「緊張しなくていいからね」より効果的…ガチガチで受験会場に向かう我が子にかけたい親のポジティブフレーズ
プレジデントオンライン / 2025年1月16日 18時15分
※本稿は、渋田隆之著『2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■当日まで1カ月を切ったら…
「ここまできたら、さすがに受験をやめるなんて言わないだろう」という油断は、思わぬ落とし穴になります。入試まで1カ月を切ったら、子どものメンタルを安定させて、最後までやり切るように支えることに注力してください。
中学受験は、本来チャレンジしなくてもいい入試だということを忘れてはなりません。
公立中学に仲のいい友だちが行くから、不合格が怖いから、自信がなくなってきたから、など、断念する理由はいくらでもあります。実際、入試がはじまってからも、「もう明日は受けない」とパニックになってやめてしまう例だってあります。
この時期は、子どもにできるだけ自信を持たせることと、目の前の課題に集中させることが大切です。最終的に、保護者の役割は体調管理とメンタルケアに尽きます。
■当日まで2週間を切ったら…
塾を休んで家庭で最後の追い込みをする、ということも考えられますが、メンタル面で行き詰まることもあります。そういうときこそ、百戦錬磨の塾の先生を頼ってください。
この時期は、保護者の焦りが子どもに影響しやすいので、まずは「どっしりとかまえる」ことを意識しながら、次のことを心がけましょう。
●教材の難度を落とさない
やさしいレベルの教材ばかり解いて「できるようになった」と錯覚してしまうと、入試の少しの傾向の変化でパニックに陥ります。過去問の中でも難度の高い学校のものを解き、持っている力をすべて出し切らせることを、一度はやっておきましょう。
●新しい教材に手をつけない
場当たり的に新しい教材を渡さないことです。やり切れない場合は、「やっていないところがある」という不安も残ります。全単元の復習をするなら、夏期講習の教材が使えます。
●必要なら過去問に再チャレンジする
合格ライン周辺の子は、過去問を、合格点を超えるまで解いてもらいます。これはあくまで「志望校の傾向の再認識と自信づけ」がねらいなので、苦手科目のみ、2年分ぐらいで十分です。「合格のイメージ」をもって当日を迎える準備です。
この3つが完璧にできなくても、焦る必要はありません。ただし、最後まで成績が伸び続けることを信じて粘りましょう。あれこれ悩ませず慌てさせず、淡々とこなことが大事です。
■子どもの「メンタル」のために親にできること
中学受験は、人生の経験値の少ない12歳の子どもの受験です。本番で悔いのない受験にするためにもメンタル面のコントロールが重要になります。子どものメンタルを安定させるために保護者ができることをご紹介します。
●「緊張しなくていい」→「リラックスしよう」
「緊張しなくていいよ」と声をかけても、人は緊張してしまいます。潜在意識では「しなくていい」という否定形を理解できないため、「緊張」という言葉だけに反応してしまうからだそうです。つまり、かける言葉の正解は「リラックスしよう」などのように、肯定形の言葉ということです。
●緊張して眠れないなら…
将棋の羽生善治さんがトークショーで話していたことがあります。「受験の前夜、緊張で寝られずに、日ごろの勉強の成果が出せないことが心配です」という質問にこう答えていました。
「緊張によって眠りが浅くなることは自然です。一つの対策は、大事な日が控えている2日前によく寝ておくことではないでしょうか。そうすれば、前夜眠りが浅くなっても、最低限の頭は働いてくれます」
不安や心配でぐっすり眠れない夜の特効薬は、「難しい本」です。難しい本を読むと、その苦痛を取り除くために鎮静効果のある神経伝達物質が分泌され、自然と眠くなります。
「あまり好きじゃない理科の資料集を寝る前に見ていたら、よく眠れた! しかも、毎日見ていたから、理科ができるようになった」と報告を受けたことがあります。ただし、視力低下を防ぐために、寝る前でも最低限の明かりはつけてください。
●深呼吸は「吐くこと」に集中する
一番効くのは深呼吸です。深く呼吸をする→血流がよくなる→緊張で偏った血流をもとに戻す→緊張をほぐせる、というしくみです。緊張が高まると呼吸が浅くなり、うまく息を吸えなくなるので、「吐くこと」に意識を集中するといいでしょう。
