日本のメディアは「営業」をナメすぎている…ホリエモンが「倒産寸前のラジオ局」を3カ月で黒字化できた理由【2024下半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2025年1月15日 7時15分
2024年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお届けします。ビジネス部門の第1位は――。
▼第1位 日本のメディアは「営業」をナメすぎている…ホリエモンが「倒産寸前のラジオ局」を3カ月で黒字化できた理由
▼第2位 「唐揚げ定食880円→1000円」で1年後に閉店に追い込まれた店が値上げより先にやるべきだったこと
▼第3位 だからファミリー客が次々と来店している…快進撃を続ける「丸源ラーメン」と競合チェーンの決定的違い
▼第4位 愛想を尽かしたイーロン・マスクは自宅ごと移住…米大企業が「トランプが支配する田舎州」に続々移転する理由
▼第5位 NECや日立はかつて「エヌビディア的存在」だった…世界一を誇った日本の半導体産業を潰した"犯人"
■YouTube、ロケット、焼肉の次は「ラジオ」
実業家、堀江貴文は多角的に仕事をしている。オンラインサロン、YouTubeといったウェブメディアの事業、ロケット、衛星の開発事業、和牛、パン、カレーなど飲食の事業……。医療にも関心を持ち、教育分野でも仕事をしている。
加えて、九州では独立リーグに所属する球団とFMラジオの放送局を所有している。わたしは北九州市へ出かけていって、ふたつの事業の進捗を見てきた。そして、本人にインタビューをした。
地方のラジオ局の経営は決していいとは言えない。2019年に出身地である茨城県の放送局、茨城放送の筆頭株主となったグロービス経営大学院学長の堀義人はこう語っている。
「そもそも『ラジオ』というオールドメディア自体が、新聞などと同様に、どちらかというと斜陽産業と位置付けられている。業界的にバブル時代をピークに売上げを半減させ(茨城放送の場合には6割減)、インターネットメディアにも押されてスポンサーの獲得が年々難しくなっていた。(中略)
そんな苦しい状況下でも黒字を出し続けていた茨城放送は、やるべき経営努力をしていたと言える」
■「ラジオ局の経営は伸びしろしかない」
「だが一方でその弊害も現われていた。コストカットで自主制作の番組を減らし、キー局や制作会社から買ってきた番組を放送していたのだ。自主制作の深夜放送はなくなり、通販番組は増え続けた。これではたとえ黒字を達成しても、地元のメディアとしての役割は果たせず、社員のモチベーションも下がる一方だ」(東洋経済オンライン2021/7/1)
茨城放送に限らず、首都圏、近畿圏、中京圏をのぞいた地方のラジオ局はAM局、FM局ともに上記のような経営状態が続いていた。
堀江貴文はそうした状況を把握していた。だが、「勝ち筋はある、ラジオには可能性がある」と考え、北九州のCROSS FMを買収し、会長になった。
2023年9月、堀江はCROSS FMのオーナーDHC(化粧品、健康食品の製造販売)創業者から全株式を譲渡された。譲渡だから会社を取得する費用はかからない。だが、社屋や3つのスタジオを維持するコスト、さらに従業員に給料を払わなくてはならない。そこから彼のメディア経営が始まった。
会長に就任した時の記者会見で、堀江はこう話している。
「高いポテンシャルを持つ福岡県にあるラジオ局の経営は伸びしろしかないと思っている。さまざまな実験をしながら新しいコンテンツを届けていきたい」
■サラリーマン経営者が日本のメディアを潰している
当時、わたしは彼から直接、聞いていた。
「僕は車に乗っている時間が長いから、ラジオをよく聴いています。ラジオって斜陽だと言われるけれど、黒字にするやり方はあるんですよ。
今、ラジオそのものを持っている人なんていないでしょう。
車で聴いている人もいるけれど、大多数はスマホを使ってradiko(ラジオ放送アプリ)で聴いている。ラジオは地域のものというより、全国放送になっているんです。だから、全国の聴取者が聴きたくなるような番組を作ればいい。
また、音声による情報発信だけでなく、インターネットと連動させて動画や文字情報なども使いながらビジネスの拡大を進めていけばいい。会費制のオンラインサロンを通じてリスナーが番組制作に関わることもできる。
ラジオには可能性しかない。日本のメディア業界、放送局って、サラリーマン経営者が支配していて、イノベーションを生み出すどころか、それを潰してしまっている。僕はニッポン放送を買収して、一瞬、経営者になった時、周りからさんざん言われて結局、手放しましたけれど、今度は思いっきりやりますよ。
スポンサーの獲得にしろ、これまで放送局に営業部はあっても、実際は営業なんてしてないようなものなんです。電通や博報堂が代理店としてスポンサーから広告を集めているだけ。放送局の営業マンが広告を集めているわけじゃない」
■V字回復のため、北九州に移住した社長
「僕は自分で営業しますから、年間の運転資金くらいは集めることができます。課題はCM収入以外をいかに考えるか。放送以外の事業収入についてもプランを進めています」
そんな話を聞いてから数カ月後、また彼と会った。
「とりあえず、CROSS FMは3カ月で黒字化しました」
堀江は放送業界からはアウトサイダーとして見られているけれど、経営者としてはテレビラジオを問わず、どの局の経営者よりもプロフェッショナルだ。だから、つぶれる寸前のラジオ局を3カ月で黒字にした。
CROSS FMの本社とスタジオはJR小倉駅前にある。ショッピングモール、セントシティの10階だ。スタジオは放送中で、セントシティのなかにある店舗に買い物に来た客たちが番組を聴いていた。
わたしが話を聞いたのは社長の大出整(ひとし)。ホンダ、丸紅、投資ファンドで働いた経験を持つ。
