1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

ソ連崩壊前にそっくり…「呑まなきゃやってられない」酒におぼれるロシア人を大量に生み出したプーチンの限界

プレジデントオンライン / 2025年1月13日 8時15分

ロシア・モスクワのクレムリンで、全国的なチャリティー・キャンペーン「新年の願いの木」の一環として、ドネツク人民共和国の15歳の少女アリーナ・ポルカルと電話で話すロシアのウラジーミル・プーチン大統領=2025年1月7日 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

■酒にすがりつくロシア人

ロシアのアルコール危機が深刻化している。2024年1~10月期の小売販売量が過去最高を記録し、アルコール依存症も10年ぶりに増加に転じた。

背景として、ウクライナ戦争によるストレスが指摘されている。軍事作戦の長期化で国民の精神的緊張が高まり、アルコールに依存する傾向が強まっているという。クレムリンの職員ですら、業務中の飲酒量が「1杯」から「1本丸ごと」に増えたとの海外報道も出ている。

影響はロシア国民だけでなく、ロシア軍内部にも及ぶ。シベリアのある市では、採用された新規入隊者の大半がアルコール依存症者との状況だ。防空壕での一気飲みや、酔った兵士への体罰など、規律の乱れも目立つ。

歴史的にもロシア軍は、アルコール依存症に苛まれてきた。むしろ戦士たちを鼓舞する向精神薬代わりに使われていたようだ。日露戦争時の旅順要塞では、弾薬ではなく1万箱ものウォッカが届き、司令官が降伏を決意したとの逸話が残る。

ウクライナ戦争を契機にアルコール問題は、再びロシアの社会不安と軍事力の弱体化を象徴する問題となった。専門家たちは、この状況が続けば、ロシアの「人的資本の長期的な劣化」を招く可能性があると警鐘を鳴らしている。

■アルコール販売量18億リットル、史上最大を記録

ロシアの独立系メディアであるモスクワ・タイムズ紙によると、同国の小売アルコール販売量は2024年1月から10月までの間に18.4億リットルとなり、統計を開始した2017年以降で最高を記録した。2017年の同期間と比較して21%増えており、前年同期と比べても0.8%の増加となる。

ただし、この数字でさえ控えめなデータだとの指摘もある。酒販業界誌のドリンク・ビジネスは、ロシアにおける実際のアルコール消費量は、公式統計を約30%上回る可能性があると報じている。さらに同誌によると、ロシアのアルコール飲料市場の約60%をウォッカやコニャック、リキュールなど、度数の高い蒸留酒が占めているという。

強い酒ほどよく売れているようだ。ロシアの大手酒類メーカー、ラドガ社のベニアミン・グラバル社長は同誌の取材に対し、「2019年から2023年にかけて、当社のワインの出荷は45%の伸びにとどまっている一方、蒸留酒では売り上げが150%増加した」と語っている。

■ウクライナ侵攻以降、アルコール依存症が増加に転じた

アルコール依存症の状況も悪化の一途をたどっている。ロシアの国家統計サービスであるロススタットの発表によれば、アルコール依存症の新規診断数は2010年の15万3900人から2021年には5万3300人まで減少していた。だが、2022年には5万4200人と、ウクライナ戦争以降は増加に転じている。

原因の一つに、安価に入手できる環境がある。英テレグラフ紙によると、ロシアでは現在、ウォッカ1リットルが約2.18ポンド(約423円)と安価に入手でき、アルコールはもはやロシアの大衆文化と切っても切り離せない。

一連の事態を受け、ロシア連邦議会下院のハムザエフ議員が「アルコール販売を1日5時間に制限し、その後2時間にまで短縮することに賛成だ」とロシアのメディアに語るなど、販売制限論が飛び出した。しかし、ポーランドの私立大学であるコズミンスキー大学のザドロズナ助教授はテレグラフ紙に、「販売時間の制限は実際の消費を抑制するのではなく、むしろ飲酒に対する罪悪感を生み出す心理的効果をもたらすに留まる」と指摘する。

