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安倍首相の写真を使い、日本のグラビアアイドルを送り込む…中国スパイが仕掛けるハニートラップの最新手口

プレジデントオンライン / 2025年1月23日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

中国が日本に向けて行うスパイ活動とは、どのような手口なのか。ジャーナリストの時任兼作さんは「ターゲットに女性を近づけ、男女の関係を持たせる“ハニートラップ”が有名だ。だが、最近はより手口が洗練し、罠に陥ってしまう公算が非常に高くなっている」という――。

※本稿は、時任兼作『密探』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■政治家が引っかかったハニートラップ

公安関係者は、これまでに物議を醸してきたハニートラップ事件についても言及した。代表的かつ有名なものとして挙げたのは本書『密探』で前述した橋本龍太郎元首相の事例だったが、ほかの政治家のケースにも触れた。奇しくも橋本が訪中していた1988年、日中交流の目的で北京を訪れていた別の政治家が罠に掛かった。

滞在先のホテル「西苑飯店」内のバーのウエイトレスに声をかけられ、誘われるがままに、甘言に乗って自分の部屋に連れ込んでしまうが、その1時間後、ウエイトレスが部屋を出た直後に中国の警察組織であり、諜報部門も持つ公安部の面々が部屋に踏み込み、摘発。事情聴取に及んだものの、政治家であることと訪中の趣旨を確認のうえ、不問としたのだった。

しかし、この一件は在中国日本大使館に伝わり、のちに警察庁にも報告された。警察庁は、在中国大使館をはじめとした在外公館に派遣される警察職員らへ警鐘を鳴らすべく、一連の事情を資料化した。資料は各公館内で密かに周知されたとされるが、似たようなことは、その後も水面下ながら何度もあったという。

大々的に露見した事例も列挙しよう。たとえば、本書で先にも触れたが、2004年には村田(編集部注:かつて諜報の世界で衆目を集めた中国の大物女性工作員)にも関係があった上海総領事館員の自殺事件が発生。この館員は、総領事館からほど近い「かぐや姫」なるカラオケ店――実態はホステスを連れ出す形での売春クラブに足を踏み入れたことをきっかけに、店をコントロールして情報を集めていた中国の公安部の手に落ちた。

■“売春容疑”で揺さぶってくる

公安部は、売春の容疑をちらつかせて、館員に情報を求めたのだった。館員は、総領事館の館員すべての氏名や役割、またそれぞれが会っている中国人の氏名、さらには外交行嚢(こうのう)(外交上の機密文書などを入れた袋や貨物)を送る飛行機の便名などについての情報まで求められ応じたものの、次第にエスカレートして行く要求を前に、遺書を残して総領事館内の宿直室で自ら命を絶った。その後、この事件はマスコミで大きく取り上げられたのである。

ところが、その2年後、この『かぐや姫』に海上自衛隊上対馬警備所の一等海曹が通っていたことが発覚した。一等海曹の自宅からは、『かぐや姫』の女性店員からの手紙とともに、上対馬警備所周辺を航行した艦船や潜水艦の写真を集めた内部情報のコピーが見つかったのである。

また、一等海曹が無届けで上海に頻繁に渡航し、71日間も滞在していたことも判明。同様の機密情報を上海に持参のうえ、漏洩していたものとみられた事件であった。公安関係者が続ける。

「それから数年後にも、外務省高官が『北京の銀座』とも言われる王府井の高級クラブに足繁く通っていたことが公になった。軍の情報機関が関係している店だが、こうしたことは氷山の一角。ハニートラップ事件は、中国内に限らず日本国内でも秘されたまま、なおも多発している。とくに身近な国内は要警戒だ」

■「罠」は洗練され、進化している

日本語にすれば「甘い罠」と呼ばれるこの手の工作。それだけに人を惹きつける威力があるのはわかる。しかし、公になった事件をはじめ、公安関係者が指摘しているように「多発」となると巷間(こうかん)伝わる情報もあり、罠に掛かる者も減りそうなものだ。にもかかわらず、そうはなっていない。なぜなのか。実はそれを見越して、中国はやり方を変えたのだという。

「いまやもっと洗練され、かつ魅力的な方法を採用している」

公安関係者は、そう語り、「少し前のものだが」と前置きのうえ、ある資料を提示した。そこには、いくつかの場面が活写されていた。

〈東京湾を優雅に漂う大型クルーザーの船上は、芸能人やモデルらのきらびやかな姿で華やいでいた。ワインやシャンパンのグラスを片手に、ブランドもののスーツに身を固めた男性らの間を行き交い、軽やかな笑い声を上げる――〉

夕焼けの船上でグラスを持って乾杯する手
写真=iStock.com/petrenkod
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/petrenkod

場面が変わって、都心のシティホテルのバー。

〈壮麗な夜景を前に、日本の有力企業社長と肩寄せ合うのは、中国現地法人から転籍してきた妖艶な女性であった。進取の気性に富み、さまざまなスキームを組み立て、積極的に動く、とのビジネス評価とは裏腹のムードが漂う。先頃まとまった仕事の慰労をかねての歓談の席であるはずにもかかわらず……〉

「いずれも、中国によるハニートラップの事例だ」公安関係者は、そう言って続けた。「彼らの手法は、最近、めざましい進化を遂げている」

■“中国に好都合な人物”が標的になっている

前者は、日本の芸能人、モデルらを巻き込んだ新手法で中国人女性の代わりに彼らを利用したもの、そして、後者は、ビジネスパートナーとして利用できそうな企業に入り込む手法なのだという。同関係者は、こんな解説をした。

