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合格実績でも、講師の知名度でもない…現役東大生が断言「選んではいけない受験予備校」を見分ける最重要項目

プレジデントオンライン / 2025年1月10日 8時15分

大学受験予備校「ニチガク」の看板 - 写真提供=共同通信社

大学受験予備校の「ニチガク」が教室を突然閉鎖し、受験生の間で戸惑いが広がっていると報じられている。予備校を選ぶときにどんなことに気を付ければいいのか。東大生作家の西岡壱誠さんは「合格実績や講師の知名度で予備校や学習塾を選んではいけない。危ない予備校を見分けるために必ずチェックしてほしいことがある」という――。

■入試直前期に「予備校閉鎖」の衝撃

大学入試直前の時期に、東京都新宿区にある大学受験予備校「ニチガク」が、突然教室を閉鎖したことで動揺が広がっています。運営する会社の日本学力振興会(東京都新宿区)が資金繰りに行き詰り、破産する見通しとなったと報じられています。

在籍していた受講生は約130人で、中には今年これから受験する生徒もいて「かなりびっくりした、誰も知らなかった」「張り紙だけで済ませて誠意を感じられない、許せない」などという声が上がっていると、NHKやテレビ朝日が報じています(*1、*2)

*1 NHK「大学入試前に予備校が突然教室閉鎖 破産へ 受験生『ショック』」2025年1月6日
*2 テレビ朝日「渦中のニチガク社長を直撃取材『心が痛い』入試直前に予備校閉鎖」2025年1月7日

また、Xなどのネット上でも、「なぜこの受験直前の大切な時期に閉鎖するんだ。受験生がかわいそうだ」という意見が多数でしたが、一部には「少子化の時代において、これも仕方ないんじゃないか」という意見もありました。

さて、自分は教育関係の会社を営んでおり、東大生たちにアンケートを取る機会が多くあります。東大生がどんな塾に行っていたのか、どんな塾ならのびのびと学べて、親も気持ちよくお金を払っているのか、ということも調べています。また、自ら学習塾を運営しているわけではありませんが、塾向けのサービスを提供させていただいている経緯から、この業界を俯瞰(ふかん)して見ている立場でもあります。

そんな自分が今回の件について感じたことや東大生の塾に対する考え方にあわせて、子供を「入れたほうがいい塾」や「入れないほうがいい塾」の見分け方について、お話しさせていただきたいと思います。

■“子供のスポンサー”はむしろ充実している

まず前提として、「少子化の時代だから学習塾は苦境である」というのは間違いであると考えています。なぜなら、学習塾業界自体の市場規模自体は、少子化の時代にあってもどんどん大きくなっているからです。

2013年に約4040億円だった市場規模は、10年後の2023年には約5812億円に増えています(*3)

*3 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」(2024年のデータは公表前)

「少子化」とセットで「高齢化」も進み、子供の数が減っていても、その子供の「スポンサー」となり得るおじいちゃん・おばあちゃんの数は多いと見られます。

例えば、日本の人口のうちの子供の数を見ると、1965年の15歳未満の人口は約2500万人でしたが、2020年には約1500万人で、その後も減っています(*4)

*4 総務省「我が国のこどもの数」

子供の数が減っているのは事実なのですが、これは全体の分母という議論で考えると違ったことが見えてきます。日本の総人口は1965年に1億人足らずでしたから、15歳以上は7000万人余りとなります。それが、2020年は1億2500万人程度なので、15歳以上は約1億1000万人となります。

そう考えると、1人の子供に大人が3人足らずしかいなかった時代から、現在は1人の子供に7人の大人がいる時代に変化しているわけです。生徒たち1人に関わる大人の数は昔より何倍も多いと考えられます。

