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大震災を描くにはあまりに脚本が雑すぎる…NHK朝ドラ「おむすび」のヒロインに私がまったく共感できないワケ

プレジデントオンライン / 2025年1月15日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

橋本環奈主演のNHKの朝ドラ「おむすび」が苦戦している。ライターの吉田潮さんは「震災を描く意義と使命感は伝わってくるのだが、どうしても物語に入り込めない。これは出演している俳優のせいではない」という――。

■NHK朝ドラ「おむすび」の物語に入り込めない

1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災から今年で30年。東日本大震災の甚大な被害や、昨年の元日に起きた能登半島地震で、悲しみの記憶がどんどん上書きされていく地震大国・日本。ドラマで震災をとりあげることの意義は大きく、どう描くかも注目されるところだ。

過去、阪神・淡路大震災を描いたドラマで色濃く記憶に残っているのは、カンテレ制作のスペシャルドラマ「BRIDGE はじまりは1995.1.17神戸」(フジ系、2019年)だ。主人公を演じる井浦新は建設会社の人間。地震で線路ごと崩壊し、陸の孤島と化した神戸の六甲道駅を74日間で復旧させたという実話に基づいたドラマだった。

当時の苦労話が主軸ではあるが、被災地の現状は生々しく描かれた。窃盗が頻発、質の悪いボランティアなど、人間の浅ましさも描写し、20年以上たって悲惨な記憶が風化しかけている現在とリンクさせる設定も秀逸だった。

また、最近再放送していたのが「心の傷を癒すということ」(NHK、2020年)だ。柄本佑が演じる在日韓国人の精神科医が、震災でPTSD(心的外傷)を負った人々の心に寄り添う物語。被災した人の罪悪感や不謹慎の壁に真摯に向き合い、元気の押し売りや無神経に励ますことの罪深さにも触れた。静謐な名作だった。

■「ふてほど」で描かれた震災

震災が主題ではないが、昨年話題になった「不適切にもほどがある!」(TBS)でも昭和から令和にタイムトリップした主人公(阿部サダヲ)が、阪神・淡路大震災で自分が娘とともに命を落とすことを知る、という設定だった。コメディの中にひとさじの抗えない悲運をおとしこみ、残された者の苦悩により一層肉迫した気もする。

脚本家・宮藤官九郎は2013年の朝ドラ「あまちゃん」でも東日本大震災を最大限の配慮をもって描いたことがあり、その手腕が評価された。

震災をどう描くか。その重責を今まさに背負っているのが朝ドラ「おむすび」である。橋本環奈が演じるヒロインは、幼い頃に阪神・淡路大震災を経験した設定。過去の朝ドラでも、「甘辛しゃん」(1997年)や「わかば」(2004年)で、ヒロインが身内を阪神・淡路大震災で亡くしている。

直球で喪失感や罪悪感を描くのかなと思っていたら、どうも違う。全体的に、震災を描く意義と使命感は伝わってくるのだが、どうしても物語に入り込めない。その理由を考えてみる。

■橋本環奈も迷っているのでは

ヒロインがギャルと聞いていたのに、始まりはギャルではない。ヒロイン・米田結(橋本環奈)はむしろギャルを毛嫌いし、書道部に入って平穏な高校生活を送りたいと願う女の子。ところが、ギャルたちに誘われるうちになびく。その割に、別の高校の野球部男子・翔也(佐野勇斗)といい仲になり、弁当作ってあげたりもしつつ、家業の農家の手伝いもして、ギャル活動時間は極めて少ない。しかも「ギャルになる」と言ったり、「ギャルやめる」と言ったりで、腰を据えない感じが中途半端に見えた。

困っている人を見過ごせない性質を「米田家の呪い」というが、呪いと言っちゃう時点で既に偽善臭が漂う。思春期の娘が親に気を遣うのも、逆に心配である。天真爛漫でも豪放磊落でもなく、八方美人に見えてしまうのだ。そうかと思えば、栄養士の専門学校では「彼氏のために栄養士を目指す」と自己紹介しちゃう、残念な感じはいったい何なのか。

