食習慣でも、運動不足でもない…免疫学者が「これだけは避けて」と言う免疫力がヨボヨボになる生活習慣
プレジデントオンライン / 2025年1月21日 17時15分
※本稿は、宮坂昌之『あなたの健康は免疫でできている』(集英社インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。
■免疫力はすぐに上がったり下がったりしない
免疫力とは、自然免疫と獲得免疫※を併せた総合力のことです。
筆者註※「自然免疫」は、生まれつき持っている免疫のこと。対して、「獲得免疫」は生後、感染経験やワクチン接種経験とともに獲得する免疫のことを指す。
自然免疫がうまく働かないと、一方の獲得免疫がうまく働かないので、自然免疫が大きく抑えられた時には獲得免疫の機能も強く抑えられるようになります。
しかし、体内では、自然免疫と獲得免疫はそれぞれ独自に機能調節されている部分もあります。少々何かがあったからといって、自然免疫、獲得免疫の両方の機能が一度に上がったり下がったりはしないようになっているのです。
■食品からとった“菌”は腸に届くのか
腸内細菌の集まりを叢(くさむら)に見立てて、「腸内細菌叢(そう)(※)」あるいは「腸内フローラ」とよびます。
筆者註※生きた細菌の集合のこと。一般には「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」などと表現されている。
拙著『あなたの健康は免疫でできている』でも詳しく説明していますが、免疫力はこの細菌叢によって影響を受けます。しかし、よほど大きなストレスがかからない限り、この細菌叢が短期間で急激に変わることは通常はありません。
たとえ口から市販のプロバイオティクス食品(ヒトに有益な作用をもたらす微生物を含む食品のこと)、あるいは医療用医薬品としてのプロバイオティクスを摂取することにより特定の細菌を取り込んでも、腸管にはすでに多くの細菌が満ち満ちているので、外来性の細菌が簡単に腸管に棲みつくようなことはありません(テレビや新聞で見ることとはかなり違いますよね)。
一部でも棲みつくようにするためには、かなり長期にわたるプロバイオティクスの摂取が必要です。
■信頼できる「エビデンス」があるものは多くない
それから、これもしばしば誤解されている点ですが、現在使われている医薬品としてのプロバイオティクスの多くはかなり以前に認可されたものであり、「投与したら、かくかくしかじかの効果があった」という程度の旧来の試験方法を用いて得られたものです。公平性、信頼性が高い二重盲検無作為化比較試験(※)が行われたものはほとんどありません。
筆者註※二重盲検無作為化比較試験とは、被験薬が投与される処置群と偽薬(プラセボ)が投与される対照群に分けて行われる試験で、処置群と対照群はまったくランダムに選ばれます。そして、治験に関わる医師と被験者のどちらもどのような薬が投与されるのか一切知らされません。これによって、医師、研究者の恣意や被験者の予見や期待などが排除されやすくなり、薬物の効果を正しく評価できるとされています。
一方、旧来の試験方法では、医師、研究者などが何を投与しているかを知った上で行っていたために、出てきたデータが必ずしも公平に扱われずに、いわゆるチャンピオンデータ(必ずしも再現性が高くないが、一見都合のいいデータのこと)が選ばれて使われてきた可能性が否定できません。
つまり、医薬品としてのプロバイオティクスには、臨床的に確かに効果があるというしっかりしたエビデンスがあるものが多くないのが実状です。
実際に有効成分が入っていないプラセボであっても、服用者が「効き目がある」と思い込むことによって病気の症状が改善するという「プラセボ効果」というものがあります。プロバイオティクスではこれがかなり働いている可能性が否定できません。
■私が毎朝ヨーグルトを食べる理由
このように、実際には免疫力が急にアップするようなことはなかなか起こりにくいのです。
何かをたくさん食べたからとか飲んだからといって、免疫力がすぐに上がるようなことは期待できないと思ったほうがいいでしょう。
私自身は毎朝ヨーグルトを食べていますが、別に免疫力アップのためを思っているわけではありません。単なるルーチンみたいなものです。食べると、その日が始まるみたいな感じです。
あとでも述べるように、免疫力のもとである免疫系は、多種類の細胞から構成されていて、さらに血管系、神経系や内分泌系などのさまざまな生体系からの機能調節を受けています。複雑な仕組みなので、ちょっとやそっとの刺激で急に機能がアップするようなことはまずありません。
■免疫の働きを下げる天敵の正体
免疫力低下に関しても同様で、免疫系は複雑な仕組みなので、簡単には機能が低下しないようになっています。つまり、免疫力とは急には下がらないようにできているのです。
ただし、ストレスは少し特別です。心的なストレスや肉体的なストレスが一定期間以上続くと、免疫力は大きく下がってきます。
ストレスが続くと副腎(左右の腎臓のすぐ上にある内分泌器官)から副腎皮質ホルモン(コルチコステロイドあるいは糖質ステロイドともよばれる)が多量に作られるようになるからです。
■リンパ球の一部を殺してしまう
副腎皮質ホルモンはさまざまな細胞に働きますが、なかでも獲得免疫の主役であるリンパ球にはよく働き、リンパ球の機能を低下させるともに、リンパ球の一部を殺します。このために免疫系の機能が低下します。