■塾業界の競争が激しくなっている

実際に塾の経営者の人に話を聞くと、「最近は、お父さんお母さんではなく、おじいちゃんおばあちゃんがお金を出して塾に行く人が多い」そうです。家庭によっては子供の教育費の出どころが「親だけではなく、祖父母も」という家庭も少なくありませんから、少子化だから塾が苦境になりがち、という論は間違っているのではないかと考えます。

それでも、現実的には学習塾を運営する会社の倒産は増えています。東京商工リサーチによれば、2024年の大学受験予備校を含む「学習塾」の倒産件数は53件(速報値)と、2000年以降で過去最多を更新したとのことです(*5)

*5 東京商工リサーチ「2024年の『学習塾』倒産 件数、負債が過去最多 少子化と競争が激化、淘汰の時代に」2025年1月6日

これは、塾という業種が比較的、参入障壁が低いからだと考えられます。また、最近は実店舗がある塾ではなくオンラインの塾も増えてきています。家の中にいながら、オンラインで授業を受けることができるサービスもかなり多くなってきているのです。店舗がなくても塾が経営できてしまうので、参入しやすい一面があるわけです。だからこそ、塾業界は競合企業も多いレッドオーシャンになっているのではないかとも考えられます。

塾の先生と生徒
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

■見るべきポイントは「質問対応」

前提の話が長くなりましたが、競合が多数いる厳しい状況の中でもしっかり経営ができていて、多くの顧客からの満足度も高い塾というのは、あるポイントを見れば一発でわかります。それは、「お金にならないところで、どれだけしっかりサービスをしてくれるのか」ということです。

例えば学習塾では、授業が終わった後に、先生が生徒への質問対応をしてくれる場合があります。集団授業など、先生1人に対して生徒の人数が多い授業を行っている塾では、質問対応の時間を設けて、先生が質問を受け付けていることがあります。また、チューターと呼ばれる大学生のアルバイトが質問を受け付ける、ということもあります。オンラインの塾では「24時間質問受け付けます!」という文言で売っているところもあります。

とはいえ、ほとんどの塾でこれらのサービスは、サブスクリプション的に行われています。その塾に入会さえすれば、または一定の金額を払えば、「質問したい子はいくらでも質問してOK」「質問しない子は、帰ってもOK」という仕組みになっています。

どんなに質問をたくさんしても、先生が嫌な顔を一つもせずに対応してくれる塾であれば、安心です。逆に言えば、この質問対応のクオリティが低かったり、先生が嫌な顔をする先生だったりすると、良くない塾かもしれないと考えられます。なぜなら、経営的な観点で言えば、これらの質問対応は、「少なければ少ないほど儲かる」という仕組みだからです。

■「質問時間」は授業よりも重要

生徒はいくらでも質問していいわけですが、先生側はあくまでも仕事として質問対応をしており、賃金が発生します。どんなに質問が多くても、その分、生徒からお金を取るわけではないところが多いですから、何人の生徒に対応しようとも、何時間生徒に対応しようとも、追加でお金がもらえるわけではありません。

そのため、経営が厳しくなってしまった塾や、余裕がない塾だと、この「質問」部分の稼働時間を真っ先に削る傾向にあります。経営者から「質問対応の時間は短くするように」という指示があり、長く質問対応していると逆に怒られる、なんて塾もあります。

しかし、この質問対応のクオリティが低い塾というのは、実は長期的に見てうまくいかない場合が多いのです。というのも、東大生にアンケートを取ると、「なんのために塾に通っていたか」という問いに対して、「質問対応の時間で、先生に質問したいことを聞くため」と答えた人の割合はかなり多かったのです。

東大生は、めちゃくちゃ質問を重視します。毎回の授業の後で先生に対して質問して、先生から顔を覚えられるくらいになっていた、という東大生はとても多いのです。ちゃんと勉強しているからこそ、聞きたいことも多く出てくるわけです。

