「やりたくないことはやらない」が正解…和田秀樹が「高齢者」になる前に「徹底すべし」と説く"生活態度"
プレジデントオンライン / 2025年1月23日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『仕事も対人関係も落ち着けば、うまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■変えられないものは諦めないと、焦りや不安が生まれる
私が精神科医として用いている治療法のひとつに「森田療法」があります。
森田療法とは、精神科医の森田正馬先生によって創始された精神療法で、不安や恐怖を排除するのではなく、「あるがまま」に受け入れることによって、症状の安定化を目指すという療法です。
森田療法の基本的な考え方に、「変えられないものは成り行きに任せて、変えられるものを変える」という方針があります。
緊張や不安に振り回されない自信を育てるには、森田療法の考え方が役立ちます。
「変えられないもの」とは、生まれや育ち、学歴や仕事のキャリアなど、どうやっても変更できないものを指します。
「変えられるもの」とは、物ごとに対する向き合い方や取り組み方、考え方、視点など、自分の意志で変更や修正が可能なものが該当します。
変えられないものを変えようとしても、焦りや不安が生まれるだけです。
大事なポイントは、変えられないものと、変えられるものを分けて考え、変えられないものは諦めて、変えられるものに意識を集中することにあります。
それが自分の感情に振り回されない「自信」を育てるための最初の一歩となります。
森田療法の代表的な一例を紹介します。
人前に出ると、極端に緊張して、顔が真っ赤になることに悩む女性が、私のところに相談にきました。
彼女は、赤い顔を人に見られるのが恥ずかしくて、「こんな状態では、みんなに嫌われてしまう」と考えて、不安になっていたのです。
社交不安障害の一つである「赤面恐怖症」の典型的な症状といえます。
彼女の考え方を整理すると、人前に出ると緊張する→緊張すると顔が赤くなる→赤い顔を見られるのは恥ずかしい→こんな恥ずかしい自分は周囲に嫌われるに違いない→誰にも好かれることはないだろう……ということになります。
■自分に自信を持てれば、気にならなくなる
私は彼女に対して、こう語りかけました。
「私は精神科医を長年やっていますが、緊張して顔が赤くなっても、周囲から好かれている人を何人も知っています。でも、もっとたくさん知っているのは、顔が赤くならないのに、周囲の人たちから嫌われている人です」
彼女は、顔が赤くなることを悩んでいますが、一番の心配は「このままでは、誰からも好かれないのではないか」ということです。
精神科医としては、顔が赤くならなくなったとしても、人に好かれるとは限らないことを伝えてから、次のようなアドバイスをします。
「人の性格や気質は簡単には変えられませんから、顔が赤くならないようにすることは難しいと思いますが、周囲の人に嫌われて、誰からも好かれないだろう……という不安は解消できます。
愛想をよくするとか、相手を思いやるなど、人に好かれる努力を続けていけば、少なくとも、人から嫌われる心配はなくなりますよ」
顔が赤くなることばかり気にしていたのでは、いつまで経っても、心配や不安がなくなることはありません。
変えられないものに執着するのではなく、変えられるものから変えていく……と発想を切り替えれば、人から好かれる体験をすることによって、次第に心配や不安が治まるだけでなく、自分に自信が持てるようになります。
自分に自信を持てれば、自然と顔が赤くなることも、気にならなくなるのです。
■自分の得意なことを伸ばしていく方が、合理的な考え方
自分が苦手なことや、やりたくないことばかりしていると、緊張や焦りが絶えることなく続きます。
仕事であれ、プライベートであれ、最終的にうまくいけばいいのですから、自分に無理をしてまで、やりたくないことをやる必要はありません。
自分の得意なことを伸ばしていく方が、合理的な考え方といえます。
我慢の生活を続けるとストレスが溜まりますが、得意な分野に全精力を注いでいけば、成果を生み出すことにつながります。
成果が出るようになれば、自然と自信が湧いてくるものです。
私は高齢者を対象とした精神科医をやっていますが、若い頃から「やりたくないことはやらない」という習慣を身につけておく必要があると考えています。
世間の人は、「ご高齢になったら、もうやりたくないことは、やらなくていいですよ」などといいますが、年齢を重ねると体力や気力が落ちてきて、いろいろなことができなくなる自分が情けなくなったりします。
若い頃から習慣にしていないと、なかなか思い通りにはいかないのです。
ワガママと見られたり、自分勝手といわれても、ストレスで身体を壊すことを考えたら、あまり気にすることはありません。
自分らしく生きるためには、好きなことや、得意なことを徹底的にやるというのも大事な選択だと考えています。
■「いろいろ試して、一番いいものを選ぶ」と思えるか
大事な仕事に取り組むときに、緊張したり、不安になる人には、「一回で絶対に成功しないといけない」と考えている人が多いように思います。
「一度で決めたい」と強く思い込んでしまうと、緊張感が生まれて、焦りや不安に悩まされます。
こうした状況に自分を追い込むことは、短絡的で拙速な思考に走ってしまう原因にもなります。
「一度で決める」という考え方は、自分のプライドや美意識、周囲の目などが深く関係していますが、一度で決めても、最後に決めても、結果は同じことです。
最終的にうまくいけばいい……と意識を切り替えれば、心理的な余裕が生まれて、さまざまな選択肢を検討することが可能になります。
多くの選択肢を試すことができれば、さらにいい結果につながることもあるのです。
「無理して一度で決めない」という視点を持つことは、「いろいろ試して、一番いいものを選ぶ」ことを意味しています。
この考え方は、幅広いことに応用することができます。
自分の健康のためにサプリメントを飲む場合には、ビタミンCやトリプトファン(必須アミノ酸の一種)など、世間でいいといわれているものを選ぶ傾向がありますが、それが必ずしも自分に合っているとは限りません。
いろいろ試してみて、自分の調子が良くなるものを選ぶのではなく、みんながいいというものに執着して、最初に選んだものを飲み続ける人が多いのです。
一度で「うまくいく」と考えないことは、自分の考え方の幅を広げて、柔軟性を持つことに役立ちます。
思考の柔軟性がないことを、一般的には「頭が硬い」といいます。
頭が硬いと、融通が効かなくなりますから、自信を育てることが難しくなってしまうのです。
■怒りをエネルギーに変えるつもりでアイデアを考え続ける
自分の思い通りにならないことや、気に入らないことは日常的に起こりますが、それをスルーし続けていると、フラストレーション(欲求不満)が蓄積して、メンタルに影響が出ます。
自分が納得できないことがある場合、それをやり過ごしたり、忘れようと思っても、事態はあまり変わりません。
一つひとつのことに、「どうすれば、この状況を改善できるのか?」を考えて、慎重に善後策を練ることを心がける必要があります。
自分の提案が受け入れられなければ、すぐに頭を切り替えて、どんな内容であれば、却下されないのかを考えます。
不本意な転勤を命じられたら、転勤先の職場で、どうやったら成果が出せるのかを真剣に検討してみることです。
「ごく当たり前のこと」と思うかもしれませんが、頭に血が上っていたり、気持ちが動転していると、何も考えられず、思考停止の状態になる人がほとんどです。
「運命だから仕方がない」と諦めてしまうと、何も改善されないまま、残念な状況が続くことになります。
自分の意に反する出来事に遭遇したら、そこで立ち止まって、怒りをエネルギーに変えるつもりでアイデアを考え続けることが大切です。
「まぁ、いいか」と思ってしまうと、いつまで経っても、不満や怒りを持ち続けることになって、前向きな思考ができなくなってしまうのです。
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精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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