「こうした新手の手法がいま政治家、官僚、自衛官、企業家、医師、研究者、技術者、メディア関係者……と、中国にとって有用な、すなわち利用できる情報を握るなり、それにアクセスできるなり、あるいは中国にとって好都合な行為を強要できるなりする人物すべてを標的として適用されつつある。

前者の場合、餌として差し出されているのは善意の第三者とみられる。実際、背景事情など何も知らないケースが多い。もっとも、まったく無邪気というわけではない。そういったタレントやモデルの多くは、ギャラをもらって体を提供している。

他方、こうしたパーティーを差配する中国人女性は、ターゲットに男女関係を結ばせたのち登場し、機密を要求したり、特定の行為を強要したりする。日本の選りすぐりの美女を利用した美人局(つつもたせ)のようなものだ。

後者の場合は、当初は利益の大きいビジネスで惹きつける。だが、次第に男女の関係を形成し、抜き差しならぬ状況へと持ち込んで要求を吞ませる。いずれも危機感を抱かせることなく、自然に近づかせ、取り込んでしまうだけに、始末に悪い」

洗練された高度な手法であるため、罠に陥ってしまう公算が非常に高い、と言うのである。

■「安倍首相との写真」が悪用された

中国内でも徐々に採用されつつあるとされるが、公安関係者は、こうした新しいタイプのハニートラップによって実行に移され、成功した工作事例をいくつか詳述した。

ひとつは、安倍政権時代の首相にまつわる情報工作だった。船上のきらびやかなパーティーといった類の催しの目的は、公にされることのない政治情勢や外交情報、企業機密や最先端医療技術など多岐にわたるが、日中の利害対立が顕在化している昨今、政権の粗探しやダメージ工作も含まれているのだという。公安関係者が語る。

「ある時の船上パーティーに中国人富豪が招かれたことがあったのだが、その際、安倍首相が友人らと撮影した写真が悪用され、この富豪から投資を引き出すための材料として利用されたという事件が発生した。

これは明らかな仕込みで、富豪は、パーティーの席で首相と一緒に写真を撮ったという人物を紹介され、その写真を見せられるなどして歓談したのちに、グラビアアイドルを紹介され、肉体関係を持ったのだが、しばらくすると首相と写真撮影した人物から巨額の投資を要求されて、応じざるを得なかった。

一見、まるで美人局のような愚にもつかない話に見えるが、中国側にとっては、そうではなかった。『安倍首相の周辺者が一緒に撮った写真をちらつかせて、資金提供をさせている。国際的なタレント売春にも関わっている』として、軍の情報機関である連合参謀部やその出先となっている新華社などを使って、国際情報ロビーに喧伝(けんでん)した。これを聞いた各国情報機関は、仰天。なかでも同盟国である米国や友好国の台湾は、ビビッドに反応し、懸念含みで日本に連絡を入れてきた」

■“優秀な中国人女性社員”がスパイだった

もうひとつの事例は、不動産企業による優良不動産の買収についてであった。

「実業家の父親のもとに育ち、若い時分から企業コンサルタントとして活躍していた妖艶な中国人女性が、中国に進出してくる日本企業相手のビジネスを手掛けるうちに大手不動産企業の現地法人幹部にスカウトされた。

と、それを機に本社社長に接近を図り、社内のパーティーなどの場を利用して積極的にアプローチ。ついには個人的な関係を結んだが、実は中国のスパイだった。ズバリ言ってしまえば、中国政府が買収を考えている不動産取得の工作の先兵。

社長を籠絡したこのビジネス・ウーマンは、いくつもの買収工作に成功した。最たるものは日本の右翼が中国資本による買収に反対していた物件を、まず自社に買収させ、しばらく寝かしたのち中国の息のかかった企業に転売させた案件。他愛もない目くらましのようなものだが、実際に物件は中国に渡っている」

公安関係者は、そう語るのだった。大手不動産企業社長を手足のように使えたのも、高度な工作ゆえのことだ、と言うのである。

街並みを背景にスマホを使う女性のシルエット
写真=iStock.com/FangXiaNuo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FangXiaNuo

■「対人工作」に長けた中国に、油断は禁物

同関係者は、さらに事例を挙げた。

「大学病院やがんの最先端治療を行っている病院に医師だけでなく、女性事務員を送り込むケースも最近まま見られる。公募に応じての採用ということも、もちろんないではない。日本人男性と一度、結婚し、在留資格などを得ている女性などが多いからだ。

時任兼作『密探』(宝島社)
時任兼作『密探』(宝島社)

だが、中国出身であるとハネられることもあるため、たいていは有力な医師などの紹介で入る。船上パーティーなどを利用して知り合った医師のルートなどが利用されることが多い」

華やかなパーティーなどの場を設け、有力者を呼び寄せ、硬軟織り交ぜた工作の数々を実行しているのがいまの中国のハニートラップ事情であるようだ。公安関係者は、こう付言した。

「情報化時代ではあるが、ITを駆使したハッキングなどの工作だけでは手が届かない部分がある。その点を中国はよく承知している。手抜かりはない」

対人工作に長けた中国。ゆめゆめ油断してはならない。

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時任 兼作(ときとう・けんさく)
ジャーナリスト
慶應義塾大学経済学部卒。出版社勤務を経て取材記者となり、各週刊誌・月刊誌に寄稿。カルトや暴力団、警察の裏金や不祥事の内幕、情報機関の実像、中国・北朝鮮問題、政界の醜聞、税のムダ遣いや天下り問題、少年事件などに取り組む。著書に『特権キャリア警察官 日本を支配する600人の野望』(講談社)、『「対日工作」の内幕 情報担当官たちの告白』『図解自衛隊の秘密組織「別班」の真実』(共に宝島社)など。

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(ジャーナリスト 時任 兼作)

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