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「名門中高一貫校に入学→勉強をさぼる→成績低迷」そんな中学生を"医師"に導いた「実家の居間での出来事」

プレジデントオンライン / 2025年1月22日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dmphoto

「やりたいことが見つからない」と進路に悩む子どもに、親はどんなアドバイスができるのか。外科医で作家の中山祐次郎さんは「学生時代はとにかく何かに『熱中』してほしい。熱中するものが見つからないのなら、このマジック・クエスチョンに答えてみるのがおすすめだ」という――。

※本稿は、中山祐次郎『医者の父が息子に綴る 人生の扉をひらく鍵』(あさま社)の一部を再編集したものです。

■名門中高一貫校に入ったのに、成績は地に落ちた

親愛なる君へ。僕の恥ずかしい話をしよう。

僕は親の努力で立派な中高一貫校(神奈川県の聖光学院)に入れてもらったくせに、中学・高校時代の勉強をさぼったせいで成績が地に落ちていた。全国の同級生が受験する試験を受けると、偏差値は50くらいだったのだ。成績は全国平均だったということだ。中学受験の偏差値68は、日本で上から数えても10番以内に入るような難しい学校に入ったのに、である。

それでも、中学生の間、僕は将来どんな職業につくか、そしてどんな人間になるかを必死に考えていた。せっかく生まれてせっかく生きているのだから、ひとかどの人間にはなりたい。そして、ある程度は経済的に安定した仕事がいい。

こんな考えにたどり着いたのは、僕の母親の影響が大きい。

母は、ことあるごとに、「今勉強しないと、大雨の日もかんかん照りの暑い日も、我慢して外で仕事をしなければならなくなるよ」と言った。そして、「大変な仕事をする人がいるからこの世の中は成り立っている。でも、大変な仕事をする人は涼しい部屋で限られた時間だけ働く人よりもらうお金が多いわけではないんだよ」とも。

もちろん、どんな仕事だって尊いし、どんな職業も等しく大切だ。でも、働く環境が違い、手に入れるお金が全然違う、ということはこの世界の厳然たる事実なのだ。このことから決して目を背けてはならない。

■お金とは「嫌なことから身を守る防具」

もしかしたら君は、「お金なんていらない、そんな生き方は汚い」と思うかもしれない。僕もずっとそう思っていた。でも、大人になってからやっとわかったことがある。お金とは「ぜいたくができる武器」ではなくて、「嫌なことから身を守る防具」なのだ。特に、自分だけでなく、自分が大切だと思う人(つまり君たちのことだ)がつらい思いや痛い目にあわないようにするための強力な防具なのである。

お金という鎧は君たちが車に轢かれる危険を減らすし、また、お金という兜は頭を打って死んでしまう危険を減らす。わけのわからない人に攻撃されて痛い思いをする危険を減らすし、咳やのどの痛みがある時に休むことを可能にしてくれる。

話を戻して、僕は「将来は、きちんとお金を稼げて、しかも自分が楽しくて、カッコいい仕事をしたい」と思うようになった。

でも、僕は壊滅的に成績が悪く、特に数学と理科がどうしようもなくダメだった。つまり理系にはまったく向いていなかったのだ。実は、英語と社会もまったくダメだったので、文系に向いているわけでもなかったのだが、それはさておき。

■15歳のある日、読んだ新聞記事

そんな頃出会ったのが、本書のエッセイに出てきた「15歳のある日、読んだ新聞記事」だ。記事は、東南アジアのある国について書かれていた。それによると、ゲリラと呼ばれる武装した悪い人たちが村を襲う。村では略奪や破壊をするわけではなく、ただ少年少女をさらうんだそうだ。さらって、男の子は五人組にする。そして一人を決めたら、残りの四人にその一人を殺させるんだ。女の子には子供を産ませ、その子供は兵士に育て上げる。

そんな恐ろしい話を読んで、僕は実家の一階の居間で雷に打たれるような衝撃を受けた。ひどい話だけど、ショックを受けたのはそれだけじゃない。さらわれる少年少女の年齢が、読んでいる自分の15歳という年齢とほとんど変わらなかったからだ。

僕は思った。「なぜこの子たちはその国に生まれてこんな目にあうんだろう。なぜ僕は平和な日本に生まれ、まあまあ裕福な家に生まれ、恵まれた環境で将来のことなんか考えられるんだろう」と。その次に考えたのは、こういうことだ。「なるほど、この世界は圧倒的に不公平なのか。生まれながらにスタート地点は人によってまったく違うのか」僕は絶望した。

新聞紙
写真=iStock.com/skybluejapan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skybluejapan

■「じゃあ、何ができるんだろう」

こんな不公平が丸太のように横たわる世界。しばらく呆然としたものだ。でも、僕がぼんやりしようが泣きわめこうが、何も世界は変わらない。

じゃあ、何ができるんだろう、と僕は思った。そうだ、この世界の不公平を少しでも減らすような仕事をすればいい。どうやって? 考えてみると、いろんな方法があるように思えた。たとえば「世界一の大金持ちになって内戦や紛争をしているところにお金を寄付する」。

でも、お金を渡したところで争いはなくなる気がしない。お金ではなく、領土や権利、国、信じる宗教といったもっと大きなもので争っているからだ。じゃあ、革命家になってその場所に行き、なんかうまくやってケンカをおさめるという方法はどうだろう。でも革命家のなり方がわからないし、革命家は短命な人が多く、幸せな人生を送っていなさそうだ。

