家賃は5万7000円、月に1度の焼肉が贅沢だった…年商18億円「きぬた歯科」院長の「最も幸せを感じた年収」
プレジデントオンライン / 2025年1月22日 18時15分
※本稿は、マイナビ健康経営のYouTubeチャンネル「Bring.」の動画「能力でなく熱量で生きよ! 年商18億円歯科医が追い求め続ける、『成功』と『幸せ』の答え」の内容を抜粋、再編集したものです。
■「お金持ちになる」ことが目標だった
【澤円】きぬた先生は開業されたのち、看板広告で広く知られるようになる以前は、決して順風満帆というわけではなく、むしろ苦労の連続だったそうですね。
【きぬた泰和】苦労というのは人によって捉え方がまったく変わると思いますが、わたしは小さい頃から、比較的我慢が多い生活を送っていました。そのため社会に出たとき、単純に「お金持ちになりたい!」と強く望んでいたのです。ただお金持ちになるという、わかりやすい「成功」を目指していたわけですね。
しかし、その「お金持ちになる」という目標が、自分にとってかなりハードルが高いものだった……。そのため、自分が描く理想とのギャップがあり、20代半ばから30代前半にかけては、苦しかった記憶しかないほどです。
■年収300万円、5万7000円のアパート暮らし
【澤円】きぬた先生は現在58歳ですから、その頃はバブルが崩壊して景気が低迷し、金融危機もあった時期ですよね。当時はどのような生活を送り、働いていたのですか?
【きぬた泰和】東京の江戸川区にある商店街の歯科医院に、勤務医として勤めました。それでも初任給25万円の年収300万円でしたから、社会人のスタートとしては悪くなかったと思います。ただ、のちの開業資金のために毎月3万円を貯金していたので、生活は苦しかったですね。各種手当もなく、家賃5万7000円のアパートに住み、公共料金を支払い、生活費を捻出しなければなりません。もちろん、税金や健康保険料も徴収されます。
そうなると、外食なんてしていられません。かといって、自炊する時間も気力もないほど毎日遅くまで働いていましたから、安価なのり弁を持ち帰ることが定番でした。くたくたになって帰宅すると、部屋にはゴキブリが大量に出るし、頭がどうにかなりそうな日々でした(苦笑)。
■贅沢は月に一度の焼肉だった
月に一度の贅沢は、近所の焼肉屋へ行くことです。でも、せっかく行っても、お金がないから「3000円以内に収めなければ」という気持ちになってしまいます。生ビールが500円で、つまみで400円のキムチを足して、900円のカルビとロースをそれぞれ注文すれば、あっという間に2700円くらいになってしまう。
締めで600円のビビンバを食べると予算オーバーですから、肉を1品減らすのか、ビビンバをライスに替えるのか? そんなことを真剣に迷うような暮らしでした。
【澤円】日々の生活でいっぱいの状態では、当然ながら自分の成長のために、自己投資などに振り向ける余裕もなさそうです。
■年収600万円のときがいちばん興奮した
【きぬた泰和】その通りですね。ただ、やがて年収400万円になるとできることは増えていきました。月1回の焼肉が月2回になり、服や靴も多少は買い替えることができます。その後、独身で年収500万円になると、ちょっとしたブランド品が買えるし、他にも欲望が湧き出てくるようになりました。
わたしは独身のとき、最終的に年収600万円台を達成したのですが、このときがもっとも興奮しましたね。いろいろなものを買い、やりたいことがある程度できて、しかも心に余裕が残りました。「やっとお金のストレスから解放されたか」と安堵したのをよく覚えています。
しかしながら、いまはそのときの何十倍も稼いでいるにもかかわらず、特になにも感じません。独身年収600万円台のときの感動が、いまはまったくないのです。
【澤円】「お金持ちになる」という目標を達成したのに、いまはなにも感じられない。それはいったいどのような心理状態なのでしょうか?