ものすごく足りない子に見える場面と聖人君子に見える場面があったり、ボヤッとして何の感情も見えない場面と、急激に怒りや涙があふれ出す場面の温度差もあって、なかなか一体化しない印象。

演出に問題があるのか、そもそもの設定の問題なのか。環奈もこの難解な結をどう演じたらいいのか、迷っているのではないか。「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK)で密着取材されていたときに、演出の男性に自らの提案を伝える環奈が映っていた。「乖離」の文字が頭に浮かぶ。

第35回日本ジュエリーベストドレッサー賞の20代部門を受賞した橋本環奈さん(=2024年7月12日、東京都江東区の東京ビッグサイト)
写真=時事通信フォト
第35回日本ジュエリーベストドレッサー賞の20代部門を受賞した橋本環奈さん(=2024年7月12日、東京都江東区の東京ビッグサイト) - 写真=時事通信フォト

■ヒロインの人格形成が迷子

たぶん、「震災朝ドラのヒロイン像」という縛りがことごとく自由度を奪っている。やりたいことや目標が「人を救う」に重きをおきすぎて、自分の願望は蔑ろに。ギャル友のために、姉のために、家族のために、彼氏のために、被災した人のために。人を思いやる心意気ばかりで、結という人間の根っこが見えてこない。

瞬時に人を惹きつける表情ができる橋本環奈の魅力は十分に伝わるが、米田結の人格形成が迷子という致命傷。エピソードも感情の移ろいも刹那的、ぶつ切りに見える。頻繁にどうでもいい日常をアップする誰かのSNSを眺めているような感覚。逆に、エピソードを編集して割愛するのが難しいはずの総集編は、さぞや作りやすかっただろうなぁ。

ま、自分のやりたいことや目標が明確で、猪突猛進する強いヒロインについていけない人にとっては、結のような、なびいて主体性をもたないヒロインのほうが気楽に観られるのかもしれない。

■姉の方がヒロイン向きでは

米を結(むす)ぶっつうベタなネーミングはよしとして、おむすびというパワーアイテムだけが上滑りしていく印象。結とおむすびと震災がシンプルに直結しない構図に、「?」が浮かぶ。

発端は、震災を機に変貌した姉・歩(仲里依紗)。歩は、親友の真紀ちゃん(大島美優)が震災で亡くなり、心を失ってひきこもってしまう。ただし、真紀ちゃんの分も生きようと一念発起、真紀ちゃんが目指していたギャルになるのだ。祖母(宮崎美子)が作ったおむすびに癒やされたのも歩だったような……。あれ、こっちのエピソードがヒロイン向きでは?

おにぎりを作る手元
写真=iStock.com/Yuuji
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuuji

米田家の面々は、紆余曲折あってギャルになった歩に気を遣ってか、腫れ物扱い。父・聖人(北村有起哉)は歩がギャルになったのも自分のせいだと責め続け、そんな父を傷つけたくないためにいい子でいようとする妹の結。迷惑ばかりかける姉を疎ましく思い、ギャルを毛嫌いして……というが、歩はそんなに迷惑かけた?

そもそも「ギャル=素行の悪い不良」として舞台が進んでいることに疑問を覚え、立ち止まってしまった。

■「ギャル=素行の悪い不良」への違和感

私は、ギャルはヤンキーとも不良とも違う、「女の子たちの解放宣言」と解釈していた。はしたないなんて言われたくない、好きな服を着たい、ダサい制服をアレンジしたい、好きに盛り放題の化粧がしたい、カワイイの基準は自分たちで決めたい、独特なギャル文字で連帯したい。「ナチュラルメークで、露出を控え、おとなしく楚々としていれば男ウケがいい」という世間への抵抗がギャルの台頭だったと思っていた。女に押し付けられる不自由への抵抗の文化だったはず。ギャルというか、確か「コギャル」と呼んでいたよね、女子高生のギャルは。

ところが、劇中では周囲の人も家族もあまりに敬遠するもんだから、歩は援助交際とか下着売ったりとか恐喝とか、何か警察沙汰になるような悪さをしたのかと思っていたのだが、それも違った。歩は人として正しいことをしただけだった。え、じゃあなんでそこまでギャルを忌避したり、迫害したりするの?