●前日も当日も「いつも通り」を貫く
メンタルを保つコツは、「自分の中でルーティンを決めてそれを地道に守ること」です。ルーティンを守ると「いつも通り」であることに安心できるからです。決まった時間に起きて、顔を洗い、朝ごはんを食べる……と、いつも通りを貫くことが、実はとても大事です。
■子どもの性格は「まわりの大人」の影響が強い
ここで、直前期や本番を迎えるにあたって、実際に保護者から寄せられた相談の一部を紹介します。同様のことで悩んでいる人は少なくないのではないでしょうか。
「気が弱くて本番が心配です」
「うちの子は、問題が解けないとすぐにメソメソと泣いてしまいます。模試の結果がよかったときは大丈夫ですが、悪かったときは毎回落ち込みます。受験に向いてないのでしょうか」
まずは、落ち込むぐらい一生懸命に取り組んでいることを、前向きにとらえてあげるところからスタートしてください。
「我が辞書に不可能はない」という言葉は、ナポレオン・ボナパルトの名言として知られています。しかし、そのナポレオンも妻のジョセフィーヌに対しては、手紙でこのように心情を吐露しています。
「私の生活は、不断の悪夢だ。不吉な予感で息もつけない」
この手紙は、ナポレオンが世界から絶賛されているときに書かれたもの。何かに立ち向かっている人は、不安からは逃れられないことがわかります。逆にいうと、「不安なときは、戦っている証」です。「不安な気持ちになるよね」と気持ちに共感してから、「悲しいのは、本気でがんばっているからなんだよ。努力していることを、ちゃんと見ているからね」などとよりそってあげてください。
もう一つお伝えしたいことは、保護者が心配性の場合、子どももそうなりがちだということ。塾でも、生徒が教室長の性格に似ていくことが多いと、長年の経験で感じています。
子どもの性格は、まわりの大人の影響を強く受けるので、保護者もできるだけポジティブで大らかに物事をとらえるようにすることをおすすめします。
「受験直前に子どものメンタルが落ち込んで…」
「受験直前に子どものメンタルが落ち込んでしまいました。どう接するのが正解でしょうか?」
しっかり勉強をさせて「できた」という実感を持たせる、というのが正攻法ではありますが、現実的にはそれがうまくいかないからメンタルが落ち込んでいるということが考えられます。
この状況では、学力をつけることよりも、メンタルを回復させることを最優先にするべきです。落ち込んでいる原因を具体的に探ることも大切ですが、本人も気づいていない漠然としたことが理由になっているかもしれませんし、理由が一つではない可能性もあるので、突き詰めて考えすぎないようにすることも大事です。
私が重視しているのは、「気分転換」と「ストレス発散」です。
受験直前期は、脇目もふらず勉強づけになっていることがほとんどだと思います。少し勇気がいるかもしれませんが、思い切って本人の好きな趣味に1日没頭させることでうまくいったというケースがあります。1日勉強から離れて頭を空っぽにすることで、狭くなっていた視野がぐっと広がるということだってあります。
ある女の子は、「落ち込んだときは、家族でケーキバイキングに行ったらすっごい元気になった!」と報告をしてくれました。家族みんなで時間を過ごすのも、一つのポイントだと思います。
■他の子と比べて悩まない
「うちは一人っ子だから、はじめての経験ばかりで」と相談されることもあれば、「兄弟でまったく性格が違って、お兄ちゃんのときのやり方がまったく通用しないんです」という声も聞きます。
一人っ子と中学受験経験者が上にいるのとどっちが有利かというと、一長一短です。結局、子どもたちは一人ひとり別の人格なので、試行錯誤をしながら、その子にとってベターなことを選択していくしかないと思います。
また、わが子が理想の「やる気あふれる受験生」になっていない、というのは、保護者の永遠の悩みです。塾が春先に配布する「合格体験記」などには、驚くほど早熟でしっかりした生徒が登場します。読んですぐのときは感動しても、落ちついて読み返すとわが子とのギャップに心揺さぶられることがあります。
合格体験記は、たくさんの生徒の中から、とくにうまくいった子、うまくいった部分だけを抜き出して書かれたものだと考えてみてもよいでしょう。
