あの世界的バンドもこうして衝突を乗り越えた…専門家がパワハラ社員にカウンセリングを勧める深いワケ
プレジデントオンライン / 2025年1月17日 9時15分
■担当交代できるケースとできないケース
40代会社員の方からのご相談です――当社にも相当なパワハラをする社員がいます。その振る舞いのせいで、若手や中途入社の社員が次々に辞めていくのですが、カウンセリングなどを勧めてもパワハラをする社員が素直に受け入れるかどうか、正直わかりません。どうすればいいでしょうか。
「パワハラ行為者へのカウンセリング」とだけ聞くと、わかりづらいかもしれませんが、私が行っているのは、大きく括れば「人間関係を取り成すためのカウンセリング」です。
パワハラが原因とは限定せず、人間関係が上手くいかないペアやチームをイメージしてください。彼らは、一緒に仕事をすれば、大金を稼げるか、高いクオリティで業務をこなせるとしましょう。
もし人が代わっても同じ成果を上げられるなら、人間関係がバツの場合、メンバーチェンジをすれば大丈夫でしょう。
私自身も、これまで研修の講師をして、受講生たちの不評を買い、他の講師との交代を迫られたことがありますし、逆に私が取引先の担当者を別の人に替えてほしいと依頼せざるを得なかったこともあります。
そうして代わりが利けばよいのですが、そうでないケースも多いものです。
■代わりが利かない相手を変える
たとえば、成績が抜群に優れたスポーツ選手を思い浮かべてください。その選手がいることでチームは強豪でいられる。そして、代わりの選手は簡単に見つけられない。
タレントや芸術家も、その人であるが故に、あるいは、その人の作品だからこそ価値がある。こうしたことは多いはずです。
しかし同時に、彼らが付き合いにくい性格で、振る舞い方も横柄。周囲は腫れ物に触るように接している。そんな話を聞かれたことがあるのではないでしょうか。
私も若い頃から、この手の人たちと数多く接してきましたが、彼らには、「付き合いきれないから辞めてもらう」とは簡単に言えるものではありません。
このときに必要になるのが「人間関係を取り成すためのカウンセリング」、もう少し具体的に言うと、問題のある特定の人物が、他の人たちに「一緒に働いてもいい」と思われるように変わるためのカウンセリングです。
私がしているのは、このカウンセリングで、対象者がスポーツ選手や芸術家ではなく、会社員や公務員で、彼らと付き合えない理由が「パワハラをする人だから」というものです。
■カウンセリングは本人のやる気がないと効果がない
もっとも私がカウンセリングをする会社員や公務員は、必ずしも特別に仕事のできる人ばかりではなく、配置換えをしようにも(パワハラをするという評判のために)受け入れ先がなかったり、本当はいなくなってほしいのですが、退職を促しにくい相手であるようなケースが多いのですが。
私がカウンセリングをする相手は、かなり症状が進んでいて、組織も手に負えなくなっています。
たとえば、その人のパワハラが原因で精神を病む人が出てきている。派遣社員の退職が相次いでいる。そういった人がほとんどです。
私は、パワハラ行為者がカウンセリングを(嫌がっておらず)希望される場合のみ業務を請け負っているため、(相談者の方がご心配されているように)「行為者がカウンセリングを受けたがらない」ことについて、相談を持ち掛けられることはありません。
しかしながら、私の耳に入らないだけで、端から「カウンセリングなど受けたくない」という行為者がいることは承知しています。
カウンセリングは、自らの振る舞い方を改善するつもりで受ければ、効果を見出せるものですが、自ら改善するつもりがなければ、効果を見込めるものではありません。
ましてや、カウンセリングを受けたくない人に対しては、支援のしようがないため、私から(行為者本人にも、関係者にも)無理に勧めることはありません。
■カウンセリングを受けることは軟弱なことではない
それでも、私から見て、非常にもったいないと感じるケースがあります。
それは、パワハラ行為者たちが、自らのパワハラ行為(およびパワハラをしてしまう癖)は問題と認識しつつも、カウンセラーとのカウンセリングによってそれを克服しようとするのは、「女々しい」「弱い人間のすること」と考え、そのためにカウンセリングを拒否するケースです。
