そりゃ儲かるわ…「うさん臭い巨大看板で年商18億円」きぬた歯科院長がパクリ看板を「むしろ大歓迎」するワケ
プレジデントオンライン / 2025年1月21日 18時15分
※本稿は、マイナビ健康経営のYouTubeチャンネル「Bring.」の動画「なぜこの男は、“日本一顔が割れた歯科医”となったのか。異様さと、うさん臭さで他を圧倒した、常識を打ち破る看板戦略のすべて」の内容を抜粋し、再編集したものです。
■看板を見た人とネット広告を見て来た人の数が同じだった
【澤円】きぬた歯科といえば、やはり看板広告で多くの人に知られていますよね。実は、わたしはきぬた歯科の巨大看板広告が複数立っているエリアに住んでいて、車から見かけない日はないほどです。インターネット広告が全盛期を迎えるなかで、なぜ看板広告なのでしょう?
【きぬた泰和】きぬた歯科の主戦力はインプラントですが、開業したての頃には「SEO(検索エンジン最適化)」対策も積極的に行っていました。インプラントというキーワードで検索すると、検索結果の1ページ目に表示されるように、年間約1200万円もかけていたのです。
ですが、2年ほど続けていても、患者さんはあまり増えませんでした。当時も、世間ではネット広告の効果が騒がれていましたが、体感的には疑問がずっと残っていました。
その後、2012年にインプラントに対するネガティブなテレビ報道があり、それがきっかけで売上が激減……。そこで、なんらかの対策をしなければとなり、患者さんの来院アンケートを見返していたところ、ネット広告を見て来た患者さんと看板広告を見て来た患者さんの数がほぼ同じであることに気づいたのです。
当時、看板広告は3つほど出していて、年間75万円のコストをかけていました。一方、ネット広告は約1200万円です。その事実を発見し愕然としましたね。
【澤円】なるほど。実際に両者を比較して、ROI(投資利益率)を検証し、看板広告がベストという結論になったわけですね。
【きぬた泰和】他にも、タウン誌や職業別タウンページなど、いろいろな広告を試していましたが、それぞれやはり限定的な効果でした。そこで、2012年から看板広告を本格的にスタートしたという流れです。
■もともとは「歯槽膿漏の汚い歯」の写真看板だった
ただし、看板広告をやるうえで心に決めていたことがあります。それは、同業他社が追いつく前に「きぬた歯科」の認知度を広めてしまうことです。よく先行者利益といいますが、先に行ったほうがインパクトは残ると考え、一気呵成に増やしました。早いときで週1個のペースで看板を立てていったのです。
もともとはいまのような顔看板ではなく、歯槽膿漏の汚い歯と治療後の写真をセットにしたビフォーアフター看板をメインにしていました。実は、いまもそれがもっとも効果があると考えています。なぜなら、歯槽膿漏の歯を見せられると誰でも驚きますし、インパクトが絶大ですからね。
ですが、必ずクレームがくると見ていました。わたしはものごとを進めるとき、つねに最悪の事態を想定するようにしています。それにより、なにが起きてもあらかじめ対策しておけるし、ある程度の心づもりもできます。
そうして強烈なインパクトを与えながらも、実際にクレームが増えてきたタイミングで、顔看板に変えていったのです。
■「知らない院長の写真」で「うさん臭さ」を演出
【澤円】街で見かける顔看板では、たいていタレントやモデルが目に付きます。実際に経営をされている歯科医の顔看板というのは異例でしたよね。
【きぬた泰和】そう思います。いまでこそわたしの真似をする歯科医がたくさんいますが(笑)、当時は皆無でした。
かくいうわたしも当初はタレントを起用しようと考え、デザインにはめ込んで検討したこともあります。でも、なにかしっくり来ない。どうにも「決まり過ぎる」のです。そうなるとインパクトがなくなり、ただの風景になってしまいます。看板を見た人に、「この人いったい誰?」と思わせるには、やはり誰も知らないわたしの顔が一番よかったということなのでしょう。
ただし、インパクトを出すデメリットもあります。それは先に述べたように、不快になる人もいることです。それでも、そうした意外性や「うさん臭さ」にも、人はやがて慣れていくという計算をしていました。
アメリカの社会心理学者であるロバート・ザイアンスが研究した、「ザイアンス効果」というものがあります。これは「単純接触効果」ともいわれ、簡単にいうと、最初は不快に思ったとしても、何度も見ているうちに警戒心が薄れ、やがて親近感すら持つ効果として知られています。
【澤円】なるほど。2024年7月に上梓された『異端であれ!』(KADOKAWA)には、「異様さ」や「うさん臭さ」を計算に入れていたとありました。
【きぬた泰和】多くの人の実感においても、人には「うさん臭いもの」が気になるという面がないでしょうか? 怖いもの見たさで見てしまったり、どうしても気になったりしてしまうことがあると思います。
つまり、「異様さ」や「うさん臭さ」も、ひとつの魅力になり得るのです。それらに引きつけられ忘れられなくなることがあるのは、人間の心理に基づいているというわけです。
■「看板の置き方」のインパクトにもこだわる
【澤円】きぬた歯科の看板は、場所によって同じものが立て続けに並んでいることもあります。これもやはりインパクトを強める戦略と考えていいですか?
【きぬた泰和】顔の「うさん臭さ」に加えて、視覚的にも意外性を持たせたかったのです。見た人が「なにこれ?」「どうして同じものが並んでいるの?」という、いわば「数のうさん臭さ」ですね。その異様な光景が、顔の「うさん臭さ」と相まって、脳内に焼き付く効果を狙っています。
看板広告に関して興味深いエピソードがあります。実は、ある大手飲料メーカーは、十数年にわたり都内に多くの看板広告を置いていました。でも、2年ほど前にすべて撤去してしまったのです。はたして、その企業を即答できる人がいるでしょうか?
実際は、思い出そうとしてもなかなか出てきませんよね。わたしの推察ですが、なぜ思い出せないのかというと、その看板はおそらく、地図上で考えた位置にただバランスよく割り当てて設置されただけだからです。つまり、「置き方」にインパクトがないのです。
もっというと、それはその会社にお勤めの方が、与えられた仕事としてやっただけだからだと見ています。つまり、自分のお金を出すわけではないから、そのような熱のない置き方になってしまうわけです。
だから、十数年も看板を立てていたのに、なくなっても誰もわからないという現象が起こるのです。一方で、わたしは身銭を切って立てているので、置き方も真剣に考えた結果、「異様」なかたちになっているのです。
■看板はどんどんマネしてもらいたい
【澤円】与えられた仕事としてやるのと自腹でやるのとでは、要するに「熱量」が違うということですね。最近では、きぬた歯科に酷似した看板広告もよく見かけますが、これについてはいかがですか?
【きぬた泰和】後追いが出てくることも当初から想定していました。ですから、きぬた歯科の認知がまだ十分でなかったときは、取材などでも、「看板なんて効果ありませんよ」「ロマンでやっているだけですから」とはぐらかしていました。
ただし、それは嘘なんです。2年前からは、「かなりの効果があります」と真実をいうことにしました(笑)。その理由は、顔看板をはじめてから約10年が経ち、十分に認知されたからです。そこで、看板を出す以上の追い風をつくろうと考えました。その結果、真似をする歯科医が続々と出現し、きぬた歯科の引き立て役になってくれています。
その証拠に、2024年の決算は、開業以来最高を記録しています。そこで、新規の患者さんに「どの場所の看板を見て来ましたか?」と聞くと、別の医院の看板をいわれることが結構あります。つまり、違う医院の看板を見ても、脳内できぬた歯科の看板に変換されているというわけです。
【澤円】それはすごい! 医師の顔写真にインプラントと書いてあれば、すべてきぬた先生に見えてしまうわけですか。
【きぬた泰和】ですから、看板広告の数は以前のペースで増やしていません。それでも、真似をしてくれる看板が、結果的にきぬた歯科を宣伝してくれています。ぜひもっと真似してもらいたいと思っているところです(笑)。
ただし、その状態になるまでは、莫大なお金もかかりましたし、先行者としてやり続けてきたからだと考えています。どんなことでもそうですが、なにかを成すために大切なのは、「やり切る」ことなのです。中途半端に取り組むのではなく、やり切る覚悟を決めること。きぬた歯科の看板広告戦略を支えたのは、やはり「熱量」だと思っています。
■マーケティングは完全な素人だった
【澤円】歯科医が本業ながらも、マーケティングセンスが抜群なわけですが、その知識や方法は独学で身につけられたのですか?
【きぬた泰和】もともとマーケティングについては完全な素人です。ですから、主にアメリカのマーケッターの本を読んだり、実際に試行錯誤して出稿したりしながら、広告の種類によってアプローチがまったく違うことを肌身で覚えていったまでです。
例えば、「目を二重にしたい」という人がいると、その人は明確な意思を持って検索するわけですから、そこに向けるのがインターネットのターゲティング広告になります。一方で、看板広告や新聞広告は、それを見たときになんとなく「二重にしてみようかな」と思わせて、潜在的な顧客を形成していきます。
そうして実際に試しているうちに、インプラントという商材においては、ターゲティング広告では広がりがないと実感しました。最初からインプラントを意識している人は多くありませんから、マーケティングとして、潜在的顧客を掴むほうが圧倒的に広がりはあります。
そこで、意識なんてしていなかったのに、少しずつ背中を押されるような、記憶に残る広告が必要だったというわけです。
■院長自らが顔を出すもう一つの理由
【澤円】著書で印象的だったのですが、「人は知らないものにお金を使わない」と書かれていますね。あるモノやサービスを「知っている状態」を、つくってあげるということですね。
【きぬた泰和】そのためには、とにもかくにもアピールが必要です。基本的に、人は知らないものにお金を使わないわけですから、まず知ってもらうことが重要なのです。だからこそ、「異様さ」や「うさん臭さ」というインパクトが欠かせなかった。
顔看板の特徴といえますが、人間は視線をつねに感じている生き物です。例えば、駐車場や横断歩道の前で、運転席に座って待っているとき、目の前を通る人たちの様子を目で追っていると、かなりの割合でこちらを見返すことがありませんか?
要するに、彼ら彼女らは誰かの視線をなんとなく感じてふと見返すわけで、それほど視線の力は強力です。ましてや、サービスを提供する本人が視線を送っているわけですから、記憶への刷り込みはより強烈です。
加えて、顔(素性)を出すということは、責任を持つことにもつながっています。だからこそ、わたしはいつも「望むものを得たいなら顔を出せ」といっています。
■「看板に年2億円」はコスパがいい
【澤円】きぬた歯科ほどの看板広告を出すには、相当な費用がかかると思います。個人で開業されている医院としては、類を見ない額だと推察しますが、どのくらいのコストをかけているのでしょうか?
【きぬた泰和】看板広告だけで年間約2億円をかけています。とはいえ、それらはすべてきぬた歯科のビジネスに帰結していますから、費用対効果は優れていると見ています。確かに、質・量ともにクレイジーな状態ではありますが……冷静な判断のうえでのコストといえます。
【澤円】なるほど。いまクレイジーと述べられましたが、これは実は起業家界隈でよくいわれる言葉なんです。例えば、エンジェル投資家が投資をやめる判断をするとき、その判断基準として、People Who Are Crazy Enough To Think They Can Change The World.(世界を変えられると思わせるほどクレイジーであるか)というフレーズもあるほどです。
【きぬた泰和】それは知りませんでした。確かにクレイジーになると、常識的な思考以上の結果が出ることがあり、その意味でのクレイジーさが必要です。常識を打ち破った先にこそ可能性があり、それは誰も体験していない領域ですから、それを見たいという思いがわたしにもありました。
実際にクレイジーに行動したことで、大きな結果も出ました。わたしはいま58歳ですが、開業医の収入のピークは49歳というデータがあります。クレイジーになれば、年齢すらも凌駕して活躍できるといえるかもしれません。
■大量の看板は「一つの常識」を疑った結果
【澤円】これを読んでいる読者のなかには、きぬた先生の手法を、いわゆる「逆張り」と見る人もいると思います。マーケティングにおいて、そうした戦略も意識されていましたか?
【きぬた泰和】これについては、結果的に逆張りになっただけです。最初から逆張りで、人と反対のことをしようと意図していたのではなく、ただ一つひとつの常識を疑っていった結果だということです。
「インターネット広告で本当に患者さんがくるようになるのか?」と疑うこともそうでしょう。あるいは、一般的には、多店舗展開をする医院が成功しているようなイメージがあります。しかし、「労働集約型産業で多店舗展開をしても、ランニングコストがかかるだけではないか?」と、わたしはずっと疑っていました。
そのように、どんなものごとも一つひとつ疑い、きちんと考えていくと、世の中には常識とされているものごとに、実は異なる面があることがかなり多いと気づかされます。そうした自分の思考だけを頼りにして、実行していった結果が、「逆張り」のように見えてしまうのでしょう。
常識を疑うことで、間違いや失敗をすることもあります。でも、致命的なことでなければ、いくら失敗してもいいと思うのです。それよりも、つねに「それは本当だろうか?」と考え、恐れることなく行動し続けることが重要です。そして、それは誰でも、その気にさえなればできることだと信じています。
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歯科医師
1966年、栃木県足利市生まれ。日本歯科大学新潟生命歯学部卒。江戸川区葛西の歯科医院に勤務したのち、1996年、東京・八王子市に「きぬた歯科」を開業。「ストローマン・インプラント」を取り入れるなど、スウェーデンのインプラント専門誌『INside』において、日本でもっとも多くインプラント治療を手がける医師として紹介された。「看板広告」を使ったその独特な広告活動で知られ、現在、看板の数は日本全国に約270を数えるなど、「伝説の看板王」の異名をとる。2023年より「足利みらい応援大使」を務めている。
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圓窓 代表取締役
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。
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(歯科医師 きぬた 泰和、圓窓 代表取締役 澤 円 構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム) 文=辻本圭介)
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