スウェーデンでは古くから、「大半の子どもはタンポポだが、少数の子は蘭である」と言い伝えられてきました。タンポポはたくましく、それほど大きな花ではありません。どんな環境でもよく繁殖するので、わざわざ手間暇かけて育てようとする人はいません。
一方、蘭はきちんと管理してやらなければ枯れてしまいますが、ていねいに世話をすれば、それは見事な花が咲きます。どちらが絶対的によいということではありません。子どもについても同じことがいえると思います。
保護者会で「真っ赤なお鼻のトナカイ」について話すことがありました。赤い鼻のトナカイは、みんなと違っていたので「いつもみんなの笑いもの」でしたが、そのピカピカのお鼻のおかげでサンタは全世界の子どもたちに贈り物を届けることができました。
「赤鼻のトナカイ」の作者ロバートは、妻エヴリンと娘のバーバラの3人家族。バーバラが2歳になったころ、エヴリンが病に倒れてしまいます。ロバートの収入は治療費と薬代に消え、生活は苦しくなります。やがて、4歳になったバーバラがロバートにたずねます。
「どうして私のママは、みんなと違うの?」
ロバートは娘を喜ばせるため、「真っ赤なお鼻のルドルフ(トナカイ)」の話を即興で語りはじめました。神さまに作られた生き物はいつかきっと幸せになることを、幼い娘、病と闘う妻、そして自分自身に言い聞かせるように。その後、その歌は、全世界に広がります。他の生徒と「同じ」になることが、受験の目的ではありません。
■子どもが自信をなくしていたら…
最後に、姉妹で中学受験をした家族のエピソードを紹介しましょう。
お姉さんは、最難関の学校に合格。妹の奈美ちゃん(仮名)も、同じところを第一志望にしていました。奈美ちゃんは算数が苦手で、お姉さんにコンプレックスがありました。6年生の12月に、奈美ちゃんからこんな相談を受けました。
「私、A中(姉の学校より入りやすい)のほうが合ってると思うから、志望校を変えたいんだけど、先生どう思う?」
私は、受験に不安を感じているだけで、本音は違うと感じたので、お母さんと「名前作戦」を実行しました。奈美ちゃんの名前の由来を、その日の夜に説明してもらったのです。
「あなたの名前は、左右対称になるようにつけたのよ。なみという読み方は決めていたんだけど、どの漢字にしようかと悩んだとき、人間的なバランスのいい子に育ってほしいと思ってこの字を選んだの。奈美ちゃんは勉強だけじゃなく運動も得意だし、友だちもたくさんいるよね。バランスのいい子に育ったと、お母さんは思っているよ」
その言葉を聞いて自信を取り戻した彼女は、第一志望を受験することを決意し、見事合格を勝ち取りました。人と比べず「よそはよそ、うちはうち」の感覚を大切にしていきましょう。
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国語専門塾・中学受験PREX代表
教育コンサルタント・学習アドバイザー。神奈川大手学習塾で中学受験部門を立ち上げ、責任者として20年携わる。毎年、塾に通う生徒全員と直接面談を実施。保護者向けにも、ガイダンス、進路面談、カウンセリングを担当し、これまで関わった人数は2万人以上にのぼる。日々の思いを綴るブログ「中学受験熱血応援談」は年間100万件以上のアクセスを獲得している。2022年7月に中学受験PREXを立ち上げ、現在も継続して中学受験の最前線に立ち続ける。国内最大の受験人数を誇る首都圏模試センターの中学受験サポーターも歴任し、中学校と受験生の橋渡しとなる情報提供を日々行っている。一番大切にしていることは、ご縁があり指導することになった子どもたちとご家族のために、誠心誠意、ベストを尽くすこと。著書に『中学受験 合格できる子の習慣 できない子の習慣』(KADOKAWA)、『2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100』(かんき出版)、『親の声掛けひとつで合否が決まる! 中学受験で合格に導く魔法のことば77』(KADOKAWA)がある。
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(国語専門塾・中学受験PREX代表 渋田 隆之)
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