65歳でも70歳でもない…元東大教授の90歳現役医師が「ヨボヨボになるかどうかはここが分かれ目」という年齢
プレジデントオンライン / 2025年1月11日 9時15分
※本稿は、折茂肇『ほったらかし快老術』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■75歳以降は身体機能が衰え、病気のリスクも増える
私の専門分野である骨粗鬆症(こつそしょうしょう)のほかにも75歳を境に変わる病気のリスクは多くある。高血圧や糖尿病といった生活習慣病、動脈硬化による血管障害、整形外科の領域でいえば腰部脊柱管狭窄症や変形性の股関節やひざの関節症など、加齢に伴う血管や臓器をはじめとする体の機能の衰えが原因で起こる病気は数多くある。
内閣府の調査では、要介護・要支援の認定を受けた人の数は増加しており、とくに75歳以上でその割合が高くなると報告されている。
また、認知症では、中年期は肥満がリスク因子の一つになるが、75歳以上では反対に、体重減少が引き金になるという報告もある。ほかにも、75歳以上になると、一つではなく複数の病気を併せ持つことが多くなる、治療で使用する薬の副作用が生じやすくなるなどの変化も起こる。
■病気になると完全には回復せず、要介護のリスクも上がる
さらに、75歳未満では、一つの病気があっても治療をして良くなれば回復し、病気になる前のような生活に戻り、仕事にも復帰できることが多い。しかし、複数の病気を併せ持つようになり、体のさまざまな機能が低下する75歳以上になると、一つの病気を治療しても回復せず、反対にかえって身体機能が下がり、要介護や死亡のリスクを高めてしまうことも少なくないのだ。
このような高齢者特有の身体的な状態を鑑み、高血圧については、近年のガイドラインで75歳以上の高齢者の降圧目標がやや緩めに設定されている。高齢者でも血圧を下げる治療は必要だが、それぞれの体の状態や生活背景に応じた検討が必要と考えられているのだ。
一方で、糖尿病に伴う高血糖は、65〜74歳では心臓や血管の病気による死亡リスクを高めることがわかっているが、75歳以上になると、高血糖に起因する死亡リスクは74歳以下までと比べて軽度となるという研究結果がある。脂質異常症についても、65〜74歳ではLDLコレステロール値が高いことが心筋梗塞などの冠動脈疾患のリスク因子になるが、70歳以上を対象とした研究では、LDLコレステロール値が高いことと冠動脈疾患の発症には関連性がないとされる報告が多い。
■65〜74歳を「准高齢者」、75歳以上を「高齢者」と定義
このように75歳を境に身体機能の低下の仕方や病気のリスクは大きく変わる。それは、75歳を境に老化が急加速で進むということでもある。このことは、日本老年学会・日本老年医学会が提唱した65〜74歳を「准高齢者」、75歳以上を「高齢者」と定義するという概念の根拠の一つにもなり得ることだろう。
もともと、なぜ65歳以上を高齢者の基準としたのか。それは、100年以上も前に、ドイツ帝国で国民に年金を支給する制度を作るにあたり、同国の宰相ビスマルクが、それ以上長生きして年金を受給する者はほとんどいないはずだと考え、65歳という年齢を設定したのが始まりだという。当時は、65歳以上まで生きる人のほうが少なかったのだ。100年ののち、その同じ年齢が「高齢者」の基準にも満たなくなる社会が訪れることになるとは、ビスマルクも想像していなかったのではないだろうか。
一方で、アメリカでは、人が健やかに老いるかどうかは年齢ではなくライフスタイルが決め手になるとの観点から、高齢者をyoung-oldとold-oldに分けるという考え方が提唱された。
■健やかに老いるかどうかは年齢ではなくライフスタイルが決め手
young-oldは、健康状態が良く、仕事や趣味、ボランティア活動や政治的活動など、社会生活での活動度が高い高齢者、つまり「年齢的には高齢者だけれど生活様式は若い人」を意味する。これに対してold-oldは、身体的、精神的な機能の低下が著しく、社会生活の活動度が低い人をさす。つまり、認知症や寝たきりといった状態のために、日常生活動作能力(ADL)、社会的な活動、知的な活動などが障害されている人、「年齢だけでなく身体機能や生活も老いている人」のことをいう。