【きぬた泰和】独身年収600万円台を境に、「好きなようにお金を使える興奮」や、「お金の苦労から解放される安心感」がなくなっていったということです。買えるものは高くなっても、それに比例して感動が増えるわけではありません。
わたしは、「お金持ちになりたい」という目標を見据えて、ハードルを一つひとつ乗り越えながら進んできて、いまがあります。ですが、自分がどの時点で一番興奮し、幸せを感じていたのかというと、結局のところ独身年収600万円台のときだったのです。
正直なところ、いまは高価なものを買う気も、遊ぶ気も起きません。信じられないと思われるかもしれませんが、年収が億単位になっても、幸福度は独身年収600万円台のときと変わらないと断言できます。
■収入が上がれば不安・ストレスも増す
【澤円】確かに、収入が増えても、幸福度はある時点で頭打ちになるという研究があります。要するに、お金で得られる幸福度には飽和点があることを実感されたわけですね。
【きぬた泰和】そうだと思います。よく「足るを知る」といいますが、まさにそうした気持ちに変わってきました。逆にいうと、世間にはお金を稼いで「わたしは成功したぞ!」と自慢したり、他人を見下したりする人もいますが、まともな人間ではないと思いますね。
収入が上がると、それに比例して、かつては生じようがなかった不安やストレスが増えていきます。心身の状態が変わり、付き合う人が変わり、ライフスタイルも変化し、出費がどんどん増えていきます。そうして、逆に人生の満足度が下がっていく人は、わたしの周囲にも実にたくさんいます。
少なくとも、「お金があるから幸せ」とは到底いえません。「お金はあまりないけど幸せ」という場合が、往々にしてあるということです。
■常に「お金になるネタ」がないか意識する
【澤円】お金と幸せの関係についてよくわかりました。とはいえ、かつての先生のように、いま人生の壁にあたって悶々としている人はたくさんいます。そういう人たちに対して、いまの状況を打開する方法や、チャンスの見つけ方などのアドバイスをお願いします。
【きぬた泰和】いきなり突拍子もないことをするのではなく、いま仕事で取り組んでいることから派生させていくことに尽きると思います。それと同時に、「お金になるネタ」を見つけておくことも大切です。
仕事において、「お金になるかどうか」はかなり重要な要素だといえます。ふだんから、「こうすればもっと儲かるのではないかな?」「この部分を工夫したら利益を生み出せるのでは?」と、いまやっていることが「儲かるかどうか」を強く意識することです。
そのようにして日常を過ごしていると、身の回りに、「少し工夫すればよくなるのに、そのままにされていること」が見つかる可能性が高まります。例えば、詰め替え用シャンプーをボトルに注ぐとき、いつも液体がこぼれることに気づいたとします。すると、容器の形状を工夫することが「お金になるネタ」になるはずです。
【澤円】そのためには、自分の周囲にあるものをいかに「観察」するか。いかに意識的に考えるかという視点が大事になりますね。
■仕事の本質はむかしからそこまで大きく変わっていない
【きぬた泰和】おっしゃる通りです。もっというと、結局人間は、むかしからあるものを「工夫」しているに過ぎないという見方もできそうです。
例えば、街中にコーヒーショップがありますが、その発祥は1554年のイスタンブールのコーヒーハウスだそうです。それ以来、コーヒーを淹れて提供し、代金をいただくという営みの本質はまったく変わっていません。
わたしたちの生活を支える物流サービスも、いまは郵便や宅配などが高度に発達しましたが、江戸時代には飛脚が人力で運んでいました。これも、物を運んで代金をいただくという営み自体は変わっていません。
つまり、仕事の本質はほとんど変わっておらず、人類はただ、膨大な「工夫」を積み重ねてきただけと見ることができるでしょう。
このように、日常において満たされていないニーズを探し、工夫して仕事へ変えていくこと。あるいは、ふだんの業務のなかに潜む「うまくいっていないこと」を工夫し、生産性を向上させること。いまあなたがどんな仕事をしていても、その仕事レベルを圧倒的に高めると同時に、「お金になるネタ」を意識して探すことをおすすめします。
■能力よりも「熱量」がものをいう
【澤円】ふだんの生活のなかに、チャンスはいくらでも潜んでいるというわけですね。お話を聞いていると、仕事がうまくいくための具体的な手がかりが見つかった気がします。
【きぬた泰和】もうひとつ、それらに「本気で取り組む」ことがなにより重要です。
別に根性論ではなく、いきなり大それたことをしろという意味でもありません。ただ、なにごとも本気で取り組めば、必ずうまくいくための手がかりは見つかるし、工夫や行動もできるはずだという意味です。
もし、それができないのなら、それは能力の問題ではなく、その程度の「熱量」しかなかったということではないでしょうか。そこまで本気になれるものではなく、そこまで望んでもいなかったのだと思います。
■きぬた歯科が「インプラント」と出合ったきっかけ
【澤円】いまここから本気でブレイクスルーしたいと思うなら、簡単にはあきらめないし、うまくいくやり方をつねに探そうとする「意思」や「熱意」があるはずだということですね。先生はどのように「お金になるネタ」を探したのですか?
