1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

まるで「ウクライナ戦争」を予見したかのよう…軍事分析のプロが「傑作だ」と称賛する「90年代人気アニメ」の名前【2024下半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2025年1月3日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EvgeniyShkolenko

2024年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお届けします。社会・サブカル部門の第5位は――。

▼第1位 「鬼滅」でも「進撃の巨人」でも「ハガレン」でもない…海外のアニメファンが歴代1位に選んだ「非ジャンプ作品」
▼第2位 初潮を迎えた日から、父は何度もレイプし、母は傍観した…実父の性加害を顔出し実名で告発し続ける理由
▼第3位 「鬼滅はもうオワコン」の評価を180度変えた…海外のアニメファンが「歴史的傑作」と大絶賛した神回の内容
▼第4位 本当は「コロンビア大院卒の超高学歴」なのに…小泉進次郎氏が「これだから低学歴は」とバカにされる根本原因
▼第5位 まるで「ウクライナ戦争」を予見したかのよう…軍事分析のプロが「傑作だ」と称賛する「90年代人気アニメ」の名前

日本のアニメは戦争をどう描いてきたのか。防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏は「その二つを考える上で『機動警察パトレイバー2 the Movie』は欠かせない。現在のウクライナ戦争にまで通じる、戦争に対する当事者意識の欠落を見事に描き出した傑作だ」という――。

※本稿は、高橋杉雄『SFアニメと戦争』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。

■リアルロボット路線の究極形だった『パト2』

日本のSFアニメと戦争の関係を考察する上で絶対に外すことができない作品に、『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993年)がある。

『機動警察パトレイバー』(1988年)は、コミック版、OVA版、テレビ版が展開したメディアミックス的な作品で、舞台は世紀末の東京である。そこでは、レイバーと呼ばれる二足歩行のロボットが実用化され、土木作業などを行うようになっており、レイバーの普及とともに犯罪にも使われるようになったため、警察もレイバー犯罪取り締まり用のパトロール用レイバー(略して「パトレイバー」と呼称される)を「特殊車両二課」(略して「特車二課」と呼称される)という組織を作って運用している世界における物語である。

舞台が現実の東京であり、警視庁という現実の組織の警察官が登場人物になっているために、「リアリティ」の度合いが極めて高く、いわゆる「リアルロボット」路線のある種の究極の姿だといえる。

■自衛隊の初のPKO参加を背景につくられた作品

劇場版第1作の『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)では、現在の目から見てもまったく古いと感じさせないレベルでサイバー犯罪を描いた。この『機動警察パトレイバー2 the Movie』は劇場版としては2作目となり、シリーズにいったんの区切りを付けた作品でもある。

機動警察パトレイバーシリーズは、あくまで警察官が主役であり、戦争を舞台とはしない。『機動警察パトレイバー2 the Movie』の大きな特徴は、パトレイバーシリーズの世界観をベースに、東京を舞台にするという前提の中で、戦争という時間と空間の記号性を描ききったことにある。

製作された1993年の1年前に、現実世界では国際平和協力法(PKO法と通称される)が成立した。この時期は、1991年の湾岸戦争に対して日本がまったく人的貢献をできなかったことを踏まえ、「国際貢献」に積極的に取り組むべきという議論が高まった時期で、1992年9月に、自衛隊の施設大隊が初めて国連PKOとして海外に派遣された。派遣先は東南アジアのカンボジアである。

■自衛隊基地からの不審な機体発進で社会不安が高まる

『機動警察パトレイバー2 the Movie』は、カンボジアを連想させる「東南アジア某国」で、国連PKOに派遣された自衛隊のレイバー部隊が現地武装勢力の攻撃を受ける衝撃的な場面から始まる。そして、自衛隊派遣部隊は、厳格な武器使用基準に縛られているために、現に攻撃を受けているにもかかわらず、「現在カナダ隊がそちらへ急行中」「交戦は許可できない、全力で回避せよ」との命令を受け、ほぼ一方的に攻撃を受けて壊滅する。

物語が始まるのはそれから3年後。まず横浜のベイブリッジで爆発が起こる。それは、正体不明の戦闘機からのミサイル攻撃によるものだった。さらに、航空自衛隊の防空管制システムが、三沢基地から無許可で発進した自衛隊機(「ワイバーン」というコールサイン)の機影を捉える。

航空自衛隊の防空司令は、百里基地と小松基地からの戦闘機をスクランブルのために発進させるが、防空管制システムに百里基地から発進した機体が撃墜されたと表示されたため、小松基地からの機体に「ワイバーン」の撃墜命令を下す。

結果的には、三沢基地からの「ワイバーン」として表示されたレーダー探知は防空システムがハッキングされたために表示されたものだと判明するが、社会の不安は高まっていく。