飲酒文化だけがアルコール蔓延の原因ではない。酒販業界誌のドリンク・ビジネスは、要因の一つにロシア・ウクライナ戦争による緊張の高まりを挙げる。ウラジーミル・プーチン大統領が引き起こした戦争がロシア国民の不安を煽っており、それを忘れるため国民はアルコールの摂取量を増やしている状況だ。

モスクワの赤の広場での軍事パレードリハーサル
写真=iStock.com/rusm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rusm

■ソ連崩壊前の「失われた10年」と似ている

関連してロシア国内では、暴力ムードが高まっている。米シンクタンクのジェームズタウン財団は、ロシアのニュースサイト「シブレアル」による分析を取り上げている。それによると、社会の混乱をもたらす要因は主に2つあるという。

1つ目は、ウクライナ戦争を巡る国民の意見対立だ。戦争への賛否が分かれ、アルコールが入ることで暴力的な衝突に発展するケースが相次いでいる。2つ目は、戦争参加のため恩赦を受けた殺人犯や性犯罪者らの帰還だ。これらの元受刑者による新たな暴力犯罪が報告されている。

マクロ経済分析・短期予測センターの専門家は、フォーブス誌ロシア版に対し、「現在のアルコール消費傾向は、1970年代半ばから80年代半ばの『失われた10年』と呼ばれるソ連時代に酷似している」と警告する。「この傾向は最も深刻な地域から始まり、人的資本の長期的な劣化をもたらす可能性がある」という。

■経済制裁を受けているのに…ラトビアを通じた「抜け道」

国際的な制裁下のロシアで、なぜアルコールの入手が可能なのか。国内の生産体制に加え、ラトビアからの「抜け道」の存在が大きく影響している。

ユーロ・ニュースは、ラトビアからロシアへの輸出総額が2023年に11億ユーロを超えたと報じている。その過半数を飲料、スピリッツ、酢類が占める。

ラトビアアルコール産業協会のデービス・ヴィトルス専務理事は「EUの制裁下でも、300ユーロ(約4万8000円)以下のアルコール製品については、ロシアとベラルーシへの輸出が認められている。ラトビアはウイスキーを生産していないため、他国からの製品を再輸出している」と述べる。西欧諸国からラトビアを通じ、ロシアへとアルコールが流れ込む。

モラル・レーティング・エージェンシーのジョン・ライト氏は「ラトビアは西側のスピリッツ企業にとってのロシア市場への『裏口』となっている。人口がアイダホ州より少ないにもかかわらず、世界第6位のスコッチ輸入国となっている事実が、この実態を如実に物語っている」と指摘する。

戦時下でアルコールの需要を伸ばすロシアとは対照的に、ウクライナ国内では飲酒を控える動きが広がっている。世界保健機関(WHO)が2023年後半に実施した調査によると、2022年の戦争開始以降、ウクライナ国民の21.5%が飲酒量を減らし、6.8%が断酒しているという。

■プーチン氏「ウクライナで戦死したほうがいい」

国民は規制にも協力的だ。国民の75%が規制強化の必要性を認識しており、71%が価格引き上げと入手制限策の導入に賛同している。もっとも、ウクライナも世界標準と比較すると、習慣的に「危険な飲酒パターン」を繰り返す国民は少なくない。WHOによるとウクライナの飲酒者の約半数が、男性では純アルコール60g以上、女性は40g以上を一度に飲む「危険な飲酒パターン」に該当する。

とはいえ、戦時下でアルコール消費量が拡大しているロシアにおいて、状況はより深刻だ。兵士不足が恒常化している現在、プーチン氏としては国民に自宅で酒に浸るのではなく、戦地へと赴かせたい。

テレグラフ紙によると、プーチン大統領は2022年、戦死した兵士の母親たちとの面会の場で、衝撃的な発言を行った。プーチン氏は、「息子たちがウクライナで戦死した方が、自宅で飲酒して死ぬよりも良いでしょう」と語っている。

酒に溺れるのではなく戦地へ向かえ、と諭すプーチン氏だが、実際にはアルコール依存は戦地にすら蔓延している。モスクワ・タイムズによると、ロシア・シベリアのクラスノヤルスク市で、軍の新規採用者の大半が社会的弱者で占められていることが明らかになった。