生徒にとって、質問対応はとても大切な時間であり、授業の理解度や学習の進捗状況を大きく左右します。ですから、「実際の授業」よりも重要な時間だとも言えます。

塾の先生と生徒
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

■「良い塾」は質問しやすい環境を整えている

またこの時間で、生徒と先生・チューターが仲良くなるという面があります。これは口コミにも良い影響が出ます。何度も質問に来る生徒と先生は仲良くなり、人間関係が構築されるので、この質問対応の時間のクオリティこそがその塾の評価に直結すると言っても過言ではないのです。

ですから「良い」と言える塾は、生徒に対する丁寧な質問対応に時間的にも金銭的にもリソースを投じています。生徒が質問しやすいような環境を整えたり、先生側から生徒に積極的に話しかけて質問を促したり、質問対応のための人員が足りなければそこに人手を割く塾もあります。

また、実績のある塾の先生も、生徒がたくさん質問や勉強の相談をしに来ることを喜んでいる場合が多いです。第一志望に合格する生徒を多く輩出する塾の先生から話を聞くと、「ちゃんと多くの生徒から質問や勉強の相談が来るような授業=よい授業」と定義しているケースが多い印象です。

「ここについてわからなかったら後で聞きにきてください」と授業中に言って、質問に来ることを求める場合もあります。

■わざわざ「質問してもらうための指導」をする塾もある

例えば、石川県を中心に40年近くにわたって「東大セミナー」という学習塾を複数校展開している会社では、付箋を使った生徒対応・質問対応を行っているそうです。今回の記事を書くにあたり尋ねたところ、取締役の川本雄介氏は、このように語っていました。

「うちの塾では、テキストやノートに、さまざまな種類の付箋を貼るように指導します。その中でも、計算ミスやケアレスミスをしてしまった箇所には“中くらいの付箋”を、もう一度解き直したいと思ったところには“小さな付箋”を貼るように指導します。

これは生徒側の勉強に役立てるという面もあるのですが、一番は先生側が生徒に対して話しかけやすくなるというメリットがあるからです。質問をしに来た生徒に『他にはどんなところで間違えちゃったの?』と聞いたり、なかなか質問に来ない生徒に対して『ここはどうして間違えたの?』と聞いたりすることができるようになるんです」

この学習塾では、「生徒自身で調べる・考える・整理する」という力を育成したうえで、質問に来る生徒に追加質問ができるような指導をしたり、質問に来ない生徒に対しても質問を促すような環境を整えているそうです。やはり長年にわたり生徒から評価されるような塾というのは、こうしたポイントが優れている場合が多いと考えられます。

■「生徒の質問に、熱心に応じているか」で見分ける

では、今回教室を突然閉鎖した「ニチガク」はどうだったのか? この記事を書くにあたり、現在確認できる範囲で塾の口コミサイトをいくつか確認してみました。意外にもそこまで悪い評価ばかりではなく、「講師の質が高かった」とか「自習室が綺麗だった」などという高い評価も受けていたようです。

しかし、自分が気になったのが、マイナスの口コミをしている人が、「追加料金が多かった」と口にしていることでした。「志望理由書の添削指導をしてほしいと言ったら追加料金がかかると言われた」などです。

あくまでもこれらの口コミからの推察にしかなりませんが、質問対応の延長線上にあるサービスに関して、一部受講生の満足度が低い様子がうかがえ、課題もあったのではないかと思います。

もちろん、どの情報も信用のしすぎには注意が必要ですが、いい塾やいい予備校なのかを判断する指標のひとつとして、「質問対応」の満足度を見るといいと思います。塾にとっては儲かる部分とは言えない「生徒からの質問」に対して、どれだけ時間とリソースを割いているのかを確認してみてください。保護者間の口コミも大いに参考になるかと思います。

熱心に質問対応をしている先生・チューターが多い塾は実績面からしても安心ですし、逆に、ここに熱量がない先生・チューターが多い塾は、経営的にも指導方針的にも少し懐疑的に思ったほうがいいかもしれません。ぜひ、参考にしてみてください。

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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。

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(現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)

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