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創業以来初「年間売上高1000億円」を突破…餃子の王将が「約2年で4回の値上げ」をしても顧客の心を離さない理由

プレジデントオンライン / 2025年1月9日 8時15分

看板商品の「餃子」 - 画像提供=王将フードサービス

餃子の王将を展開する王将フードサービスは、2024年3月期に創業以来初となる年間売上高1000億円を突破した。強みはどこにあるのか。高千穂大学商学部教授の永井竜之介さんは「メーカーの商品開発の文脈で使われることが多い“スモールマス戦略”という理論がある。この視点から分析すると見えることがある」という――。

■2022年から4度の値上げを行っても好調を維持

中華料理チェーン「餃子の王将」を展開する王将フードサービスは、創業から56年を経た2024年3月期に初めて年間売上高1000億円を突破した。10年後の2034年には、現在の売上高の倍となる2000億円を目標に掲げており、今後さらに成長を加速していこうとしている。

餃子の王将では、原材料費や物流費、人件費などの高騰を受けて、2022年から24年にかけて4度の値上げを行ったが、それでも客足が遠のくことはなく、好調を維持している。なぜ餃子の王将は、ユーザーから支持され続けることに成功しているのか。ここでは、日本全国に729店舗(2024年3月31日時点)を展開する全国チェーンでありながら、それぞれの店が「地元の味」として親しまれる餃子の王将の強みについて、「スモールマス戦略」の視点から分析していこう。

■「真の手作りの味」を実現する仕組みがある

餃子の王将のメニューは、「マス(幅広いユーザー)」のニーズを満たしてくれる「ちょうどいい味」である。看板商品の餃子は、すべての原料を国産にこだわり、毎日、自社工場で作り、冷凍せずに店舗へ配送・調理されることで、特別な美味しさを提供している。また、一般的なチェーン店ではセントラルキッチンで加工されたものを店で温めて提供することは珍しくないが、餃子の王将は店舗のスタッフがオープンキッチンで、お客の目の前で調理する方針を採用しており、真の手作りの味を実現している。

こうしたこだわりの美味しさがあったうえで、餃子の王将は、子どもから大人まで、誰でも楽しめる味になっている。「家庭の味」よりもしっかり中華で、「中華を食べたい」ニーズを満たしてくれる。そして、香辛料やクセが強い本場の味の「ガチ中華」ほど食べる人を選ばない。誰でも食べやすい、ちょうどいい味だからこそ、幅広いユーザーから利用されている。「マス」をターゲットにできる点は、餃子の王将の多店舗展開を支える大きな強みになっている。

■「マス向け」はターゲットが広いがライバルも多い

消費者の多様化が進み、その変化も加速している現代では、好みや流行はどんどん移り変わっていく。「人気」や「話題」の寿命がますます短命になり、一時の注目に合わせてターゲットを絞り込むリスクが高まっている。この意味においても、変化の波に左右されず、マスをターゲットにすることにはメリットが見込める。しかし、マス向けのビジネスにはデメリットも存在する。

デメリットの1つは、老若男女の誰もが利用できるようなマス向けには、ターゲットが広い分、ライバルが増えることだ。スパコロの調査によれば、ユーザーが餃子の王将を利用しようとしたときに比較検討するのは中華料理店だけでなく、ハンバーガーチェーンや丼ぶりチェーンなども想起されている(※1)。類似する価格帯の中で、例えば、若者に支持されるファストフード、男性が好むガッツリした丼ぶりやラーメン、女性に人気のヘルシーフード、シニア層ならば持ち帰り弁当や総菜など、ターゲットの幅の広さに伴い、多様なライバルが立ちはだかることになる。

※1 スパコロプレスリリース「餃子の王将は実際どのように利用されているのか」を参照。

ハンバーガー
写真=iStock.com/Marko Jan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marko Jan

■餃子の王将の「マス」は、地域ごとの「スモールマス」

マス向けのもう1つのデメリットは、幅広いターゲットを想定する中で、ターゲット像がぼやけてしまいやすいことだ。解像度の低い、ぼんやりとした「みんな」をターゲットにしようとしても、なかなか上手くいかない。「誰でも利用しやすい」という強みは、「誰にとっても中途半端」で、「誰からも選ばれない」という弱みと表裏一体になるからである。

では、なぜマス向けである餃子の王将は、多種多様なライバルに囲まれる中で、ユーザーから選ばれ続けることに成功しているのか。その理由は、餃子の王将の「マス」は、ただのマスではなく、地域ごとの「スモールマス」だからである。

