「分数は何のためにあるのか」頭の柔らかい人が日常生活で使っている算数の便利な活用法
プレジデントオンライン / 2025年1月29日 8時15分
※本稿は、西成活裕『東大の先生!文系の私に超わかりやすく算数を教えてください!』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■分数はホットケーキのイメージでとらえる
【西成先生】今回、扱うのは分数です。算数嫌いを量産している、なかなかの難敵です。
【郷さん】たしかに分数って文系人間からするとつかみどころがない感じで、私もいまだに苦手意識がありますね。
【西成先生】分数は実際に抽象的な記号なんです。だから分数を扱うときに大事なのは、分数を日本語やビジュアル的なイメージに変換してみること。ドリルをこなして分数の計算ができるようになったところで、意味を理解していないとどこかでつまずく可能性が高い。
【郷さん】イメージが大事なんですね。
【西成先生】はい。たとえばホットケーキが「まん丸1枚」と「半分1つ」と「6つに分けたうちの1切れ」あるとしましょう。ホットケーキは全部で何枚分あるでしょうか?
【郷さん】子どもなら「いっぱい!」っていいそう(笑)。
【西成先生】たしかに(笑)。まん丸は1枚とかぞえてよさそうですが、もう1枚は半分、一番小さいのは6つに分けられたうちの1つ分。これを数字で明確に表したいですね。
【西成先生】そこで分数の登場です。
【郷さん】なるほど。
【西成先生】1枚を2つに分けたものの1つ分。これを1/2(にぶんのいち)と表します。
1枚を6つに分けたものの1つ分。これを1/6(ろくぶんのいち)と表します。つまり、ここにホットケーキが、1枚と、1/2枚と、1/6枚があるというわけです。
■「分数は割り算」ってどういうこと⁉
【西成先生】このように整数の1刻みの世界よりも細かい単位で数を扱うときに便利なのが分数です。こういうやつですね(図表1)。
【西成先生】真ん中に横線があって、上と下に数字を書きます。分数の上の数字を「分子」、下の数字を「分母」といいます。
【郷さん】上が子どもで、下がお母ちゃん。
【西成先生】そのイメージでかまいませんけど、子ども(分子)のほうが大きい分数もあるので注意してください。
【郷さん】そうでした。
【西成先生】「分子」「分母」という言葉は中国の数学から入ってきたときの名残で、当時の中国の数学では分子が分母よりも大きい分数は扱わなかったそうです。だから下が「母」でも納得感はあったんですけど、今は「子」が大きい場合があるので、正直、現代数学の分数にはあまり適した表現とはいえないんです。
【郷さん】へぇ~。そんな歴史があったんだ。
【西成先生】さてさて、分数のもっとも重要なことをいいますね。そもそも分数ってなんだという話です。結論をいうと、分数は割り算です。
【郷さん】は? どういうことですか?
【西成先生】割り算を違う形で表したのが分数なんです。
【郷さん】じゃあ……、分数って割り算の書き方をコンパクトにしたみたいなもの?
【西成先生】そういうこと。分子は「割られる数」で、分母は「割る数」と表現することもできます。
■分数は計算途中の記号にすぎない
【西成先生】分数は割り算をコンパクトに表現した記号にすぎませんから、分数って数ですらないんです。
【郷さん】いやいや、分「数」っていうじゃないですか。
【西成先生】分数は計算途中を表したものなので、実際に割り算をしないと実際の値がわかりません。たとえば1/2は「1÷2」と同じこと。「1÷2」を計算すると0.5です。0.5は数ですが、1/2はまだ数ではありません。
【郷さん】数じゃないなら……、なんでわざわざ分数を使うんですかね。
【西成先生】複雑な式を計算するときに分数を使ったほうが便利なことが多いからです。昔の人たちのおかげで、分数のまま四則演算して、分数のまま答えをだすことができるようになりました。
【郷さん】答えが分数なのはいいんですか? せめて小数などの数に直したほうがいいのでは?
【西成先生】たしかにそこは「最後まで計算しろよ」って感じるかもしれませんけど、数学的には答えが分数の状態でOK。たとえば設計図に1/2mと書いてあっても問題ありません。でも、それを実際に大工さんが見て角材を切るときは「0.5mだな」と計算して作業するわけです。そのような感じで、算数の答えとしては1/2のままでもいいけれど、現実世界にそれを反映させるときは0.5という数にして使う。そういう数学界の決まりがあります。
【郷さん】なるほど。
■割り切れないときには分数が超便利
【西成先生】あと、割り算って割り切れない場合がありますよね。たとえば「りんご1個を3人で分けたらひとり何個か」というときに、「1÷3」を電卓で計算すると0.3333……と永遠と「3」が続きます。これを「循環小数」といいますけどね。このように表現したりします(図表3)。
【西成先生】一応スッキリ書けますが、このままで計算するのはどうも難しそう。でも分数を使えばたとえば、「3/11×1/3」って計算できるんです。便利でしょ?
【郷さん】じゃあ割り算のときにやった「商がいくつで、余りがいくつ」みたいな話は……。
【西成先生】そこも分数にすれば「余り」は一切意識せず、かちゃかちゃ計算できるんです。
【郷さん】余りをだすのにあんなに苦労したのに……。分数って便利ですね。
■分数ならではのおもしろい使い方
【西成先生】分数は割り算と一緒ですから、割り算の性質がそのまま当てはまります。割る数と割られる数を同じ分だけ掛け算しても商は同じでしたね。たとえば、「4÷2」と「8÷4」の商はどちらも同じ2。
【西成先生】同じように、分子と分母に同じ数を掛けたり、同じ数で割ったりしても、分数の大きさは変わりません。つまり、4/2と8/4の大きさは同じなんです。ちょっと難しくしましょう。3/4と3/4の分子と分母に2を掛けた6/8では、分数の大きさは同じです。
【郷さん】「分数の大きさ」ってなんですか?
【西成先生】分数が割り算だと考えれば、割り算の商のこと。「割られる数(分子)の中に割る数(分母)がいくつあるか」です。それを変えずに形だけ変えられるのです。たとえば、ホールケーキが1つあったとしましょう。3/4ということはホールケーキを4等分したうちの3個ですね。
【郷さん】はい。
【西成先生】では、6/8はどれくらいかというと、ホールケーキを8等分したうちの6切れ。3/4と6/8で大きさは変わらないですよね。
【郷さん】細かくなった感じがありますけど(笑)。大きさは同じですね。
【西成先生】分数の計算をするときは、この「意味を変えずに形だけ変える」ということをひんぱんに行います。この性質は覚えておいてください。
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東京大学 先端科学技術研究センター教授
専門は数理物理学、渋滞学。東京大学工学部卒業、同大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。その後、ドイツのケルン大学理論物理学研究所などを経て現在に至る。予備校講師のアルバイトをした経験から、わかりやすく教えることを得意としている。『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』(かんき出版)は、20万部を超えるベストセラーに。
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(東京大学 先端科学技術研究センター教授 西成 活裕 イラスト=meppelstatt)
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