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産業医の「お休みされては?」への反応は真っ二つに分かれる…メンタル不調が悪循環に陥る人の特徴

プレジデントオンライン / 2025年1月12日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wutwhanfoto

職場で限界を超え頑張った末にダウンしてしまう人が出るのはなぜなのか。産業医の薮野淳也さんは「休職を勧めても『休むなんてとんでもない!』『ツライのは自分の甘え』と言う人は多い。同僚や部下に迷惑をかけることを心配するが、案外、周囲の人たちは、むしろ休んでほしいと思っているものだ」という――。

※本稿は、薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■産業医が休職を勧めたとき、ほっとする人と拒む人がいる

産業医面談やクリニックの診察室で「体調を整えるために、お休みしたほうがいいと思いますよ」と休職を勧めると、反応は大きく2つに分かれます。

自分自身でも休んだほうがいいだろうなと感じていて背中を押してもらいたかった方は、「お休みしたほうが〜」と伝えると、ほっとされるようです。一方で、「休むなんてとんでもない!」という反応の方もいます。

先日も、ある会社で産業医面談を行ったところ、その社員の方は、家に帰ってもずっと仕事のことを考えてしまう状態で精神的に疲れ切っているものの、「せっかく任せてもらった案件ですから! 今、休むなんてあり得ません!」と頑なに休職は拒否されました。

どう見てもギリギリの状態ですから本来は休んだほうがいいのですが、どうしても本人が首を縦に振らないので、このときには職場に配慮を求めるとともに、本人には心療内科にかかってもらい、主治医のサポートを得ることにしました。

「休むなんて」という反応の裏側には、いろいろなパターンがあります。責任感から、仕事を途中で投げ出したくないという気持ちが強い人もいれば、単純にどうすればいいのかわからなくて休むことに戸惑いを感じている人もいます。

■どう見てもギリギリなのに、なぜ「休めません」と言うのか

休んだあとにどうすればいいのか、本当に休んでも大丈夫なのか、そもそも自分は休んだほうがいい状態なのか――。どうすればいいのか分からないけれどしんどい、つらい……と、クリニックに駆け込んで来られる方はたくさんいらっしやいます。「今までこうした経験はありますか?」と聞くと、「ありません」と返ってくることがほとんどですから、初めてのことに戸惑うのは当然のことです。

朝会社に行こうとすると具合が悪くなる……とクリニックに相談に来た方に、詳しくお話を伺(うかが)って、「それは適応障害という病気ですから、一旦休ませてもらって、環境を見直すとともにしっかり治療して体調を整えたほうがいいと思いますよ」とお伝えしたとき。

「いや、でも……。自分の甘えなんじゃないでしょうか」
「以前も似たようなことがあって、そのときには何とか乗り越えられたので、今回も大丈夫だと思うんですけど……」

といった会話が診察室でなされることはよくあります。

■適応障害を発症していても、自分では病気だと気づかない

適応障害を発症していても、自分では病気だと気づかないことは少なくないのです。なんだか調子が悪い、つらいとは思いつつ、病気であるという自覚はないので、「もう少し頑張ればなんとかなる」「自分の頑張りが足りないんだ」「休みたいなんて、ワガママじゃないか」などと思って自分自身を追い詰めてしまうのでしょう。

心は目に見えません。そのため、どこからが病気で、どこまでが努力でカバーできる範疇なのかという線引きは確かに難しいものです。

だからこそ、それが異常なのか異常じゃないのか、休職が必要なのか必要じゃないのかの判断は、医師にゆだねてください。専門家でなければそのジャッジはできません。

■「周りに迷惑をかけてしまう」と気にしているのは自分だけ?

周りの人に迷惑をかけてしまう――。

医師として休職を勧めると、そう心配される人も多いです。特に、小規模の会社に勤めている方は、周りに前例がなかったり、チームの人数も少なかったりして、「同僚に迷惑がかかるから」と、より躊躇される印象があります。

でも、私の経験上、その心配は杞憂(きゆう)に終わることが大半です。本人は「周りに迷惑をかけてしまうから」とためらっていても、案外、気にしているのは本人だけで、いざ職場で相談してみると、「早く言ってくれればよかったのに」といわれて、トントンと進んでいくことがほとんどなのです。

規模の大きい会社ほど、人事や産業保健機能がしっかりしていて、就業規則での休職や復職のルールも明確な一方、会社の規模が小さくなればなるほど、そのあたりが曖昧になりやすいという現実はあります。

ただ、小さい会社の良いところは、距離の近さです。上司、あるいは経営陣との距離が近いからこそ、話し合いによって柔軟に物事が進んでいきやすいのです。

作業着を着て会議をしているチーム
写真=iStock.com/koumaru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koumaru

30人規模の会社で働いていた方の話です。2つのプロジェクトを任され、キャパオーバーに陥っていました。

特に一方のプロジェクトが重荷になっていて、「しんどい……」と精神的に不調をきたしつつも、「途中でプロジェクトを投げ出したら他の人に迷惑がかかっちゃう。それだけは避けたい」という一心でなんとか仕事を続けていました。ただ、普段のその人だったら事前に気づくはずのケアレスミスをしばしば起こしていました。