サンクトペテルブルクのレーニン像
写真=iStock.com/agustavop
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/agustavop

■アルコールの乱用は戦場でも

与党・統一ロシアに所属するクラスノヤルスク市議会議員のヴャチェスラフ・デュコフ氏は、地元テレビ番組の中継で、軍の募集状況について言及。「過去1年間、我々の契約兵士の大半はアルコール依存者、ホームレス、浮浪者、受刑者などだった」と述べた。

英イブニング・スタンダード紙は、イギリス国防省の情報として、ウクライナで戦うロシア軍兵士の間でアルコール乱用による死亡者が「極めて多い」と報じている。同省は記者会見の場で、ロシア軍はウクライナ侵攻開始以降、約20万人の死傷者を出しており、そのうち「相当数」が戦闘以外の原因で死亡していると発表している。

さらに同省は、「ロシア軍指揮官らは、アルコールの乱用が戦闘能力に特に悪影響を及ぼすと認識している」と指摘する一方で、「過度の飲酒はロシア社会全般に広がっており、戦闘作戦中であっても、軍隊生活において暗黙に容認された慣習となっている」と指摘した。

ロシア国内のニュースチャンネルも2024年3月27日、テレグラム上で、前線に展開するロシア軍において「アルコール消費に関連する事件、犯罪、死亡が極めて多発している」と報じている。

アルコールのボトルを持っている兵士
写真=iStock.com/DekiArt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DekiArt

■ネットに拡散した「防空壕で一気飲み」動画

軍の規律の乱れは動画でも確認されている。ウクライナの英字メディア、ニュー・ボイス・オブ・ウクライナは、ロシア兵が塹壕内で飲酒する様子を捉えた動画が拡散していると伝えている。

ウクライナ政府の偽情報対策センターを率いるアンドリー・コヴァレンコ所長が公開した映像には、若いロシア兵が酒とみられる液体の入ったグラスを一気飲みしようとする場面が映っている。背景では親プーチン派のロックバンド「ピクニク」の楽曲が流れ、周囲の兵士たちが拍手をしながら声援を送っている様子が確認できる。

ウクライナ軍参謀本部の報告によれば、ロシア軍は兵士たちに「人海戦術」による攻撃を実行させるため、アルコールに加えて麻薬や向精神薬を配布しているという。特に、空からの強襲作戦を担うエリート部隊である第7空挺師団第108空挺連隊の隊員らが、定期的にこうした薬物を投与されている模様だ。

一連の薬物には多幸感をもたらし痛覚を鈍らせる作用があり、兵士たちが死傷の危険を顧みずに無謀な突撃を行うよう仕向ける効果がある。

■兵士同士の争い、上官への反抗も…

一方で、アルコールによる軍規の乱れに苛立ちを覚える指揮官もいる。英エクスプレス紙は、ロシア軍前線で飲酒していた兵士たちが木に縛り付けられ、暴行を受ける様子を撮影した動画が拡散していると報じている。

撮影された映像には、ロシア軍指揮官が兵士たちを厳しく叱責する様子が記録されている。指揮官は「何をしていたんだ」と怒鳴り、ある兵士に対して「お前は道に迷ったのか」と詰め寄る。さらに別の兵士に対し、「お前も酔っ払いか」と罵倒した。その後、部下に向かって「こいつの顔を2発殴れ。こいつも。次もだ」と命令している。動画はロシア軍の過酷な制裁を捉えた映像として、Xで繰り返しシェアされている。

エクスプレス紙はまた、アルコール依存が軍内部で深刻な問題となっており、自軍の兵士同士の争いや脱走、上官への反抗といった規律違反を引き起こしているほか、戦闘能力の低下や各種の事故の発生要因にもなっていると指摘している。

ウクライナの英字オンラインメディアであるウクライナ・プラウダは、イギリス国防情報部の分析として、アルコールと薬物の乱用者が「ストルム・ゼット」と呼ばれる歩兵部隊に送り込まれていると報じる。この部隊は事実上の「懲罰部隊」となっており、問題行動を起こした兵士たちに恐怖を与え更生させる役割を担うという。