彼らは、人間関係の問題をカウンセリングに頼って解決しようとするのは、軟弱なことと考えているのです。
■ヘヴィメタバンドがカウンセラーを雇った
特定の人物によるパワハラが原因ではありませんが、米国の有名ヘヴィメタルバンド・メタリカ(注)が2000年代のはじめ頃、メンバー間の諍い(バンド内の人間関係が険悪になり活動がままならなかった際)に、カウンセラー(Psychotherapist/精神療法士、心理セラピスト)を雇った例があり、映画『メタリカ:真実の瞬間』(原題:Some Kind of Monster、2004年作品)の中で紹介されています。
バンドは、その後、問題を克服、カムバックし、新たな大成功を収めています。
(注)メタリカは、1980年代から活躍する、世界的に知られるヘヴィメタルバンドの1つです。
1980年代から生粋のヘヴィメタルファンである私は、メタリカの活動には常に注目してきました。
メタリカはフィジカル的にもメンタル的にも強いイメージを放ってきたバンドで、やりたいようにやるという態度を売りにしていました。
そのため、メンバーが尊敬するミュージシャンの先輩からのアドバイスならともかく、外部から来た、メタリカのことをよく知らない(上品なセーターを着たような)カウンセラーの意見など、受け入れるどころか、おとなしく聞いたりするようにさえ思えず、当時は不思議に感じたものです。
■バンドを去ったメンバーのその後
また、雇われたカウンセラーは、有名なプロのアメフト選手をカウンセリングした実績などで知られた人でしたが、ヘヴィメタルはもちろん、音楽を愛している人にも見えなかったため、ただのファンである私も、こんなタイプの人が仲裁に入るのかと、いささか違和感を覚えました。
この際、ベースギター担当のメンバーは、自分たちは世界で最もビッグなロックバンドの1つで、途方もなく大勢の人々を魅了し、巨額のお金を動かしてきたのに、こんな程度のチームワークのもつれを解決できず、セラピストの力に頼るなんて「あまりにダサくて弱々しい」と話して、バンドを去ってしまったのです。
彼がバンドを辞めたのは、これだけが理由ではないと思いますが、カウンセリングなど受けたくないという意思は強く持っていたようで、実際にそこには参加していません。
カウンセラーに頼るなんて女々しいと言って、バンドを辞めたこのメンバーは、その後メタリカに在籍していたときほど活躍することはなく、華やかなロックスターの座から遠のいてしまいました。
カウンセラーを雇ったバンドは、仲間割れを乗り越えるのに、お金を支払って、人の力を借り、それは確かにロックバンドらしい選択には見ませんでしたが、強かったと言えるのは、そうして難局を乗り越え、あらたな大成功を収めたバンドだったのか、辞めたメンバーだったのか。
メタリカに残ったメンバーたちは、その後(おそらく)世界でも最も潤沢な財産を持つロックスターとなりましたが、離脱したメンバーは、ヘヴィメタルファンの間では今日でも名を知られた存在ではあるものの、大成功を収めるために飛んでいた飛行機から降りたまま、再度その飛行機に乗り込むような機会には恵まれませんでした。
彼はメタリカという超一流のバンドで活躍する実力を持っていながらも、一人になってからは、同じような飛行機を自分で飛ばすこともできなかったのです。
■「一緒にやるからいい」
このようにカウンセリングは、「問題のある特定の人物」が対象となるケースだけでなく、チームメンバーによる仲たがいでも利用されることがあります。
活動を続ければ、今後の成功も約束されているのに解散してしまうアイドルグループや漫才コンビ、活動を休止しているロックバンドなど、いくつも思い当たる例はあるのではないでしょうか。
メンバーにはそれぞれ実力があり、ソロ活動をしても、ある程度の活躍は期待できますが、やはり彼らは「一緒にやるからいい」のであって、ファンはそれを望んでおり、桁違いの稼ぎ方ができるのも一緒に活動したときなのです。
彼らにしても、会社員や公務員にしても、人間関係の問題を解決する手段として、カウンセリングを試すという選択をせず、バリアを張るように拒否してしまうのが、好ましいことなのでしょうか。
私もメタリカのベーシストと同じように、当時はカウンセラーの力を借りるなんて「ダサくて女々しい」と思っていた方ですが、その後のメタリカの復帰と規格外の成功を見ると、それを拒絶するほうがむしろ怯者(きょうしゃ)なのかもしれないと思えたのです。