■PKOで経験した戦争を疑似体験させようとしたテロリスト

こうした状況下で、警察の一部幹部が先走って自衛隊をスケープゴートとするような行動をとったことから警察と自衛隊の対立が深まり、政府は自衛隊に都内の警備を命令する。

しかしある朝、陸上自衛隊の攻撃ヘリに見える機体が、東京湾連絡橋や勝鬨橋などの都心部の橋梁、高層ビルの通信アンテナを攻撃し、地下の通信ケーブルも爆破される。

さらに都心上空を遊弋(ゆうよく)する飛行船から通信妨害がなされる。あたかも自衛隊がクーデターのために武装蜂起したようにみえる状況だったが、それに引き続く行動はなかった。

そうした状況を見て、特車二課の小隊長である後藤喜一警部は、「情報を中断し、混乱させる。それが手段ではなく、目的だった」と見抜く。そして一連の行動は「クーデターを偽装したテロ」であり、犯人の目的は、「戦争状況を作り出すこと、いや、首都を舞台に戦争という時間を演出すること」だと看破するのである。

コントロールセンター
写真=iStock.com/Milan_Jovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milan_Jovic

実際、これらの行動を引き起こしたのは、3年前のPKOで部隊を全滅させてしまった柘植行人と同志たちであり、クーデターではなく自分たちが経験した戦争という「時間」と「空間」を、東京に暮らす人々に擬似的に体験させ、日常生活のすぐ近くに戦争があることを認識させることそれ自体が彼らの目的であった。

■戦争を「モニターの奥」に押し込めてしまった社会

この作品で描かれているのは、東京から見た戦争の他者性、あるいは記号性である。物語の中盤では、柘植の同志だったが袂を分かった荒川茂樹と後藤との間で、戦争をどう考えるかについての会話が展開する。

その中で荒川は、戦後の日本が、戦争の「成果だけはしっかり受け取っていながら、モニターの奥に戦争を押し込め、ここが戦線の単なる後方に過ぎないことを忘れる、いや、忘れたふりをし続ける」と批判し、「この街では誰もが神様みたいなもんさ。いながらにしてその目で見、その手で触れることのできぬあらゆる現実を知る、何ひとつしない神様だ」と語る。

柘植の起こした行動は、東京に暮らしていてさえ戦争が「モニターの奥」ではなくそれよりずっと近いところにあることを認識させようとするものであった。実際、自衛隊が警備のために出動した後で、子どもたちの通学や大人たちの満員電車といった東京のありふれた日常風景の中で、武装した隊員が警備にあたっているミスマッチな情景が丁寧に描写される。

■「この街はね、リアルな戦争には狭すぎる」

しかし後藤は、そうやって柘植が作り出した戦争もまた結局のところ虚構でしかないと指摘する。物語終盤で、荒川を逮捕するときに、「この街の平和が偽物だとするなら、奴(注:柘植)が作り出した戦争もまた、偽物に過ぎない。この街はね、リアルな戦争には狭すぎる」と喝破するのである。

高橋杉雄『SFアニメと戦争』(辰巳出版)
高橋杉雄『SFアニメと戦争』(辰巳出版)

武装蜂起をしてみせた柘植の行動でさえ、結局は東京に暮らす人々にとっては、あくまで「モニターの奥」で起こっている海外の戦争と大差なく、当事者性を持ったかたちで戦争を認識するには至らないということであろう。

このように、日常と戦争とが混交した風景は、現実世界でも2001年の9・11テロ事件の後のアメリカ国内や世界中の空港で実際に出現した。2003年のイラク戦争は、交戦国の米国においてさえ、「モニターの奥」での戦争であったし、現在進行しているロシア・ウクライナ戦争も、ウクライナ以外の国々にとっては、ロシア自身を含めてやはり「モニターの奥」での戦争となっている。

『機動警察パトレイバー2 the Movie』の中では戦争は起こっていない。しかし、戦争という非常に大規模で凄惨な社会現象であっても現代社会においては記号的な存在となり得ること、あるいは実際にそうなっていることを正面から描き出した。その意味で、SFアニメと戦争の関係を考える上でエポックメーキングな作品である。

(初公開日:2024年10月22日)

----------

高橋 杉雄(たかはし・すぎお)
防衛研究所防衛政策研究室長
1972年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、ジョージワシントン大学コロンビアンスクール修士課程修了。1997年に防衛研究所に入所、現在、政策研究部防衛政策研究室長。国際安全保障論、現代軍事戦略論、日米関係論が専門。共著書に『新たなミサイル軍拡競争と日本の防衛』『「核の忘却」の終わり― 核兵器復権の時代』、編著書に『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか―デジタル時代の総力戦』、著書に『現代戦略論』など。

----------

(防衛研究所防衛政策研究室長 高橋 杉雄)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください