「労働時間が長くて家事・育児ができない」は大ウソ…最新調査でわかった日本の男性が家事をしない本当の理由
プレジデントオンライン / 2025年1月21日 9時15分
■男性の育児参加は大きく進展した
私はスウェーデンを研究しており、コロナで行けなかった時期を除いて、毎年学生とスウェーデンを訪れています。つい5~6年前までは、街歩きをしてきた学生たちから、スウェーデンでは平日の昼間に1人でベビーカーを押して歩いている男性がとても多くて驚きましたとよく言われたものですが、気づいてみると、同じ光景が東京の街中でもぼちぼち見られるようになっています。
厚生労働省が2023年度に実施した雇用均等基本調査によると、育児休業を取得した男性の割合は30.1%で、復職者の取得期間は「1カ月~3カ月未満」が最多(28%)でした。その10年前、2013年の調査結果では、育児休業を取得した男性の割合はわずか2.03%で、その半数はわずか数日取得しただけと言われていましたので、この10年間で男性の育児参加は大きく進展したようです。
子どもができた労働者に対して育児休業の取得意向の確認を個別に行うことを事業者に義務づける、大企業に育児休業の取得状況の公表を義務づけるといった法改正が矢継ぎ早に実施されたことや、男性の育児参加に対する社会の関心が高まり、多くの企業が対応の必要性を感じるようになったことなどが、この進展の背景にあるのでしょう。
■育児時間と労働時間に明確な関係はない
けれども、他方ではこんなデータもあります。連合総研が2024年10月に首都圏および関西圏の勤労者2000人(20歳代~50歳代各400~500人ずつ、および60歳代前半約150人)を対象に実施した「第48回勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート調査」によれば、「食事の用意」について、結婚している男性の43.5%が「ほとんど行わない」と回答し、結婚している女性の73.4%が「週に6~7日」行っていると回答しています。結婚している男性は「食料品や日用品の買い物」すら「週に1日くらい」が36.4%、「ほとんど行わない」が22.3%です。「子どもの身の回りの世話」についても、結婚している男性の25.9%は「ほとんど行わない」と回答しており、結婚している女性の77.8%が「週に6~7日」行っていると回答しています。
しかも興味深いことに、これらの傾向は男性、女性とも労働時間による差がほとんど見られません。たとえば「食事の用意」について、男性が週30時間未満しか働いていない場合でも41.4%が「ほとんど行わない」と回答しています。その一方で、週60時間以上働いているという女性の75%が「週に6~7日」行っていると回答しているのです。その他の家事・育児についても、おおむね似たような傾向が見られます。ただし「子どもの身の回りの世話」については、週30時間未満しか働いていない男性の46.7%が「週に6~7日」行っていると回答しており、これは育児休業の取得が関係しているように思われます。
■スーパーファーザーはまだまだ少ない
ともあれ、家事・育児への参加と労働時間の間に明確な関係が見られないということは、平たく言えば、時間があろうがなかろうが、家事・育児をやる人はやるし、やらない人はやらない、という話です。実際、結婚している男性で60時間以上働いていても「食事の用意」を「週に6~7日」するという人は18.6%おり、「子どもの身の回りの世話」についても「週に6~7日」するという人が13.3%、「週に4~5日」するという人が23.3%います。とはいえ、このようなスーパーファーザーはまだまだ少数派であることも現実です。
■男性が家事をやらない3つの理由
それでは、なぜ男性は家事・育児をしないのでしょうか。その答えとしてまずシンプルに考えつくのは「やりたくないから」です。それではなぜやりたくないのでしょうか。これについてはプレジデントウーマン・オンラインの記事(「日本男性が家事を死ぬほど嫌がる真の理由3つ」2019年10月30日)で立命館大学の筒井淳也教授が3つの心理的バリアを指摘しています。
1つ目は「家事は労働でない」、つまり労働とは会社で給料をもらってする仕事であって、家事は無償であるから価値がないとする考え方。2つ目は「外で稼ぐのが男らしさ、家庭を守るのが女らしさ」という定型的な「男らしさ、女らしさ」の価値観。そして3つ目は「効率的な役割分担」の追求です。つまり家事については給料が出ないからオレはやらない、オレは男だから外で稼いでくる、そしてそうやって「オレが外で稼ぎ、オマエが家を守る」という役割分担をして、お互いに得意なものに専門特化する方が効率的である、という考え方が、男性の間に根強く残っているということです。
あるいは男性が家事・育児を大切なものと考え、男女の役割を全く平等であると考えていたとしても、女性の方がこだわる場合もあります。その場合「アンタは外で稼いで。ワタシが家を守るから」「ワタシがやった方が早いから、アンタはあっちに行って」という言葉を男性は浴びせられることとなり、やる気が失せてしまうわけです。
■「“男家事”は非効率なもの」
効率性に関して、筒井教授は「“男家事”は非効率なもの」として「夫が家事を分担する気になった、けれど慣れていないという場合は、どうか長い目で見てあげてください。会社に入ってきた新人と同じように考えてはどうでしょうか。新人は、入社してすぐにあなたと同じ仕事ができるようにはなりません。家事にも同じことが言えると思うのです」と述べていらっしゃいますが、これはとても良いアドバイスだと私は思います。