そこで僕は、自分が医者になって現地へ行き、傷ついた人を片っ端から治しまくるのはどうだろう、と思いついた。根本的な解決にはならないかもしれないけど、これは現実的にできそうだし、ちょっとは意味がある気がした。そしてこの道なら日本で医師として経済的に安定した生活が送れるし、親も喜ぶかもしれない。

僕は医者になる、と決めた。

■熱中した思い出は無味乾燥な人生を支えてくれる

やりたいことを見つけるためには、とにかく何かに打ち込むことだ。

自分が心から好きで、これをやっている間は時間を忘れられる、という何かだ。それに「熱中」した思い出は、君の心の奥底にある鍵付きの部屋の一番奥、額縁に入れて飾られることになる。そして、その思い出がそれから何十年も続く、(青春時代と比べれば)無味で乾燥した人生を支えてくれるのである。

学生時代、それも青春時代と言われる中学生から高校生、大学生という期間は、その真っ最中には長く間延びして、いつまでも終わらないような気になるものだ。

だが、実はその時間は人生の中でほんの13%ほどしかない。まるで急行列車が通過する小さい駅のような一瞬で通り過ぎるものだ。「物心がついていない」幼児期から思春期前の小学生は、親の言われるままに暮らしており、それは自分の人生ではない。

■学生時代は実は人生でもっとも自由な時間

一方で大学を卒業して社会人になると、学生時代よりはるかに厳しい規律に縛られ、たった1週間の夏休みと冬休みしかなく、ほとんどずっと仕事をしているような生活になる。それから結婚して家庭を持ったりなんかすると、これまたやることが多くなってゆっくり自分の時間を持つことなんてできなくなる。

だから、君の人生の中で、好きな本を読んだり、絵を描いたり、やりたいスポーツに熱中したり、惚れた異性のことを何時間も考えていたりという過ごし方ができるのは、実は学生時代のほんの数年、長くても10年間のことなのだ。しかも、この時代というのは多くの人は体に力がみなぎり、頭もよく冴えていて、金はないが行動力があって本当にどんなことでもできる。学校や親に叱られてばかりで自由がないような気がするが、実は人生のうちでもっとも自由な時間なのだ。

サッカー
写真=iStock.com/SDI Productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SDI Productions

この学生時代に何をするかということは、僕はけっこう大切だと思っている。

なんでもいい。とにかく、何かに「熱中」してほしい。部活でも好きなアイドルでも読書でも動画でも、恋愛でも勉強でもなんでもいいのだ。打ち込んだ結果なんて出なくていい。立派な結果が出てしまったばっかりに、大人になってもずっとそれにすがって生きる残念な人は少なくない。

■熱中するものを見つける「マジック・クエスチョン」

熱中するものが見つからなかったら?

その時は、僕のこのマジック・クエスチョンに答えてほしい。

「来年死んでしまうとしたら、君は今何をしますか?」

すると、湧き上がるものがあるはずだ。僕はこの魔法の質問をしょっちゅう自分に投げかけている。そして、きちんと自分の夢中にまっすぐ歩めるように軌道修正しているのだ。

中山祐次郎『医者の父が息子に綴る 人生の扉をひらく鍵』(あさま社)
中山祐次郎『医者の父が息子に綴る 人生の扉をひらく鍵』(あさま社)

もしこのマジック・クエスチョンで何も思わなかったなら、次の質問がある。これらに答えてほしい。

「来年目が見えなくなってしまうとしたら、今年どこで何を見たい?」
「来年外に出かけられなくなってしまうとしたら、今年どこに行きたい?」
「来年何も食べられなくなるとしたら、何を食べたい?」
「来年誰にも会えなくなるとしたら、今年会っておきたい人は誰?」

答えから、君が本当に見たいものや行きたいところ、食べたいものや会いたい人がわかるはずだ。君はもしかしたらまだ考えたことがないかもしれないが、実は人間の死亡率は100%なのだ。これを書いている僕はいずれ死ぬ。そして読んでいる君もまた、必ずいつか死ぬのである。

この「人生の締め切り」が来る前に、やりたいことをやっておかねば。僕はそう思い、この本を書き始めたんだ。伝える前に死んでしまったら、何も伝えられないからね。

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中山 祐次郎(なかやま・ゆうじろう)
外科医・作家
1980年神奈川県生まれ。鹿児島大学医学部医学科卒業後、がん・感染症センター都立駒込病院外科初期・後期研修を修了、同院大腸外科医師として勤務。福島県高野病院院長、福島県の総合南東北病院外科医長を経て、神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院外科に勤務。2023年、福島県立医科大学で医学博士。2021年、京都大学大学院医学研究科で公衆衛生学修士。小説『泣くな研修医』(幻冬舎)はシリーズ57万部を超えるベストセラーに。著書に『医者の本音』(SBクリエイティブ)、『俺たちは神じゃない 麻布中央病院外科』(新潮文庫)、『幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと』(幻冬舎)、『医者の父が息子に綴る 人生の扉をひらく鍵』(あさま社)など。手術教科書『ラパS』『ダヴィンチ導入完全マニュアル』(共にメジカルビュー社)、若手医師向け教科書や看護学生向け教科書『ズボラな学生の看護実習本 ずぼかん』(照林社)など。二児の父。

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(外科医・作家 中山 祐次郎)

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