■社員30人の会社でキャパオーバーになった人の例

そのまま働き続ければ体調は悪化するばかりです。主治医として、「上長に相談して、一方のプロジェクトを巻き取ってもらうなど、何かしらの方法をお願いしたほうがいいですよ」とアドバイスしたところ、数日後、その方は意を決して相談に行かれました。

2週間後の診察の際に話を聞くと、まさに「早く言ってくれればよかったのに」という雰囲気だったようで、すぐに上長が一方のプロジェクトを引き継いでくれたそうです。この方の場合は、重荷が減ったことでそのまま働けそうということでしたので、休職には至らなかった事例ですが、小さい会社ならではの距離の近さと柔軟さでポンポンと対応が進んだケースでした。

また、小さい会社ほどルールが曖昧という点では、休職や復職の仕方が分かりにくい面もある一方で、曖昧だからこそ手順に縛られない良さもあります。例えば、就業規則には私傷病による休職は3カ月までと書かれていたとしても、杓子定規に3カ月で復職を求められるわけではなく、体調が良くならなければ3カ月を優に超えてもそのまま休職していることも、小さい会社ほどよくある話です。「明日から休んでいいよ」という社長の一言ですぐに休職が決まる、なんてことも。

さらに、みんなが顔の見える距離で働いているからこそ、一人が体調不良で休職することになったときに、「こういうことはまた起こるかもしれないから」と、会社の就業規則を見直すきっかけになることもあります。

部下からの報告を受けている上司
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■「今自分が抜けるわけにはいかない」と悪循環の思考回路に

このように、必ずしも規模の小さい会社ほど休みにくいということはありません。ただし、話し合いで柔軟に物事が進みやすいというメリットが活きるのは、それまでの信頼関係があってこそ。まじめに働いている姿を近い距離で見ているからこそ、周りの人も「早く言ってくれれば」という反応になるのだと思います。

「私がいないとプロジェクトが回らない」
「今自分が抜けるわけにはいかない」

産業医面談では、こうした言葉もよく聞きます。体調が悪くなると、視野が狭くなりやすいので、どんどんこうした思考に陥りやすいものです。

■上司や人事は「別に今は抜けても大丈夫ですよ」

メンタル不調が疑われる方の産業医面談が入ったときには、事前情報として、本当に人が不足していて現場が疲弊しているのか、面談者の上長や人事の方の話を聞いておくようにしています。というのは、本人は「自分がいないと」と思い込んでいても、実際はそうでもなく、周りの人で十分にカバーできることは往々にしてあるからです。現場の上長や人事の方からは、「別に今は抜けても大丈夫ですよ」と、さらっとした答えが返ってくることがほとんどです。

そもそも適応障害を起こしているような場合には、周りも薄々「大丈夫かな」と気にかけているものです。特に、急な欠勤を繰り返していたり、遅刻やミスが増えたりして、パフォーマンスが下がっているときには、周りはやきもきしているかもしれません。いったんしっかり休んで体調を整えて、これまでのように仕事をこなせるようになってから復帰したほうが、同僚の方たちも安心するのではないでしょうか。

それは、部下を抱えている中間管理職の方も同じです。

「部下の手前、休めない」と考えている方は多いですが、チームのリーダーである課長なり部長なりがメンタル不調に陥っているときには、チーム全体が長時間労働を強いられて疲弊していることがほとんどです。そのなかで、責任感の強いリーダーが一人で背負い込みすぎて心身に不調をきたしてしまうというパターンを多々見てきました。

■「部下の手前、休めない」という中間管理職だって休んでいい

その場合、部下の人たちも状況をよく分かっていますから、むしろ「早く休んでください」と思ってくれている可能性が高いです。

薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)
薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)

ただ、そうは言っても、チームとして仕事は進めなければなりません。そこで、「部下に悪い」「部下の目が気になる」などと休むことをためらっている方には、「チームで考えましょう」とお伝えしています。

例えば、Aさん、Bさん、Cさんという3人のチームだとしたら、体調不良に陥っているAさんがまず先に休み、その間はBさんとCさんでなんとか頑張ってもらう。そして、Aさんが戻ってきたらCさんの仕事を振り分けて、Cさんに少し休んでもらうといったことを繰り返すのです。そのときに「上司だから休めない」と気負う必要はありません。上司も部下も関係なく、チームのメンバーを巻き込んで対応しなければ、現実問題うまくいかないと思います。

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薮野 淳也(やぶの・じゅんや)
産業医・心療内科医
1988年東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、徳島大学医学部に入学・卒業。認定産業医、認定スポーツ医、健康運動指導士、健康運動実践指導者。大手企業の産業医として日本オラクルのほか、10社以上の産業保健業務に従事。2023年より、ビジネスパーソンのための内科・心療内科「Stay Fit Clinic」を開設し院長を務める。

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(産業医・心療内科医 薮野 淳也 構成=橋口佐紀子)

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