■夫婦での家事分担はしない方が良い
また、以前厚生労働省のイクメンプロジェクトに携わった際に、比較的長く育児休業を取られた子育て中のパパさんが「夫婦で家事の役割分担はしない方が良い」とおっしゃっていましたが、これには私も同感です。家事も仕事と同じように役割を分担して特化する方が、一見、効率的で良いように思われるのですが、お互いに仕事を持っていてその予定が変わったり、子どもがいきなり病気になったりと、不確定さが満載の状況では「その時にやれる人がやる」という形にしないとうまく回らないことが多いのです。言うなれば、野球ではなくサッカー型。時にはディフェンダーが飛び込んでシュートを決められるようにしておく方が、チームが強くなるわけです。
よく結婚式で「夫婦の初めての共同作業」として一緒にケーキをカットしますが、効率と役割分担にとらわれて、結婚してから常に別々のことをしていたら、そのケーキカットが最初で最後の共同作業になってしまうのではないかと心配になります。
以前学生と共に行ったスウェーデンのパパへのインタビューでも、自分が積極的に家事・育児に参加することで、パートナーとの仲が良くなったし、教育方針などの子どもについての話し合いも、自分が家事・育児をやってきたからこそ対等に意見を言い合えるとの声が聞かれました。
日本では時々、高学歴の男性が、普段子どもと全く接しないくせに教育のことだけは口を出すといってしゃしゃり出て、妻からも子どもからも毒親扱いされることがありますが、それでうまく行かないのは当然だと思います。
■上司の「良かれ」が裏目に
さて、多くの日本の男性が家事・育児をしないもう1つの理由として、「やりたくてもできない」ということについても考えてみましょう。最近親になったばかりの若い世代では、家事・育児を共同でやることに心理的抵抗がない人たちが増えていると思います。それにもかかわらず、男性の家事・育児参加がなかなか進まないのは、やはり会社の仕組みに問題があると言わざるを得ません。
育児休業については、時々SNSで炎上するような、育児休業を取得した男性に対するハラスメントなどは論外ですが、まだまだ自分自身が育児休業を取得した経験を有する上長が少ないために、部下に良かれと思ってやっていることが裏目に出ていることがあります。
たとえば育児休業中は、会社のことは一切考えずに家のことに専念しなさいと言ってしまいがちですが、私は、これはあまり良くないと思っています。というのも、私自身が育児休業を取得した時には「同僚は全力で走っているのに、こんなことをしていて良いのだろうか」と、かなり焦って辛かった経験があるからです。それにいくら愛するわが子でも、毎日一日中向き合っていれば疲弊します。むしろ「仕事に逃げたい」「仕事をしてリフレッシュしたい」という気持ちにさえなるものです。もちろん企業としては中途半端な息抜きで仕事をされても困るわけですが、育児休業の取得率を上げる、長く取らせるだけではなく、取得する人の気持ちに寄り添った工夫ができないものかなと思います。
■男性でも柔軟な働き方を
仕事の忙しさについては、先に示したように、あまり働いていなくても家事・育児をやらない人はやらないし、激務であってもやる人はやるということなので、業務量を減らせば、家事・育児をする男性が増えるという単純な話ではありません。とはいえ、ライフステージによって男性でも柔軟な働き方をしやすくする工夫は必要だと思います。
これは主に法整備の問題というよりも、考え方の問題です。まずは残業手当を前提とした給与体系のあり方や、長く残業している人ほど働き者とみなす職場の雰囲気を変えていく必要があると思います。また、常にフルタイムで業務を行う社員のみを正社員として扱う慣例についても、見直す必要があるように思います。野球のピッチャーにも先発・ロングリリーフ・ワンポイント・セットアッパー・抑えがあり、サッカーにも後半から効果的に投入されることで活躍する選手がいるように、パートタイムでも責任のある職務に就けるような仕組みがあれば、男女を問わず、自らのライフステージに合わせて家事・育児と両立できるような形で働ける道が開くのではないかと思います。
なお、目下激務と家事・育児との両立に奮闘している方々には、現状を自分のタイムマネージメント能力を高める絶好の機会であると捉えることをお勧めします。子どもはいつか手がかからなくなり、そこで子育ては終わります。そこで余った時間は、自分のために存分に使うことができるようになります。そこまでに苦労を重ねてきた人ほど、時間の大切さが身に染みているはずです。
このところ、子どもの出生数もIMDの国際競争力ランキングも過去最低を更新している日本ですが、多くの人が生き生きと暮らし、働ける環境を整えていけば、まだまだ反転攻勢の余地があるものと信じています。
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明治大学国際日本学部教授・学部長
1992年東京大学法学部卒。英国ウォーリック大学で博士号(PhD)。97年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所勤務。日本と北欧を中心とした比較社会システムを研究する。
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(明治大学国際日本学部教授・学部長 鈴木 賢志)
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