「丸紅時代に堀江さんのロケットに投資をしてから、親しくなりました。そして、CROSS FMの全株式を堀江さんと分けることになり、社長を引き受けたのです」
大出が偉いのは経営を引き継ぐと決めたあと、東京の住居を引き払い、縁もゆかりもない北九州に引っ越してきたことだ。朝に晩に小倉城の周辺をランニングしながら、経営、営業、番組企画のすべてに取り組んでいる。ランニングしまくったためか、赤銅色に日焼けしている社長である。
■「マイナス2.5億円」からのスタート
【大出】始めた頃は課題ばかりでしたけれど、今は改善しています。信じられないくらいのスピード感をもって経営している点が従来の放送局経営者と僕の最大の違いでしょう。
局の売り上げは以前は5億円くらいでした。ところが、僕らが引き継いだとたん、半分くらいに落ちてしまった。それはオーナーだったDHCの広告出稿がなくなったことが大きい。それで、堀江と僕が毎日、提案営業をしました。その結果、引き継いでから3カ月で黒字になったのです。今はなんとかそのまま頑張っているといったところ。ただ、油断すると、広告の売り上げは落ちて、赤字になってしまう。
ラジオ局のコストは番組を作る制作費と人件費。そしてCROSS FMの場合、本社スタジオに加えて福岡に2つ、計3つもスタジオがあります。儲かっていた時に巨大な投資をして、スタジオを作ったために、それぞれに機材と人員が必要なわけです。
オーバースペックなのでスタジオは本社だけに集約したいのですが、それにかかる撤退費用がバカにならない。もう少し、余裕が出てきたら、それは考えます。
■地元のオーナー経営者に社長自ら営業回り
引き継いだ時、堀江と僕がこの人たちしかいないと思ったのは地元のオーナー経営者の方たちでした。電話して会いに行って、提案営業したんです。地域のデベロッパー、建設会社、それから地元のお医者さん。毎週1回15分から20分のコーナーを経営者、お医者さんたちに持ってもらおうと企画書を作り、足を運んで説明しました。
また、堀江はレギュラー番組『ホリサン』(毎週日曜日 午後2時)を持っています。この番組は聴取者が多いから、そのスポンサーもお願いしました。
僕らがやることは、人気を集める番組を企画して、そこのCMスポンサーになってもらうこと。それが王道です。
ただ、これまでラジオ局では営業を広告代理店にまかせていた。それを堀江と僕が直接、やっていることが違います。代理店に頼むよりも反応がわかるから効率的だと思います。
経営が変わってから新しく始まったのが片付けの近藤麻理恵さんの番組『こんまり 近藤麻理恵のときめきラジオ』。こんまりさん、ラジオが好きな人で、自分からやりたいと言ってくれて、ありがたいです。これは全国から反響があります。
放送作家の小山薫堂さんは出資もしてくれて、エグゼクティブプロデューサー兼アドバイザーになってくれました。番組もやってくれます。近々、始まります。
■「テレビに出づらい人」をラジオで出す
もうひとつ、これは話題になると思いますが、テレビにはなかなか出られなくなった人たちを口説いています。例えば渡部建さん。そろそろ番組が始まります。他にもテレビに出られなくなった人、出ない人をどんどんキャスティングしていく。
CROSS FMは音だけでなく、インターネットやYouTubeと連動させていきます。弊社のキャッチ「電波の大実験をしよう」は『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)の著者、コピーライターの佐々木圭一さんが考えてくれました。電波の大実験ですから、何も音声だけに閉じこもるラジオではありません。
オーナーの堀江は番組を変えるだけでなく、利益を上げて、CROSS FMを本気で上場させるつもり。そこで、メディアビジネスとは別の新規事業も考えています。ゴルフ事業部、サウナ事業部を作っているところです。
ゴルフ事業は「ホリエモンカップ」というゴルフイベントの延長です。福岡のゴルフ場でホリエモンカップをやったところ、参加した方からゴルフのレッスンをやってくれ、と頼まれました。その時に考えた事業です。
同時期に福岡の警固でゴルフレンジをやっている方から事業を引き継ぐことができました。そこで店舗を増やしていって利益を上げていこうと。サウナ事業はまだこれからです。ゴルフレンジ事業と併せて九州各地で新ブランドとして展開していくつもりです。
■「ラジオ局なのに」ではなく、ラジオ局だからやる
CROSS FMはメディアビジネスの枠だけでなく、一般事業もやっていきます。むしろ、それが堀江と僕が得意とするところですから。
IP(インテレクチュアル・プロパティ 知的財産)ビジネスも準備してます。芸能事務所なとも連携して、ラジオドラマの脚本を募集する。堀江や小山薫堂さん、映画監督の方が審査員になって、優秀作を決める。そしてラジオドラマとして放送する。ラジオドラマとしてだけ完結させるだけでなく、映像化、漫画原作としての活用も考えています。そうしてIP収入をいただく。
ラジオ局の経営をやってみて感じたことがあります。これまでのラジオに携わっていた人たち、変なプライドがあるんですね。僕らがゴルフレッスンとかサウナやると言ったら、「ついていけません」と退職した人もいました。
しかし、僕の考えは逆です。ラジオ局だからやるんです。番組だけでは成り立たないのだから、ゴルフでもサウナでもIPビジネスでもとにかく始めて、軌道に乗せていくしかない。それが新しいCROSS FMなんです。
(初公開日:2024年7月14日)
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ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)
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