードです」。つまり、勢いのある中国の新興外食チェーンが、日本進出のためまとまって視察に来たという感じではなさそうだ。
参加者向けのガイダンス用冊子には、今回のツアーの主な学びのテーマが列挙されている。「日本の飲食チェーンのグローバル展開」「海外から日本に進出する中華料理の現状」といったものに加えて、「不況下での日本の飲食チェーンの成功の道」「より高度で効果的なマーケティング戦略」「ブランド構築の長期戦略」など、このところ減速気味の中国経済の中で、ビジネスを継続させるためのヒントを探るような項目も目に付く。
■大好評だったワタミ会長のレクチャー
「日本への出店はまだ様子見。出店意欲よりも、日本企業から学びたい。一緒に協業したいという気持ちが強い」と、郎ディレクターは言う。
では、若い中国のCEOたちは日本で実際に何を見聞きし、どこにヒントを見てとったのか。すべては紹介できないが、参加者に好評だったいくつかの訪問先を、郎ディレクターに挙げてもらった。
まず、創業40年を迎えるワタミグループの本社見学と、渡邉美樹会長によるレクチャーだ。日本という成熟市場で長年にわたり持続的成長を続けてきた同社の歴史に、参加者は非常に感銘を受けていたという。変化の激しい中国では、ワタミグループのように長く事業を続けることは容易ではない。起業して間もないCEOが多かったことも、一つの理由だったろう。
■鳥貴族のアルバイトに感動するCEOたち
焼き鳥チェーンの鳥貴族の、コロナ後のグローバル戦略についてのレクチャーも好評だった。さらに店舗視察の際にも、興味深いエピソードがあった。
鳥貴族の店舗の入口には、「営業中」の札の代わりに「うぬぼれ中」と記された板が掲げられている。これは「今、世の中を明るくしている最中です」という意味で、「焼鳥屋で世の中を明るくしていきたい」という同社の企業理念を示すものだが、その意味をアルバイトのスタッフがきちんと説明できたことに、CEOたちは感動したという。彼らにすれば、現場の臨時アルバイトにまで企業理念が浸透していることが驚きだったようだ。
1949年創業のおでん割烹「酒房源氏」から始まり、日本国内で13ブランドを展開する物語コーポレーションの本社訪問も、彼らにとって大きな学びと共感があったという。同グループの加藤央之CEOは38歳で、参加者たちと同世代であり、次世代への事業の継承という観点から中国の若手CEOは惹きつけられたのだと思われる。
中国本土で美食家から高い評価を獲得している高級中華料理店「新栄記(シンロンジー)」の東京店(東京・赤坂)への訪問も、彼らに大きな励みを与えたようだ。同店は中国浙江省台州市で1995年に開業、北京新源南路店(3つ星)をはじめミシュランの星付き店舗を複数持つ名店で、2024年2月に開店した東京店は海外1号店にあたる。
総じていえば、彼らは日本の飲食企業の生産性の高さやイノベーション、企業理念の明確化、何より事業を継承していくプロセスに魅了されたようだ。日本では必ずしも特別なことではないかもしれないが、中国ではこのあたりのノウハウにはまだ発展の余地があり、日本の飲食チェーンの方法論を参考にできる部分が大いにあると、彼らは考えている。
■日本進出は簡単ではないと認識している
一方で、自分たちのビジネスを日本で展開するのはそう簡単ではないとも、彼らは認識している。
ここ10年ほどの間、東京など大都市圏でいわゆる「ガチ中華店」が増殖する中で、中国から進出してくる飲食チェーンも増えている。中国全土に展開する火鍋(中国風の鍋料理)チェーン最大手の「海底撈火鍋(かいていろうひなべ)」もその一つだが、初出店の2015年9月からすでに10年近くたつのに、首都圏および大阪などで数店を展開するにとどまっており、成功しているとはいいがたい。
■中国経済が減速しても生き伸びるヒントを求めて
日本で見られる中国本土チェーンの店は、多くの場合直営店ではなく、在日中国人オーナーが営業権とノウハウを入手し、フランチャイズとして開店したケースがほとんどである。つまり、中国企業側は本格的にリスクを取ってまで日本進出を図ろうとはしていない。
海外に多くの同胞が居住している中国企業は、在外華人向けのビジネスは得意だ。だからといって、相手先現地の国民向けのビジネス、とりわけ食文化の違いを乗り越えていかなければならない飲食業のローカライズは簡単ではないことを、中国の飲食チェーンのCEOたちは知っているのである。
むしろ彼らが学びたいのは、30年ものデフレ不況に苦しみながら、持続的な経営を行ってきた日本企業の取り組みである。コロナ禍以降の中国経済は明らかに低迷しており、2010年代までのような単純な右肩上がりは望みにくい。そうした転換期を迎えている以上、中国企業としても以前のような、とにかく早くビジネスを拡大したものが勝ちといった投資先行型の経営を変えていかなければならない。そのモデルが、日本にあるというのである。
実際、最近も中国市場での勢いがたびたび報じられているサイゼリヤは、日本のデフレ時代のシンボル企業のひとつである。(「行列のできるサイゼリヤ(中国)」日本貿易振興機構 地域・分析レポート 2024年11月28日)
■日本企業側も協業に期待
前述の参加者向けガイダンス冊子でも、「企業の持続的成長の実践的施策」と、中国でそれをどのように達成するかが強調されていた。DX(デジタルトランスフォーメーション)や高生産性を実現するための施策、企業コンセプトの浸透による従業員の定着率向上、ブランド力の向上など、日本企業から学べるポイントがそこでは指摘されている。
日本側としては、「デフレ時代の優等生のように持ち上げられても……」とやや複雑な思いを抱くかもしれない。だが、今回視察先となった日本の飲食チェーンの関係者らは、むしろ若き中国新興飲食チェーンとの協業に期待を寄せていると聞いた。現時点では中国全土というより省程度の規模で展開している、地に足がついた中規模チェーンが多いため、日本企業としても中国各地でローカル展開していく際には格好のパートナーとなり得るからだろう。
■学ぶ意欲が高い中国の若手経営者たち
実は今回ツアーに参加した遼寧省大連の飲食チェーンのCEOが、筆者の友人でもある日本在住のガチ中華店オーナーと知り合いだった。「彼とは同郷で、北京で開催された中国の飲食チェーン関係者を集めたセミナーで何度か会ったことがある」と、その友人は語った。
筆者の友人であるそのオーナーは、雲南料理の米線(ライスヌードル)や蒸気石鍋料理などをいち早く日本に持ち込んだ牟明輝(む・めいき)氏である。「ムーさんの蒸鍋館」「食彩雲南」、ムスリム向けのハラール料理を出す「ハラールキッチン」など、中国の新しい外食トレンドを踏まえた斬新な店を、東京を中心に次々と開店している人物だ。
牟氏は日本のチェーンストアのセミナーにも何度も参加しており、その学ぶ意欲の高さには以前から感心させられていた。今回のセミナーで来日した、牟氏と同世代の中国本土チェーンのCEOたちも、そうした姿勢は共通していたと実感する。
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ジャーナリスト
編集者。中国語圏から来日した人たちが供する本場の「ガチ中華」を愛好するSNSコミュニティ「東京ディープチャイナ」を運営。『攻略!東京ディープチャイナ』(産学社)、『間違いだらけの日本のインバウンド』(扶桑社新書)など。
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(ジャーナリスト 中村 正人)
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