「日本の水道水は世界一安全」はウソだった…発がん性PFASの影響を最も受けている"超身近な食材の名前"
プレジデントオンライン / 2025年1月17日 9時15分
※本稿は、原田浩二『水が危ない!消えない化学物質「PFAS」から命を守る方法』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
■剥がれ落ちたPFASはどこに行く?
発がん性が指摘される化学物質「PFAS」が全国各地の水道水から検出されています。
前回記事(多摩地区住民約790人から「発がん性物質」が検出された衝撃…「家の水道水が危ない」京大准教授が警告する理由)では、私たちの暮らしは、水道水に限らず多くのPFAS製品に囲まれている、というお話をしました。
そして、このPFASは、ふとした弾みで製品からはがれ落ちることがあります。剥がれ落ちたPFASはどこに向かうのでしょう?
水に溶けやすいPFAS(※)はこれまで数十年使われてきた中で、川や海に流れ込んできました。海は非常に広いので、PFASはかなり希釈されて、濃度は川や湖よりは低いことがわかっています。しかし、いくつかのPFAS、たとえばPFOSは水の濃度に比べれば、1000倍以上、生物に蓄積することがわかっています。
筆者註※PFASは、有機フッ素化合物の一群。Per and PolyFluoroAlkyl Substancesの略で、「ピーファス」と呼ばれる。少なくとも4700種類あると言われている。WHOの国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類で最高区分の「発がん性がある」とされたPFOA、「ヒトへの発がん性の可能性がある」PFOSはこの中の1種。
そのため、魚介類は重要な対象となります。サカナたちもPFASを口やエラから摂り込み、身体の中でためている可能性があり、それを食べている人間に戻ってくるのです。
イワシやサバといった、いわゆる青ザカナに多く含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)は、人間の記憶や学習といった脳の機能に重要な役割を担っていると言われます。また、EPA(エイコサペンタエン酸)も同じ脂質で人間の体内でつくることができない必須脂肪酸です。
このDHAとEPAが血液中に多い人、つまりサカナを多く食べている人ほど、PFAS濃度も高いという調査報告もあります。サカナが、PFASの摂取ルートの一つになっているのは確かなようです。
■“海魚”よりも“川魚”に用心の理由
ただ、たんぱく源として魚介類は赤身肉などよりも健康によいとされています。PFAS濃度が高いからといって魚介類をさけることはすすめられません。魚介類の汚染を防ぐためにPFASの放出を防ぐことが必要ですし、汚染が強い場所での魚介類を摂取しないことが重要です。
どのサカナに気をつけるべきか、魚種としてはあまりわかっていませんが、強いて言うなら、海より川にいるサカナのほうに用心すべきでしょう。
海は広く、PFASは均一に希釈され、またサカナたちも様々なところから捕られるので影響が平均的になります。対して川は、棲む川自体が汚染されていれば、サカナもそのPFAS濃度に応じて汚染されるリスクは高くなっていきます。
■肝臓から平均値1600倍の数値が出た
23年10月に神奈川県相模原市の東部を流れる、PFAS濃度の高い道保(どうほ)川(長さ約3.7キロの、相模川の支流で、相模原市内にある道保川公園の湧き水が水源)で、サカナのPFAS濃度をさがみ地域協議会と共同で調査しました。
神奈川県や相模原市の調査ですと、道保川は源流付近でPFAS濃度は300ng/L、サカナを採取した地点付近で100ng/Lを検出していて、国の暫定目標値の50ng/Lを超えています。
上流から約3.5キロの地点で、カワムツ2匹、ドンコ4匹、アメリカザリガニ2匹を採取して、身と肝臓に分けて調べました。
すると、カワムツの肝臓でPFOSとPFOAの合計値が1キロ当たり14万ng、身で2万9000ngとかなり高濃度の数値が検出されたのです。
環境省が21年度に調査した各地の魚類に含まれるPFAS濃度の平均値は85ng/kgなので、カワムツの肝臓はその1600倍を超す濃度だったわけです。(※)
筆者註※「2021年度 化学物質環境実態調査 調査結果報告書」
■EU基準なら一口でアウト
環境省や農水省が行った別の調査によると、PFOSのほうが濃縮される傾向にあり、対してPFOAはあまり濃縮されていませんでした。このことからPFOS濃度が高い水域では濃縮されることを注意する必要があります。
EUの食品安全機関は、これ以上の量を食べると健康リスクの恐れがあるという「耐容週間摂取量(TWI)」というのを定めています。
これによると、1週間に体重1キロ当たり4.4ng以上のPFASを摂取し続けると「健康リスクの恐れがある」としています。
たとえば、体重50キロの人であれば、1週間に220ng以上を摂取する換算となります。
道保川のカワムツの身であれば、たった8g食べただけで232ngとその数値を超すこととなるのです。
■国内食品にはPFAS濃度の目安はない
欧州連合ではいくつかの魚種に対して7000~3万5000ng/kgほどの最大耐容濃度を定めました。
ちなみに、国内ではこうした食品に含まれるPFAS濃度の目安はまだありません。
汚染されたサカナを食べれば、サカナの中で蓄積されたPFASをほぼすべて摂り込むこととなりますので、汚染された食品を検査していく必要があります。
PFAS濃度が高い、汚染された川のサカナは無闇に食べないほうがいいと言えるでしょう。
■身より肝にたまりやすい
身より肝臓のほうが濃度は高めで、内臓部分にPFASが蓄積しやすいことがあります。そのため、きれいな環境であることがわかっていなければ、肝などはあまり食べないほうがいいかもしれません。