スモールマスとは、2015年から花王のマーケティング戦略で重視されている考えで、「既存のマスより小さいながらも一定のボリュームを持つ消費者のグループに、それぞれに合った商品を提供する」と説明されている(※2)。例えば、花王の洗濯洗剤「アタックZERO」は、従来のマス戦略ではなく、より小グループのスモールマスをターゲットに開発された商品になっている。

※2 Think with Google「スモールマスを最大化する統合マーケティング――花王の考えるデジタル広告投資に大切なこと」を参照。

■「ハッキリしたターゲット像」を作れる

「みんな」「誰でも」のように不特定多数の消費者をターゲットにするマス戦略に対して、マスよりも小さな「こういう人たち」という特定の共通項を持つ一定規模の消費者グループをターゲットにするのがスモールマス戦略の特徴だ。マス戦略が解像度の低いぼやけたターゲットになりやすいのに対して、消費者グループを具体化するスモールマス戦略は、解像度の高いハッキリしたターゲット像を作ることで、より効果的に成果をあげることが期待できる。

餃子の王将の場合、「みんな」のマスに向けた標準的でよくある中華料理店になるのではなく、店舗それぞれの周辺エリアに生活する具体的なグループの消費者像のスモールマスに向けた店になることで、他にはない魅力を備えることができるようになる。つまり、地域ごとのスモールマスのニーズに合わせた商品・サービスを提供することによって、スモールマスが喜んで選びたくなる店づくりを実現しているのだ。

横断歩道を渡る人々
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■店舗に権限を与え、独自性を出せるように

餃子の王将のスモールマス戦略を成立させているのが、店舗それぞれの独自性だ。各店舗の店長には、オリジナルメニューやイベント・サービスの開発、価格設定、バイトの時給、営業時間の設定など、じつに様々な権限が与えられているという(※3)。現場発の店づくりをできる環境が整えられているのだ。

※3 マネーポストWEB「『王将フードサービス』は何が凄い? 成長を支える3つの特徴」、TBS「『餃子の王将』がいまだ成長を続けるヒミツ」を参照。

そのため、店舗が立地する地域のスモールマスの好みに応じたメニュー開発や、サービス提供も可能だ。店が学生街にあれば、お得でボリュームのある学割サービスを充実させられるし、お年寄りの多い地域ならば、シルバー割引を充実できる。仕事終わりに立ち寄る客層が多ければ、「ちょい呑み」や「せんべろ」のメニューを用意してもいい。

実際、一部の店舗では、食べ放題・飲み放題のコースが用意されている。また、愛知の稲沢店では、サラダバーのほか、本格タイ料理をメニューに加えている。京都の宝ヶ池店は、餃子の王将の全店中、最もメニュー数の多い店として有名で、80種類におよぶ商品が用意され、炙りチーズ餃子、餃子入り茶碗蒸し、京風白味噌ラーメンなどが人気商品になっていると話題になった(※4)。餃子の王将という看板は同じでも、店舗それぞれに個性があり、一店一店すべてが異なる魅力を持った店になっている、と言える。

※4 メシ通「日本一のメニュー数を誇る『餃子の王将』に行ってきた【餃子バリエがハンパない】」を参照。

■「王将調理道場」「王将大学」独自の人材育成システム

店それぞれが、地域のスモールマスのニーズを踏まえて、商品・サービスを自ら考え、作り、売る。それを実現するには、発想力や行動力、調理スキルなどを備えた人材の育成は欠かすことができない。そのため、新入社員研修に始まり、全国からスタッフが集まって調理技術の継承と向上を行う「王将調理道場」、店舗運営や人材マネジメントを研修する「王将アカデミー」、現在のフランチャイズオーナーの半数以上が利用している社内独立制度など、独自の人材育成システムを通じて、スキルと独創性が育まれている。

スモールマス戦略は、メーカーの商品開発の文脈で、SNS解析やインターネット広告などのデジタル分野とセットで語られることが多い。しかし、餃子の王将のように、リアル店舗で地域ごとに実践する場合にも、大きな効果が期待できるものである。スモールマス戦略は、飲食や小売などの幅広い立地型サービス産業にとって、具体的なスモールマスに選ばれるためのマーケティング戦略として有効活用できるだろう。

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部教授
専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『 マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『 分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考』(CROSS-POT)などがある。

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(高千穂大学商学部教授 永井 竜之介)

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