カウンセリングを拒否したい人の気持ちはわかるのですが、軟弱なこととは決めつけずに活用を検討できるとよいでしょう。
なぜなら、彼らは皆、「そんなところでつまずいている場合ではない」からです。仕事はできる人が人間関係でつまずき活躍できない――これは普通に起こり得ることで、何としても乗り越えるべきことなのです。
もともと費用のかかるカウンセリングを勧められる人は、(所属組織が仕方なくそうしている場合であっても)改善を期待されていることに間違いはないのです。
■自分自身と向かい合うのが辛い
カウンセリングを受けたがらない人が、それを嫌がる理由には、もう一つ別のものがあります。
カウンセリングを受けると、「自分自身(の思考や行為)と向かい合う」ことになるのですが、彼らにはそれが辛くて耐えがたいことなのです。
カウンセリングで自らの行為を振り返ると、自分自身の思考や言動と向かい合い、それについて考えることになります。
多くの人が、そうした「自分の思考や言動」や「それがどのような事態を招いたか」については、深く考えずに済ませたいと思っています。
■カウンセリングを避ける理由
パワハラ行為者へのカウンセリングでは、たとえば、その人の振る舞いが原因で退職した人がいれば、その退職者との間にあったことを詳細に話してもらいます。
その人の言動が原因で退職した人が5人いれば、5人とのことについて、関連することをすべて話してもらうのです。
それを思い出して話すのは、自分自身と向き合い、また自分自身をさらけ出すことにもなりますから、それが苦痛でカウンセリングを避けたがるのです。
パワハラ行為者としてカウンセリングを受けるときに限らず、自分自身と向き合うのは辛いことが多く、それを嫌がる人は多いものです。
自分自身と向き合いたくない人は、「自分の強みと弱みについて考える」という手合いのことすら、やりたがらないものです。
自分が期待するほどの強みが思い当たらないことや、自分の弱みをあらためて認識するのは、気持ちのよいことではないからです。
■見違えるように変わった人も多くいる
私のカウンセリングを長く受け続ける人は、勤務先の多くの人に、それを知られることになりがちです。できるだけ他の従業員に知られないよう配慮する職場も多く、私も十分に注意するのですが、噂で広まってしまうのでしょう。
小さな事業所だと、皆が知っている状態になることもあります。
しかし、「あの人、パワハラのカウンセリングを受けてるんだって」「やってもムダなんじゃない」と陰口を叩かれながらも、カウンセリングに挑み、言動に改善を見せるようになった人たちが確実に存在することは、ここで強調しておきたいと思います。
私は、関係者から「この人のパワハラは収まらないと思う」と聞かされていた人たちが、カウンセリングを通じて、見違えるように変わった例をいくつも見てきました。
サポートを受け入れず、到達できるかもしれない成功への道を自ら閉ざす人たちに比べて、カウンセリングを利用して、あらたに活躍している人たちは、軟弱などころか、むしろ強かったのだと思います。
彼らは(それまでのパワハラ行為には十分な反省が必要でしたが)、成功するために乗っている飛行機から降りることもなかったのです。
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サイドマン経営・代表
もともとグローバル人材育成を専門とする経営コンサルタントだが、近年は会社組織などに存在する「ハラスメントの行為者」のカウンセラーとしての業務が増加中。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では、非常勤講師としてコミュニケーションに関連した科目を受け持っている。著書に『好きになられる能力 ライカビリティ』(光文社)『英語で学ぶトヨタ生産方式』(研究社)『英語で仕事をしたい人の必修14講』(慶應義塾大学出版会)など多数。
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(サイドマン経営・代表 松崎 久純)
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