■ロシア軍の悪癖

ロシア軍とアルコールの関係は、今に始まったことではない。米政治メディアのヒル紙は、ロシア軍では以前から「兵士に勇気を与える」との口実の下で飲酒が認められ、18世紀末以降は部隊にウォッカが定期的に支給されてきたとしている。

現在では戦地だけでなく、政府中枢でも飲酒問題が深刻化している。ロシアの独立系ポータルサイト「ベルストカ」によれば、クレムリンの職員らは業務中、これまでにも「ウォッカ1杯」程度をたしなむことがあった。今では「1本丸ごと」を消費するまでに飲酒量が増加しているという。その背景には、ウクライナ戦争によるストレスをはじめ、政権内部の緊張関係や西側諸国の制裁による苛立ちがあるとされる。

米ビジネス・インサイダー誌は、ロシア軍における深刻なアルコール問題の歴史的背景について報じている。ビラノバ大学ロシア地域研究所長のマーク・ローレンス・シュラッド氏は、同誌の取材に応じ、「ロシアの深刻な飲酒問題は、文化的あるいは遺伝的なものではなく、国民の健康よりも国家の利益を優先してきた何世代にもわたる専制政治が招いたものだ」と分析している。

2024年3月、インタビューに応じるウラジーミル・プーチン大統領
2024年3月、インタビューに応じるウラジーミル・プーチン大統領(写真=kremlin.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■日露戦争でも飲酒問題が表面化

シュラッド氏は、現代のロシア軍はいまだに、17世紀のピョートル大帝時代からの遺物である徴兵制を維持していると指摘。近代的な志願兵制度を採用する他国の軍隊とは異なると論じる。こうした閉鎖的かつ特異な体制が、軍内での飲酒問題を深刻化させる要因となっているという。

過去には日露戦争においても、ロシア軍は飲酒問題を抱えていた。エコノミスト誌は、日本軍の包囲下にあったロシア軍の旅順要塞での逸話を取り上げている。それによるとロシア軍部隊は、戦闘に必要な弾薬の補給を要請していたにもかかわらず、補給物資として届いたのは1万箱ものウォッカだった。本部の対応に失望した要塞の司令官は、降伏を決意したという。

同誌は、日露戦争最大の激戦地となった奉天会戦でも、飲酒して戦闘に臨んだロシア兵たちの戦闘能力が著しく低下していたと述べている。当時取材していたロシア人ジャーナリストの手記によると、日本軍は「酔いつぶれた数え切れないほどのロシア兵」をたやすく攻撃できたという。

現在のウクライナ戦争でも、飲酒により戦闘能力が低下している状態は変わらないようだ。エコノミスト誌はさらに、ウクライナ側の兵士たちには祖国防衛という明確な動機があるため、アルコールを必要としていないと指摘する。ただし、一般に兵士を鼓舞するため薬物を配布することは、どの軍隊でも考えられるという。

■ロシアが目をそらす「酒で忘れたい現実」

プーチン氏は販売規制など表面的な規制強化を図るが、本質的な解決には至らないだろう。ウクライナと対比すれば、ロシアにおけるアルコール依存の異常さは明白だ。ウクライナでは戦時下、国民の多くが国土防衛のため、自ら飲酒を節制している。両国の国民や兵士のあいだに存在する、士気や目的意識の大きな差を如実に示す。

エリツィン大統領の1990年代までロシアは、ウォッカを専売制としてきた。帝政時代には国家の歳入の3分の1を占め、ソ連時代にも4分の1を占めたと言われる。アルコールは常に貴重な収入源であると同時に、国民の不満をコントロールする手段でもあった。しかし今、その構図は崩れつつある。軍の規律を揺るがし、戦争をめぐる世論の分断を深めている。

政府中枢、軍内部、国民に広く蔓延するアルコール依存症は、ウクライナ侵攻をきっかけに生じたロシアの歪みを象徴するかのようだ。戦死者の増加や続く国際的な経済制裁など、酒で忘れなければならない現実が重くのしかかる。

2000年5月7日に行われたプーチン氏の大統領就任式
2000年5月7日に行われたプーチン氏の大統領就任式(写真=Presidential Press and Information Office/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

----------

青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

----------

(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください