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「検査ナシでインフル薬を投与」はいい加減ではない…医師が「念のための検査こそ逆効果」と断じるワケ

プレジデントオンライン / 2025年1月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

もしインフルエンザかもしれないと思ったときはどうすればいいか。小児科医の高橋謙造さんは「一般に広く行われている抗原検査は、発熱後12時間ほどが経過しないと正確な診断ができない可能性がある。また、発熱などの症状がないのに念のために検査を受ける場合は保険適用外になるので注意が必要だ」という――。

■「歩くのもつらい」が一つの目安

前回は、インフルエンザワクチンの必要性についてお話しました。

参照記事:受験生なら絶対にインフルワクチンを接種すべき…小児科医が親に「年内に2回注射」を推奨するワケ

しかし、ワクチンを接種していても100%感染を防げるとは限りません。特に受験生とその家族はこれから受験シーズンを迎えるにあたって、不安に思っている人が多いと思います。

もしもインフルエンザに罹患してしまった場合にどうすればいいのでしょう? 今回は受診するまでの注意点や最新の検査方法などについて考えてみます。

インフルエンザ初期の症状は人によってさまざまですが、身体のだるさ、咽頭痛、鼻汁などがあって、やがて発熱が起こってきます。発熱が生ずるのと前後して、膝などの関節痛や、太ももなどの筋肉痛も出てきます。

典型的には、「歩くのもつらい」という症状が出てきたらインフルエンザを疑いましょう。後述するように、発熱直後の受診ではなかなか診断がつかないことも多いため、まずは熱が下がってくるかどうか様子を見ましょう。一晩寝ても熱が下がる傾向がなければ、インフルエンザの可能性が高くなります。

■インフル以外の可能性も捨て切れない

インフルエンザを疑ったら、受診をおすすめします。苦しい期間を短縮できる治療薬があるからです。インフルエンザの流行する株によっては、あまり高熱にならずに、胃腸の症状(吐き気など)などが主になることもありえます。

さて、つらい状況で受診をしたのに、クリニック、病院などではお子さんたちはつらい診察を受けることになります。しかし、このつらい診察は必要なのです。

インフルエンザの診断をする上で、喉(咽頭)の観察は必須です。医師は、発熱患者の咽頭を観察して、さまざまな疾患の可能性を考えます。

例えば、集中して微細な点状発赤が見えれば溶連菌感染を、咽頭全体から扁桃腺まで腫れていればアデノウイルス感染やEBウイルス感染を、咽頭に口内炎様の発赤があれば手足口病やヘルペス感染を疑います。これらの所見に流行状況を鑑みて、どのような検査が必要かを考えるのです。

すべての検査を同時に行えばいいのですが、日本の健康保険制度では全検査を同時に行うことは許されません。

■適切な診断のために「喉奥にグッ」が必要

「喉に強引にヘラを入れて苦しめるとは何事だ!」と言ったクレームを受けることが年に1、2回はありますが、これは決して「患者を苦しめてやろう」などと考えてのことではありません。ヘラ(舌圧子(ぜつあつし)といいます)を使って、舌を押し下げないと咽頭が十分に観察できないために、舌圧子を使わざるを得ないのです。

子供の喉を診察する医師
写真=iStock.com/milorad kravic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/milorad kravic

小学校高学年~中学生くらいになると、喉の奥に力を入れてしまい、舌を押し下げるのが困難な子がいます。「ウチの子には舌圧子を使わないでください」と強く主張される親御さんが時々いますが、その場合は診断の精度が下がることをご承知いただかないとならないのです。

もし、無事に咽頭を観察することができたら、診断を確定するための検査に移ることになります。手足口病、ヘルパンギーナなど、咽頭の観察所見のみで診断がつくケースもありますが、数種類の感染症では検査キットを使用することがあります。

