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若くても「冬の風呂場」で絶命することがある…飲酒後の入浴や高血圧だけではない"身近なリスク要因"

プレジデントオンライン / 2025年1月13日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Stossi mammot

ヒートショックの危険があるのは高齢者だけではない。産業医の池井佑丞さんは「15~64歳でも浴槽内での溺死は発生している。ヒートショックのリスクが高くなる条件と症状が出たときの対処法を知ってほしい」という――。

■急激な温度変化で血圧が大きく変動

寒い冬の夜、温かいお風呂が恋しい季節になりました。しかし、この至福の時間には意外なリスクが潜んでいます。それは「ヒートショック」です。

ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、心臓や血管に深刻な負担をかける現象を指します。特に高齢者や持病を持つ方にとっては、最悪の場合、命に関わる事態に発展することもあります。なぜ、身近なお風呂でこのような危険が生じるのでしょうか。その原因と対策を詳しく解説します。

■65歳以上では「交通事故の死亡者数」の約3倍

高齢化社会の進展に伴い、溺死や溺水の事故件数は増加しています。厚生労働省の「人口動態調査」によると、65歳以上の高齢者が「不慮の溺死および溺水」により死亡するケースは年々増加しており、令和4年度には6307人が「浴槽内での(及び浴槽への転落による)溺死及び溺水」により亡くなったとされています。これは「交通事故」による死亡者数(2154人)の約3倍にもなります。

また、働き盛りの世代(15歳~64歳)においても浴槽内での溺死が発生しており、この世代の死亡者数の10%弱を占めています。

2023年に発表された「日本の高齢者における入浴、転倒、誤嚥による事故死の最新動向に関する研究」では、冬季における浴槽内溺死が顕著に増加しており、これがヒートショックと密接に関連していると指摘されています。

■血圧変動が心臓や脳に大きな負担をかける

では、ヒートショックがどのようにして起こるのか、そのメカニズムを説明します。

急激な温度変化は、血圧の大きな変動を引き起こします。たとえば、暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室に移動すると、外気の寒さに対応しようと自律神経が働き、血圧が急上昇します。その後熱い湯に浸かると、今度はその熱さに対応しようとして血管が広がり、血圧が急降下します。この血圧変動が心臓や脳に大きな負担をかけ、脳梗塞や心筋梗塞などの深刻な病気を引き起こすリスクを高めます。

■サウナもリスクを増加させる可能性がある

近年、日本では「整う」という言葉とともに、サウナ人気が高まっています。サウナの高温環境と冷水浴を交互に行う「温冷交代浴」は、血流改善やリラクゼーション効果が期待できる一方で、ヒートショックのリスクを増加させる可能性があります。

フィンランド式サウナ
写真=iStock.com/qwerty01
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/qwerty01

特に高齢者や持病を持つ方が長時間サウナに入ったり、冷水浴を急激に行ったりすると、脱水を生じたり、血圧が大きく変動するおそれがあります。また、冬季の外気浴では、外気の冷たさが体温低下を招き、血管の急激な収縮を引き起こすことがあります。これらはヒートショックの危険を高める要因となるため、注意が必要です。

サウナを安全に楽しむためには、冷水に入る前にかけ湯やシャワーで体を慣らすなど、温冷交代浴の温度差を緩やかにすること、外気欲を短時間にとどめ、その後は暖かい場所で体温を整えるようにすること、水分補給をこまめに行うこと、特に、持病がある場合には事前に医師に相談することが重要です。

■「めまい」を感じたら転倒しないように座るか横になる

ではヒートショックが起きた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。ヒートショックは、症状の重さによって適切な対応が異なるため、軽症と重症それぞれの症状とその対策を理解しておくことが重要です。

軽症の症状と対応

軽症例では、めまい、吐き気、頭痛、倦怠感といった症状が見られます。特にめまいが生じた場合は、転倒の危険があるため、すぐにその場に座るか横になりましょう。無理に動くと血圧の変動がさらに悪化する可能性があるため、安静にして症状が治まるのを待つことが重要です。