【きぬた泰和】わたしは、独立してもしばらくは、勤務医のときと年収がさほど変わりませんでした。開業すると人件費などのランニングコストがかかり、設備投資も多いため、逆に借金を背負う状況になったからです。せっかく開業したのに苦労ばかりで、さすがに落ち込みました。
金融危機が起きた年に開業したので、それこそ景気も最悪でした。朝から晩まで働き詰めの毎日のなかで、「こんなはずはない」「どこかにいい方法があるはずだ」といつも考えていました。
■むかしは「インプラントは危ない」と言っていた
そんなとき、インプラント治療について尋ねてくる患者さんが、2カ月で6人ほど現れたのです。そのときは、「インプラントは危ないですよ」と答えました。危ないもなにも、自分が治療できないから、そう述べるしかなかったわけです。すると、ずっと通ってくれていた患者さんまで、しばらくすると来院されなくなったのです。
わたしはこのとき、「時代はインプラントに向かっているのだ」と直感しました。当時、インプラント治療は黎明期で、技術を身につけたくても学べる場所はかなり限られていました。そこで、日本で先駆けのセミナーを開いている医院を調べ、早速そのセミナーに申し込もうとしました。すると、約20人の定員がすでに満員だったのです。
「このインプラントの流れは間違いない!」。そう確信したわたしは、幸運にも翌年に勉強しに行くことができたのです。
【澤円】自分が取り組んでいる仕事を軸にしながらも、つねに周囲を観察して手がかりを探り、ずっとタイミングを見計らっていたわけですね。
【きぬた泰和】「お金になるネタ」をつねに本気で探していたから、インプラントの黎明期を見過ごさず、時代を捉えることができたと分析しています。そこから、一気にインプラント治療へと軸足を変えていきました。
■目標に辿り着いたと思っても、また次の目的地が見える
【澤円】そうして開業医として成功されたわけですが、著書のなかで、「人生はどこまで行っても蜃気楼だ」と結論づけられています。蜃気楼とは、刻々とかたちが変わる捉えどころがないイメージです。先生にとっての「成功」とは、いったいどのようなものでしょうか?
【きぬた泰和】成功とは、「この目的地へ行けば達成できる」と思いながら、必死になって辿り着くと、その場所がふわっと消え去ってしまうような感覚のものです。そして、遠くのほうに、またぼんやりと目的地のようなものが見えてくる。ここ数年間、ずっとそのような心境で過ごしています。
つまり、なにをもって成功とするかを固定できないということです。なにかを達成しても、その先に達成していないものが現れるわけですから、キリがないのです。そんな心境ですから、「成功した!」なんて気持ちにはとてもなれません。世間はどう見ているのかわかりませんが、むしろ毎日が憂鬱なくらいです。
【澤円】世間では成功した歯科医として認知されていますが、実際は心が晴れることがないような心境があるのですか。それでも日々働くなかで、充実感や幸福感を感じることはありませんか?
【きぬた泰和】先に述べたように、「足るを知る」ことがわかりましたから、些細なことに幸せを感じることはあります。それこそ、3000円という制限をつけずに焼肉を食べられることは、間違いなく幸せなことでしょう。
仕事に関していうと、やはり社会と関わっていることですね。看板広告でもなんでも、自分が社会になにかを働きかけ、それに対してレスポンスがあることが、いまのわたしにとっての幸せなのです。
ありがたいことに、きぬた歯科の看板自体のファンもいて、看板広告を出すたびに喜んでくれる人がたくさんいます。もちろん、看板広告は徹頭徹尾ビジネスでやっていますが、自分の行動が社会との関わりのなかで認められるのは、やはり嬉しいものだと感じます。
■人生はどこまで行っても蜃気楼
【澤円】自分の可能性を信じ、勇気を出してどんなことにも本気で挑戦してきたからこそ、得られる幸福感があるのですね。
【きぬた泰和】そのような面は確かにあります。ただし、ここでまた先の心境に戻りますが……そうして全力を尽くして生きたとしても、やはりいまのわたしには、人生に「最終目的地」など存在しないように思えるのです。
どのように自分だけの道を歩もうとも、つねに人生には後悔や罪悪感が残り続けます。かつて夢見た目標や憧れには、どこまで行っても辿り着けない気がします。辿り着いたかと思ったら、その瞬間、自分が行き着いていない場所がまた遠くにぼんやりと見えてくるからです。
それは同じ姿を二度と見せることなく、かたちを変えて漂っていて、どの道を進んでも、どこにも桃源郷などないと感じます。
だから、人生はどこまで行っても蜃気楼なんですよ。
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歯科医師
1966年、栃木県足利市生まれ。日本歯科大学新潟生命歯学部卒。江戸川区葛西の歯科医院に勤務したのち、1996年、東京・八王子市に「きぬた歯科」を開業。「ストローマン・インプラント」を取り入れるなど、スウェーデンのインプラント専門誌『INside』において、日本でもっとも多くインプラント治療を手がける医師として紹介された。「看板広告」を使ったその独特な広告活動で知られ、現在、看板の数は日本全国に約270を数えるなど、「伝説の看板王」の異名をとる。2023年より「足利みらい応援大使」を務めている。
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圓窓 代表取締役
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。
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(歯科医師 きぬた 泰和、圓窓 代表取締役 澤 円 構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム) 文=辻本圭介)
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