なお、生でなく、焼き魚など熱を加える調理をしてもPFASはほとんどなくなりません。やや低下するという報告もありますが多くは残ったままです。水の煮沸がPFAS除去に効果がないのと同じです。
相対的には、PFAS濃度が高い川のサカナのほうが汚染リスクは高くなります。趣味で釣りをする人は、川のPFAS濃度がわかっていなければ、川の釣果を頻繁に食べるのは控えたほうがいいでしょう。
せっかくの獲物ですが、放流することがよいかと思います。外来魚のキャッチ・アンド・リリースが禁止されている地域もありますので、指定の廃棄方法に従ってください。
■「養殖と天然では、どちらの濃度が高い?」
こういう問いもよく聞かれますが、天然のサカナはそもそもどこで育ち、どこから来たのかわかりませんので、比較がむずかしいです。
養殖は比較的、陸に近いところで育てているので、PFASに汚染されやすい可能性もあります。違いに関する調査は今後進めていく必要があります。
農林水産省も21年に化学物質サーベイランス事業(※)の中にPFASを位置づけています。その一部の結果で80点の水産物を分析したところ、平均値でPFOSが468ng/kg、最大で2700ng/kgでした。PFOAはその10分の1以下でした。
筆者註※農林水産省が「優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリスト」を作成。これに基づいて、21年度から25年度までの5年間で調査を実施している。
前述したように、サカナに関してはDHAやEPAといった大切な栄養成分があって、健康のことを考えると食べることを全面的に控えるのはあまりおすすめできません。サカナを食べないようにするというより、PFAS対策をしっかり講じて、安心してサカナが食べられる環境を一刻も早く整えるべきだと考えます。
■肉類はサカナほど心配しなくても良さそう
厚労省が07年に、環境省と農水省が14年に実施した調査で、17の食品群を分類して、各々のPFAS濃度を分析しました。それによると、魚介類が最も濃度が高かったのに対し、肉類は若干あるものの、あまり影響がないのではないかと位置づけられています。
牛や鶏は飼料で飼育されるためにあまり影響を受けないと言われています。しかし、飼料や水が汚染されていれば影響を受ける可能性があります。米国では汚染事例が発覚し、積極的に検査を行っている州(メイン州など)もあります。
■土壌汚染で野菜が…
大阪府摂津市のダイキン工業淀川製作所周辺での調査では、土壌や地下水から高濃度のPFOAが検出されました。この地域で農業を営む人たちの血液検査をしたところ、PFOAが100ng/mL近い濃度の人がいました。
汚染がない地域では1桁程度の濃度であることから比べれば極めて高い濃度でした。
聞き取りをすると、自分でつくった農作物を日常的に食べていたようで、農作物が汚染ルートとなっていたのではないかと見ています。食べないようにアドバイスした1年後、程度の差はありましたが、血中PFOA濃度が7割程度に低下していました。
高度に汚染された土壌で育てた農作物には一定の割合でPFOAが入り込んでしまうのかもしれません。土壌中濃度は1キロ当たり数千ngほどのPFOAが検出されていました。そして、そこで栽培された作物には1キロ当たり数十から300ngくらいまで含まれていました。土壌からの移行の割合は3%くらいから10%くらいになると考えられました。
■農作物の検査項目にPFASは含まれていない
また、PFASは水に溶けやすいので作物の水の含有量にも差があると考えられました。水への溶けやすさはPFASによっても異なりますので、作物への移行にも違いが出ます。
PFOSはPFOAよりは作物へ入り込みにくいという結果でした。また土壌で育てた場合と水耕栽培で育てた場合の比較の研究もあります。この場合では土壌への吸着がないため、根にPFASが集まったという結果でした。PFASが水に溶け出さないような工夫も重要と考えられます。
現在、農作物の検査項目にPFASは含まれていませんので個別に濃度を知ることはできません。一般的な食材での調査では魚介類よりは少なかったとされています。PFASが高い場所での、行政の定期的な検査で土壌や作物の濃度を調べることが安全性を確認し、消費者の安心を得ることにつながります。
■ シーフードミックスは“産地”を見る
加工品や冷凍食品について、検査した報告があります。
18年に米国の食品医薬品局(FDA)が、カンザス州の食料品店で売られている172個の加工食品を検査しました。すると、冷凍のフィッシュスティックとパテ、マグロ缶詰からPFOSが検出されました。
そもそも原材料にPFASが入っていたのか、加工時に混入したのか、定かではありませんが、サカナを使用している点で前者のようにも思えます。特定の製品で濃度が高いということはないとされていますので、加工食品だから問題があるとまでは言えません。
しかし、FDAや日本のNGO(食の安全・監視市民委員会)による調査では中国の黄海産のアサリからは日本産より比較的高い濃度のPFOAが検出されたという報告があります。沿岸に近いので、汚染の影響を受けやすいのでしょう。
シーフードミックスなどに含まれているアサリなどは中国産が多いということもあるので産地を確認して選ぶのもよいでしょう。
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京都大学大学院医学研究科准教授
専門は環境衛生学。京都大学大学院医学研究科助教、講師をへて2009年から現職。2002年に京都大学で小泉昭夫教授(現・名誉教授)の調査チームの一員としてPFAS汚染問題に取り組み、近年は国内各地の市民団体と協力しながらPFAS汚染の調査・研究に取り組む。
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(京都大学大学院医学研究科准教授 原田 浩二)
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