ギャル観の違いに混乱する、とうか、なんか腑に落ちない。結局、ギャルの本質とは異なる女性像の描写にギャル文化を悪用しただけとしか思えなくてね。

■老いも若きもすぐに怒る

これは「おむすび」に限ったことではなく、最近のドラマに多いのだが、キャラクターの易怒性が高く、すぐにプンスカ怒る。ドラマ全体が「時短」制作を心がけているのかしら。怒るには理由や背景があって、そこが丁寧に描かれていれば一緒になって怒りを感じることができるのだけれど、とにかく雑。なんでそんなことで怒るのか、老いも若きも瞬間湯沸かし器みたいな印象に。

結は相手の話をろくに聞かずに「大っ嫌い!」と、どこか行っちゃうクセがあるし、姉も父も案外易怒性が高い。名古屋の元スケバンというふれこみの母(麻生久美子)はさすがスケバンだけあって泰然自若、娘がギャルになろうが、夫がうじうじしていようが、どーんと構えるタイプと思っていたのに。栃木の元レディースというふれこみの翔也の母(酒井若菜)が家に押しかけて来たときに、メンチきりはじめちゃってキャラ崩壊。

震災で娘を失って厭世的になった靴職人・渡辺(緒形直人)も、同じくきょうだいを亡くしている商店街の元惣菜屋で今はパン屋の佐久間(キムラ緑子)も、無駄に怒りの根が深い。

ただし、みんな怒り狂う割に、すぐに収まる。積年の怒りも想定外にすっと鎮まる。怒りの乱高下に説得力がないなぁ、薄いなぁと思ってしまうのだが、たぶんこれは時短の副作用なのだろう。手練れの役者がつくづく気の毒。

■渡辺直美は救世主となるか

年末から年始にかけては、結と翔也の恋愛がメイン。たっぷり尺をとるバランスにも疑問。そこは時短じゃないんかい。これだけカワイイ環奈を半端なギャルに押しこめて、他の男性と恋愛する暇を与えない罪深さ。彼氏のために栄養士になり、彼氏のために彼氏の会社にコネで入社し、あっという間に結婚。妊娠したかと思ったら、時は2011年……震災朝ドラヒロインは女の人生の奥行きやあそびを見せないまま、人を助けることに奔走していくのだろう。

8年ぶりに「朝ドラ途中脱落」を迎えそうだったが、ギャルの本質を体現してくれそうな渡辺直美が出演すると聞いて、とどまった。また、周囲で視聴している人が意外と残っていて、「ここがダメだよ、おむすび」で盛り上がるという逆転現象が起きている。ツッコミが細かいのよ、みんな。

例えば、栄養専門学校の同級生で開業医の娘・佳純(平祐奈)が家出して、結の家に転がり込んできたときの話。結の家族は4人、佳純を含めたら5人。なのに、佳純が出前でとった高級鮨は4桶。「なんで5桶じゃないの⁉」「金持ちのくせにケチなの? それとも自分は高級鮨を食べ飽きたってこと?」と細部にツッコミを入れるのだ。

「半分、青い」(2018年)や「ちむどんどん」(2022年)の時と同様に、ツッコミでSNSが盛り上がるタイプの朝ドラにエントリー。そういう消費の仕方も悪くないし、そこについていきたい気持ちもあるので、もうちょっと頑張ってみようかな。

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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