この概念は、「准高齢者」と「高齢者」の考え方と通じるものがあるように感じている。実際に、old-oldは75歳以上の高齢者に多く、young-oldは65〜74歳の人に多い傾向があるが、75歳以上の高齢者のなかにもyoung-oldは大勢いる。
さらに、75歳以上の高齢者が増加している現在では、「極めて心身の老化が著しいものの、なんとか生きながらえている人たち」をoldest-oldとし、old-oldと分けて考えるようにもなっている。一般的には85歳以上の人に多い。
■健康と要介護の中間の段階「フレイル」には可逆性が
身体的な機能の衰えや病気のなりやすさが変化する節目を「75歳」と述べたが、あくまで、個人差があるということは理解しておく必要がある。とくに高齢になればなるほど、個人差は大きくなる。同じ年齢でも、健康の度合いは人によって大きく異なり、元気に仕事をしている人、趣味や運動を楽しんでいる人もいれば、いくつもの病気を抱えて入院せざるを得ない人、要介護状態の人などもいる。
健康な状態と要介護の状態の、ちょうど中間の段階を「フレイル」という。加齢によって心身が衰え、そのままいくと健康やQOLに障害の生じる可能性がある状態をいう。加齢による自然な身体的、あるいは精神的な機能の低下に、病気やストレスなどさまざまな要因が加わることで、どんどん機能の衰えが進んでしまい、要介護や死亡のリスクが高まる。
ただし、フレイルには「可逆性」、つまり、元に戻せる可能性がある、という特性もある。早期に気づき、栄養や運動、社会参加などにより予防を心がけることで、フレイルの進行をゆっくりにしたり、健康な状態に戻したりすることが可能なのだ。
■「老化」とは修復不能なもの、わかりやすい特徴4つ
フレイルは、早期に気づくことで元に戻せる可能性がある状態をいうが、「老化」そのものは、元に戻すことはできないものをいう。一般的に、老化とは「成熟期以降、個体の機能が以前の状態には戻らないかたちで低下し、生体内部の環境を一定に保てなくなって死に至るまでの過程」と定義されている。
老化のわかりやすい特徴として、次の4つを挙げる。
①人によって遅い・早いの差はあるが避けることはできない
②環境の影響も受けるものの、基本的には遺伝的な要因によって定められている
③加齢とともに起こり、一度起こると元には戻らない
④機能の低下を伴うものであり、体にとってはよくないことである
若いときには、体の機能に何らかの障害が起こっても、修復できる。しかし、高齢になると環境の変化への対応がスムーズにいかなくなるため、修復が難しくなってくる。これが老化の正体である。
■最も早く現れやすい老化現象は「老眼」「加齢性難聴」
若者と比べて、高齢者は体の機能のすべてが低下しており、臓器のすべてが衰えているため、当然のごとくその影響が体のあちこちに現れるようになる。この、老化によって体に現れるさまざまな変化や症状が「老化現象」と呼ばれるものだ。
個人差はあるが、一般的に最も早期に現れやすい老化現象が、目と耳に起こるものである。近くの物が見えにくくなる「老眼」や、耳が遠くなる「加齢性難聴」などは多くの人が経験するもので、「年をとったなあ」と実感する最初のきっかけになるものでもあるだろう。
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医師
公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長。1935年1月生まれ。東京大学医学部卒業後、86年東大医学部老年病学教室教授に就任。老年医学、とくにカルシウム代謝や骨粗鬆症を専門に研究と教育に携わり、日本老年医学会理事長(95~2001年)も務めた。東大退官後は、東京都老人医療センター院長や健康科学大学学長を務め、現在は医師として高齢者施設に週4日勤務する。
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(医師 折茂 肇)
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