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高齢者ばかりで外国人客を「おもてなし」できず…全国の半数近くの市町村は消滅危機で「観光消滅」という末路

プレジデントオンライン / 2025年1月8日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bradleyhebdon

インバウンド客が増加し、日本の旅行・観光産業の競争力アメリカ、スペインに次ぐ世界3位。観光産業のGDPへの貢献度は今度も高まると予測されている。一方で、ジャーナリストの此花わかさんは「深刻な問題となっているのがオーバーツーリズム。そのほかにも、4つの大きな難題がある」と警鐘を鳴らす――。

日本は観光業を成長戦略の柱に掲げているものの、不備な点が山積している。観光客の急増による交通渋滞やゴミ問題、公共施設の混雑など、いわゆる「オーバーツーリズム」が地元住民の生活に影響を及ぼしているのだ。

インバウンド促進のために、日本政府は「クールジャパン」関連事業に2025年時点で総額1326億円もの予算を割り当てているが、こうした税金投資が本当に持続可能な観光業の構築に結びついているのか、疑問の声も多い。

本稿では、観光産業が日本経済の突破口となり得るのかを専門家や業界関係者の意見を交えて考察する。

■日本の観光産業のGDP貢献度は今後10年で6.8%→8%へ

日本の観光産業は、GDPへの貢献度が2023年の約6.8%から2033年には約8%に達し、雇用者数も670万人に増加すると予測されている(WTTC調べ)。旅行・観光産業の競争力の指標となる「Travel & Tourism Development Index」では、2024年に日本はアメリカ、スペインに次ぐ3位につけている。

しかし、落とし穴もある。日本の地政学的不安定さや経済変動、インフレ、異常気象といった複雑な課題が観光業の発展を阻んでしまうリスクがあるのだ。

■課題1:中国、台湾、朝鮮半島などの地政学的リスク

現状、日本と中国・韓国との関係は一時よりもよく改善したように見える。しかし領土問題などがあり、いつ綻びが生じても不思議ではない。もし、そうなれば訪日客数の減少を招くことになる。中国に関しては、今後予測される米中関係の悪化の影響で、中国の反日感情が高まる恐れもある。韓国は先ごろ、ユン大統領の弾劾訴追案が可決され、政情不安が増している。最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表が次期大統領になれば、ユン大統領の外交方針で改善が見られた日韓関係が再び冷え込むだろう。

ほかにも、中国と台湾の地政学的リスクの高まりは、観光業において訪日客の減少や収益低下を引き起こすと考えられる。

■課題2:経済変動とインフレ

米中貿易摩擦、中国からのデカップリングはサプライチェーンの分断を引き起こし、観光関連商品の価格を上昇させるかもしれない。とりわけ、訪日客が多い順に韓国人、中国人、台湾人、米国人、香港人となっており、これらの地域の経済変動やインフレは日本のインバウンドに影響するだろう。

また、円安による訪日旅行の価格競争力は強みだが、インフレによる輸入コスト増加が旅行会社の利益を圧迫する。国内でも物価上昇が旅行費用全体を押し上げ、価格競争力の低下が懸念されている。

■課題3:異常気象

日本には異常気象による天災リスクが年間を通じてある。台風の大型化と頻発化、集中豪雨と洪水、猛暑と熱波、そして雪不足が近年顕著化。これらは観光業に打撃を与える。

佐滝 剛弘『観光消滅~観光立国の実像と虚像~』(中公新書ラクレ)
佐滝 剛弘『観光消滅~観光立国の実像と虚像~』(中公新書ラクレ)

『観光消滅~観光立国の実像と虚像~』(中公新書ラクレ)は、観光学の第一人者で城西国際大学観光学部の佐滝剛弘教授が、豊富な事例をもとに改めて日本の観光の意義と未来を問い直す書籍だ。

本書によると、2024年2月に暖冬で氷像が溶けてしまい、北海道の「千歳・支笏湖氷濤まつり」が初めて会期途中で中止となったそうだ。また、2023年には雪不足で北海道や長野のスキー場の営業開始が遅れる事態も発生した。桜の開花時期の変化も花見の集客に影響を与えているという。

さらに、気候変動は地域の特産品や食文化にも影響を及ぼす。観光地の魅力の一部である食文化の危機は、観光業全体の活力を失わせるかもしれない。

このように観光産業は、地政学的、経済的、気候変動的リスクに大きく作用するが、ほかにも日本が直面している問題がある。それは、深刻な人手不足だ。

■課題4:地方消滅=観光消滅⁉

2024年4月に『人口戦略会議』が発表した「令和6年・地方自治体『持続可能性』分析レポート」は、全自治体の4割超にあたる744の自治体が、少子高齢化により「消滅可能性自治体」にあたるという。

前出・佐滝教授はこの消滅可能性自治体に多くの観光地を見つけたという。「『地方消滅』はイコール『観光消滅』であるともいえそうな、冷酷な数字である」。

訪日客を中心にフードツアーを展開している「Arigato Japan Food Tours」の創始者兼CEOのアン・カイルさんは、「日本の旅行業界は深刻な労働力不足に直面しており、ホテル、レストラン、交通機関、さらには現地ツアーガイドにまで影響している。労働力不足は、コストの増加やサービスの低下につながる可能性もある」と警鐘を鳴らす。

最近、都内でも人手不足により、デパートや飲食店で長時間待たされること多々がある。日本の「おもてなし」が今や絵に描いた餅に陥っているような気がするのは、筆者だけだろうか。

■成功例は大分県にあった!