症状が長引いたり、改善しない場合は、脳卒中などのリスクを考慮し、速やかに119番に連絡し救急要請をしてください。吐き気や頭痛、倦怠感などの他の軽症状についても、症状が持続する場合は、主治医や近隣の医療機関に相談することをお勧めします。

重症の症状と対応

重症例では、失神や意識障害、呼吸困難、激しい胸の痛み、激しい頭痛、嘔吐、ろれつが回らない、四肢の麻痺や脱力感などが見られます。これらの症状は心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる病気のサインの可能性があるため、即座に119番に連絡し救急要請をしてください。

入浴中に重症症状が現れた場合、溺れる危険性があるため、まず浴槽の栓を抜き、可能であれば頭を揺らさないようにして、慎重に浴槽の外へ移動させてください。失神が見られる場合は、頭を水平に保つ姿勢で寝かせてください。枕を使用して頭を上げると血流が悪化する可能性があるため避けましょう。また、吐き気や嘔吐がある場合は、嘔吐物が詰まらないよう、気道を確保するために横向きで寝かせるなど、症状に応じた適切な姿勢を取らせることが重要です。

■「食後1時間位内の入浴」「42℃以上の湯」も要注意

以下の条件に当てはまる方は、特にヒートショックのリスクが高いため注意が必要です。

・65歳以上の高齢者
・高血圧、糖尿病などの生活習慣病や持病がある方
・脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症などの病歴がある方
・肥満、不整脈、睡眠時無呼吸症候群を抱える方
・寒暖差が大きい脱衣所や浴室、トイレなどを使用する方
・飲酒後2~3時間以内、または食後1時間以内に入浴する方
・熱い湯(42℃以上)に浸かる習慣がある方

温泉
写真=iStock.com/Gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Gyro

■冬もこまめに水分補給をしたほうがいい

ヒートショックは、10℃以上の急激な温度差がトリガーになると言われており、日常生活の少しの工夫で大幅にリスクを軽減できます。以下の対策を参考にしてください。

1.脱衣所や浴室を暖める
暖房器具を使用し、脱衣所や浴室の温度を均一に保つようにしましょう。入浴前にシャワーを使って浴室全体を暖めたり、浴槽に湯を張る際に浴室のドアを開けて脱衣所も暖めると効果的です。

2.ゆっくりとした動作を心がける
浴槽やトイレで急に立ち上がると血圧が急激に下降するため、めまいや失神を引き起こすことがあります。立ち上がる際はゆっくりと動くようにしましょう。

3.水分をこまめに取る
脱水状態では血流が悪化し、血圧の変動を招きやすくなります。入浴前後はもちろん、冬場であっても日常的に水分補給を心がけましょう。

4.飲酒後や食後すぐの入浴を避ける
飲酒後2~3時間以内や食後1時間以内の入浴は、血圧が変動しやくすくなるため、入浴を控えましょう。入浴のタイミングに配慮することが大切です。

5.湯温を41℃以下に設定し、長時間の入浴を避ける
熱い湯は血圧の急上昇を招きます。湯温は41℃以下にし、入浴時間は15~20分程度に留めましょう。

6.入浴前に家族に声をかける
家族に声をかけておくことで、万が一の際に迅速な対応に繋がる可能性が高まります。特に高齢者や持病のある方には重要な対策です。

ヒートショックは、特に冬季に高齢者や持病を持つ方にとって大きなリスクとなりますが、適切な対策を講じることで、そのリスクを大幅に軽減できます。今回ご紹介した予防策を実践していただき、寒暖差の少ない環境を整えることで、ヒートショックを防ぎ、安全で健康な生活を送りましょう。

また、家族や友人、職場でも情報を共有し、皆で安全な習慣を心がけることが大切です。健康で快適な冬を過ごすために、日々の生活に少しの工夫を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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