ストレスは万病のもとといわれますが、その理由のひとつは、副腎皮質ホルモンが作られすぎて免疫機能が低下するためです。これによって、さまざまな病気が起きやすくなってきます。
免疫にとっては、ストレスは天敵のような存在です。少々のストレスはあまり問題ないのですが、長く続くと免疫に悪い影響が出てきます。副腎皮質ホルモンが「ストレスホルモン」とよばれる理由がここにあります。
■「ストレスホルモン」は他にもある
最近、われわれの体内には、副腎皮質ホルモン以外にも実は複数のストレスホルモンが存在することがわかってきました。
それがアドレナリンとノルアドレナリンです。皆さんも聞いたことがある名前ではないかと思います。
アドレナリンやノルアドレナリンは、副腎髄質や交感神経末端から分泌されます。どちらも、からだが「さぁがんばるぞー」という「戦闘モード」に入る時にどんと放出されます。
アドレナリンは主に心臓に働いて心拍数や心筋の収縮力を増やし、ノルアドレナリンは主に血管に働いて細い動脈を収縮させ、どちらもこのような作用を介して血圧を上昇させます。
■働きすぎると、機能しなくなる
皆さんも経験があると思いますが、運動会のかけっこの前に急に心臓がどきどきしてなんとなくハイになる感じがありましたよね。これが戦闘モード状態なのです。
アドレナリンやノルアドレナリンは作用がお互いによく似ていて、化学的には「カテコラミン」と総称されます。戦闘モードにスイッチを入れるホルモンです。
カテコラミンは獲得免疫の主役のひとつであるT細胞にも働いてT細胞を元気にしてくれるのですが、一方で、これらが働きすぎるとT細胞がかえって疲れてしまい、機能できなくなることが最近わかってきました。
カテコラミンは、作られすぎると、免疫系に対するストレスホルモンとして働くことがあるのです。
■「がん細胞の増殖」に関係がある
このようなことが、最近、がんに対する免疫において示唆されています。
がん細胞が体内にできてくると、免疫細胞であるナチュラキラー(NK)細胞やT細胞がそれを認識してがん細胞を殺そうとします。
ところが、がん細胞の勢いが強すぎて免疫系がうまく対処できないと、免疫系の中でも特にT細胞がストレスを受けて疲れてしまい(疲弊してしまい)、殺せるはずのがん細胞を殺せなくなることがあります。
疲弊T細胞という攻撃能力が低い細胞ができてしまうのです。いったん疲弊したT細胞はがんからの刺激を受けても疲弊したままで、機能が戻りません。その結果、がんが免疫との戦いに勝つようになります。
■がんの免疫療法における“重大な発見”
マウスの数種類のがんでは、がん組織内で疲弊T細胞が実際に増えていて、特に交感神経線維(*)の周りで大きく増えているようです。交感神経末端からはカテコラミンが多量に放出されるので、疲弊T細胞ができやすくなっているのでしょう。
カテコラミン刺激を実験的に除去したり、あるいは疲弊T細胞自体を除去したりしてやると、がんに対する免疫細胞の勢いが戻ってきて、がんに対する免疫療法の効果が大きく上がることから、がん組織で過剰なカテコラミン刺激によって疲弊T細胞ができることが、結果的にがん細胞が増殖する理由のひとつとなっているように見えます。
もしヒトでも同様のことが起きているのであれば、疲弊T細胞を作らせないようにすることが、がんの免疫療法の成否を分けることにつながるのかもしれません。これは、がんに対する新たな免疫療法開発のためにきわめて重要なことになるはずです。
■頑張りすぎず、ほどほどに
もうひとつ大事なことがあります。
アドレナリンやノルアドレナリンは「さぁがんばるぞー」という時に作られる物質なので、頑張りすぎはかえってこれらの物質の作りすぎにつながり、からだにとっては良くないこととなります。
ほどほどに頑張ること、そしてストレスがある時は休憩をして免疫系を休ませて疲弊させないことが大事です。
ストレスが解消されると、からだに復元力が働いて、おおむね免疫力が元の状態に戻ってきます。そこからは、ちょうど脈拍や血圧のように、状況に応じて少々上がったり下がったりしますが、通常はその変化は一定範囲内でおさまります。ストレスが無くなったから免疫が前より強くなるわけではありません。
免疫力が強くなった、弱くなった、ということよりも、免疫がバランスよく働くことのほうがずっと大事です。
参考文献
*Globig A-M et al, Nature, 622(7982):383, 2023.
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大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大学名誉教授
1947年、長野県生まれ。京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了。金沢医科大学血液免疫内科、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所を経て、大阪大学医学部教授、同大学大学院医学系研究科教授を歴任。著書に『ウイルスはそこにいる』(共著・講談社現代新書)などがある。
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(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大学名誉教授 宮坂 昌之)
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