特に地方の観光地の人口減に対する懸念がある中、そうした問題をクリアしている自治体もある。例えば、大分県別府市は立命館アジア太平洋大学(APU)との連携で成功を収めている。

同大キャンパスは、大分県別府市の標高約330メートルの山間部に位置し、自然豊かな環境に囲まれ、別府市街や別府湾の絶景を一望できる。学生の約半数は外国人で占められ、サステイナビリティ観光学部(ST)などで学んでいる。彼らの多くは別府のホテルや飲食店でアルバイトやインターンとして働き、卒業後にそのまま県内の観光業に就職するケースも多い。

立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)
立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)(写真=JKT-c/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

先日、筆者は別府の温泉経営者から、「APUの学生さんたちが温泉で働いてくれるおかげで、別府がなんとか成り立っている」と聞いた。

APUサステイナビリティ観光学部のダハラン・ナリマン准教授によると、APUは多くの自治体や民間企業と連携協定を結んでおり、教員も観光業振興委員などを通して政策づくりに提言しているそうだ。

また、学生たちは、国内外のフィールドスタディや地域の問題解決に向けてのグループワークを行い、その成果発表会を自治体と企業に共有しているという。

ほかにも、地元企業との製品共同開発、県内の観光ルート作成、ソーシャルメディアによる観光スポット紹介、温泉まつりに国際的な雰囲気を盛り込むなど、学生と教員がグローバルな知見を活かした施策を自治体と共同で展開しているのだ。

多文化のバックグラウンドをもつ国際学生に観光学を研究してもらい、卒業後は日本の観光を一緒に育ててもらう。外国人の学生にとっても自国より政治的・経済的に安定した生活が日本で築けるのなら、メリットがある。彼らの存在は労働力を補うだけでなく、日本のグローバル化を支え助けるのだ。

別府は、中国、台湾と朝鮮半島に近く、日本一の温泉数を誇るという立地に恵まれているが、持続可能な観光コミュニティをAPUと大分県は構築しているのである。他の自治体のお手本になりそうだが、別府にも問題がないわけではない。「インフラ」が課題なのだ。「大分県のような地方では交通が不便で一つのスポットから次のスポットまで距離が遠く、交通インフラが整備されていないエリアもある」(ナリマン准教授)

■持続可能な観光業への道筋

今後、観光地はどうすればいいのか。

観光業の成功には、単純に訪日客数が増加すればいいのではなく、日本文化を理解し、尊重してくれる観光客を増やすことが重要だという意見が多い。また、観光税の導入や公共交通インフラへの投資、地域コミュニティの保護を目的とした具体的な施策も必要とされている。

インバウンドへの楽観的な見方に否定的な立場を取る佐滝教授は「単なる聖地巡礼の旅行者を増やすのではなく、日本文化の歴史と現在を深く理解してもらえる人を増やすためなら、税金を投入してもよいのではないか」と問題提起をする。

前出のアン・カイルさんも、「訪日客はよりユニークな体験を求めている。農村観光や自然保護など、環境に優しい旅行に将来性がある」と述べる。ただし、こうした旅行を支えるためには、労働力やインフラ整備が不可欠であるとも指摘している。

ツアーガイド兼ツアーコンサルタントのローリー・デントさんは、「主要都市では、ホテルなどの供給が需要に追いつかず、限界に達する可能性が高い。東北など観光客がまだ少ない地域を訪れることが理想だが、バスの運行を増やし、ゴミ箱を設置し、混雑する観光エリアでは人数制限を設けるなど、オーバーツーリズム問題を解決しなければいけない」と強調する。

ナリマン准教授も次のように感じているという。

「未来の地域の観光業を盛り上げるには、持続的に地域の問題を解決する模索の場が必要であり、大学と自治体、民間、地域住民などとの連携が必要と思っています」

国がインバウンド促進に巨額の予算を投じるだけでは、人手不足や観光業の持続可能性という根本的な問題を解決することは難しい。観光立国として真に成長するためには、観光業全体を見直し、構造改革を進めることが不可欠だ。

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此花 わか(このはな・わか)
ジャーナリスト
社会・文化を取材し、日本語と英語で発信するジャーナリスト。ライアン・ゴズリングやヒュー・ジャックマンなどのハリウッドスターから、宇宙飛行士や芥川賞作家まで様々なジャンルの人々へのインタビューも手掛ける。

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(ジャーナリスト 此花 わか)

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