■抗原検査は「発熱後12時間」以降を推奨

咽頭を観察して、喉の奥の壁にぽっこりとした膨らみ(専門用語でリンパ濾胞(ろほう)といいます)がいくつか見えた場合、インフルエンザの検査を行うことになります。

日本で一般に広く行われている検査は、綿棒を鼻の穴にいれて粘液を採取して行う抗原検査というものです。この検査が導入されたばかりの頃は、検査希望が殺到し、発熱がないのに心配だからと検査を希望したり、旅行に行くから念のために検査を希望したりといった事例にまでつながり、医療現場が混乱したことがありました。

せっかく受診したのに正確な診断がつかないと困りますので、インフルエンザを疑った場合に、受診のタイミングについてお伝えします。

日本において行われた調査論文が参考になるのですが、インフルエンザ様の症状発症、12時間以内に抗原検査を実施した人のうち23.5%~29%の人は、インフルエンザに感染していても検査には反応しない偽陰性になることがあったそうです。

一方、発熱出現後、2回以上抗原検査を行った方のうち、発症12時間以降の偽陰性率は皆無(0%)であったそうです。この情報から考えると、症状発現後に12時間は経過したほうが信用できる結果が得られるということです。

■発熱していない人の検査は保険適用外

ただし、この検査は咽頭で繁殖しているウイルスの抗原を拾い上げるものですので、ウイルスが十分に繁殖していない場合には検査しても偽陰性になってしまう可能性があります。このウイルスが十分に増加していない可能性を考えて、症状発現後12時間経過しないと検査は行わないとしている施設もあるようです。これも、科学的な予測判断に基づいたものであるといえるでしょう。

年末年始など長期休暇前に「旅行に行きたいので(休暇を楽しく過ごしたいので)、熱はないけど検査してほしい。」と受診される方がいます。しかし、発熱の事実がないのに、念の為の検査で診断はできません。厳密にいうと、保険診療にもできず、自費診療で検査費用を全額払っていただかないと検査はできないのです。

こういった内容をお伝えすると、「検査してくれないなら、ネットに書くぞ!」と凄まれたこともありました。しかし、混雑している年末の外来で、「念の為検査」は医療現場にとって大きな負担になります。

■「念のため検査」はむしろ仇となる

むしろ、混雑している外来で待つことで、親子ともどもインフルエンザに感染してしまって、年明けに受診されるケースがあります。「医療機関が感染の原因ではないのか?」と詰問された経験もあります。

病院の待合室
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

しかし、インフルエンザウイルスが蔓延しているであろう場にわざわざ子どもを連れてくるのですから、感染は避け得ない状況なのです。「念のため」が、むしろ仇になってしまうケースです。

さて、鼻から綿棒をいれて検査する抗原検査は、最低12時間以上経過しないと信用できる結果が得られないことはわかりました。それでも、できる限り診断をつけたいと考える保護者さんはいらっしゃいます。たとえば、自宅に高齢者の方が一緒に生活している場合など、どうしても正確な診断と治療を受けたいことがあるでしょう。

この場合に、すべての施設で幅広く定着している検査ではありませんが、Nodocaという検査やPCR検査では、発熱後短時間でも信頼できる結果を得ることができます。

■発熱後2時間程度でも診断できるNodoca

Nodocaは、咽頭にリンパ濾胞が観察できる場合に、その画像を撮影し、AIにて診断をつけることができる機器です。私自身、ここ1カ月で発熱後2時間程度の患者さん数名に検査を行い、迅速に診断をつけることができています。6歳以上であれば、保険診療で検査を受けることができます。

マイナスの点といえば、器具を喉にいれることで嘔吐を誘発してしまうことがありえます。透明な舌圧子様の器具を喉に入れて画像を撮影するのですが、「おぇっ!」となってしまうことがあります。

先日の外来でも、嘔吐を誘発させてしまいましたが、結果は「陰性」でした。「つらい思いしたけど、よかった」と感想をくれた子は中学生で、翌日には解熱して、翌々日には学校の定期試験を受けることができたようです。やはりインフルエンザではなかったのでしょう。

また、PCR機器は、インフルエンザを含む複数の感染症を同時に診断することができる機器で、発症後早期でも診断をつけることができます。残念ながら、私自身は使用経験はないのですが、感染症の診断は楽になったという感想が多いようです。

これらの機器は、まだ医療現場に定着してはいませんが、ここ数年で一般の医療施設にも広がっていくものと思われます。これらの機器がかかりつけ医施設にあるかどうかは、受診の際などに聞いておくといいでしょう。

■医師が下す「みなし判断」への誤解

これまで、検査に関してお伝えしてきましたが、実は検査を行わずとも医師はインフルエンザと診断することができます(「みなし診断」といいます)。検査はあくまでも参考所見であり、流行状況や症状等から総合的に判断してインフルエンザと診断することができるのです。

これまでの診療経験で、一般の方々が「明らかな勘違い」をしているなという事例があります。それは、「みなし診断」に関する無理解によるものです。

「みなし診断」にてインフルエンザ治療薬を処方したところ、そのお子さんが通う幼稚園、保育園、学校などから「検査をしていなければ出席停止にはできない。検査をしてもらうように」と指示されているケースを数例経験していますが、これはナンセンスです。

ただでさえ状態の悪いお子さんを混雑した外来に連れてくれば、本人が疲弊するだけでなく、周囲に感染を拡げてしまう可能性もあります。そもそも、園や学校には、親に検査を強要する権限などありません。権限逸脱として医師法等に抵触する可能性もあるのです。

■検査せずに治療薬を処方することは可能

「教員の訓練のために学校で統計を取っているから、インフルエンザA型かB型かがわからないと困る」というクレームを受けたこともありますが、「教育材料として個人情報を集計するためには、然るべき学術機関で倫理審査を受けないとならない。受けましたか?」と注意しています。

したがって、発熱直後で抗原検査をやむを得ず行ったが陰性だったとしても、発熱やぐったり感、関節痛などで総合的にインフルエンザが否定できなければ、インフルエンザの治療薬を処方することも可能です。

インフルエンザ流行期においては、検査を行わずともインフルエンザと「みなし診断」を行って、治療薬を処方することも可能なのです。冬場の混雑している外来で、検査を受けて結果がでるまでの10~15分を待たせるのがつらい場合などに、保護者の方々と相談の上でインフルエンザ治療薬を処方することがありますが、これは決していい加減な治療ではないのです。

処方された薬
写真=iStock.com/Ca-ssis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ca-ssis

■受験生にインフルの疑いがあったら…

受験が差し迫っている時期に、子どもが1時間前から発熱し、関節痛も出てぐったりしてしまった――。こういった状態で受診されたケースを何例も経験しています。このような場合にはどうすべきか、試験日時などを聞いて、なんとか最適解を導こうと頭をひねって来ました。

インフルエンザであれば、発熱日から5日間は自宅療養が必要です。受験日までに5日以上あれば、なるべく早めにインフルエンザ治療薬を処方したほうがいいので、「みなし診断」としてインフルエンザ治療薬を処方し、自宅で身体を休めてもらうようにお伝えしたことがあります。

一方で、試験までに5日間なければ、検査できる時間まで待ち、再来院してもらって検査をすることにしています。この場合に、他の感染による発熱でないことを確認するために、溶連菌などの検査を行ったりもしました。こういう場面において、血液検査は参考になりません。炎症値を確認できても、即時で病原体まで同定できる検査は血液検査にはないからです。

これらの「みなし診断」も含め、医療には厳格な「正解」「不正解」は存在しません。その時の家族の状況や事情なども含めて総合的に判断して、診察、検査、処方などを行っているのが医療現場です。

受診したときには、その時に直面している事情について、お医者さんに相談してみてください。週末で翌日に医療機関が開いていないといった場合、医療者はその時点での最善の策を考えてくれるはずです。

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高橋 謙造(たかはし・けんぞう)
小児科医
東大医学部医学科卒業後、離島(徳之島徳洲会病院)、都市部(千葉西総合病院等)での小児医療を経て小児保健、国際保健の課題を解決するために公衆衛生分野に従事する。帝京大学大学院公衆衛生学研究科を経て、2024年10月より医療法人社団鉄医会 鉄医会附属研究所所長、ナビタスクリニック小児科医統括部長。モットーは「現場を見て考える、子どもを診て考える」。

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(小児科医 高橋 謙造)

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